出会いは必然で
……どうしてこうなった
どれだけ考えても自分がしたことの自分らしさの無さ、どうしてあんなことしてしまったのか、考えても考えても後悔しかない。
そして後悔に頭を抱えながら後ろを振り返る。そしてそこに立っていたのは、1人の少女だった。
乱れた桃色の髪を肩まで伸ばし、青色のカラーコンタクトをしたジャージの少女。整った顔立ちに身長は170センチ半ばはあるだろうその身長と色白の肌が相まって、外国人と言っても信じる者はいるのではないだろうか。
「え〜っと。姫川、さん? 僕に何か用事でも?」
「?! ち、違っ! あたしは、その……」
顔を赤くし下を俯きもじもじとしている。彼女らしくないその様子に、自分でも何が何だかわからなくなってくる。
姫川深雪。クラスでの隣人であり、地元でも有名な不良少女がそこにはいた。
(俺……余計なことしたかな……)
時は30分ほど前に遡る。
「あ……あ゛ぁづい! まだ5月だって言うのに……何でこんな……」
現在の気温は30度。真夏日のような炎天下、俺は真っ黒の学ランに身を包んで歩いている。服の下既にサウナと言っても過言ではなく、少しでも気を抜けば意識が飛んでしまいそうだ。
そして俺を苦しめる要因はもう一つ。
鞄にそっと目を向ける。まるで爆弾処理班のように丁寧にあけるとそこには皺一つない書類が入っている。
(折ったりして逆恨みされても困るもんな……)
様々な重圧に押し潰されそうになりながらも、いつも行っている書店に到着した。
松本堂。最寄駅の商店街にある小さな書店。
クーラーのきいた店内は涼しく、入店した瞬間のこの幸福感はオアシスに辿り着いた旅人と近しいものがあるだろう。
「お、穂高くんいらっしゃい」
店内に入るなり、優しそうな顔をした若い女性に声をかけられた。店長の松本桜さんだ。
桜さんは大学生でありながらお店を1人で切り盛りしている。というのも店長である父親が他界して以来、学業の合間にこうして働いているのだ。
「桜さん、こんにちは」
「いやぁ、今日も暑いねぇ」
「本当熱すぎて大変ですよ……。今日はそれだけじゃなくて雑用も押し付けられる始末で……」
「あぁ。例の隣の席の女の子? 今日も大変だね」
「はははは。はぁ……」
深いため息がでる。あぁ、どうしてオアシスに駆け込んだのに再び砂漠に追いやられるようなことを考えなきゃ行けないのだろうか。
「まぁ、担任の先生に頼られているんだからいいじゃない」
「頼られてるんじゃなくていいように使われているだけですよ。俺は他の生徒と比べて、多少融通がきくので」
実際問題、部活動にも所属せず放課後暇なのは確かだ。だからといって、普通ライオンの餌やりに未経験者を任命するのもどうかと思うが。
「あははは。それは大変だね。それにしても今日は安曇高の生徒さんがよく来るね」
「へ?」
「いや。ここにくる安曇高の生徒さんって君の他にもう1人の生徒さんくらいなんだけど。今日はやけに多くてね」
ほら、と言うふうに桜さんが指を指す。
そこにいたのは男子2名、女子2名のグループ。男2人も面識がなく、女子一名はマスクをしており知っているのかいなのかすらわからなかった。しかし最後の1人は違う。
最上寧々。俺の通っている安曇高校で彼女を知らない者はいない。
長い黒髪を靡かせ、まるで人形のように整った顔は可憐と言う言葉が相応しい。入学試験の成績が主席かつ、入部して早々弓道部のエースに抜擢されるほどの才女。
入学するなり他生徒に格の違いを見せつけ、わずか数日で自分の帝国を築き上げた俺とは見事なほどに対局に位置する存在。
(でも最上さんって、最寄りここじゃないよな……)
この書店は俺の自宅からそう遠くないとこらに位置している。つまり高校の最寄駅ではない。そしてこの駅を使う安曇高の生徒の中に彼女はいないはずなのだ。
(あの中の誰かなのか? いやでも誰も見たことないし……)
「それに、あの子も穂高くんと同じ学校の子じゃないのかい?」
「え、だれ──」
言いかけた言葉喉の奥まで引き下がる。
そこにいたのは安曇高のジャージを着て女性誌を立ち読みをする少女だった。
ボサボサな桃色の髪を肩まで伸ばし、青いカラーコンタクトをした明らかに場違いな容姿をした少女。
身長は高く、ジャージ越しでもわかる豊満な胸部はスタイルはいいと言えるだろう。
しかし、そんなことはどうでも良かった。
「あ……あれは……」
姫川深雪。色んな意味で自分とは別の世界にいる少女がそこにはいた。