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少しずつ評価とかブクマとかが増えているのでうれしいです。

お読みくださっている皆様ありがとうございます。

 「まさか魔物が釣り野伏を使ってくるとは思わなかったぜ」

 「ツリノブセ?」

 「気にするな。独り言だ」


 伯爵家隊として本隊に合流、その後の指示を受けて本隊右側に移動してから思わず愚痴っていた言葉が聞こえたらしい。騎士の一人が怪訝な表情で聞いてきたがスルーした。

 釣り野伏とは囮部隊を後退させ、敵を引っ張り込んで待ち伏せていた包囲部隊で三方から囲んで袋叩きにする戦術の事だが、考えてみれば何で野に伏せるなんて名前なんだ? 森じゃダメなんか?

 そんなことを考えていた俺の耳にカーンカーンと言う退却合図の鐘音が突き刺さる。


 音としては高い音の方が遠くまで届くし、金属の音は自然の音ではないから注意を喚起するのにいいらしい。

 その為、攻める時は腹に響く重低音に近い音の太鼓を使って戦意を高め、後退する時の合図には鐘の音を使って兵士たちに把握認識させようとする。

 話では聞いていたが現実に聴くとなるほどなと思う。とは言えタイムラグは避けられないけど。チート才能があれば魔法の無線機でも作るところかね、ここは。


 しょうもないことを考えながら森の方を見やる。森からは更に禍々しい気配が押し寄せてきているが、戦いの騒音は一度に押し寄せてくるのではなくじりじりと近づいてくるような感じだ。

 どうやら後退指示はぎりぎりのタイミングで間に合ったようだな。

 とは言えひっきりなしに使者が前線から王太子の本陣に戻ってくるのを見ると、包囲殲滅こそされなかったとは言え騎士団にも損害は出てるようだ。

 森に引きずり込むのに失敗したとなれば、次は総力戦だろう。敵側に反転した囮部隊に追加して待機していた包囲部隊が全部出てきて後退中の騎士団を襲撃すれば損害も出て当然か。


 「負傷したものは先に王都に!」

 「まだ戦えるものは本隊の周囲に集合せよ! 臨時に配属を決める、文句があるなら先に王都に戻って構わん」


 王太子の側近たちが騎士の中でも余力のある人間を集めて混成部隊ながらも形を整えていく。

 立派な事に王太子の本隊も撤収準備は整えているが王太子自身はまだ本陣の中だ。

 部下を捨てて逃げるわけにはいかない、と言う事らしい。指導者としては褒めるべきところかな。

 いや、そんなことより。


 「ヴェルナー様、ライニシュ卿隊、再編配置終わりました」

 「デーゲンコルプ卿の隊とゲッケ殿の部隊も指揮系統を整えて配置終わっております」

 「ああ、分かった」


 いやわかんないよ。何で若造の俺が複数の部隊の臨時指揮官してんの?

 どうやら王太子殿下の肝いりらしいがわけわからん。


 「ツェアフェルト卿はあの状況で冷静に敵を観察していたのが評価された模様ですな」


 汚れた顔だが笑顔で声をかけてきたのはライニシュ卿だ。そんなこと言われても困るだけだけど。

 と言うかあそこで敵が逃げるのはおかしい、と『回答』を知っていたから状況をそれに合わせて答えを出しただけだ。冷静でもなんでもないっつーの。

 殿軍として見捨てられるんじゃなかろうかと考えてしまうのは邪推だ、たぶん。


 ちなみに卿と言うのは敬称だが、こういう場で卿をつけると当主ではないが貴族家の人相手の呼びかけとなる。

 父の代理である俺も王太子やほかの貴族から卿付けで呼ばれるわけだ。ライニシュ卿やデーゲンコルプ卿も親なり兄なりが貴族家の当主なんだろう。

 姓+卿になるか名+卿になるかは本家の地位の高さに左右される。伯爵家で大臣の息子である俺の場合、名前+卿で呼べるのは当主が父と同格以上の人だ。当主が格下だと姓+卿呼びになる。

 まあわからん時は姓+卿で呼んでおけば非礼にはならない。その場に一族の人が複数いる時はフルネーム+卿だな。爵位持ちの当主は姓+爵位で呼べばいいのでむしろ楽。


 これ、戦場礼と宮廷礼で敬称の付け方が変わるんだからややこしいったらありゃしない。宮廷礼だとむしろ名+卿呼びが正式になるんだからな。

 前世の中世貴族もそうだったんだろうか。だとしたら貴族を少し見直すぞ。このめんどくさい礼儀を暗記してたってだけで。

 「お前」「貴方」と同じような意味でただ「卿」とだけ呼びかけるのが一番多いのもある意味当然だと真剣に思ったわ。

 なおオリヴァー・ゲッケは元貴族家出身の冒険者で、冒険者と傭兵部隊の臨時指揮官である。王家基準の地位はないから殿呼びだ。ああめんどくせぇ。


 内心で文句を言いつつ二〇〇人を超えた人数を以前のように五人の最小チームと小隊長と言う形で編成し直し、小隊長三人ごとに中隊長を置いた。

 とにかく所属と命令系統だけは何とか整え、後はその指示系統を維持するため使者隊も急遽新設する。

 泥縄もいい所だが二〇〇人も部下を持ったことなんか前世でもない。現場は専門家に任せるしかない。俺は中隊長に指示を飛ばすだけでその後は一騎士だ。


 「敵は数が数倍に増えた上、ある程度統率されているようだが、同時に動きが変わっていると報告がある」

 「どのように?」

 「簡単に言えば、ただ突入してくるだけではないようだ。一方で魔法に怯えた様子を見せる敵もいたという」


 王太子殿下のいる本陣から連絡に来た騎士から最新情報を受け取る。

 なるほど、釣り部隊はこちらを苦戦させて、かつ苦戦したことを怒らせる為にも魔獣ばかり集めていたのか。まあ伏兵が本能で動いたら伏兵にならんしそれも当然か。ゴブリンとかの待ち伏せる知恵がある魔物のお出ましってわけだな。


 「相手に知恵や感情があるのなら逆にこちらから攻撃を仕掛ければ動揺もするだろう。そこでだ」


 本陣の合図と同時に今現在後退しながら戦闘中の第一騎士団と第二騎士団は左右に分かれる。

 騎士団が左右に分かれ、がら空きになった敵の正面に、本陣と左右両部隊が敵に逆襲をかけ、相手の足を止める。

 こちらは足を止めた一撃だけで距離を取り、その後徐々に戦いながら王都まで撤収する。


 大雑把にいえばこういう作戦らしい。一度混戦から追撃になり前線と本陣との連絡系統もボケている。その上損害まで出ている状況での撤退戦としては他にやりようもないか。

 まあ、準備しておいたブツもまだあるしな。

 ※卿の使い方は現実と違います。この世界独自の使い方と言う事で。矛盾もあるかもです。

  異世界舞台の小説で現実の卿の使い方を守ろうとすると、その場限りのキャラにまでいちいちフルネーム考えなきゃいけないのが大変に面倒くさい……。


この一言を書かないと評価はいらないと思われるらしいので…

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