新装初陣
「―――という事でソラさん。君の鞄にも二千万が眠ってます」
「き、急に足元がふわふわしてきました……」
あの後、結局「なんか面白いもの作ってください」と言ってカグラさんを困らせた俺は、件の古木と合わせて目ぼしい素材を軒並み押し付けてきた。
決して「インベントリをスッキリさせたかった」などという自分本位の行動では無い。体も心も軽くて超気持ちいいけど、断じて。
「間違って売り払ったりしないようにね。俺まで嘆き苦しむだろうから」
装備品類なら保護機能があるから良いけど、素材なんかの消費アイテムには適用出来ないから注意が必要だ。
「気を付けます……なんで二人して、そんな隠しエリアみたいなところに迷い込んだんでしょうか?」
「それは謎」
どうせ考えたって分かりっこない。サービス開始から三年も過ぎてるくせに、攻略法不明のボスがいるようなゲームだぞ。謎には大人しく白旗あげるのが賢明。
「さてと」
時刻は昼過ぎ。今日は珍しく「昼食を済ませた後で」と、前日に約束を交わしての合流と相成った。
言い出しっぺはソラ。仮想世界とはいえど、女子から直々にお誘いを受けての昼下がりとか……我ながら幸福度が高過ぎて、自分の幸運の残量が心配になる。
「今日は……てか今日も、ガッツリ攻略で良いんだよね」
「はいっ!宜しくお願いします!」
ここ最近のモチベ低迷を吹き飛ばす勢いで、ソラの表情は明るい。理由は言わずもがな、右手に輝く【剣製の円環】に他ならない。
将来的には多くのプレイヤーの羨望を受けるであろう、万能器へ至る事が半ば約束されている『魂依器』。それに追随する形で彼女が賜った《魔法剣適性》という名のユニークスキルツリーが、ここ数日間の努力に報いるかの如くソラのステータスへと刻まれている。
こうも斜め上―――どころか天へと突き抜けるような形で結果が出てしまうと、通常の近接ツリーを取得出来ずに鬱屈としていた過程も、このためだったのではと世界の思惑を疑わずにはいられない。
まぁ、なんだ。結果オーライというか、終わり良ければすべて良し。
テンション高めなソラの様子は大変可愛らしいので、俺としても終始協力した甲斐があったというものだろう。
「んじゃ、早速行きますか」
うずうずとした雰囲気を隠せずにいるソラは、今にも転移門へと走り出して行きそうで……このままいると「おあずけ」でもさせているかのような気になってくる。
あまり見ない、どこか子供っぽいはしゃぎ様に緩む頬を誤魔化しながら促すと―――
「行きましょうっ!」
「―――っお、う……!?」
踵を返した俺を追い抜くようにして―――ついでに俺の右手を攫いながら、ソラは小走りで転移門のある方向へと駆け出した。
色々と無茶苦茶をやっているせいでわりとアバター同士の接触が多い俺達だが、このパターンは初めてだった。
戦闘中の緊急時ならいざ知らず……平時とあっては、少女アバターの手の柔らかさと温もりが誤魔化しなく感覚にブッ刺さる。
聞いた事ないレベルで音符感マシマシだった声音の愛らしさも相まって、上機嫌で俺の手を引くソラがやばい可愛い(語彙消滅)。
「そ、そんなに走ると転ぶぞー」
「えへへ……!」
出たな「えへへ」の使い手め……破壊力過剰なんだってそれさぁ!!
我ながらベタな声かけに対して返されたリーサルウェポンに、だらし無く緩みそうになる顔を必死に取り繕う。
気味悪く悶えそうになるのを堪える自称紳士をよそに、俺の手を引くソラは遂には鼻歌混じりで転移門へと駆けていくのだった。
◇◆◇◆◇
―――初心者エリア第五フィールド、その名は【埋没せし忘路】。
転移してきた瞬間に「見覚えあんなぁ」と思ったものだが、それもそのはず。俺達が降り立ったのは、昨日も訪れた例の洞窟内だった。
相も変わらず、ダンジョン的な様相を呈した薄暗い空間。放り出されたのは昨日の初期位置でも最終地点の広場でもなかったが、全く同じその雰囲気から同一のフィールドだと察する事が出来る。
てっきりソラの魂依器クエスト進行のためだけに、あんな凝った空間を生成したのかと戦慄したものだが……いや、別にその可能性も否定は出来ないのか。
埒外の神ゲーがやることなす事に一々頭を悩ましていては、それこそ埒があかないというものだ。物事には諦めが肝心だと父上もよく言っている、主に母上と喧嘩した時とか。
―――さて、暢気にあれこれと考え事をしている俺はというと、現在は後方相棒面でとある立ち合いを絶賛観戦中。
というのも……
「ふぅッ!!」
『――――――!!』
薄暗く狭苦しい一本道の通路。棒立ちの俺の数メートル先で、少女と物言わぬ石像が物理的に火花を散らしている。
エネミー名【彷徨える朽像】―――このエリアで現在確認している唯一のMobであり、これが中々の難敵だ。
見た目は朽ちた甲冑というか、全体的にボロボロで個体によっては兜や片腕が無かったりと見窄らしい見た目なのだが……
「く、ぅ……!!」
強い。剣の扱いにもこなれ、レベルもステータスも十二分。加えて高性能の魂依器に念願のスキルツリーまで獲得したソラが、控えめに言って防戦一方に押し込まれるほどだ。
奴らの個体差も厄介だ。必ず何らかの得物を携えているのだが、その武器の種類に統一性がまるでない。剣は剣でも直剣、短剣、大剣、細剣と多岐に渡り、他にも棍棒やら戦鎚やら……いま相手にしている奴に至っては、鎖付き鉄球をぶん回している。
そして何よりも特筆すべきなのが―――はい出ました。
「―――ぁっ」
激しい剣戟の最中、ふと後ろによろめいて見せた朽像を見て反射的に踏み込んだソラが、何度も繰り返している己のミスに気付いて声を漏らす。
そしてその瞬間には、不安定な態勢から手首の動きだけで急速に跳ね上がった鉄球が少女の頭部を打ち据える―――寸前、割り込んだ俺が戦斧を召喚。分厚い刃の腹に激突した鉄球が、けたたましい衝撃音と火花を散らした。
「ご、ごめんなさ―――!」
「後で」
「っ……!」
戦闘中の掛け合いも、中々に気持ち良いものになってきた。目配せと最低限の呟きだけで意図を汲んだソラは、俺が弾いた鉄球に釣られて今度こそ真に体勢を崩した朽像へと再度踏み込んだ。
「やぁッ!!」
右手に握られたのは、まだまだ見慣れない砂の剣。淀みない動作で振り切った魔剣が強かに朽像を打ち付け、その一撃で僅かずつ消耗を重ねていた奴のステータスバーが半分を切る。そして、
「―――二連ッ!!」
技後の隙を晒すはずのソラの頭上で、虚空から湧き出した砂が蠢いた。二つの砂塊は一瞬で二本の砂剣へと成り―――朽像の頭頂にその鋒が降り注ぐ。
『―――――――――!!』
悲鳴じみた軋みを上げて、HPを散らした朽像が青い燐光となって霧散する。
しばらくの残心を終えて、静かな息を一つ。右手の一本と宙に浮かぶ二本、計三本の鞘を持たない魔剣を虚空に解いたソラは―――
「控えめに言って、超格好良いんですけど……」
「か、からかわないでくださいっ……!」
いやビジュアルアドバンテージ高過ぎでしょう?揶揄いとかじゃなくて純粋に羨ましいんだよなぁ……
ちなみに、ソラに似つかわしく無い香ばしいドイツ語は俺が吹き込んだ。咄嗟の思考操作は特定の掛け声と紐付けする事で安定性が増すとの事で、素直に「一本!」とか「二本!」とか言い出した彼女に提案した形である。
安直な掛け声もらしさがあって微笑ましかったが「折角のファンタジーなんだから格好付けようぜ?」とゴリ押した。後悔も反省もするつもりは無い。
「全然格好良くないです。今だって、また……」
「仕方ないと思うんだよなぁ。あんなのもはやPvEの範疇に無いってーか……」
さて、朽像がソラに苦戦を強いている要因たる「特筆すべき厄介な点」とは何か―――それは、雑魚エネミーにあるまじき頭の良さだ。
いましがたも披露してきたよろめきに見せかけた誘いも含めて、アイツら「中に人いらっしゃいますよね?」と疑うほどの巧みな駆け引きを用いてくるのである。
今の奴なんて、ぶっちゃけまだ優しい方。
叩き落とした得物を拾う素振りを見せたところに追撃を仕掛けたら、「待ってました」と言わんばかりに鎧の隙間から暗器取り出しやがったからな。流石に仰天して「馬鹿な!?」とか叫んじまったよ。
「対人がコンセプト……なのかねぇ」
「えと、PvP……でしたか?」
アルカディアに関する雑学はともかくゲーム用語などには疎かったソラだが、少しずつその辺の知識も収集しているらしい。俺がぽろっと零したスラングに時折首を傾げては困った顔をしていたので、その影響か。
「正解。ここまでで初の人型エネミーだし、未来の大舞台に向けての予行演習場……ってとこじゃないか?」
「なるほど……」
それにしても設定が極端だとは思うけどな。ステータス的にはプレイヤーを下回っているからまだ何とかなるが、立ち回りだけを見れば下手な肉入りよりも対人戦の駆け引きがえげつない。
……というか俺、対人系は大して経験値無いんだよなぁ。ゲーマー時代は基本的にPvEを好んでいたもので、駆け引きのイロハで言えばソラと大差無いのだ。
―――という事実は既に告げてあるのだが、相棒から返ってきたのは胡散臭いものを見るようなジト目だった。
確かにフェイントに尽く引っ掛かるソラを逐一援護してはいたが、俺だって別に奴らの動きを見切って動いていたわけではない。「あ、やべ」と思った瞬間に全力で割り込んで入っているだけである。
わりと毎回ギリギリだし、内心は冷や汗ものですのよ?
「そろそろ前衛交代しよっか」
ここまでは新装備に新ツリーを引っ提げてやる気が逸るソラに任せた来たが、俺も立ち回りを学んでおくべきだろう。暇を持て余したとかではなく、二人とも慣れないこの状態のまま進んでいくのは、ちょっとマズい予感がする。
こういう手合いは、連戦で集中力を欠くと余計グダりやすいというのもある。
素直に提案に頷いてくれたソラと前後を入れ替えつつ、通路を進む。初めはありがちな迷路を想像していたのだが……探索を始めてからここまで数十分、意外な事に一本道が続いていた。
「……圧迫感あるよな」
「ですね……少し、息苦しい感じです」
狭い、暗い、代わり映えしない。これまでのフィールドは程度の違いこそあれど、なんだかんだで広かった。【岩壁の荒地】でさえ、見上げれば空があったのだ。
閉所という意味ではひとつ前の【流転砂の大空洞】も同じだが、あんなものスケールがデカすぎて感覚的には完全に屋外である。この鬱屈とした空間とは比べるべくも無い。
「オマケに彷徨いてるのはこれだしな……」
曲がり角から先を窺えば、ギシギシと軋みを上げながら徘徊する朽像が一体。今度のやつは四肢が健在だが、頭部が欠落していた。
見た目的には完全にただの首無し騎士。散々にひび割れた見窄らしい甲冑が暗闇からヌウッと姿を現す様は、なんかもう単純にホラーだ。
さて、単身で真正面から当たるのはこれが初。相手さんの得物は……何あれ、槍?いや槍斧ってやつか?
「この閉所であんなのどう……まぁいいや、行ってくる」
「が、頑張ってください……!」
通路の幅は三メートルに満たず、天井も似たようなものだ。こちらに向かってくる相手に回り込むのは不可能、奇襲も何も無いので素直に正面から対峙するしかない。
喚び出した【白欠の直剣】を引っ提げ、曲がり角から姿を現した俺を見て―――頭無いじゃんアイツ、どうやって知覚してんすかね。
ともあれ、朽像はすぐさま俺をターゲティング。今までに遭遇してきたエネミーならば、次の瞬間には吠えるなり飛び掛かるなり攻勢アクションに出たものだが……
『――――――』
ギシリと、腰を落として槍斧を構える。朽像が起こしたアクションは、それだけだった。
「やりにくいったらないな……」
やはり自分の経験値不足を実感する。プレッシャーに怖気付くほどではないが、どういったテンションで挑み掛かればいいのか測りかねてしま―――
「―――ッ゛!?」
首を傾けたのは十割反射だった。凄まじい速度―――否、ただ意識の間隙を突いた刺突が、俺の目を掻い潜り突き抜ける。
右耳に走った痺れを無視して咄嗟に左へステップを、
「チッ……!!」
踏めない、狭苦しいフィールドが、機動力に特化した俺のビルドを封殺している。仕方なく宙に遊んだ左足を無理矢理正面に叩き付け、目前に迫った朽像へと身体ごと肩をぶち込んだ。
朽ちた甲冑はサイズこそ俺と大差無いが、おそらく重量は上。加えてVITとSTRに偏っているであろうステータスでもって、AGI特化の俺を容易に受け止め―――
「くぉ……らぁッ!!」
小揺るぎもしなかった朽像の腰に腕を引っ掛け、そのまま斜め上へと両足を踏み切る。甲冑を軸に円を描き、足に触れた壁を蹴り付けながら半周―――着地と同時に更にグリンと身体を捻転し、遠心力をしこたま乗せた刺突をガラ空きの背中に叩き込んだ。
唸りを上げた愛剣がガツン!!と景気良く金属を穿つが、所詮は伽藍堂。心臓を貫いたわけでも無いため、朽像は盛大にHPを減らしながらも耐え―――
「はいおつかれ」
《クイックチェンジ》。貫通した【白欠の直剣】を、わざわざ引き抜くまでもなく。刺突を叩き込んだ瞬間に柄を離していた俺は、既に棍棒のテイクバックを終えていた。
大上段から真っ直ぐ振り下ろした棍棒が、兜の無い甲冑の首元を直撃。胸部の貫通痕へ至るまで盛大に砕け散った朽像は、流石にひとたまりもなく崩れ落ちた。
「うーん……」
倒すには倒したが……何かこう、違うな?間違っても今の一連の流れを「駆け引き」とは言わない気がする。
第三者視点で録画して是非リプレイしてみたいわ。今のは我ながら気持ち悪い動きしてた自信がある―――
「………………」
振り返ればほら、相棒が何かもう諦めの境地みたいな顔でこっち見てるもの。
「……ち、違うんだよ」
なにが違うのかは自分でも全く分からないが、言い知れぬ圧力に気圧されて咄嗟に言い訳を探してしまった。
「……何だかもう、最近のハルさんは剣士というより曲芸師みたいです」
「曲芸師かぁ……」
あんまり格好良くは感じないなぁ……自分自身、その表現に頷けてしまうのが妙に切ない。それでなくとも、ここのところは鈍器の使用率が高過ぎてどのみち剣士ではなくなっているが。
いやぁ打撃って攻撃としてすこぶる優秀なんだよ。決めの一撃でレギュラー張ってる巨大戦鎚こと【歪な鉄塊鎚】は勿論、余裕のできたインベントリに新たに詰めた片手棍棒も良い感じだ。
基本的に血の通う生物にしか効果的ではない刃物と違い、無機物にも分け隔てなく等しい衝撃をお届けする鈍器 is 優秀。
なにかやり取りするたびに立ち止まっていては、ゴールがいつになるか分かったものではない。戦闘の余韻もそこそこに、言葉を交わしつつ前進を続けている―――と、隣に並んだソラが訝しむような視線を向けている事に気づいた。
「前々から聞いてみようとは思ってたんですけど……」
「うん?」
「ハルさんの、その……反応速度って言うんでしょうか?咄嗟の対応力とか、ちょっとおかし―――えっと、普通じゃないなって」
いま「おかしい」って言いかけたよね?言いたい事は分かるけども。
「実は思考加速スキルを持ってたりしません?」
「持ってないんだよなぁ。むしろ喉から手が出るほど欲しい」
「それじゃ……」
いったいどうやって―――そんな疑念をありありと浮かべるソラだが、正直なところ俺自身その辺には時たま首を捻っている。
ここぞという場面で毎度のごとく。自分がいかに頭の悪い挙動を成し遂げているかなど、流石に自覚はしているのだ。
「自分でも結構な謎なんだよなー……リアルの俺は純然たる凡スペックだし」
仮想世界への切符を手に入れるために三年を燃やした執念を除けば、凡庸も凡庸の一般人Aこと俺だ。スポーツ万能というわけでもなし、反射神経や動体視力なんかも人より優れていると実感したエピソードは存在しない。
強いて言えば頭の回転はそこそこ早い方だと自惚れているが、それも所詮は通常運転の思考速度。人外の高速機動下では、見事に置き去りになっているのが現状だ。
「不思議だねぇ」
「不思議で済ませて良いものですか……?」
わりと素で興味無さげな声を出してしまい、ソラに呆れたように苦笑されてしまう。
一応自分の中では「仮想世界において解き放たれた野生の勘」的な適当極まる仮説で納得しちゃってるからなぁ。
「おかしな挙動してるのは、まあ自覚してるんだけどさ。九割……というかほぼ十割、身体が勝手に動いてるだけなんよ」
実際、そういうアクションした時は自分でもビックリしてるからな俺。
「はぁ……才能ってことでしょうか」
「はは、だとしたら有難い限りだけど」
遠慮も謙遜も必要ない。全力疾走でこの仮想世界を謳歌すると決めた以上、降って湧いた才能も手放しで歓迎する所存だ。
「いうて、ポテンシャルがどうのって話なら一気に追い抜かれた感あるけどね」
「……?」
俺の言葉に対して「何の話か分からない」と首を傾げるソラは、やはり自分の現状を正しく認識していないと見える。
彼女がアバターに宿した唯一性は、新しく手に入れた魔剣の力だけではない。俺と同じ駆け出しプレイヤーであるその身には、加えて二つも暫定ユニークスキルが宿っているのだ。
近接に転向したことで活躍の機会を薄れさせるであろう《観測眼》はともかく、何がどう転んだところで継続的ぶっ壊れが約束されている《スペクテイト・エール》は一種の爆弾だ。
こっちもまあ本人が前線に上がる事で使用頻度は限りなく薄れるし、成長の可能性は一旦保留される事になるだろうが―――何だかんだで、緊急時には頼っちゃうんだよなぁ……
戦いは数とはいうものの、こと二次元においてその言葉が説得力を持つ事は多くない。数値が絶対の上下関係となるステータス式のゲームでは殊更に、頭ひとつ程度の優位だけで単身が戦場を蹂躙する事態も珍しくはないのだ。
そんな一騎当千のプレイヤーを「本人が戦いに参加しない」という条件一つで生み出してしまうこのスキル、やはり考えれば考えるほどに調整ミスという言葉が脳裏に浮かぶ。
「あの、どうかしましたか?」
彼女にとっては要領の得ないことを呟いたきり、考え込み始めた俺をソラが覗き込んでくる。
将来的には俺なんかより余程、この仮想世界を騒がせる存在になるのではないだろうか。時間が経つほどにそんな予感を強くさせる少女は、あどけない表情で愛らしく首を傾けていた。
落ち着け、落ち着くんだ……!隙あらば連投しそうな衝動を抑えろ私ぃ……!