第一踏破者
◇【螺旋の紅塔】を踏破しました◇
・第一踏破者報酬が贈与されます―――【紅緋の兎飾り】を獲得しました。
・単独踏破報酬が贈与されます―――【螺旋の紅輪】を獲得しました。
◇称号を獲得しました◇
・『螺旋の紅塔を攻略せし者』
・『無限機動』
・『弾丸走破』
◇スキルを獲得しました◇
・《瞬間転速》
・《先理眼》
◇スキルが成長しました◇
・《飛燕走破》→《兎疾颯走》
――――――――――――――――――
◇Status◇
Name:Haru
Lv:100
STR(筋力):300
AGI(敏捷):350(+10)
DEX(器用):100(+10)
VIT(頑強):0
MID(精神):0
LUC(幸運):300
◇Skill◇
・全武器適性
《ブリンクスイッチ》
《ピアシングダート》
・《クイット・カウンター》
・《瞬間転速》 New!
・《浮葉》
・《先理眼》 New!
・体現想護
・重撃の躁手
・コンボアクセラレート
・韋駄天
・兎疾颯走 Up!
・フェイタレスジャンパー
・ライノスハート
・守護者の揺籠
・以心伝心
――――――――――――――――――
「うごぁ……」
螺旋階段の終端、ゴールと思しき一際に煌めく紅色のアーチへと飛び込んだ俺は、身を投げ出したそのままの勢いで床へと激突。二次元よろしくビッタンバッタンと派手に跳ね回りながら転がった末に、真赤な岩肌に容赦無く叩き付けられて潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
嘘だ。衝撃で強制硬直喰らって声も出なかった。
掠れば即死のキルゾーンを抜けてきた=無傷だったので、元々5しかなかったVITが遂に消滅したこの身であっても激突ダメージで即死とかいう悲劇は免れた―――が、それでもHPが満タンから半減手前までは消し飛んだので、「高速機動中にスリップでも起こそうものなら死ぬものと思え」と改めておつむに刻んでおく事とする。
あとなんかアーチを抜けた瞬間、塔全体が発光したように見えたんだけど何事だ。ダンジョンのクリア演出か?
―――ともあれ、だ。
「は、はは……―――ッッッシャオラァ!!!やぁああってやったぞこの野郎がァアッ!!!!」
腹の底から湧きあがった歓喜と興奮を曝け出し、紅塔の天辺で一人高らかに勝鬨をぶち上げる。未攻略ダンジョンの初踏破―――正規フィールドデビュー三日目にして、紛れもない快挙だ。
快挙だが……正直特に語る事も思い返す事も無さ過ぎてビックリする。マジで「走る」「避ける」「覚える」しか要素が無いんだもの、このダンジョン。
しかしまあ、雑なアバター操作の癖を抜くという意味ではこれ以上ないほどの修練場として役立ってくれた。今の俺はステータスの数値こそ変わらずとも、三日前とは一線を画すと断言して良いだろう。
「今なら【神楔の王剣】ともタイマン張れる自信があるぜ……二分くらいなら」
なお、ソラさんの《天秤の詠歌》による支援は必須であるものとする……と、いったところで―――!!
「お待ちかね……リザルトの時間だ!」
クリアするくらいの気概で臨んではいたものの、正直マジで自分が未攻略ダンジョンを踏破出来るとは思っていなかった訳で。
ダンジョン攻略達成に際しての報奨など調べもせずにアタックしていた俺は、ここに来て初のゲームシステムより贈与された報奨品にテンション爆上がりである。
【神楔の王剣】戦以降、ソラさんの無双タイム開始につき強化の滞っていたスキルの獲得、及び成長も嬉しい限りだが……それよりもまずは『第一踏破者報酬』である。
文字通り、初めてその迷宮を踏破したプレイヤーにのみ贈られるであろう報奨品―――まず間違いなしのユニークアイテム!これにテンションが上がらないゲーマーが存在しようものか!!
「さあ御目見えだ……出てこい【紅緋の兎飾り】!」
逸る心のままインベントリを操作して、新規獲得アイコンが光る報奨品をオブジェクト化する。そうして俺の手の中に現れたのは―――名称に違わぬ紅緋の煌めきを湛えた、小さな宝石。
おそらく兎を模した形なのだろうが、シュッと横に流れる耳のシルエットが印象的で流れ星のようにも見える。全体的に若干可愛らしい印象で、ソラに見せたら喜びそうである。
ユニーク品だけあってディティールまで抜群のビジュアルだ。おそらくアクセサリー枠の装備品だとは思うが……周囲に誰もいないのをいい事に、にやけ顔のまま宝石をタップして詳細ウィンドウを表示させる。
【紅緋の兎飾り】装飾品:宝石 ※譲渡不可
紅玉兎の加護を宿した宝飾。不滅の祈りは宝飾を身に着ける者に守護を授け、死の運命を遠ざける。優れた細工師の手によって加工が可能。
相も変わらず、テキストとして記されているのは正確な効果の判然としないフレーバーのみ。けれども【Arcadia】十八番の脳内インストールにより、宝石がその身に秘める特殊効果はしかと俺の脳裏に刻まれる。
「―――――――――これ、は」
結論、ヤバすぎ。
何これぶっ壊れてんだけど……いや壊れてるというか、現在の俺のビルドに噛み合い過ぎている。そもそもこのダンジョンを攻略可能なプレイヤーはAGI偏重戦士である、という想定ならそりゃまあそうなるんだろうが……
「ちょ……っと、これは、カグラさんに相談案件」
どうもそのままでは装備出来ない素材状態っぽい事もあり、一旦インベントリに放り込んで保留決定。想像の斜め上というか異次元の方向性だったため、動揺を抑えてネクストリワード。
お次に取り出したるは【螺旋の紅輪】―――と、どうやらこっちもアクセ枠っぽい外見である。いや、ぽいというか完全に指輪だコレ。材質は【紅緋の兎飾り】に酷似したもので、螺旋と名に付くように捻じれたようなデザインをしている。
アクセサリー類は店売り品など無かったため、アバターの装備スロットは全て空っぽだ。迷う事無くとりあえず装備―――え、一度着けたら外せない呪いのアイテムとか無いよね?
直前で怖気付き、指に嵌める前に再びタップ。表示されたウィンドウには―――
【螺旋の紅輪】装飾品:指輪 MID+100 ※譲渡不可
単身にて塔を走破した者に贈られる、紅玉兎の親愛の証。身に着けた者は彼らの同族として扱われ、その誇りの象徴を勝ち取る権利を得る。
「MID+100?????」
意味が分からない。単純にレベル+10相当のステータス加算なんだが?
え、そういうもん?そういうもんなの?このゲームのハイエンド装備って、こんなヤケクソみたいなステータス補正付きがデフォルトなの?
もしくは、『単独踏破報酬』ってのも第一踏破と同様にぶっ壊れ枠なのか?
「いやぁ……しかし」
単独走破以外に、このダンジョンをパーティでどう攻略するのって話。回復役を盾役複数が囲んで耐久しつつ登るとか……?
考えようにも、結局のところ俺にはまだ絶対的に『知識』が足りていない。そもそも先達プレイヤー達が一般的にどの程度のスペックを備えているか、みたいな事を欠片も知らんからなぁ……
まぁ、分からんなら分からんで後々にでも調べれば済む話。スロットは空き放題な上に「呪いの指輪」的な罠も無さそうだ、ありがたく装備させて頂こう。
指輪系のアクセサリースロットは両手にそれぞれ一つずつ、嵌める指はどこでも構わないらしい。サイズとかどうなるんだと疑問に思いながら、とりあえず人差し指に通してみる―――と、微かな発光エフェクトと共にリングが自動的にリサイズされ、違和感なく指の根元に収まった。
成程ね、ファンタジー万歳!
両手の指すべてを順番に試し、一番しっくり来た右手の中指を採用……断わっておくが、ソラが身に着けている【剣製の円環】と同じ位置になったのはガチで偶然なので悪しからず。誰に断ってんだ俺は。
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◇Status◇
Name:Haru
Lv:100
STR(筋力):300
AGI(敏捷):350(+10)
DEX(器用):100(+10)
VIT(頑強):0
MID(精神):0(+100)
LUC(幸運):300
◇Skill◇
・全武器適性
《ブリンクスイッチ》
《ピアシングダート》
・《クイット・カウンター》
・《瞬間転速》
・《浮葉》
・《先理眼》
・体現想護
・重撃の躁手
・コンボアクセラレート
・韋駄天
・兎疾颯走
・フェイタレスジャンパー
・ライノスハート
・守護者の揺籠
・以心伝心
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これでよし。自前のステータスポイントはびたいち振るつもりも無かったが、装備品が穴を埋めてくれるというならば素直に有難い限り。
精神力ステータスが作用するのは主に魔法関係。純粋に魔法スキルの威力に関係したり、逆に魔法を被弾した際には耐性としても働く。あとはMPの総量にも関わってくるので、総じて「基本的に物魔関係無く全てのプレイヤー取得推奨」の項目だったりする。
自分のステータス見てみろって?もう俺が「基本的なプレイヤー」ではない事くらい、いい加減に自覚してるんだわ。
ともあれ、MP増加はどうあっても腐らない。問題は俺が取得しているスキルの内では《浮葉》くらいしかMPを消費するものが無い点だが―――といったところで、新たに成長及び獲得した三つのスキルに目を通していこうか。まず一つ目は……
《兎疾颯走》―――走行、及び跳躍におけるアバターの挙動を補助。
踏み込み時に必要な動作を削減し、また初速を高速化する。
限界速度での身体稼働時、AGIを補助するDEXの働きに上昇補正。
「大躍進じゃん《飛燕走破》君……」
初めは悪路を走る際の補助効果を持つ《順応走破》から始まり、その効果を一度も活かす事の無いまま【神楔の王剣】戦による莫大な経験値を注ぎ込まれた結果、全く別のスキルへと進化ってか変化してしまった《飛燕走破》。
進化前は「不安定な足場からの跳躍を安定させる」という、クイックチェンジスキルの切り替え跳躍に特化したような効果だったものが―――何だこれ、強い効果しか書かれてないメチャクチャ有能な複合スキルに大変身したんですけど?
文句の付けようが無い神スキルっぷりに惜しみない称賛を送りつつ、お次は新規獲得スキルの一つ目だ。
《瞬間転速》―――能動的、或いは受動的にHPの10%を代価にする事で、あらゆる動作において『加速』の過程を省略する。
「はぁ?」
ステータス欄からテキストを読んでも上手く理解出来ないし、インストールされた知識を読み解いても挙動がいまいち思い浮かべづらい。
能動的に代価を払う事で発動……てことは、自動でHPが消費される訳ではなく自ら減らす必要がある?まさかの自傷トリガースキルか?
「うーん……まぁ、物は試しか」
立ち上がり、片手に【鋼鉄の短剣】を喚び出して暫し黙考。当然というか、これまでに現実世界と仮想世界どちらにおいても自傷行為なんてした試しが無い。忌避感というか何というか、正直かなりビビりながらも―――
「……そいッ!」
交差するように両腕を掲げ、右で逆手に握った短剣を左腕に突き立てる。衝撃と強い痺れ、涼しい顔でスルーするのはちょいと厳しい不快感が左腕を駆け巡る。
「ぐぅっ……オイ、わりとタフだなVITゼロ……!」
視覚的にもかなりエグイ凶行の成果は、全体HPの5%に満たないダメージ。《瞬間転速》の起動に必要な代価は一度のダメージ分で支払う必要があるらしく、これでは発動要項を満たせない。
ならばもう覚悟を決めて……!
「ぬおラァッ!!」
土手っ腹に南無三ッ!!
断言するが、もしソラが見ていたらガチ悲鳴からの正座&マジ説教を頂戴していただろう。
仮想世界のゲームアバターと言えども感覚的には百パー生身、そんな我が身の腹部に刃物をぶち込むという狂気の沙汰。絶大な忌避感と全身へ奔り抜ける特大の痺れに、流石の俺も冷や汗を流して―――
「……ぁー」
その瞬間。理解を得た俺は、元居た位置より十メートルは離れた地点で制動を掛けつつ納得の声を上げていた―――成程、そういう感じか。
この《瞬間転速》とかいうスキル、つまりは初動から百パーセントで動くためのものなのだ。
調整後の現在、俺のAGI数値は装備込み360。んで実際の所AGIの数値って=どのくらいの速度が出るのって話だが、実はこれ滅茶苦茶単純だったりする。
ズバリAGI実数=時速km、これだ。
と言っても、じゃあAGI:0なら時速0kmなのかって話になるのでもうちょい詳しく。初期のアバターのスペックが全力疾走で大体30kmほどで走れるのだが、そこからAGIを1詰む毎に加速度的に効果量が増加していき、100を超えたあたりでAGI:1=1kmの速度換算が成り立つようになる。
つまり今の俺はまっすぐ全力で走ると時速360kmという新幹線を超越したバケモノなわけだが、あくまでもそれは最高速度。自動車がアクセルに足を乗っけただけで限界速度で走り出したりしないのと同じように、超人めいたアバターにもしっかりと制限が掛けられている。
常に全力全開で最高速度など出していれば、隠しパラメーターのスタミナがあっという間に切れてしまう。加えて言えば当然ながら助走は必須であり、トップスピードにノるまでにはそこそこの距離も必要なのだ。
と、まあAGI特化の軽戦士にもそういった速度事情がある訳でして、何が言いたいのかといえば至極単純で―――
「ぶっ壊れ」
ようこそ《瞬間転速》君。我がビルドでは君を心より歓迎する。
助走も無しにノータイムでトップスピードが繰り出せるってのはシンプルにヤバい。攻守共にいくらでも有用な使い道が思い浮かぶ。代価に関しては色々と考える必要があるが……最悪、自傷に慣れればまぁ。
ソラさんが怒るかなぁ……。
ともあれ、新スキルはもう一つある。さてさてこっちは―――
《先理眼》―――任意発動時、敵性攻撃の進路予測を可視化する。効果を継続する間、持続的にMPを消費。
「?????」
ちょっと待て、落ち着け。大丈夫、俺はクールだ。クールであるからには俺は落ち着いている。つまりこれは現実だ(?)。
念のためもう一度、スキルの説明テキストが表示されているウィンドウを凝視する。
《先理眼》―――任意発動時、敵性攻撃の進路予測を可視化する。効果を継続する間、持続的にMPを消費。
「―――っすぅぅうううう………………」
テキストと、インストールされた知識が併せて俺に囁いた―――ぶっ壊れだよ、怖いか?
「ッファアアアアアアアアアアア!!!」
全ての理性を置き去りに、安全地帯らしきゴールの広間から踵を返して全力ダッシュ。命からがら飛び込んだアーチを逆から潜り抜けて、カムバックキルゾーン―――瞬間、殺到するは紅の弾丸。
無策かつ無集中などで身を晒せば馬鹿即斬っていうか『惨』を避けえない死地。そんな極限の領へテンションのままに舞い戻った俺は、高らかに叫ぶ。
「《先理眼》ゥッ!!」
一抹の疑いすら抱かぬまま、アバターに宿りし新スキルを起動。その瞬間、まるでフィルターが切り替わるように視界の彩度が下がり―――色褪せた世界に映し出されるは、煌々と輝く紅の死線。
「おいでませ神スキルァッ!!!」
見える!見えるぞ!!
おそらくは数秒先の致命的な未来を示しているのであろう数多のライン。ただそれを避けて駆け抜けるだけで、あれだけ見切りに困難を極めた兎どもが掠りもしねえ!!
「ハッハァ!オラどうした【紅玉の弾丸兎】ォ!!当たらんぞぉ?当たらんなァ!?よくもテメェら人の事を穴だらけにしてくれやがっ―――パァアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」
―――死因:調子に乗って煽りまくった挙句、MP切れにより爆発四散。