幕間
「―――ありえねー……」
複数の大きな壁掛けディスプレイが放つ、頼りない光量のみが照らし出す薄暗い空間。ずらりと並ぶ機器から漏れだす微かな作動音の合唱に混じって、驚きを通り越して呆れに満たされた声が響いた。
ディスプレイに映し出されていた動画を『鑑賞』していた男は、超長編のアニメか映画でも見終えた直後と相違無い疲労感に沈みながら、二度三度と同じ言葉を繰り返す。
「副垢の違反者でも復帰組の熟練者でもなく、完全な新規だと……? あれが?」
やはり、有り得ない。初ドライブ直後などまともに立てる者すら稀有だというのに、あろう事か勢いよく跳ね起きるわ違和感無く歩行してみせるわ……
「お姫さんと同じ、二人目の完全適応者……?いや、もう、何でこんな時ばかり責任者が不在なんだか……」
もう随分前に『上司』へメッセージは送ったが、相変わらず重大な案件に限って返信は一向に返って来ない。
オブザーバーに過ぎない自分が独断で何かできる由も無く……相も変わらず『鑑賞』しかやる事もないので、ずっと件のプレイヤーの動向を追っているのだが―――
「イレギュラーは重なるというか……」
ログに主役として映し出されるプレイヤーの傍ら、行動を共にする小柄な影に目を向ける。眩い金髪を揺らす少女の笑顔を見ながら、男は迫り来る面倒ごとの気配に深い溜息を吐き出すのだった。