未来の創作の話をしよう ~イラスト生成AI、Midjourney、Stable Diffusionに続く未来に必要な三つの能力~
※「Stable Diffusion」(Artroom)にて出力した画像。
「AI, The Future of Creation, Utopia, Dystopia, Digital painting, Cinematic lighting, Digital Matte painting,」という指示で、10枚を出力したもの。
ユートピアとディストピアを混ぜたらだいたいディストピアという哲学。
「創作の未来/Future of Creation」は感じなくもない。
――未来の創作の話をしよう。
AIによるイラスト出力サービスの話だ。
私は小説を書いて、挿絵イラストも描いている。
自分の頭の中にしかない妄想を形にしたいから。
だから、「Midjourney」は衝撃だった。技術自体は多分そういうレベルに達しているのだろうとなんとなく思っていて……けれどそれが、サブスクで一般に解放されるのが、こんなに早いとは思っていなかった。
そして「Stable Diffusion」だ。
聞いたことがない人に向けて簡単に説明すると「イラストを生成するAI」だ。
検索ワードのように、単語を連ねて指示を出すというやり方で、イラストを生成する。
一単語から可能だが、「まえがき」に書いてあるように単語を連ねて、より複雑に、そして狙い通りのイラストを生成することが可能になる。
このエッセイに掲載されているイラストを、どう評価するかは人によるだろう。
評価の前に、少しだけ、前提を語りたい。
このイラストは、いくつかの単語を入力し、10分ほどで出力された。
ラフを考える時間も、手を動かす時間もない。ペンタブのような特別な道具すら必要としていない。パソコンだけだ。
今回は明確な構図や色合いなどを求めていないせいもあるが、出力された10枚を全て採用した。
私が伝えたいことを伝えられるだけのクオリティがあると判断した。
もちろん、無料だ。
私は夢のようだと思う。
そのAIのソースコードが公開された。
開発者が公開に至った理由は、『こういったAIを一部が独占するべきではない』という理念からだと聞く。
世界は変わると思う。
多くの人の想像力が刺激された。
この技術には夢がある。――私にもできるのではないか、という夢が。
しかしそれは同時に、創作の在り方の転換点でもある。
AIの技術がテキストである程度のものを出力できるまでに達したのを知った日から、ぞわぞわしたものを感じている。
私は、いわゆるシンギュラリティは来ないと思っている。
ただ、『人の限界』を超える必要がどこにあるのだろう?
私達は『人類の最高峰』だっただろうか? 違う。
たくさんの人間が、『要らなく』なる。
そして、その中にきっと、私は属している。
未来では、今の私が何十年もかけて積み上げた技術で作った『何か』より優れた『何か』が、きっと数秒で生まれる。
――その上で、未来の創作の話をしよう。
未来の創作に必要なものは三つ。
・AIというブラックボックスに放り込むアイディアを安定供給できる能力
・ブラックボックスから出力されたものが良い物かどうか判断する審美眼
・ブラックボックスから出力された物を調整する能力
この三つだ。
AIは万能ではない。
しかし、未来に存在するであろうそれを使いこなせた時、生産性は従来の製作方式とは比べ物にならない。
従来の製作方式は、おそらく『職人の手仕事』『人の手のぬくもり』のような売り文句が必要とされるだろう。一定の需要はあると思う。
一定のレベルに達している場合は。
残酷なことを言うが、大多数の人間は、創作のための労力を評価しない。
今も努力は評価されているのではないか、と思うかもしれないが、それは結果を出した人に対してだけだ。
結果を出していない人間の努力は、驚くほど粗雑に扱われる。
「結果に繋がらない努力なんて意味がない」、「努力の方向性が間違っている」とかなんとか言って。
それでも、必ずしも対外的な成果を上げられていない努力を認めて、評価してくれる人を知っているなら、その人は優しい。そういう人は大切にするべきだ。
しかし残念ながら、時給を出す側がそういう優しいことを言ってくれた例を、私は知らない。
私達はこれから、過渡期を生きていくことになる。
AIは道具だ。とんでもなく便利で、高性能な『道具』だ。
未来は創作者の楽園だろうか。それとも地獄だろうか。AI・ラッダイト運動とかが激化している可能性も否定できない。――あまりにも、こわいから。
それでも、世界はもう変わった。
どこかで、今よりもっと多く、そしてはっきりと目に見える形で、AIによる作品が供給され始める。
これは余談だが、「AIイラスト生成サービスを使用していません」という注意書きが、「遺伝子組み換え作物を使用していません」のノリで生まれると思う。
最初に反発が起きる。
「魂が入ってない」とかなんとか言って。イラストも小説も、その先にあるだろう3Dモデルや音楽も、けなされる。
「面白くない」「こんなんなら他のを読む」「中学生が書いたみたいなイラスト」「聞くに堪えないメロディ」――
……私達、人間のクリエイターが言われてきたことだ。
人間がつくった物の中でも、傑作なんて一握りであり、上澄みだ。
人類史の中で、何枚の絵が描かれて、何編の小説が書かれて、その中のいくつが高く評価されたと言うのか?
私達は、知っているはずだ。
何本の打ち切り漫画を看取った?
二巻が出てこない小説を待った経験は?
予算不足の作画崩壊アニメを目にした覚えは?
前作へのリスペクトがない続編映画を見た記憶は?
常軌を逸したゲームバランスのゲームに脳を壊された思い出は?
人間が書けば、人間を『必ず』感動させられる? そんなはずがない。
上澄みの傑作と、それに迫った作品だけが評価されてきた。
ここでマイナーな作品を反証として挙げる人もいると思うが、残念ながらそれさえも上澄みだ。
AIが書いた物で人間を『必ず』感動させられないなんて、そんなはずがない。
数撃ちゃ当たるという言葉があって、実際、それなりに正しい。
そして、大量生産はAIが得意とするところだ。
十分に調整されたAIは『それなり以上』の――『合格点』の作品を量産できると、確信している。
後は、玉石混淆の山から掘り出すだけ。
最終調整は人間が必要だろう。人間が受け取るものなのだから。
上澄みを増やす方法は、その下を増やすことだけだ。
「小説家になろう」のような小説投稿サイトが裾野を広げたように、AIもまたその役割を担うと思うのは、荒唐無稽な話だろうか? 私はそうは思わない。
調整は高度な技術だが、何かを一から作るのとは違う技術体系だ。
自分で物語を作ることができずとも、添削や推敲が上手い人はいる。良い選手と良い指導者はイコールではないのだから。
豊かなアイディアを生み出す能力を持ちながら、それを実現する能力を――あるいは磨き上げる時間を――持てなかった人が、AIを最も上手く使えるようになるだろう。
創作の未来はどうなるだろう?
バラ色だろうか。好みの作品が安定供給されるかもしれない。
創作の基準が変わる。もしかしたら受け手の基準も。
古文や漢文、それに近代の古典文学は、それぞれ今の作品とは違う。
過去は、今のようではない。
ならば未来も、今のようではないだろう。
道具が変わり、基準が変わる。
流行が移り変わり、未来が形作られていく。
その中にAI技術があるだろう。
――ここからは、現在の創作の話をしよう。
世界は変わっていく。
もう戻れない。ベースデータがソースコードごと公開された。分かる人には分かる、宝の山。
取り入れたいという気持ちもある。
……負けたくないという気持ちもある。
しかし、『まだ』AI技術は完成には遠い。
……恐れると同時に、楽しみにも思ってしまうのだ。
イラストソフトが、周辺機器が進化して、絵を描くことが昔より楽しくなった。
できることが増えるのは楽しい。
急激な変化は、もうしばらく先だ。
今はまだ、従来の作品製作方式に、一定の優位性がある。
旧来の技術は、長年の運用に耐えてきた。それに慣れている人も多い。
……しかしそれは、未来の優位性を意味しない。
パソコンやスマホで、簡単に書き直せる文章には「魂が入っていない」と思うだろうか?
手書きではない印刷には「価値がない」と思うだろうか?
思うのは自由だ。好みはある。
ただ、私はそうは思わない。
私はパソコンで小説を書き、ペンタブでイラストを描いている。
現在の技術を使用し、肯定する立場である以上、未来の技術に否定から入るのは愚かなことだと思っている。
ただ、新技術を肯定することは、旧技術を否定することではない。
今も私は、出先や寝る前などは、メモ帳やノートを使う。
物理的に何かをクラフトすることもある。
それはきっと、未来でも変わらない。
AI技術の未来を感じたのがいつだったのか、もう正確なことは思い出せない。
ただ、その時から、一つだけ思っていることがある。
創作において完全なオリジナリティなんて要らないと思っている。
似ていてもいいと、思っている。
それでも、その上で。
私は、私にしか作れないものを作りたい。
人間もAIも変わらない。というか、究極的には同じだ。『素材』を取り入れて、『学習』している。
しかしAIは特化して、生身の脳に縛られない分、そのプロセスがとんでもなく速い。
でも、AIに欲望だけはない。
自分で好きなものを選んで、なけなしの財布の中身をはたいて、他の何にでも使えただろう時間を捧げた記憶はない。
それは、人間の特権だ。
そうやって自分の好みを形作れるのは、人間だけの特権だと信じる。
私は、自分が書きたいものを書こう。そして、読みたいものを書こう。それを、より上手く書けるように努力しよう。それが、誰かの心に刺さることを祈ろう。
私より優れたAIが来るまで。……そして、来てからも、心が折れなければ。
――いつかきっと、時代と共に変わってきた『褒め言葉』の列に、新しい言葉が加わる。
「AIが書いたより面白いね」
それが最上の褒め言葉になる日が、きっと来る。
私は、AIがより高度になった未来でも、そんな風に言ってもらえる小説を書きたい。
(後、イラストもそうだと嬉しい)
………………。
…………。
……。
ちなみにさっきの「AIが書いたより面白いね」は、第一希望で。
第二希望は、こう。
「この作者さんAIより頭おかしい」
ぜひ言われたい。
・あとがき
はじめまして、水木あおいです。
代表作「病毒の王」から「病毒の王の人」とも呼ばれることがあります。
作品や作者の名前を知っていたら、ありがとうございます。
本文と口調が違いますが、普段は、主に一人称の長編小説(百合)を投稿しながら、こういう文体でまったりと活動報告を書いています。
久しぶりに、かっちりした文章を書いた気もする。
このあとがきでは、ゆるい宣伝を兼ねて、私の思う「まだAIにはちょっと早いイラスト」を掲載します。
・現在連載中の小説「妹大好き悪役令嬢は断頭台を目指す」あらすじ圧縮版
悪役令嬢のお姉ちゃんが、妹の幸せのためにゲームシナリオ通り断頭台エンドを目指す。
……でも、妹は姉妹百合エンドを目指しているかもしれない。
無表情の裏でえらく愉快なことを考えている、優秀だけどポンコツな、悪役顔の似合うお嬢様とか大好きです。
イラストは、1章の表紙。
銀髪で紺の服を着ているのが主人公のアーデルハイド、金髪で赤い服を着ているのがヒロインのレティシアです。
イラスト生成AIが「銀髪ウェーブのお嬢様と、金髪ショートカットの妹が二人並んでいて、枠には金の装飾があって、お姉ちゃんの方は、頭の中でちびキャラがもういっそ抱きしめたいと悶えているイラストを描いて! 絵柄と塗りは私の好みで!」という指示をしたら、こういうイラストを秒で出力してくれる未来を、楽しみにしています。
……無理かな。
小説用のテキスト生成AIが「妹を好きすぎて恋愛シミュレーションゲームのシナリオ通りに悪役令嬢を演じて断頭台へ行こうとしているお姉ちゃんと、思い通りに動かない妹とのじれじれ・あまあまな姉妹百合をください」と言ってささっと書いてくれるなら、もしかしたら私は自分で書いていないのかもしれない。
……やっぱり無理かな。
AI技術の未来を楽しみにしつつ、どっちかと言うと『挙動が変になるので学習データセットから弾かれる』立ち位置の作者なのでは……? という疑惑が拭えません。
この二人のことが気になった方は、「妹大好き悪役令嬢は断頭台を目指す」を読んでくださると嬉しいです。
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※ [ガールズラブ]・[百合]が好き、または興味がある、15歳以上の方。