第79話 元剣聖のメイドのおっさん、新しい満月亭の仲間を歓迎する。
「オーホッホッホッホッホッホッホッ!!!!! 満月亭にお住まいの皆さま!! ルナティエ・アルトリウス・フランシアがやってきましたわよ---!!!!! この栄光あるフランシアの血を引くわたくしの前で、平伏することを許可致しますわ!! さぁ、頭を垂れなさぁい!!!! オーホッホッホッホッホッホッホッホッ!!!!!!!!」
玄関ロビーで、満月亭の面々を前に手の甲を口元に当て、高笑いをするドリルティエ様。
そんな彼女を、みんな、ただただ無表情のまま静かに見つめるのであった。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・ね、ねぇ、何でみんな無言なの? というかこの人、誰・・・・?」
ジェシカのその疑問の声に、ロザレナはルナティエに呆れた笑みを向けながら、口を開く。
「そっか。ジェシカは
「え・・・・えぇぇぇぇぇぇ!?!?!? それってついこの前まで、ロザレナに陰湿な嫌がらせしてたいじめっ子じゃん!!!! バリバリの敵じゃん、この子!!!!!」
「そう、ね。まぁ・・・・敵、ではあるんだけど、今は協力者って立ち位置が近いかな。これでも一応、
「ど、どういう流れでそんなことに? というか、この人、満月亭に入寮するの? 何かいじめっ子が入寮するとか怖いんだけど!?」
ロザレナの背後に隠れ怯えた表情を浮かべるジェシカに、ルナティエはフンと鼻を鳴らす。
「ジェシカ・ロックベルト。そんなに怖がらなくても大丈夫ですわ。今は、
「何か笑い出した! 怖い怖い怖いッ!! 私、絶対にあの人と相性悪いよ!!!! 仲良くなれる気がしない!!!!」
ガクブルと怯えるジェシカに不敵な笑みを浮かべ、視線を外すと、ルナティエは壁に背を付けて腕を組むひとりの男へと視線を向ける。
そして口元に手を当て、嘲笑するようにフフッと笑い声を溢した。
「おやおや、まぁまぁ。こんなところに懐かしい顔が。まさかわたくしが入寮する満月亭に、幼少の頃に散々泣かした負け犬がいるとは思いもしませんでしたわ・・・・ホホホ、お久しぶりですわね、グレイレウス」
「・・・・フン。貴様に泣かされた記憶など一度も無いんだがな。不正でしか勝利を掴めない無能が、よく吠える」
「あら? あらあらあらあら? 泣き虫グレイがいっちょ前によく吠えますわね? 子供の時のように自分の立場を分からせてあげてもよろしくってよ?」
「このオレが貴様程度に後れをとるとでも思っているのか? お望みとあれば、その傲慢に伸びた鼻をへし折ってやろう」
視線を交差させ、バチバチと火花を散らすルナティエとグレイレウス。
俺はそんな二人の間に立って、大きくため息を吐いた。
「はぁ・・・・。あの、ルナティエ様、グレイレウス先輩、どうか喧嘩はやめてください・・・・」
「はっ! 申し訳ございませんでした、
「ア、アネットさんがそう言うのなら・・・・わ、わかりましたわ。特別に、そう、特別に矛を納めてあげましょう」
「・・・・ん? アネットさん、だと・・・・?」
「・・・・
訝し気な様子で互いの目を見つめるルナティエとグレイレウス。
そんな二人の様子にオリヴィアはコホンと咳払いをすると、手をパンと鳴らして、口を開いた。
「はい、とりあえずみんなこっち見てください~!」
そう言ってニコリと柔和な笑みを浮かべると、オリヴィアは話を続ける。
「ルナティエさんの入寮は急な話でしたから、私も寮に帰ってから知ったんですけど・・・・正式に学校に受理された以上、彼女は今日から満月亭の寮生であることに変わりはありません。みんな、喧嘩しないで仲良くするように!」
「・・・・・フン、仲良くなどできるわけがないだろう。この女は、ここに居る他の寮生たちとは違う。悪辣非道で性根の腐った女だ。寮に置いておいたら、何をしでかすか分かったものではないぞ?」
「はっはっはー! 俺は別に構わないがね! 満月亭にいくら美しい女生徒が入ったところで、このマイスの目はメイドの姫君にしか向けられないからな! だから・・・・安心したまえ! メイドの姫君! 俺の愛は君だけのものだ! はっはー!」
「喧しいわよ、マイス!! あんたの意見なんかどうでもいいのよ!!」
「ねぇ、ロザレナ。ロザレナは・・・・・あの子が入寮しても大丈夫なの?」
「ジェシカ?」
「だって、ロザレナ、この前まであんなに苦しんでいたじゃん。それなのに、その元凶が自分たちと寝食を共にするって・・・・怖くないの?」
震える声でそう呟くジェシカに、ロザレナは目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。
「確かに、当時のあたしだったら許せていないかもしれないわ。でも、今のあたしはルナティエがどういう奴かを知っている。あいつは本当に卑怯で性格の悪い奴だけど、悪人ではないわ。というよりも、あいつもあの時とは違って今は大分変わってきているから。もう、ジェシカが思うような怖い人じゃないわよ」
「・・・・・ふんっ。一言余計ですわね」
そう言って不機嫌そうな表情で、くるくると巻き毛を弄るルナティエ。
その様子は、何処かまんざらでもないような様子だった。
ロザレナが大きく成長したように、ルナティエも初めての敗北を知ってから、大きく変化を遂げている。
最初は人というものを信用しない、傲慢で高飛車な少女だったが、今は違う。
ロザレナと俺を信用し始めて、金銭関係抜きの関係、友情というものを徐々に理解を示し始めている。
初めての友人という存在にどう接して良いのか分からず、おっかなびっくりであるその様子は、本当に愛らしく、見ていて微笑ましくなるものだ。
俺個人としては、彼女という人間は嫌いではない。
面白キャラで見ていて飽きな・・・・いや、明るく前向きな性格なところに好感を抱いている。
目的も無く他人を害すような人間でもないので、満月亭に入寮することに関しては俺には別段、反対する意味は特には無い。
「それじゃあ、みんな・・・・グレイくん以外・・・・ルナティエさんの入寮に納得したということで! アネットちゃん、今からルナティエさんのために歓迎パーティーの料理を一緒に作りましょうか~!」
「はい! ・・・・って、一緒に・・・・?」
「ええ! 私も腕によりを込めて作りますよ~!! やる気が出てきました~!!」
「あら? アネットさんだけではなくて、監督生であるオリヴィアさんも作ってくださいますの? それは楽しみですわね」
「・・・・・ルナティエ、あたしの分のオリヴィアさんの料理は、あんたにあげるわ」
「フン。祝いだ。オレの分も受け取るが良い・・・・クククッ」
「はっはっはー! このマイスの分も、ドリルの姫君に渡してやろう! 有難く受け取りたまえ!」
「え? な、何ですの、みなさん!? も、もしかして、わたくしのことを、か、歓迎してくださっているんですの!? で、でも、わたくし小食ですからそんなにいっぱい食べきれるか不安ですわ・・・・け、けれど!! せっかく歓迎してくださっているのですから、貴族として残すのはマナー違反な気がしますわね!! ・・・・・が、頑張って完食しますわ!!!!」
「それじゃあルナティエさん、料理ができるまで、食堂で待っていてくださいね~!」
「わかりましたわ! このわたくしの舌を唸らせる腕前を期待していますわよ!! オーホッホッホッホッ!!!!!!!」
一時間後。
オリヴィアは無事にルナティエの舌を唸らせる(悪い意味で)ことに成功したのだった。
後に残ったのは、床に倒れ伏す、ドリル髪の少女の姿だったという。
以前のジェシカに引き続き、またこの満月亭で悲惨な事件が起こってしまったのだった・・・・。
第79話を読んでくださってありがとうございました!
続きは明日投稿する予定です!
また読んでくださると嬉しいですー!
三日月猫でした! では、また!