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第19話 日没

 いい匂いに誘われて目を覚ます。

 夕飯になるまで眠らせてもらった、今夜は眠れないから早めに睡眠をとっておこうというわけだ。

「今日はカレーか」

「昼頃から煮込んでましたからね、大変でしたよ」

 そういう後輩ちゃんをよそに時計を見ると18時ごろを指している。ソファに寝かした少女はぐっすりと気持ちよさそうに夢を見ている。

「少女ちゃん起きませんでしたね。やっぱり加賀原さんの能力は凶悪ですよ」

 鍋と向かいながらも僕の思っていることを当ててくる。数年一緒に暮らしていると、これぐらいわかるようになるのか。

 椅子から体を起こし、固まった体をほぐすように軽く体を伸ばす。体中から鈍い音が鳴った。やっぱり椅子で眠るもんじゃないな。

 冷蔵庫から水を取り出して、眠っている脳みそを起こす。後輩ちゃんがご飯の上にカレーを注ぐ。とても美味しそうだ。

「先輩、できましたよ。食べましょうか」

「そうだな」

 後輩ちゃんの作ったカレーは良い匂いをして僕の食欲を沸かし、とろとろに出来上がっていた。食材もそこそこお高いものを買っているそうだ。今日のご飯のためにかなりお金を奮発したな。

 ……いや、僕の金じゃん。まぁ、そんな些細なことを気にするより目の前のご馳走に気を配ろう。

 



「「ごちそうさまでした」」

 美味しかった。うん、美味かった。

 素材も良い物ながら、それを生かす後輩ちゃんの料理の腕が光った料理だった。

「どうですか美味しかったですか!!」

「うまかったぞ」

「私が毎日美味しい料理を作ってあげますからね」

「プロポーズみたいだな」

「プロポーズなんですよ!」

「ハハッ(笑)」

「鼻で笑われました!!」

 ちゃんと声には出した。

「僕が洗うから台所に持ってきて」

「さっすが、頼りになりますね!」

 台所に持ってきて、余ったカレーをタッパーに詰める後輩ちゃん。一人分ぐらい余っている。

 

 皿を洗い終わって、ゆっくりする。ソファはまだぐっすり寝ている少女が占拠しているから僕たちは椅子で満足する。ぽけぇとしていた僕の前に後輩ちゃんがコーヒーを持ってきた。ご飯を食べた後に睡魔が襲ってくるからその対策だろう。

「要ります?」

「いる。ありがと」

「いえいえ、どういたしまして」

 …………特に話すことがない。後輩ちゃんはというと、僕の顔をじっと見てる。ならばこちらも見つめよう。睨み合いみたいな状況が続き、一言も話さないまま3時間ほど経過した。

 22時を回り、後輩ちゃんがうとうとし始めた。まだ0時を回ってないのに、必死に睡魔と戦っているようだ。

「眠そうだな」

 静寂を破る一言。ここで眠ると風邪をひいてしまうので、寝るのならベッドまで運んでおこう。

「……ハッ、寝かけてました」

「半分ほど寝てただろう」

「いやぁこの調子じゃ、あの子が目を覚ます時に起きてませんね。ちなみに起きたら何をするんですか」

「縛る」

 机の下から取り出した、ロープとガムテープに若干引き気味の表情でこちらを見てくる後輩ちゃん。

「何をしようとしているんですか」

「何もできないようにするだけだ、ここで暴れられたら他の部屋の人に迷惑がかかるだろ」

「いや、そうですけど……もっと他の方法はないんですか」

 一番簡単で安全な方法だ。まだ効果が切れないが、そろそろ縛り上げる準備をしておこう。完全にやばい人を見る目でこちらを見てくる後輩ちゃん。最善策を選んでるつもりだ。小さな少女にどれほどの危険が潜んでいるかなんて、僕が知るわけないからな。

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