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第45話 知識とは

「パーティーについては最後にまとめて話す。それでは次の話に移る」

 ぱらりとページが捲られる音がする

「去年の7月から、今日に至るまでの半年間、本州から東北、北海道におけるダンジョンの発生率が以上に増加している」

「白色のグラフに注目してほしいが、自然に発生するダンジョンが中国、四国、九州比べると穏やかに増加し、メシアが発生させたと思われるダンジョンに至っては本州、東北、北海道にしか見渡らなくなっている」

 データに表して見ると出てくる異常。薄々勘付いていた者はいたのだろうか。水面下で僕たちの知らない何かが進行している。

「次に赤色のグラフに注目してくれ」

「これは都道府県別にまとめた、去年のモンスターに襲われる被害が遭った件数だ」

「数字の推移が北の地域に近づくほど小さくなっているのは分かるだろうか」

「北海道や岩手に至っては去年の11月の段階で被害件数が一桁になっており、今年の2月には秋田の被害件数は0()になっている」

 探索者たちに動揺が走る。誰かが「嘘でしょ」とつぶやく声が聞こえた。

「ああ、君たちが驚くのも無理がない。私たちの世界にダンジョンと呼ばれるものができてから、被害件数0は初めてだ」

「だが、」

「逆に北の地域の被害件数を補完するように南の地域の被害件数が増えている」

「被害総数は例年の数とさほど変わらない」

 入江さんが注いであった水を飲む。

「……さらに、だ」

「青色のグラフに注目してほしい」

「これは3年間の間に自然消滅したダンジョンの数だ」

「約3年前から、20番台までのダンジョンが原因不明のまま次々と消滅していった」

「本州最大級の【環境不変ダンジョン-12-e】が大きな縦穴を残して消失したのを皮切りにダンジョンの消失がおさまったが、つい1年前から新たにダンジョンが消失していっている」

「【環境変動型ダンジョン-51-c】や、【環境不変型ダンジョン-44-d】などの特異なダンジョンが消えていったのは、探索者である君たちの記憶には新しいだろう」

「報告によると、1年前から始まったダンジョンの消失は南にあるダンジョンから消失しやすい傾向がある」

「200番台以降の新しいダンジョンは消失したとの報告はないが、100番台までのダンジョンはこのまま消滅するだろう、というのが私たちの見解だ」

「100番台までのダンジョンは、()()に位置することが多い」

「このことから、南の地域のモンスターによる被害はさらに拡大するだろうと言われている」


「ここまでで何か質問があるやつは……いないか、この後に大きく三つほどのチームに分ける。それまで休憩してくれ」

 と、言い終わると立ち上がって部屋を出ていった。会議が始まる前とは違う、困惑した空気が漂っている。だが、この場にいる全員がこれまでの経験から理解しているだろう。

 何か危機が迫っているのだろう、と。

 数字にはっきりと現れたダンジョンの異常性。何かの法則によってダンジョンが発生しているのだと分かるが、僕たち探索者にはわからない。メシアが起こすダンジョンの発生が自然に発生するダンジョンと被っていることからメシアは確実に何かを知っている。

7年もの年月を使いダンジョンに潜ってきたが、僕たちはダンジョンと呼ばれるものが一体何かを知らない。圧倒的な知識不足。

それが僕たちの足を引っ張るのかもしれない。

「パーティーについては最後にまとめて話す。それでは次の話に移る」

 ぱらりとページが捲られる音がする

「去年の7月から、今日に至るまでの半年間、本州から東北、北海道におけるダンジョンの発生率が以上に増加している」

「白色のグラフに注目してほしいが、自然に発生するダンジョンが中国、四国、九州比べると穏やかに増加し、メシアが発生させたと思われるダンジョンに至っては本州、東北、北海道にしか見渡らなくなっている」

 データに表して見ると出てくる異常。薄々勘付いていた者はいたのだろうか。水面下で僕たちの知らない何かが進行している。

「次に赤色のグラフに注目してくれ」

「これは都道府県別にまとめた、去年のモンスターに襲われる被害が遭った件数だ」

「数字の推移が北の地域に近づくほど小さくなっているのは分かるだろうか」

「北海道や岩手に至っては去年の11月の段階で被害件数が一桁になっており、今年の2月には秋田の被害件数は0()になっている」

 探索者たちに動揺が走る。誰かが「嘘でしょ」とつぶやく声が聞こえた。

「ああ、君たちが驚くのも無理がない。私たちの世界にダンジョンと呼ばれるものができてから、被害件数0は初めてだ」

「だが、」

「逆に北の地域の被害件数を補完するように南の地域の被害件数が増えている」

「被害総数は例年の数とさほど変わらない」

 入江さんが注いであった水を飲む。

「……さらに、だ」

「青色のグラフに注目してほしい」

「これは3年間の間に自然消滅したダンジョンの数だ」

「約3年前から、20番台までのダンジョンが原因不明のまま次々と消滅していった」

「本州最大級の【環境不変ダンジョン-12-e】が大きな縦穴を残して消失したのを皮切りにダンジョンの消失がおさまったが、つい1年前から新たにダンジョンが消失していっている」

「【環境変動型ダンジョン-51-c】や、【環境不変型ダンジョン-44-d】などの特異なダンジョンが消えていったのは、探索者である君たちの記憶には新しいだろう」

「報告によると、1年前から始まったダンジョンの消失は南にあるダンジョンから消失しやすい傾向がある」

「200番台以降の新しいダンジョンは消失したとの報告はないが、100番台までのダンジョンはこのまま消滅するだろう、というのが私たちの見解だ」

「100番台までのダンジョンは、()()に位置することが多い」

「このことから、南の地域のモンスターによる被害はさらに拡大するだろうと言われている」


「ここまでで何か質問があるやつは……いないか、この後に大きく三つほどのチームに分ける。それまで休憩してくれ」

 と、言い終わると立ち上がって部屋を出ていった。会議が始まる前とは違う、困惑した空気が漂っている。だが、この場にいる全員がこれまでの経験から理解しているだろう。

 何か危機が迫っているのだろう、と。

 数字にはっきりと現れたダンジョンの異常性。何かの法則によってダンジョンが発生しているのだと分かるが、僕たち探索者にはわからない。メシアが起こすダンジョンの発生が自然に発生するダンジョンと被っていることからメシアは確実に何かを知っている。

7年もの年月を使いダンジョンに潜ってきたが、僕たちはダンジョンと呼ばれるものが一体何かを知らない。圧倒的な知識不足。

それが僕たちの足を引っ張るのかもしれない。

【環境変動型ダンジョン-51-c】

四国の山の中に現れた、木でできた迷宮。燃えないし、勝手に道が変わるし、何名の探索者が行方不明となった、環境変動型の脅威を身に持って感じさせるダンジョン。主人公たちが第23話から探索したダンジョンの比にもならない速度でダンジョンが変動する。

【環境不変型ダンジョン-44-d】

世界でも珍しい、水の中に存在するダンジョン。瀬戸内海の佐田岬から200mほどに現れたガラスの塔のような外見をし、塔の先端から下は海に沈んでいる。出てくるモンスターは全て魚の面影を感じさせるもので、ダンジョン内は水に埋まっている。このダンジョンから瀬戸内海へモンスターが溢れ出るとういう自体が起こり、何隻もの船が襲われた。


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