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フレンドリストにまたひとつ

 お披露目の後はアレコレ取っ散らかった駄弁りもそこそこに、思わぬ短時間で目的を果たしてしまった俺達は長居の理由も無いのでアトリエを退室。


 一緒に引っ付いてきたニア共々、そのまま【陽炎の工房】の拠点を出る流れに。


「で、本当に代金はいらないのか?」


 クランホームの大きな扉を潜りつつ、その引っ付いてきた藍色娘を振り返る。確認はこれで二度目だが、彼女は一度目と変わらぬ反応をジト目で返してきた。


「さっきも言いましたけれどもぉ……そんなの・・・・、お仕事した内に入らないの!これでお金なんて取ったらニアちゃんのプライドが許さんのですぅ!」


 勝手にボルテージを上げながらそう言って、まるで親の仇でも見るような視線を向けながら【紅緋の兎飾り】―――改め【紅玉兎の髪飾り】を指さすニア。


「カットも研磨も無しに飾りを添えるだけとか!これだから最初っから勝手に完成してる宝石ちゃんはカワイくないっ!」


 との事で……俺が持ち込んだ例のブツは、通常の作業に要する工程二つを必要としなかったらしい。より正確には、下手に手を加えることで既に完成されている効果を損なう恐れがあったんだそうな。


 で、この藍色娘はそれを「自分の腕が不足しているせい」と勝手に納得して勝手に怒っていると。見た目によらずストイックなのは結構だが、癇癪の起こし方がへにゃ・・・っているため正直ふざけているようにしか見えない。


「そしたらまあ、これから贔屓にさせてもらうという事で」


 プレイヤー歴や大手クランの腕利きという立場を考慮すると、間違いなく新参者の俺が「贔屓にさせてもらう」などと言えない相手のはずなんだが……


「えぇ~?なになに、なんだかんだ言ってニアちゃんのこと気に入っちゃったのかなぁ? そ こ ま で 言うなら仕方ないなぁ!このニアちゃんもカグラさんと同じく専属になってあげなくもなくなくなく」


「近い近い近い鬱陶しい」


 本人がコレ・・だからなぁ……ノリが軽過ぎていまいち敬えない。むしろ本人から「対等に接しろ」的な圧すら感じるわけで。


 俺の何処をそんなに気に入ったのか、はたまた誰に対してもこうなのか。


 隙あらば擦り寄ってくる華奢なアバターを押し退けようと格闘していると、横で見ているカグラさんは相も変わらず愉快そうに笑っていた。


「見てないで助けて?」


「そんなでも見てくれは良いから、満更でもないかと思ってね」


 なにを恐ろしい事を言っているのかこの姐さんは。


 是非に本物の天使である我が相棒をご覧に入れてやりたい。ソラの天然癒しオーラと比べれば、このあざといだけの藍色娘など相手にならないという事実を―――マジで我ながら失礼だな?


 初対面でここまで此方の遠慮というものを吹き飛ばしてくる相手に出会ったのは、十八年の人生において初である。一周回ってコミュ力のバケモノと賞して良いのかもしれない。


 ともあれ、出会って間もない相手に長年連れ添った旧友のごとき無遠慮さをぶつけるのは良くない。ニア自身のノリに引っ張られ過ぎないように、接し方は俺の方で上手い事コントロールしなくては―――


「ほっほぉ~う?満更でもない?満更でもないのかなぁ?そうだよねそうだよね君も男の子だもんねぇ!かわいいかわいいニアちゃんに懐かれて嬉しくないはずなむぎゅっ!?」


 コレ本当に遠慮は必要かぁ?


 天井知らずで調子に乗り出すニアの顔面を鷲掴みにして制圧しつつ、俺はカグラさんに「ほんとなんなのコレ」とげんなりした顔を向ける。


 後輩職人と専属顧客のやり取りを楽しそうに眺めるままの魔工師殿は、堪えきれなくなったように素直な笑い声を零すのだった。




「乙女の顔を鷲掴みするなんて、失礼しちゃうよまったく!」


「じゃ、これから宜しくな」


「スルーするよねぇ!よろしくどうぞぉ!!」


 出会ってから一時間弱にして、既に見慣れたわざとらしい膨れっ面。


 そんな怒りのポーズをスルーしてシステムウィンドウを操作していけば、軽やかなSEと共に俺のフレンドリストへ新たな名前が刻まれる。


 【Nier】―――これでようやく三人目。正規フィールドにもデビューした事だし、オンラインゲームらしくこの調子で知り合いが増えていけば嬉しいものだ。


「―――さて、アタシはここらで失礼するよ。ちょっと用事があるもんでね」


 と、俺達のやり取りを見届けたカグラさんが手を挙げて切り出した。既に解散の流れは出来ていたので、俺もニアも「了解」「はいなぁ」と並んで追従。


ツノ・・の方はしっかりやっとくから心配いらないよ。そうだね……元々の合流予定だったタイミングまでに仕上げておくから、期待してな」


「宜しく頼みます。こっちもこの先は予定通り、スポット巡りを再開するよ」


 結果的に大戦果が出たから良かったものの、既に貴重な時間のうち二日以上を消費してしまっている。ここからは予定よりもペースを上げて神創庭園を駆け回る必要があるだろう。


「ニアちゃんも応援してるからねっ!もし良さげな素材が手に入ったら、いつでもウェルカムだよ!」


「あぁ、うん。ニアチャンも頼りにさせてもらう」


 一対一で会うの色んな意味で怖いんだけど―――なんて言葉は流石に呑み込んだ。


 出所はいまいち不明なれど、好意というか厚意を向けられるのはありがたい事であるからして。


 そんなこんなでこの場はお開き。カグラさんはヒラヒラと手を振ってログアウトしていき、ニアは「お別れのハグ!」とか宣った瞬間にクランホームへと放り込んでやった。


 扉の隙間から不満げな視線を向けられている事を背中で感じながら、俺も「またな」と手を振り建物を後にする。



 そうして「さてお次のスポットは」とマップデータを展開しようとした―――そんなタイミングだった。


「おっと」


 メッセージの着信を告げるサウンドと共に、視界端に点灯するのは便箋型の小さなアイコン。


 つい先刻もカグラさんから受け取ったものだが、当の魔工師殿はログアウト済み。ニアの方は用事があるなら走って追ってくれば数秒で伝えられる距離である。


 となれば、送り主は必然的に―――


【Sora】―――『おはようございます。もしお時間宜しければ、合流しませんか?』


 可愛い相棒を置いて、他にはいなかった。








―――以下、取り留めのない雑記でお送り致します。


投稿開始からひと月が経ちましたが、先日とうとう総合評価が五桁に届きました。確かに表示されている10000という数字を何度も見返して、まさしく望外の評価に例によって熱を出した私です。


本当に多くの評価を頂いて嬉しくもあり、怖くもあり、最近では次話投稿をクリックする手が震えてしまい―――なんて事にはなりませんでした。意外と図太いですね。


沢山の「いいね」に「ブックマーク」に「評価ポイント」、本当にありがとうございます。すべて余さず励みにさせて頂いております。


相も変わらず、隙あらば暴走連投しそうな我が身を理性で抑え付ける日々。頭の中では既に二章の了まで詳細を書き終えておりまして、出来るだけ早くお届けしたいと思いキーボードを打つ手が止まりません。


これからも私のありったけで物語をお伝えして参りますので、是非お付き合い頂ければ光栄でございます。

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