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断章7

 ロゾロフ大森林の戦いを経て、僕はレオン、マリア、ソロンとパーティーを組むことになり、正式に勇者として認められた。


 王城に初めて登城したときは、微妙な雰囲気を感じた。

「レオンたちを差し置いて、何故こんなヤツが?」と誰しもが思っていたのだろう。ただ、僕自身も同じ考えだったので、あまり気にはならなかった。


 王は僕自身にはそれほど期待しているようには見えなかったが、結果的に優秀な人間が集まった僕のパーティーには期待しているようだった。魔王軍との戦況が悪化する一方だったので、期待せざるを得なかったのだろう。


 そんな中で、王が僕に引き合わせたのがアレクシア姫だった。


「我が娘、アレクシアだ。魔王を討伐した暁には、おまえをアレクシアの婿とし、この国の次期国王とする」


 初めて彼女を見たとき「綺麗な子だ」と思った。

 流れるような長い金髪に、宝石のような美しい青い目からは聡明さを感じる。12才とまだ幼さはあるが、マリアとは違う、凛とした美しさを持っていた。


「勇者様、魔王を倒し、世界をお救い下さい。わたしはあなた様のご帰還をお待ちしております」


 彼女は精一杯の笑顔を作って、僕に言った。

 無理をしているな、と思った。まだ12才の少女だ。いくらしきたりとはいえ、6つも年上の、好きでもない男を結婚相手にしたいなどとは思っても無いだろう。彼女もまた本当の気持ちを押し殺して『王女』という役割を演じているのだ。


「王女様、約束します。僕は必ず魔王は倒します」


 僕は彼女にだけ聞こえる声で言った。


「でも、ここには戻りません。だから、貴方は好きな人と結婚してください」


 僕は本物の勇者ではないから、王女と結婚するなんてことはできない。ましてや、王様になるだなんて分不相応にも程がある。

 それに、目の前のこの可愛い子には、自分の未来のことは自分で決めて欲しかった。そういう選択肢を与えたかった。


 僕の言葉を聞いた、アレクシア姫は驚いたように、その大きな青い瞳をパチクリと見開いた。

 彼女本来の表情を見ることができたみたいで嬉しかった。

 こういう子の未来を守るためにも戦っている、そう思えば、例え偽の勇者だとしても前に進める。


────


 城では歓待のパーティーを開いてもらったり、パーティー全員の絵を描いてもらったりして、幾日かもてなしを受けた。装備も実用的で良い物を支給してもらったが、剣だけは変えず、メンテナンスだけしてもらった。僕は最後までこの剣で戦い抜くつもりだったからだ。

 城にいる間は、主にレオンと剣の特訓を積んだ。剣の腕は大分上達したとはいえ、まだまだレオンには及ばない。

 ただ、攻撃魔法や回復魔法を細かく使うことで粘り強く戦い続け、何とか互角の戦いを演じることができる。


「おまえの戦い方は相変わらず泥臭いな」


 レオンからはそう評されたが、彼に悪意は無い。レオンも魔物と戦う以上、そういう戦い方が必要だとわかっているのだ。

 ただ、体力と魔力を同時に消費するので、身体の消耗は激しい。訓練が終わると、僕は倒れるように訓練の間で寝ころんだ


「俺は先に行くぞ」


 対してレオンはまだ余裕があった。戦いとしては互角だったものの、彼の動きには無駄がなく、体力はまだ十分残っているのだ。

 レオンが行った後、しばらく休んで体力の回復を待っている間に、近くに人がやってきた。

 アレクシア姫だった。


「見てたわよ」


 彼女は初めて会ったときとは違って、ぞんざいな口調になっていた。


「レオンのほうが剣が上手いじゃない。わたしも剣術を習っているからわかるわ。あなたの戦い方は美しくないし、何と言うか……みっともないわ」


 見た目通り、率直な王女様のようだ。思わず苦笑いが出る。


「えっと……困りました。王族に対して、ちゃんとした話し方がわからないものでして」


 僕は礼儀作法には疎い。貴族などの偉い人たちへの対応は主にレオンやマリアに任せているので、さっぱりわからない。


「普通にしてていいわ。勇者にそんなことを期待していないもの」


 彼女は礼節にそれほど頓着しない性格のようだ。ありがたいし、とても好感が持てる。


「僕はあんまり強くないんだよ。だから、みっともなくても泥臭くても勝つことだけを目指しているんだ」


「勇者なのに強くないの? それでどうやって魔王に勝つわけ?」


 僕を卑下しているのではなく、あくまで好奇心から聞いているようだ。


「どうやって、って、色んな手を使ってかな?」


「例えば?」


「そうだね。例えば、魔王の城が燃えそうなら火をつけて、城ごと焼いちゃうとか」


「城に火を放つの!?」


 アレクシア姫は口を押えて、「信じられない」という表情を浮かべた。


「油を使ったり、風の強さとか向きとか考えてね。そういうことができたら楽だよね」


「それって勇者のすることじゃないわ。卑怯よ? わたしも勇者って少し暗殺者に似てるって思ったことはあったけど、本当にそんなことをしようだなんて……」


 アレクシア姫は少し困惑したようだ。


「僕は勇者といっても弱いからね。どんな手段を使ってでも魔王を倒すよ。

 だって、魔王を倒さないと、みんな困るだろう? それだったら、毒が効くなら毒を使うし、こっちの味方になってくれるなら魔物とだって交渉する。例え何と言われようとも、僕はやり遂げなければならないんだ」


 僕は勇者らしくないし、実際勇者ではない。だから、手段を選ばずに戦っていくつもりだ。


「あなたって見た目だけじゃなくて、中身も勇者らしくないのね。じゃあ、何でそこまでするの? だって、ここに戻ってこないってことは、王になりたいわけじゃないんでしょ? 一体何が目的?」


 彼女は不思議なものを見るような目で僕を見つめた。


「僕の目的は魔王を倒すことだよ。その後のことは考えてない。魔王を倒せるなら命を賭けたっていい。……いや、本当はそうなったほうが良いのかもしれない」


 僕が魔王を倒し、相打つ形で命を落せば、アレスが勇者であることは誰も疑わなくなるはずだ。ひょっとしたら、それこそが僕の望む未来なのかもしれない。


「駄目よ」


 アレクシア姫は怒りで顔を紅潮させて、僕に指をさした。


「アレス・シュミット。あなた、何考えてるの? 勇者が魔王と相打ちになるなんて聞いたことないわ。そんな暗い勇者の冒険譚なんかありえない! いい? 勇者は魔王を倒して、お城に戻ってくるまでが仕事よ」


 何となくその言い方が12才の女の子らしくて、僕は思わず笑ってしまった。


「でも、僕が帰ってきたら、君は僕と結婚しなきゃいけなくなるんだよ? そしたら困るんじゃないか?」


 そう言いながらも、王城に戻って、この子が美しく成長した姿を見てみたいと思ってしまった。


「そっ、それは困るけど……大丈夫! わたしが何とかするわ! だから約束するのよ! ちゃんと魔王を倒して生きて帰るって! これは王女からの命令よ!」


 ちょっと困った顔をしながらも、彼女は王族らしく僕に命令した。その姿がとてもかわいらしかった。


「わかったよ。約束しよう、僕は魔王を倒す。そして自分もちゃんと生き残ると」


 僕はわざと『生きて帰る』というところを『生き残る』と言い換えた。


「だから、アレクシア姫もちゃんと好きな人と結婚するんだよ? 僕はみんなが幸せになるために戦いに行くんだから、せっかく魔王がいなくなったのに、君に望まない結婚とかして欲しくないんだ」


「……わかったわ。あなたが約束を守るなら、わたしもその約束を守る」


 彼女は顔を逸らして表情を隠すと、そう約束した。

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