もうひとりの主人公
はらはらと―――なんて表現では生温い。一挙手一投足、尽くが致死の怪物相手に大立ち回りを演じるパートナーを見守るソラは、辛くも命を繋ぎ続けるその姿に何度心臓を縮めたか分からない。
こういった場面に直面するたび散々「これはただのゲームだ」と自分に言い聞かせるが、仮想の視覚から飛び込んでくる情報の現実感があまりに巨大なせいで、ソラは目の前の光景を所詮遊びと笑い飛ばす事が出来ずにいる。
もし次の瞬間にでもハルが大剣の餌食にでもなれば、きっとソラは悲鳴をあげてしまうだろう。
「っ……!」
歯痒いのは、そんな光景を見ている事しかできない自分の無力さ。
度重なるハルのフォローで《スペクテイト・エール》行使に際してのマイナス感情は相当薄れてきているものの……やはり、自身が戦闘に参加できない制約が度し難い。
見守る事を強要する己がスキル。その他に持ち得る全てを尽くしても、そのスキル以上には彼の役に立てないという事実が―――それを事実と認めてしまっている自分が、何よりも腹立たしい。
「せっかく……」
並んで、戦えるようになったのに。
握りしめた右手で存在を主張する【剣製の円環】の感触が、殊更に無力感を煽っているように感じられた。
念願の戦う力を得てはしゃいでしまっている自覚はあったが、同時に「これならば力になれる」という確信もあったのだ。
珍しくソラの事を羨ましがるハルの顔を見て、いつもと逆の立場に嬉しくもなったりして――――――それで、この現状は何なのだろうか。
……やだ。
ぽつりと零れ落ちた想いが、竦む心に漣を立てる。
結局、彼を見守るしか無い自分が嫌だ。
彼でなければ相手にならないと納得している自分が嫌だ。
それらを事実として―――心のどこかで安心している自分が、たまらなく嫌だ。
「…………私は、支えるよりも」
先日、指輪を仕立ててくれた魔工師に問われた己の在り方。
「並んで……あなたの隣で、戦いたいのに……!」
その思いを再び紡いだソラの声が―――
◇スキルが成長しました◇
無機質で、無感動な、一通のシステムアナウンスを―――世界から引き出す。