第三話 蒼太と秋
三年前のある日、秋は中学三年生の時に剣道の大会に参加していた。
彼女は女子の部に参加していたが準々決勝で敗退し、悔しい思いをしていた。
「はあ、今回も微妙な成績しか残せなかったなあ」
傷心の彼女はチームメイトと別れて一人で会場をぶらぶらしている。すると男子の部の決勝が始まるアナウンスが会場に流れた。彼女はあてもないためそれを見ることにする。
そこで彼女は目を見開いて驚くこととなった。
「……!?」
そこにいたのは自分と同じ年齢の別の中学の男子だった。
彼が会場に入るだけで空気が変わるのを秋は感じる。それは他の者たちも同様であり、決勝で盛り上がるはずの会場は静まり返っていた。
「あの人、すごい」
立ち振る舞いの全てが他のどの選手とも違っている。何が、と言われてもうまく表現できないが何かが違うことだけはわかった。
彼は決勝が始まると圧倒的な強さを見せ、あっさりと優勝を手にすることとなる。彼の雰囲気に対戦相手は完全に飲まれていたが、それがなかったとしても彼とまともに打ち合えるような選手はいなかった。
それからしばらくして彼女は高校に入学する。そこで、のちのち仲良くなる『大輝』『はるな』『冬子』の三人と出会うこととなる。しかし、彼女にとって最も衝撃的だったのは、あの大会で優勝を決めた彼も同じ高校に進学していたことだった。
この学校も剣道は決して弱いほうではなかったが、それでも彼ほどの実力があるなら私立の有名校に進むと思っていたからだった。秋は彼の姿を見て感動に打ち震える。あれほどの実力者とこれから三年間、同じ剣道場で研鑽を積むことができると考えたからだ。
しかし、その思いはかなうことはなかった。
彼は剣道部には入らなかった。なぜ! どうして! それだけの腕を持っているのに、もったいないと思わないのか! そんな強い思いを彼女はもち、実際にその思いを本人にぶつけたことがある。
彼の返事は秋にとって納得できないものだった。
「悪いな、命がけの戦いを味わってしまった。だからあの大会を最後に剣道はやめると決めていたんだ。あれ以上やっても、俺には何も得るものはないと感じてしまったからな」
そんな彼は、その後秋たち四人と共に異世界に召喚されることとなる。
この世界で命がけの戦いに身を投じることで、あのとき彼が言っていた言葉の真意を秋は知ることとなるがそれはまたのちの話。
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再召喚された勇者は一般人として生きていく? 出版一周年記念で上げてみましたー! 第三段!