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バイバイバディ

 ◇【化茸の宿主ホスト・オブ・マッシュ】を討伐しました◇


 ◇称号を獲得しました◇

 ・『化茸の宿主を討伐せし者』

 ・『始まりの最難を打ち倒す者』

 ・『絆を紡ぎし者』


 ◇スキルを獲得しました◇

 ・《ウェポンダーツ》

 ・アクセルテンポ


 ◇スキルが成長しました◇

 ・《複数武器適正》⇒《全武器適正》


「―――っ~~~…………!!」


 何か戦闘リザルトやら色々とログが流れているが、俺としてはそれどころではない―――完全にやらかした、テンションに身を任せて純真美少女に狂相を晒してしまった。


 自分でも初体験というか、途中から思考が振り切れて口調やら性格やらがおかしな方向へカッ飛んでいた事を辛うじて把握している程度で、ぶっちゃけ殆ど記憶に無い。


 俺テンション振り切れるとあんなんになるのかよ……人生十八年目で驚愕の新事実発覚なんだが……?


 てか大斧と大剣をお手玉みたいにひょいひょい投げてんじゃねえ。そういうゲームじゃねえからこれ!!ない筈だよな知らんけども!!


 連続レベルアップ音もうるせぇッ!! 今はソラの目に焼き付いてしまったであろう狂人の様をどう払拭するか考えなければ―――


「あの……」


「ヒュッ……」


 反応を確かめる覚悟も無いまま、傍に歩み寄ってきたソラの声におかしな声が漏れる。恐る恐る振り向けば、少女は形容しがたい微妙な表情を浮かべていた。


 おそらく微笑もうとしているのだろう。相変わらずの健気さが垣間見えてしまって余計に辛い。


「いや、あの……お、お見苦しいところを……」


 純真な少女の瞳を直視出来ないまま言い訳を挟むと、


「ぁ、あはは……」


 この反応である。そうだよね、あははだよね。あははははクッソ立ってもいない内からフラグがへし折れた音が聞こえるぅうぐあああああっ!!


 別に「あらかわいい」ぐらいでソラを明確に異性として見てはいなかった俺であるが、少女の中で俺のカテゴリが「わりと親切な男の人」から「高笑いしながら凶器を連投する狂人」へと変換されていく様を想像してメンタルに致命傷を負う。


 困ったように笑うソラを他所に、言い訳を重ねるタフネスハートなんぞ持ち合わせていない俺は傷心し、項垂れつつそっとステータス画面を開いた。


 MMOのステ振りは心躍る至福の時間だから……傷ついた心にも優しいから……。


 気もそぞろでステ振りを始めた俺の心中を何となく察したのだろう。徐々にソラが焦り始め、何事かフォローの言葉をかけようとする―――と、


「あの、ハルさ、ん……!?」


「んあ?」


 突然、ボス戦の舞台となった円形広場の地面が輝き出した。危機感が湧く類のものではない、柔らかい光―――次いでこの感覚は、


「転移……か?」


 洞窟より森へ、一度だけ経験した事のあるあの感覚。


 俺とソラは互いに顔を見合わせた瞬間、光に包まれて何処かへと飛ばされた。


 ◇◆◇◆◇


 一瞬の浮遊感、周囲の空気と雰囲気が一斉に切り替わる違和感の先に、人生二度目の転移を体験した俺はゆっくりと目を開ける。


 そうして視界に広がった光景への感想は―――


「―――わぁ……!」


 俺よりも先に吐息を零したソラの、興奮に染まりきった声音に集約されていた。


「お?」


「え、新規さん?」


「マジかめっずら」


「この時期に同時に同陣営? 家族かね」


「恋人の可能性」


「は? ギルティ」


「独り身の嫉妬は」


「醜い」


「うるせぇお前らも独り身だろ!」


「てかいつぶりだよ新規。ありがてえー」


「女の子!貴重な女の子ッ!!ようこそイスティアへ仲良くしようねーっ!!」


 薄暗く閉塞的な森から、眩い外灯が煌々と照らす広大な空間へ。俺達の眼前へ弾けたのは、正に異世界然とした色とりどりの屋根を乗せた綺麗な建物の並ぶ街中。その中心にお約束のように設置された、巨大な剣のモチーフを掲げる見事な噴水広場であった。


 弾けたのは光景だけではなく、行き交っていたプレイヤー達の多くの声も大きなざわめきとなって俺たちへ押し寄せている。


 ……あ、ちなみに最後の興奮しきった声は女性のものだったよ。通報はしなくてヨシ。


 次々に聞こえてくる声の通りに、少なくともイスティアへの所属を選んだ俺達のような新規は珍しいらしい。それなりどころではない好機の視線を集めてしまい―――


「恋人濃厚では?」


「あんだけくっついてりゃねぇ」


 聞こえてきたそんな声音に、ふと隣を見やる。


 てか今更ながらに左腕に妙な感覚が……?


「―――っソラ、さん」


「はいっ」


 妙に近い位置に顔があるソラに声を掛ければ、綺麗な街並みとプレイヤー達の活気に興奮仕切りの少女は、やけにキラキラとした目で俺を見上げてきて―――ぁ、気付きました?そう顔すげえ近いんすよ。


 顔ってか全身が近い。いつからそうだったのやら、転移の際に一瞬全身の感覚が抜け落ちるような瞬間がある訳だが、慣れないせいで感覚が狂い今まで気付かなかった。


 そりゃ縋り付くように腕に抱きついてりゃ「恋人」だと勘違いもされるわな。あっはっはこの柔らかな感触と温もりッ……!!


 人肌を忠実に再現しやがり下さっていらっしゃる【Arcadiaアルカディア】に至上の感謝を捧げながら、愛想笑いで本心を押し隠す俺。そしてシュバッと音がなるような勢いで距離を取りながら頬を真っ赤に染めるソラ。


「す、すみッ……!すみませッ……!?」


「いや、大丈夫。だいぶ大丈夫だから」


 いま表情筋を動かしたら絶対だらしなく緩む。そんな確信のもと愛想笑いという名の鉄面皮を貼り付けた俺の先で、可哀相なくらいソラは羞恥に悶えている様子。


「なんかラブコメ始まったわ」


「は?ケンカ売ってんのか」


「こら、折角のご新規さんに悪態つくんじゃないの」


「リア充への悪態はむしろ賞賛てか敗北宣言では?」


「かわいい」


「かわいい」


「中身は分からんが声と仕草的に純正美少女説を推したい」


「夢は抱いてこそだからな」


「誰だよあのフツメン。誰か闇討ちして進ぜろ」


「むしろ俺を殺してくれ。妬まし過ぎて死にたい」


「闘技場行こうぜ。壁殴りの壁にしてやんよ」


 衆目監視の中でテンプレの如き可愛らしい様を披露してしまったせいで、ここぞとばかり楽しげな会話の種にされてしまうソラさん。


 軽くパニックに陥っている様子だが、それらの声はしっかり聞こえているのだろう。益々頬の熱を上げていくソラは今にも湯気を立ち上らせんばかりに……え、本当に頭からケムリ出てんぞ。ゲームらしくそのへんのギャグ描写も完備して―――


「は、はぅはははハルさんっ!!あの、本日は!まことに!」


「え、あ」


「ありがとうございましたぁあああああっ!!!」


 羞恥を吐き出すかのごとく、ビックリするぐらいの大声で叫び声を響かせて―――転移に似たエフェクトと共に、ソラは【Arcadiaアルカディア】の世界から姿を消した。


「………………えぇ……?」


 少女渾身、逃亡のログアウトである。


「推定美少女ちゃん逃亡のお知らせ」


「はい解散」


「逃げられてやんのざまぁ」


「かわいそ」


「草」


「いや草」


「楽しかったわ、ご新規さん頑張ってね」


 やはりアバターといえども、美少女に向ける関心は皆等しいということだろう。ソラがログアウトした途端ほぼ全ての先輩プレイヤー達は興味を薄れさせた様子で、ほうぼうに散っていくか元いた者達も自分の会話に戻りだす。


 彼女がログアウトした瞬間にパーティ機能のペアは解除されたし、最後別れる時に仲良くなれていたら切り出せば良いかと思っていたのでフレンド登録もしていない。


 つまり連絡手段が無いので……流石に今生の別れという事はないと思いたいが、次いつ合えるかは不明。


「…………………………えっと、ログアウトは……と」


 少なからず衝撃というか喪失感に襲われた俺は、何だか自分でも言い表せない不可思議なメンタルのままに、そっと仮想世界からログアウトした。



 夢から醒めた時刻は凡そ二十一時前。初日だからと小言を我慢して夕食を取っておいてくれた母上の顔を目にした俺は、美少女ソラからのオカンという落差に言い知れぬダメージを受けて思わず深い溜息を吐いてしまった。


 顔を見た瞬間に凄い残念そうな顔で溜息を吐かれた母は青筋を立て、俺が本日二度目の説教を喰らったのは言うまでもない。

投稿もお話も、初日終わりの一区切りです。

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一章部分と言いますか、あと三十万文字程度を既に書き上げておりますので、

今回ほどのペースではありませんが暫くは毎日更新を続けます。


よければお付き合いくださいませ

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