第34話 終わり
一応第一章の終わりのはずです
2階。特に音はせず、何物の気配も感じられない。この階層は蚊と飛蝗が出て来たはずだが、そいつらが出てくる様子はない。
今さっきのゴキブリが異常なだけだったか。中央にある階段から1階に降りる。
1階も特に何も起こらなかったので草をかき分けながら、出口へ。特にダンジョンが動かなくて助る。現在時刻午後の4時。思ったより早くダンジョンを探索することができた。
「お疲れ」
支部長からの労いの言葉だ。一二三さんはもう帰ったらしい。あの人の帰りが早いのはいつものことだ。
「報告は後輩ちゃんから聞いてるか?」
「聞いてる、どうやら不審な人物と出会ったらしいな」
キララがテントを片づけ始める。
「後輩ちゃんが報告した通りだ。突然現れ、突然消えた。名前だけをいっこうに教えなかったり、よくわからない行動も多数。極め付けは峨々の能力によって受けた傷の回復と、キララの能力の解除、後輩ちゃんをスマホから追い出して、僕は能力が使えなくなった。早急に確保したほうがいいぞ」
「……改めて聞くと完全に不審者だな。わかった、本部の方に持ち寄り、各地方の探索者協会に指名手配をしておく」
「了解。あと、遺骨はどうすればいい」
「遺族の方に渡すから、こちらに預けてくれ」
鞄の中から遺骨を取り出す。
「峨々の鞄に入れといてくれ」と、支部長が言い終わると同時にキララがテントをたたみ終えたようだ。でっかいリュックサックを背負いながらやってくる。
「おっちゃらまき〜〜〜、またね」
「おっちゃらまき、じゃあな」
「黒宮、その鞄ごと峨々に渡しとけ。峨々行くぞ」
「じゃあな黒宮、また会えたら」
「じゃあな、元気で」
僕の鞄を持ち、支部長たちと駅の方に向かっていく。あいつらは本部の方にいるから会おうと思えばいつでも会えるが、まず僕が本部に行かない。まぁいつか会えるだろう。
さて、僕も帰るか。あ、キャベツも買って帰ろう。
「教祖様、今回はどうでした」
暗い闇の中、一つの声が目の前にいる人間に質問をする。どこか抑揚のない声、それは冷淡にも聞こえ、どこか悲壮的な声にも聞こえる。その声に呼応するように、場の空気も教祖様と呼ばれた人間からの返事に期待をしている。
それは神父と宮司の服を混ぜ合わせたような気味の悪い服を自然に羽織り、彼の周りにある病弱な明かりからはどんな表情を浮かべているかがわからない人間。
白い椅子に座り、沈黙を保つその姿は何かからの神託を聞いているようだ。
静かな時間だけがただただ流れていく。
全ての音が消え去った瞬間突如として立ち上がり、周囲の闇の中からの無数の視線を全て自身の体に集中させ、こう答えた。
「失敗でした」
「座標が違ったのでしょう」
「しかし、ここ日本のどこかにあるはずです」
「我らが神が舞い降りる地が」
一瞬の静寂。そして熱狂。彼ら彼女らの周りを提灯が照らし、多種多様な人種たちが言語の壁をもろともせずに互いに手を取りあう。
男が、女が、黒人が、白人が、老人が、子供が、年齢が、髪型が、服が、文化が、好みが、趣味が、職業が、出身が、性格が、髪色が、肌色が、声が、能力が、知識が、学歴が、人生が、考えが、性格が、主張が、言葉が、運命が、死期が、寿命が、道のりが、心が、見た目が、中身が、家族が、彼氏が、彼女が、妻が、夫が、愛が、志が、個性が、存在が、何もかもが違う者たちが、
自身の細胞の1から1000まで他者と相容れない人間がただ一つの共通の言葉を用いて会話をしている。一つのものに取り憑かれ、故に他を信じれなくなる不治の病に犯された者たちの強心的な熱狂。
彼ら彼女らの中心たる人物が織りなすのは虚構とは言い切れなくなった最悪の現実、気狂いじみた非日常。
今世紀、否、歴史上最悪の組織その名を【メシア】という。
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