前へ次へ   更新
75/491

プロローグ


 ―――この世界で退屈を感じ始めたのは、いつの事だったろう。


 この『剣』を手にした時は、まだ夢中になれるものが沢山あった。


 けれどやはり、その時が色褪せ始めたタイミングだったのだろう。


 天才だとか、最強だとか、唯一無二だとか、大袈裟でつまらない言葉で飾られるのが嫌だったわけじゃない。


 心を沈ませた本当の原因は、それらが事実であると私自身が気付いてしまった事だから。


 傲慢だと、笑ってくれる人は誰もいない。


 むしろ誰もが、傲慢であれと私に理想を抱く。


 あなたは特別だと言われた―――そう、私は特別。


 あなたが一番強いのだと言われた―――そう、私が一番強い。


 あなたに並ぶ者などいないのだと言われた―――そう。私に並ぶ者はいない。



 私と歩める人はいない


 私と手を繋げる人はいない


 私の隣には、誰もいない



 悲しいわけじゃない、虚しいわけでもない。退屈を感じるからといって、この世界を嫌いになったりはしない。ただ……


 そう、ただ―――寂しいと、感じてしまうから。


 だから私は、迎えを待つ子供のように、


 王子様を夢見る少女のように、


 いつかこの手を取ってくれる誰かを、待ち続けている。

 前へ次へ 目次  更新