――15――
※前日から見て二話目です。
表彰と受爵が終わった後は立食パーティーになった。正直魔物暴走でパーティーやるか? という疑問はある。それとも何か別の目的でもあるんだろうか。
確かなことは同年代の中ではすっかり注目の的になったということだ。
「いやもうほんとどうしてこうなった」
「
魔族討伐の功績で勲功第三位に選ばれたマゼルが応じる。本来ならマゼルが一番褒められなきゃいけないはずだが。ゲームのシナリオに狂いが生じてるのは確かだろう。
そもそもあの戦いの後でパーティー開く余裕なんかなかったはずだし。王太子が死んでるんだからな。
いや本当ならこれからも魔族や魔王関連の事件は頻発するからパーティーどころじゃないんだが、それを何で知ってるのかって話になると何も言えん。
なおその王太子は国王と同じく早々に引っ込んだ。何かほかの仕事があるのかも知れないが雲の上過ぎて解らん。
それにしてもこっちは貴族の礼服でマゼルは学生服なのにあっちの方が格好いいのはどういうことだ。神が差別してるとしか思えないんだが。
神の存在を信じてなくても神の差別を信じるのは矛盾か?
「探せばほかにも一人ぐらい……いないか」
「いないと思う。学園でうらやましがる人はいると思うけど」
マゼルの奴は他人事である。まあ普通はそうか。だが俺個人の知識でいえば状況は最悪だ。
学生だから王都から長時間離れられないし、爵位を預かった以上王城にいる可能性も高くなる。要するにあのイベントの時に城内にいる可能性が上がったわけで。
「胃が痛ぇ」
「僕は昨日のほうが胃が痛かったんだけどな」
とてもそうは見えないが多少緊張から解放された雰囲気はある。やっぱり礼儀を気にはしてたのか。
その割に陛下とのやり取りは教科書に載ってもいいぐらいだったがな。なんでもそつなくこなすのも主人公チートかねえ。
まあ飯を食う気はないので胃が痛いのは好都合か。
ちなみに前世で転生とか転移ものは大体メシマズがネタになった。中にはそっちに特化した料理物もある。一方中世料理を誤解してるのも結構あった。
要するにメシマズイコール味がない、もしくは素材の味だけパターンが非常に多かったわけだが、庶民舞台ならともかく貴族や王宮だとそんなことはない。
彼らなりの豪華な料理を食うからだ。彼らなりの、がミソだが。だからメシマズなのは確か。
要するに彼らはとても高級なものを食べている。この場合高級イコール金がかかるになるのだが。だから北方の方の国だとドライフルーツとかが多くなるわけだ。これなんかましな方。
海もなく岩塩も近くで採れない内陸の国だととにかく大量の塩を使うのが高級品なんでなんでも塩っ辛い。高血圧まっしぐらだ。大きなテーブルでの会食で塩を入れた箱が置いてある席が上座なのはこの名残だろう。
極めつけはいわゆる香辛料時代。大航海時代開始前後の胡椒が黄金くらい価値があったころのそういう国だな。
当時の記録によると『どの食材よりも胡椒の入ったスープを口に運び、何の肉かもわからないほど胡椒を塗した肉を食べ、底に胡椒がたまったワインで喉に流し込んだ』……舌と胃が死ぬなこれ。
何を食っても塩味しかしないとか胡椒だけで舌が馬鹿になるとかそんな極端な味付けが中世の一時代を飾った宮廷料理ってわけだ。大体中世って分け方自体が広すぎるんだが。日本でいえば平安時代から江戸時代までだからな。
だから西欧中世でも後半になると洗練された料理も並ぶようになる。前半期の料理は話題にしない方がいいかもだが。
この世界というかヴァイン王国はそこまでひどくはないんだが、たまに珍味と称してよくわからん味のものが出てるんだよな。魔物の肉ぐらいなら普通になってしまったけど。
魔物の脳ミソを煮込んだスープとか独特の個性豊かな味付けで食材知ったら食欲失うものもたまーに。うん、思い出すのはやめよう。そういえばこの世界でナマコ料理って見たことないな。食わないんだろうか。
そんなことを思っていたら礼服を着た壮年の男性が近づいてきた。見覚えのある顔。ノルポト侯爵だ。
「ヴェルナー・ファン・ツェアフェルト卿、まずは祝いの言を述べさせてもらう所だな」
「恐縮でございます、ノルポト侯爵」
まずは、か。ああ、やっぱりなというのが正直な感想である。ここは先に謝る場面か。
「それと、先日の戦陣では大変失礼をいたしました。謹んでお詫び申し上げます」
「ほう」
いやその反応、わかってて言ってるだろ。とは言え順序でいえば俺のほうが先だし問題行為は事実だから頭を下げておく。
隣のマゼルが頭にクエスチョンマークを浮かべてるが事情を知らないから当然だな。
そんなことを考えてたらノルポト侯がふっと笑った。ダンディなオジサマがやると様になるな。どうして俺の周りは美男率が高いのか。
「解っているのであればよい。王太子殿下からも言われておるしな」
「殿下が?」
「相手は若いのだから咎めるのもほどほどにしておけ、と釘を刺されていた。それでも驕っているようなら一言言おうとは思っていたが、必要はなさそうだ」
「恐縮です」
ひえー、何か王太子殿下のお気に入り扱いじゃんか。どうすんだよこれ。
「ツェアフェルト伯爵はよいご子息をお持ちのようだ。今後も期待しているぞ」
「お心遣いに感謝いたします」
もう一度頭を下げてから頭上げるとノルポト侯爵が歩み去っていくのが見えた。正直ほっとした。
「何がどういう事?」
「あー、まあ、簡単に言うとだ」
ちゃんと空気を読んで疑問をこらえていたマゼルの質問に事情を説明する。要するに敵の釣り野伏に気が付いた後、直接王太子の本陣に行ったのが軍隊のシステムでいえば問題なのだ。
本来なら左翼指揮官のノルポト侯に報告を上げてノルポト侯から本陣に連絡が行くのが正道なのだから。
「でもそれだと危なかったんじゃない?」
「実際危なかったと思う。ノルポト侯爵を説得する時間がもったいなかった」
とは言えルール違反はルール違反だ。課長代理ぐらいが部長を無視して社長に話持って行ったんだから手順で言えばとんでもない。咎められて当然、と言うわけだな。
「功績上げればルール違反が許される、じゃ軍隊としての規律保てなくなる」
「なるほどねえ……」
マゼルが妙な目でこっちを見る。なんだその眼は。こっちみんなのAAでも顔に張り付けてやろうか。
「ヴェルナー、本当に同い年? 僕は説明されるまで何も解らなかったよ」
「人生経験の差かもな」
嘘じゃない。まちがいでもない。前世込みだが。
そんな事を話していたらどやどやと人が集まってきた。魔族退治の勇者殿に顔をつなぎたい貴族が待ちかねていたんだろう。
しばらくは忙しい事になりそうだ。
……なってしまった。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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