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いつも読んでくださってありがとうございます
ポイントとかブクマとか、やる気になります
あの日から数日後の早朝。俺は礼服を着て謁見の間で玉座の方に向かって跪いている。
俺一人じゃないからいいようなもんだがどうしてこうなった。
あの戦いの翌日は筋肉疲労と精神的疲労でぶっ倒れて丸一日寝ていた。病気とかではなかったが両親とか執事とか親族とかメイドさんとかをえらく心配させた。
ポーションがぶ飲みすることになったのは喉が完全に馬鹿になって声が出せなくなっていたからだ。
王宮からもわざわざ見舞の使者が来たがちょうど爆睡してたんで親が代わって対応したとかいう話も聞いたが聞かなかったことにしておく。
そのさらに翌日は状況把握と親に文句言われた……油買い占めたのは悪かったって……まあ最終的によくやったと褒めてもらったが。
予想通りというか、あの敵の急変化はマゼルが魔族を倒し、コントロールをしていたらしい水晶が割れた結果だったようだ。時間的にはちょうどそうなる。
その水晶に関しては破片を現在研究中だそうだ。ゲームでそんなんあったかな。覚えてねぇ。
「戦利品にも黒い宝石があったけどこっちは素材からして不明なんだって」
「金属でないからとりあえず宝石か」
いやよく考えれば宝石と言っていいのか? 価値があるなら宝石と言っていいんだろうが呪いとかだったら宝じゃないだろうな。魔石は違うし悪石か邪石? 語呂がよくないか。言葉は難しい。
「それにしても、魔族がいたのも驚きだけど、戻ってきたらヴェルナーの活躍を聞いてもっと驚いたよ」
「偶然だって」
治癒魔法で肉体疲労とか筋肉痛とかはなくなったが、一応ということでまだ屋敷からは出られない俺を見舞に来てくれたマゼルと紅茶を飲みながら状況報告をしあう。
背が結構高いんだがおっとりした優しい感じのお姉さんって感じで仲間からも人気があった。いやそれはどうでもいいか。
俺の活躍……不本意だなぁ……はマゼルが言うのには学園でもすっかり評判になってるらしい。そういえば何人も貴族階級の学生もいるよな。親が参戦していたって生徒もいるだろう。
あんまりそういうの話さないでほしい。
「尾ひれに背びれと胸びれまでついてるだけじゃねぇかなあ」
「学生で話題になるだけで普通じゃないと思うよ」
マゼルが笑いながら応じる。
「敵の動きを見て罠を看破し、敵の崩れるタイミングで反撃に転じた。戦機を見る目が素晴らしいって王太子殿下が絶賛してたらしいね」
「勘弁してくれ……」
そう言ってテーブルに突っ伏したくなったが、そうすると紅茶と茶菓子が被害を被るだろう。このクッキー旨いんだよ。
ぐっとこらえてマゼルに視線を向けた。
「そういうマゼルだって魔族倒したんだから評判になってるんじゃねぇのか」
「うん、だからここに避難させてもらってる」
「おいまて」
笑いながらとんでもないことを言ったマゼルに素で突っ込んでしまった。マゼルは済まなそうな表情を浮かべたが、苦笑交じりに訴えてくる。
「そうは言うけど、僕は一般庶民層出身だろ? 貴族のお誘いの断り方とかもよくわからない」
「あー、まあ、それはあるだろうな」
貴族の礼儀なんてうるさいことこの上ない。ゲームで貴族が出てこなかったのはそのあたりをデータにすると膨大な容量食うからだったんじゃないかとさえ思う。
学生だから。理由はそれでよさそうなものだが、主人公属性のマゼルは何となくそういう逃げ方が思いついても学園に迷惑かけたくないとでも考えたんだろう。
うちに迷惑かけるのはいいのか? とは思わない。マゼルにしてみれば伯爵家にではなく友人である「俺個人」に助けを求めてるつもりなんだろう。学生としては精一杯の逃げ場だな。
そう思うと無下にもできない。そういう発想ができるのは貴族としての教育の賜物だろうか。内心複雑だが見捨てるのは冷たすぎるだろう。
だから無下にはできないんだが……大丈夫だろうかコレ。ゲームのシナリオ的に。
「そんなわけで、明日の王様への謁見と戦勝祝賀会の相談に乗ってほしいんだよね」
「まず服は学生服でいい」
「いいの?」
「学生服は礼服だぞ」
そうなのだ。本来学生服は礼服扱い。学生服を着崩すってのは礼服を着崩すわけで、普通の服を着崩すより見苦しいと評価される。はっきり言えば礼儀知らずを通り越しただの馬鹿という扱いになる。
もっとも前世日本ではまず大人がその認識を持ってないから単に学校の規則を盾に着崩すなとしか言わない。そりゃ学生も聞きゃしないわけだ。
「
「そんなので大丈夫なの?」
「学生相手に煩くは言わねーよ。言う方が頭悪いと評価される」
俺と違ってな、と言う言葉は飲み込んでおく。ただ実は貴族以外には細かく言わないのは事実だ。礼儀作法できる俺凄い、できない庶民は人間のレベル低いと内心でマウントを取っているのが理由だが。
だから学生に怒るような真似をすると「無知な庶民と同レベル」扱いされることになる。争いは同レベルの相手としか発生しないってやつだ。注意ぐらいがせいぜいだろう。
これが貴族とかだと些細なマナーがやたらうるさく言われるが。俺は学生だからぎりぎり大丈夫だが親が典礼大臣だから礼儀知らずのふるまいもできない。ああめんどくさい。
「マゼルは家族は呼ばないのか」
「無理だよ」
それ以外に二つ三つ注意点を説明した後、話題変えて問いかけたがマゼルはそう言って苦笑した。
まあそりゃそうか。マゼルの出身は王都から見ればずいぶん端……もとい、田舎だからな。フィノイの大神殿に向かう巡礼者が一泊するための村と言ってもいいがその分田舎だ。大神殿そのものが山の中だし。
ゲームでも結構移動した記憶があるし、前世のように旅行なんてものが一般的でないこの世界では移動も一苦労だ。数日しか余裕がないんじゃ呼ぶ暇もない。せっかくの晴れ舞台なのにな。
「それに、店やってるしね」
「そうなのか」
と応じたが店って言うか両親と妹がやってる宿屋だったはず。マゼルの出身であるアーレア村は田舎で武器とか防具とかにはめぼしいものはないが実家であるマゼルの家に泊まると宿代がタダ。
なのでアーレア村である程度レベルを上げてから大神殿の次に攻略する星数えの塔に向かうのがゲームではお約束。
そういえばゲーム中でも久しぶりに帰ったようなセリフがあったような。やっぱりほとんど帰ってないのか。
「ならマゼルの家族には伯爵家から伝えておくか」
「そういうの勘弁して」
慌てたように手を振った。俺は思わず笑ってしまう。こんな形でしか反撃できないのは多少悔しいが。
うん、多少じゃなく悔しいから魔族を倒した勇者マゼルの話を盛って伝えてやることにしよう。年甲斐もない? ほっとけ。
何か忘れてるような気もしたがひとまず明日のイベントが終わってからだ。謁見とか俺だって面倒だよ。
この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…
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