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試しの隔界球域

 初心者フィールド、ビギナーエリア、チュートリアルマップ等々、先達プレイヤー諸氏の間では()()()()()()()()()()という事で呼び方すら統一されていないそのマップ群にも、実は公式から与えられた正式名称というやつがある。


 その名はズバリ【試しの隔界球域】―――いや語呂というかセンス。そもそも後半の四字熟語(?)はなんて読むのよ、ふりがな振ってどうぞ。


 そりゃあ適当に呼ばれるのも分かるという物だが、それら領域が「印象薄い」なんて可笑しな評価をされている事だけは待ってほしい。


 イカれたスケールの広大なフィールドに、正しく ()()()襲い来る迫力満点の怪物ども。そしてそれらの親玉とも一線を画す、秘境に座す『規格外』たち。


 かつて無知から大炎上の火種を公式掲示板にぶち込んだ身として自重しているものの、俺は再び「先輩たちなに言っちゃってんすかハハッ」みたいなことを考えていた。


 ―――試運転はらっぱ……もとい、猪の楽園こと第1エリア【地平の草原】


 ―――岩肌の迷宮、第2エリア【岩壁の荒地】


 ―――『白』が潜む天橋、第3エリア【断崖の空架道】


 ―――そして仇敵の根城、第4エリア【流転砂の大空洞】


 その後の正真正銘シークレットたる【埋没の忘路】は別枠としても、ここまででも色々な意味で大変に濃ゆい冒険をさせてもらったというのが、俺とソラの共通認識だった。


 当然、ステージを重ねる毎にレベルを上げる悪辣な―――あー、趣味の悪い……その、意地悪?になっていくゲームメイキングに、俺たちは二人して期待半分心配半分の心待ちに好奇心のソースをぶちまけて挑んだわけである。


 え?なんか過去形じゃないかって?


 まぁ待てよ。これからその「死闘を超えた先、俺たちの冒険はこれからだ!」というありがち展開の、めくるめく『先』ってやつをご披露せしめるから―――三行でな。



 第5エリア【緑光の地底湖】―――瞬殺。


 第6エリア【火栓の逆天蓋】―――瞬殺。


 第7エリア【試儀の螺旋】―――瞬殺。



 何を言っているか分からないと思うが、俺達は何が起こったのかキッチリはっきり完璧に理解していた。


 つまりあの、アレ―――レベル上げ過ぎちゃったテヘペロ。



「えぇ……」


 彼女らしくないリアクションで困惑するソラの目の前、ボロボロと崩れ落ちていく()()()()()()()()()()ものが「役目は果たしたぜ」と言わんばかり、颯爽と灰となって退場していく。


 そうなる直前、なんか大仰な断末魔の声を上げて、なんか息絶える直前に激しく身悶えする怪物系ラスボス撃破モーションにありがちなムーブをかまし、なんか体の内から迸ったエネルギー的な眩い光の奔流に飲み込まれて、このなんか謎スライム的な不定形ボス(色んな形態になってバリエーション豊かな戦闘をご提供!)は今に至るわけだが……


「いやあ初心者フィールドのラストを飾るに相応しい壮大なボス戦だったなあ」


「お手本みたいな棒読み……」


 わざとです。3分クッキングとかうっそだろお前、やたら不気味さを煽るような盛大な登場演出を除けば下手すりゃその半分以下だぞ。


 ちなみになんか初心者フィールドのトリであるらしいこのエリアは、道中無しのいきなりボス単騎タイプだったので彼奴との戦闘時間=クリアタイムだ。


 こちとら初見やぞ、TA走者のつもりは欠片も無いんだが???


 さらに追い打ちをかけると此度の戦闘、ソラ単騎である。意気込みよく突っ込んだ彼女のファーストアタックで、ボスのHPバーが一本丸ごと消し飛んだ瞬間「あっ」と察した俺は理性よく武器を収めて今に至る。


 無駄に十段も重ねるよりも、一本一本を密にして頂いてよろしい?キミのHPバーはパイ生地か何かでいらっしゃる?


 あまりの事態に遠慮したソラが「変身中は攻撃しない精神」を発動してしまったせいで、新形態お披露目からのアピールタイムを経て一刀両断→以下ループ×9という無残な処刑映像を目の当たりにする事となってしまった。


 完全に舐めプレイヤーに健気に挑みかかるMobという構図が成立してしまい、ひたすら無機質な攻めを続けている筈の謎スライム君の目尻に光るものを見た気がして……観戦を決め込んだ俺としてもこう、涙を禁じ得なかった。スライムの目尻ってどこだよ。


 ひとつだけ擁護してやるとすれば、第六形態の魚みたいな姿でやってきた全方位同時鱗爆散攻撃みたいなやつは俺単騎かつ至近距離でやられてたら即死してたと思う。ナイスガッツ!


 まあソラさんはとあるぶっ壊れスキルのお陰で攻守共に隙が無くなってしまったので、それを含めて終始ノーダメでフィニッシュだったが。


「なんというか、その……拍子抜けですね?」


 【神楔の王剣(アンガルタ)】戦で方向性を固めた魔剣運用スタイルに変更は無いため、相変わらず非戦闘時は軽装に指輪ひとつのソラが困ったように言いつつ振り返る。


 拍子抜けと言えばそうだけど、この結末はぶっちゃけほぼ十割予想してたよ。


「ソラさんが完全にバランスブレイカーになっちゃったからなぁ」


「やっぱり()()まずいですよね……」


 それはもう、何かといえば俺のプレイを常識外れ扱いしてきたソラが恐縮するくらいに、彼女の言う「アレ」はヤバい。簡単に言えば、直接的な利便性と脅威度はかの《天秤の詠歌スケアレス》をも軽く凌駕するだろう。


 30レベル分のブーストバフよりヤバいスキルってなんだよと思うが、実際に頭おかしい性能していらっしゃるのだからどうしようもない。


 具体的には序盤のラスボス(序盤のラスボス???)を二分弱で張っ倒す程度の威力である。


 件のスキルとはその名も《オプティマイズ・アラート》君。名称からは全くと言って良いほど内容の想像が付かないが、その効果は視覚的にも性能的にも実にわかりやすいシンプルなもので―――


 ◇【試しの隔界球域】全工程の完了を確認◇


「おっ、いつもの……じゃないな?」


 馴染みの鈴が鳴るようなサウンドと共に、視界に現れるシステムログの窓。いつものボス討伐達成アナウンスかと思いきや、どうにもそういうわけではない様子で。


 ◇全工程踏破までの過程総合評価を精算―――評価値の算出を完了◇


「あの、これって……?」


「あー、と……」


 未知のアナウンスと並行して、ボスの残骸が完全に消滅したあとに残された天空闘技場めいたフィールドも変遷を始めている。


 いや天空ってか、宇宙?星が煌めく宇宙空間にポツンと浮かぶ円盤状の足場、的なフィールドだったんだが……その周囲に浮かんでいた数多の星々が、なんか機械的な軌道で慌ただしく飛び回り始めていた。


 まあ多分、というか確実に「初心者卒業おめでとう!」的なイベント進行なんだろう。俺たち二人が唐突感を感じて口ポカンになってしまうのは……そりゃまあ偏にアバターを強化し過ぎて、本来なら壮大な死闘となるであろうボス戦を何の苦労もなく消化してしまったからに他ならない。


 その辺も併せてここに至るまで散々に()()()()()きた自覚はあるので、なんか精算してくださった評価値とやらも期待できるのではないだろうか。


 ◇評価値【S】を獲得しました◇


 それ見た事か、これは最高評価キタんじゃ―――


 ◇評価規定によりレベルの上限値化を実行します◇


「えっ」


「なんて?」


 唐突な宣言に困惑の声をあげる俺達をおいて、幾度となく目にしたレベルアップの光が身体を包む。


 これまでに覚えのある金色よりも、更に深みのある黄金のライトエフェクト。その輝きを合図にして―――ようやくボス討伐後、お馴染みのシステムログの山が積み上がった。


 ◇【試儀の螺旋】を踏破しました◇


 ◇【試しの隔界球域】を踏破しました◇


 ◇称号を獲得しました◇

 ・『到達者』

 ・『一心同体』

 ・『導き手』

 ・『世界を拓く者』


 ◇スキルを獲得しました◇

 ・以心伝心


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◇Status◇

Name:Haru 

Lv:85→100(150)

STR(筋力):140

AGI(敏捷):500(+10)

DEX(器用):200(+10)

VIT(頑強):5

MID(精神):5

LUC(幸運):50


◇Skill◇

・全武器適性

《ブリンクスイッチ》

《ピアシングダート》


・《クイット・カウンター》

・《浮葉》


・体現想護

・重撃の躁手

・コンボアクセラレート

・韋駄天

・飛燕走破

・フェイタレスジャンパー

・ライノスハート

・守護者の揺籠


・以心伝心 New!

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 ◇レベル上限到達を達成しました◇

 ・ステータスリメイクシステムが解放されました。

 ・スキルデリートシステムが解放されました。


 ◇親愛度の条件値を満たしました◇

 ・パートナーシステムが解放されました。




何と読むのでしょうねぇ。私にも分かりません


そんなことある?

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