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誓いは『月』に、想いは『空』に

「―――くっ……それなりに度胸を振り絞った後に、更なる羞恥プレイを求められるとは……!」


「い、言わないで下さいっ……私だって恥ずかしいんですから……!」


 ソラからは無事に色よい返事を貰えたものの……この世界がシステムに則ったゲームである以上、言葉だけで『関係』はカタチにならない。


 パートナーシステムの契約に際して必要な儀式・・・・・の概要を把握した俺は、向かい合うソラと一緒になって羞恥に震えていた。


「えと、あの……は、恥ずかしいのはお互い分かってますから、大丈夫です。ささっと終わらせちゃいましょうっ」


「そ、そうだな……うん、お互い恥ずかしいから実質ノーダメという事にしておこう……」


 ―――然らば、逝こうか。


「じゃあ……ソラ」


「っ……はい」


 恥ずかしさを振り切って差し出した手に、ソラの手が重ねられる。


 更に思考操作によってパートナー契約の儀式を起動―――その瞬間、俺達の足元にお約束の如く魔法陣が展開。青く淡い光を伴った魔力が沸き立ち、黒と金色の髪が共に揺らいだ。


 宙を駆ける糸のような魔力の光が、重ねられた二人の手を結びつけるように取り巻いて……その色を、青から赤へと転じさせる。


 それが合図―――まずは俺からだ、恥はかなぐり捨てて覚悟を決めるとしよう。


「―――【Haru】の名に於いて、この身を以て片割れと成す」


「そ……【Sora】の名に於いて、この身を以て、片割れと成す」


 無理矢理に割り切った俺と、たどたどしさを隠せないソラ。


 彼女を引っ張るように、安心させるように、重ねた手を優しく握る。


「『月』に誓う、いつまでも共に在ることを」


「……『月』に誓う、どこまでも共に在ることを」


 控え目に握り返される手。


 緩みそうになる頬を抑えるのに、苦心した。


「「誓約を以て、魂心ここに刻む」」


「この者【Sora】を―――」


「この者【Haru】を―――」




「「果てなき旅路を共に歩む、ただ一人の伴侶とすることを」」




 交わし合った言の葉は世界システムに認められ、眩く輝きを増した魔法陣からあふれ出した魔力の奔流が―――最後の最後で互いの顔を見ていられなくなった、俺とソラを包み込む。


 そうして心の底で「早く終われ終われおわれオワレ」と羞恥のままに叫び続ける俺たち二人を茶化すような、勿体ぶった長い長い演出の果てに―――



 ◇プレイヤー【Sora】との契約が結ばれました◇

 ・インベントリ及びルーナの共有化が行われます。

 ・パートナースキルが解放されました。


 ◇称号が更新されました◇

 ・『絆を紡ぎし者』⇒『比翼連理』



 なんかもうトドメ・・・みたいなシステムメッセージにメンタルを撃ち抜かれて、システム演出の拘束から解放された俺達は二人同時に崩れ落ちた。


「………………………………これは酷い」


「っ……!っ…………!!」


 あまりにもあんまりな恥の強要に力無くぼやく俺と、両手で顔を覆って声にならない感情に悶えるソラ。


 正直、どこぞの攻略不能ダンジョンなどより余程消耗したんだが?


「伴侶って言っちゃってるし……」


「言゛わ゛ないで下さい……っ」


 ほらみろよアルカディア。ソラさん見た事ない様子で聞いた事ないような声出してるじゃん、いい加減にしとけ?


 あと初めての「称号更新」とやらでトドメ刺そうとしてくんのやめろや。


 響きが格好いいからって誤魔化されんぞ、『比翼連理』ってオマエ男女の情愛がどうたらって言葉だろうが……!


 契約によるシステムの恩恵もぽいっちゃぽいけど、これ間違いなく儀式内容も結婚扱いされてる要因だろ。普通の友人関係の男同士でもアレをやらされるとかマジ?地獄絵図かな?



 その後、それぞれがメンタルを回復させるまで少々の時間を要し―――


「きょ、今日の所は、この辺りで……」


「りょーかい」


 落ち着けども一向に頬の朱色が抜けないソラが疲れたようにそう言って、ひと足先に立ち直った俺はそんな少女を微笑ましく思いながら頷き返す。


 熱が引かないのは、儀式を終えた後もずっと引っ付いている・・・・・・・のが原因の一つに思えるが……本人曰く、彼女は甚く俺に懐いてくれているそうなので。


 俺とて気恥ずかしさを感じない訳では無いが―――「懐かれている」のだと思えば、どうしても微笑ましさが勝ってしまうのだ。


「それで、あの……パートナーになったばかりで申し訳ないんですが、思ったよりも現実の方が忙しくなってしまいそうでして……」


 と、別れに際してそんな事を言い出した彼女は、「実に不満です」という内心を現すように眉を下げて溜息を一つ。


「本当に、暫くはまともにこっちへ来れないかもしれません」


「そっか……まぁ、いつの時代もリアル優先ってやつだ」


 こちらも「実に残念」という思いをちゃんと伝えられるよう、声音に落胆を隠さず乗せながら「仕方ない」と笑いかける。


 すると―――もう、控え目にといった感じはなく。ハッキリと心細さを伝えるかのように、服の裾を握ってくるシステム公認パートナー殿。


 あまりにもいじらしい姿に脳をやられる俺を他所に、ソラはポツリと呟いた。


「ハルさん」


「あ、あぁ……どうした?」


「あの……ひとつ、お願いというか、希望があって」


 可愛さ過剰による動揺を呑み込もうとしている俺にそう言って、ソラは何やら僅かに不安を湛えた瞳で見上げてくる。


 不安というか……なんだろう、何かを思い切るちょっとした覚悟のような。


「言ってみ?分かると思うけど、今の俺はわりとイエスマンだ」


 ただし相手はソラに限る。そんなニュアンスまで正しく受け取ったソラは嬉しさ半分、恥ずかしさ半分のような面持ちで瞳を揺らして―――



「―――……っ…………………………ハル」



 余計な音の付かない、俺の名前をただ一つ口にして、



「……って、呼びたい、です」



 これ以上無いというほどに、小兎の宝飾が彩る首元までを朱に染めながら。



「これからは、あの……対等なパートナーになりたい、ですからっ……!」



 きっとソラの事だから、それだけで目一杯に勇気を振り絞ったのだろう。


 勢いに任せて言葉を連ね終えると、気が抜けたのかフラっと華奢なアバターが身を揺らして―――崩れそうになった彼女を、俺は片手で抱き止める。


 とても顔など見れずに目を逸らしているのは、どうか許して頂きたい。


「……あー、ソラ」


「は、はい……」


 どうしような、これ―――ほんと、どうしような。


「俺も、そう呼んでくれたら嬉しい」


「っ……はい」


 ソラに対する感情は、少なくともまだ・・、決して恋愛感情などではないんだが。


「これからも、よろしくお願いしますね―――ハル」


「此方こそ、よろしく頼むよ―――ソラ」


 この堪らなく魅力的な少女を、好ましく思う感情が積もり続けるのは……果たして良い事なのか悪い事なのか。


 二人だけしか景色を知らない、紅塔の頂上にて。


 唯一無二のパートナーと笑い合いながら―――俺は燻るような戸惑いの胸中に、ただ見て見ぬフリを決め込んでいた。








糖分!!!


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◇Status◇

Name:Sora

Lv:100

STR(筋力):100

AGI(敏捷):200(+10)

DEX(器用):200(+10)

VIT(頑強):100

MID(精神):400(+50)

LUC(幸運):50


◇Skill◇

・魔法剣適性

《オプティマイズ・アラート》

 魔剣念動

 追尾投射

 魔剣生成効率化


・光魔法適性

《クオリアベール》


・《天秤の詠歌スケアレス

・《観測眼》


・癒手の心得

・見切りの心得


・以心伝心

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載せようかどうしようか少し迷ったんですが、作中で挿し込むタイミングが暫く後になりそうなので現在のソラさんのステータスを此方に。


やたら目立っている謎スキルはそのうち登場いたします。

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