第二話 蒼太とはるな
学校からの帰り道、はるなはホームのベンチで電車を待っていた。
「ふんふふーん、電車でおうちに帰る~♪」
彼女は自作の歌を口ずさんでいた。大輝と秋は部活で冬子は遠くの本屋に寄ってから帰るとのことで、今日は珍しく一人だった。
すると、そこに一人の男子生徒がやってくる。
「ううん?」
一人きりだったので歌っていた彼女は、それを止めて誰が来たのかと隣のベンチに視線を送る。
「あれ? 近衛君?」
それは見知った顔であった。同じクラスの『近衛 蒼太』、彼とは個人的に話したことはほとんどなく、挨拶を交わす程度だったがそれでもどこか印象に残る男子だった。
「あぁ、葛西……だったか?」
しかし、相手の蒼太は彼女のことをうろ覚え程度なようだった。
「もう、ちゃんと覚えててよね! クラスメイトじゃない!」
彼女は頬を膨らませて蒼太に食って掛かった。
「悪かった。よく南山といるやつだよな……四人組だったか」
蒼太は覚えている情報を口にしながら彼女に謝罪する。
「うん、うちとだいくんと秋ちゃんと冬子ちゃんの仲良し四人組!」
彼女はその大きな胸を張ってピースをしていた。
「そうか……」
しかし蒼太の反応は淡白なものだった。彼は三年前にこちらの世界に帰って来てから、どこかこの世界の者とのつながりを避けるような様子がみられた。まるで、ここは自分の居場所ではないかというように。
「もう、もっと反応してよね」
「悪いな」
それでも反応の薄い蒼太にはるなも少し困ってしまう。
「うーん、もっと笑顔だと近衛君も友達できると思うよ?」
クラスでも蒼太は浮いた存在であるため、彼女はそうアドバイスをする。それは蒼太も感じとっていたことだったが、それでも構わないと彼は思っていた。
「ほら、笑顔笑顔! うーん……でも強制してもダメだよねえ。何かうちのとっておきの話は……そうだ! 前にね、だいくんが座ろうとした椅子を冬子ちゃんがすっと移動させて、そこにそのままだいくんが座ろうとしちゃったんだよ」
「ふむ、それで転んだか?」
蒼太の答えに彼女は首を横に振る。
「ううん、転ぶかと思ったんだけど。そこに慌ててうちが近くにあった棒をおいて支えにしたの。そしたらだいくんのお尻にぶすーって刺さっちゃったんだ。あの時のだいくんの顔ったら」
「はははっ、それはきついな。いつもスマートな顔してるあいつがそんなことになるなんてな」
大きな身振り手振りで話す彼女に気が緩んだ蒼太は一時的とは言え、笑顔になっている。はるなは満足げな笑顔で電車が来るまで話しかけ続けたのであった。
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再召喚された勇者は一般人として生きていく? 出版一周年記念で上げてみましたー! 第二段!