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剣製の円環


「―――こ、これは……」


「わぁ……!わぁあっ……!!」


 去来する数多の感情から顔を引き攣らせる俺と、ただ一つ感動というシンプルな想いに笑顔を咲かせるソラ。


 似つかない二つの様相を傍に眺める魔工師(ハルゼン)は、破顔する依頼者を目にして無表情のまま満足げに頷いていた。


()は【剣製の円環(クレイドル)】―――初めて目にする(かたち)になったが……良い出来だ」


「クレイドル!」


「……か、かっこいいじゃん」


 表情筋がピクリとも動いていないくせに、妙に誇らしさを感じさせる眼差しでハルゼンが見つめる先―――ソラの右手、その中指に嵌められた新たな指輪が煌めく。


 元となった素材はソラが使用していた【鉄の直剣】と【初心の指輪】に加えて、決死行の果てに勝ち取った【砂塵の涙滴】の計三つ。


 形状で言えば、取得時に涙滴とやらの玉石が埋め込まれた【初心の指輪】から大きな変化はない。しかし燻んで見窄らしかった砂色の石は磨き抜かれて琥珀の様な輝きを宿し、装飾も彫り込みも無かったリングには精緻な文様がグルリと一周刻まれている。


 見た目は完全に「魔法の指輪」と言って差し支えなく―――控えめに言って、クッソ厨二心をくすぐられるナイスデザイン。


 ―――さて、見事そんな良デザを勝ち取ったソラさんの『魂依器アニマ』であるが、俺が慄きソラが歓喜している理由は別に見た目によるものではない。


 問題なのは……あぁ、もう大問題なのは―――()()この美少女、やらかしてくれたってな訳で。


「ハルさん!ハルさんっ!」


 目を輝かせ、興奮しきりに俺へぶんぶんとアピールするソラの右手には、一本の『剣』が握られている。


 それは、これといって特筆する点の無い、()()()()()()()()()だ。


 装飾どころか繋ぎ目すら無い、その剣を構成するただ一つの材料は―――砂。


 無数の砂が集い柄を、鎬を、刃を形造っているそれが、何を隠そうソラの手にした魂依器の備える能力なのだ。


 【剣製の円環(クレイドル)】―――その特性は、魔法剣の生成。


「またかよ……うちのお姫様は全く……」


 口の端に浮かべるのは、もはや苦笑い一色。


 まだ情報収集を解禁して日の浅い俺だが、こと魂依器に関しては取り返しの付かない要素がある点を鑑みて、腰を入れてサイトを読み漁っている。


 流石に現在確認されている全ての魂依器の情報など把握出来てはいないが、大まかなジャンル程度は理解済みだ。


 そしてそれは逆もまた然り―――つまり、()()()()()()()()も分かるという事。


 魔法剣を、生成する能力。


 何かしらの物質……ないし実体を、生み出す力。


 ―――そんなものは、既存の魂依器には無い、筈だ。


 俺の知識量などまだ知れたものだ。もしかしたら類似する魂依器を持つプレイヤーは既にいるかもしれない―――が、少なくとも最大手である攻略サイトの魂依器欄を半日かけて上から下まで目を通した程度の知識はある。


 それで即座に「何だそりゃ」と、目を剥いてしまう程度には稀少な一品である事に変わりなく―――下手するとこの相棒殿、また新たな唯一の存在(ユニーク)を手中に収めた可能性が高いという事だ。


 ……率直に言って良い?


 クッッッッッッッッッッッソ羨ましいんだがァッ!!!


「おめでとァッ!!!」


「ありがとうございます!」


 虚空から自在に砂剣を創り出しては消してを夢中になって繰り返しながら、ソラはこれ以上ないというほどにご満悦。十割ヤケクソで叫び放った俺の嫉妬に満ちた祝言も、テンション最高潮の彼女にはそよ風に等しいらしかった。



 虚空から剣を生み出すこの力、未だアルカディア歴十日に満たない素人目に見ても、明確にヤバいと思える点が幾つも存在する。


 まず一つ。コスパがイカれているという点。


 一本作る毎に個別でMPを消費するようだが、その使用量が微々たるものである癖に、作る剣の性能は素体となった【鉄の直剣】を軽く凌駕する。


 流石に俺の愛剣となった【白欠の直剣】には及ばないものの、及ばれたら流石の俺もガン泣き案件なのでそこは当然というか……しかしながら、低コスト高パフォーマンスの武器を使い捨てで量産できるわけだ。


 あれ?俺の投擲戦法、もうソラさんのが適性あるのでは?


 次に二つ目。一つ目と関わる事だが、限界所持容量についての問題。


 任意で剣を作り放題となったソラさんだが、その実質無限武器庫と化した彼女が負担する重さは、無いに等しい一つの指輪の重みのみ。


 当然ながら剣を作り握っている間はそのぶんの重量が加算されるものの……だから何なのって話。実質的にソラは今後、武器を持ち歩く必要性を失った。つまり、その分の容量がまるまる空くというわけだ。


 おん?これから万年インベントリ容量不足に悩まされる身としては、羨ましい限りですなあ?


 三つ目。そんでこの剣だが、「魔法剣」という呼称は伊達では無いというか―――浮かぶ。えぇ、今もソラさんの周りでふよふよと三本ほど宙を舞っていますよウフフ。


 本人談によると、思考操作である程度は自由に動かせるんですってよ。


 なるほど?パッと思い浮かぶだけで二桁はえげつない利用法がありそうですね?


 四つ目。見方によってこれだけは若干のデメリットを含んではいるが、この剣は物理と魔法の両属性を内包している。


 端的に言えば、攻撃判定が物理ダメージと魔法ダメージの混合で行われるという事だ。どちらかの属性に極端に強い、或いは全く効かないような相手では最悪ダメージが半減されてしまう―――だがそれは、裏を返せばどんな相手でも確実に一定のダメージは通せるという事。


 汎用性で言えば抜群だろう。益々もって、他に武器を持つ必要性は薄くなる。


 んで最後、五つ目。これがもうマジぶっとんでヤバい。


 この指輪、魂依器だから当然この先どんどん成長していくわけだが……なんかね?ハルゼンの旦那が仄めかしたんだけどさ、他にも使えるようになるらしいんすわ。


 何がって?うん、今はさ、砂じゃん?砂属性―――砂属性て何やねんって話は置いといて、砂の剣しか生み出せないんだよね、今は。


 そう、今は。つまり最終的には―――


「炎とか風とか……!あっ、氷の剣なんて使えるようになったら素敵ですね!」


「は、はは……ソウダネ」


 あらゆる属性の魔法剣を生み出す、万能の指輪になっちゃったりなんか……しちゃうらしいんすわコレが。


 あの、うん。大変その、言いづらいのですが―――それもう反則チートでは?


 ていうか考え得る限り、その指輪を使えば俺の戦闘スタイルの完全上位互換になり得るのでは?


 え?


 …………………………え?


「……素早さ以外のアドバンテージが消し飛んだ件」


 空中跳躍や切り替え重撃など、一応ソラには出来ないテクニックも確かにある……が、推定グレーの裏技を胸張ってアドバンテージ扱いするのもどうなのって話だ。


 というか、下手しなくても空中跳躍すら可能なのでは―――


「………………やべぇ」


 紙装甲奇天烈ビックリ箱の分際で「俺sugeeee!!」してる場合じゃねえ。がっつりギアを上げていかなければ、逆にソラに置いてかれる……!!


 年相応(アバター外見的)にはしゃぐ美少女と、傍で満足気な仏頂面という摩訶不思議な表情を披露するムキおじ。


 物理的にも精神的にも引いた位置で佇む俺は、相棒の躍進を予感して一人戦慄するのだった。



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◇Status◇

Name:Haru 

Lv:65

STR(筋力):50

AGI(敏捷):440(+10)

DEX(器用):200(+10)

VIT(頑強):5

MID(精神):5

LUC(幸運):10


◇Skill◇

・全武器適性

《クイックチェンジ》

《ピアシングダート》


・《クイット・カウンター》

・《浮葉》


・体現想護

・重撃の躁手

・アクセルテンポ

・ボアズハート

・韋駄天

・順応走破

・フェザーフッド

・護送健脚

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◇Status◇

Name:Sora

Lv:42

STR(筋力):70

AGI(敏捷):100

DEX(器用):100

VIT(頑強):50

MID(精神):100

LUC(幸運):50


◇Skill◇

・魔法剣適性 New!

《魔剣念動》 New!


・光魔法適性

《ヒールライト》⇒《クオリアベール》 up!


・《スペクテイト・エール》

・《観測眼》


・癒手の心得

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現在のステータスメモでございます。

ソラさんの《短弓適性》スキルは非アクティブ化されて短い生涯を終えました。

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