待ち合わせて、二人
姐さん、もといカグラさんと別れてからすぐのこと。俺はかつて「二度と来ねえ」と宣言した砂の世界へと足を運んでいた。
ステータス然り、スキル然り、そして受け取ったばかりの【序説:永朽を謡う楔片】然り―――思い返せばほんの数日しか経っていないというのに、我が事ながら目覚ましい成長を遂げたものである。
ちなみに俺自身すっかり忘れていた事だが、以前カグラさんに「面白いものでも作って」と丸投げした素材群。あれらは「そんな化物みたいな武器が手に入ったのに今更半端なものいるぅ?」となってしまいお蔵入りとなった。
防具にしようにも軽装としての適性がある素材が乏しく、せいぜいがグローバードの羽を編んだ外套なんかが選択肢にあるくらい。
その外套とやらも凡その完成図を示してもらったところ、アホみたいに跳ね回る俺の挙動を邪魔する未来しか見えなかったので没。
というかそもそもの話、【序説:永朽を謡う楔片】君の重量がですね……アイツ一本を放り込んだ瞬間にインベントリの限界所持容量のゲージが跳ね上がりまして、ハイ……
と、そうしたやむを得ない理由も相まって、今は亡き素材達はあえなく端金に生まれ変わって俺の財布に納まった。ご冥福をお祈り申し上げます―――さてと。
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◇Status◇
Name:Haru
Lv:81
STR(筋力):50⇒100
AGI(敏捷):430⇒500(+10)
DEX(器用):200(+10)
VIT(頑強):5
MID(精神):5
LUC(幸運):10⇒50
◇Skill◇
・全武器適性
《ブリンクスイッチ》
《ピアシングダート》
・《クイット・カウンター》
・《浮葉》
・体現想護
・重撃の躁手
・コンボアクセラレート
・韋駄天
・飛燕走破
・フェイタレスジャンパー
・ライノスハート
・守護者の揺籠
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「―――まぁこんな感じかね……流石にAGIはここらで打ち止めだな」
ステ振り思案を終えて、キリよく500の大台に到達した敏捷値を眺めて独り言ちる。正直言って現時点で過剰も過剰。例えばここにソラの《天秤の詠歌》を用いて数値を上乗せでもすると、もう完全に俺が乗りこなせる速度域を超過してしまう。
というか、ぶっちゃけ平時も超過してる。現状トップギアでのアバターコントロールは、自身でも理解の及ばない無意識挙動と純度百パーセントの勘に頼り切りなのだ。
もうしばらく先になる予定だが、ステータスの振り直しが可能になったタイミングでこの暴走特急状態は卒業するつもりでいたりする。
……思考加速スキルが手に入ればなぁ。なんか一定以上のAGI値を保有した軽戦士ビルドでの実戦闘時間が獲得条件らしいんだけど、初めて確認されたのが一年前らしいんだよ。
つまりサービス開始から二年間戦い抜いてきた歴戦の猛者をして漸く手に入った代物な訳で、新参の俺が早々に求めたところで叶わない可能性が高い。
早くも愛着そこそこの現スタイルだが、無いものねだりをしたままズルズルと続けるつもりは無い―――足踏みしてたら、ソラに置いて行かれそうだしな。
「―――っハルさーん!」
「っと、来たきた」
サッと片付けるように開いていたウィンドウ群を撫で消した、まさにそのタイミング。砂を蹴飛ばしながらこちらに駆け寄る待ち人は、三日の待ちぼうけを食らわせてしまった可愛い相棒に他ならない。
装い変わらず、簡素な戦衣に最低限の革製防具。俺と揃いの鱓革製のグローブとブーツで砂を蹴り、懐っこい気配を隠さずに手を振りながら、ソラが待ち合わせの【流転砂の大空洞】へと顔を見せた。
「久しぶり……て言うほどでもないか」
体感的には存分に焦れていたため口をついた第一声だったが、実時間ではたったの三日ばかりである。挙げ返した手でそのまま頰を掻いて誤魔化してみせるも―――
「いえ、お久しぶりです!ご用事はもう良いんですか?」
嬉しい事に、そう言う彼女も今日の約束を待ち遠しく思っていてくれたらしい。都会に当てられて弱っていたメンタルに、眩いばかりの美少女スマイルが染み渡っていく心地だ。
「うん。ちょっと色々と慣れるまでアレだけど、大体はね」
「ですか。……それじゃ、いよいよ!」
「だな―――覚悟と準備はOK?」
生き生きを通り越してどこか爛々と輝くその表情を見れば、返ってくるであろう答えは明々白々―――
三日ぶりの待ち合わせ。今日これからの事は、しばしの暇を伝える際に併せて二人で約束していたこと。
簡潔に言えば、ここ【流転砂の大空洞】の再攻略の約束だった。
「勿論です!これまでの私とは一味も二味も違うところ、見せちゃいますから!」
「あ、うん、そりゃ楽しみだ……?」
ちょっとばかり予想よりもお高いテンションで戸惑う俺を他所に、【剣製の円環】を擁した右手を気合一杯に握ってソラははしゃいでいた。
これまでからの脱却といえば、件の【神楔の王剣】戦でしかと目に焼き付けさせてもらったのだが―――そういやその後、彼女のステータス欄に追記されていた数多のスキルを思い出す。
あの後すぐに今日のことを約束してから解散になったため、俺はソラの新戦力を把握していない―――さて、この様子を見るに……やべぇ震えてきやがった。
「さあハルさん、行きましょうっ!」
「あぁ、ハイハイ―――っと……!?」
その急成長ぶりに慄く胸の内を置き去りにして、ご機嫌なソラの手に引かれて走り足す。
いつの間にか自分などよりも随分と『主人公』然としてしまった少女の笑顔に惚気ながら―――俺はまた、高揚に充ち満ちた冒険へと駆け出していった。
第一部も残りわずか。早く続きが描きたいというか、もうたくさん書き上げてるので早くご覧に入れたい欲が抑えきれずに御覧の複数話更新でございます。
ストックは足りているけど理性が足りない。