第27話 元剣聖のメイドのおっさん、聖騎士養成学校のシステムを知る。
皆さま、ご機嫌よう。
わたくしの名前はルナティエ・アルトリウス・フランシア。
栄光ある四大騎士公の一角であり、代々高名な指揮官を輩出している軍務卿の一族、フランシア家の末裔ですわ。
わたくしの父も兄も若かりし頃はこの聖騎士養成学校で級長に抜擢され、皆一様にして華々しい功績を残し、上に立つ者ー---指揮官として、卒業後は聖騎士団を統べる存在になっておりますの。
え? 聖騎士団は代々聖騎士団団長であるバルトシュタイン家が牛耳っているのではないか、ですって?
オーホッホッホッホッホッホッ!!!!!! バルトシュタインなど、戦事でしか能力を発揮できない筋力バカの集まりにすぎませんわっ!!!!!!
本当に聖騎士団を支配しているのは、兵を指揮をするわたくしたち、フランシア家なのです。
常人が考え付かぬような軍略を発揮し、兵という駒を操り、策略によって敵城を手中に落とす。
つまりは、卓上で全てを操るフランシア家こそが、四大騎士公の中において最強ということ。
脳筋のバルトシュタインよりも、宝物番しかできないオフィアーヌよりも、役立たずのレティキュラータスよりも、フランシア家こそが真の騎士、というわけなのですわ。
「・・・・・・・・・・それ、なのに・・・・・」
それなのに、いったい目の前のこれは・・・・・・何なんですの?
いったい、この光景は・・・・・無能な家の者が級長を務めることになるなんて、こんな・・・・・・いったいこれは、どういうことなんですのっ!!!!!
「えー、じゃあ、
「は、はいっ!!」
教壇に立ったやる気の無さそうな、頭に猫耳の生えた
彼女はドギマギとした様子で席を立ち、教壇に立つと、クラス全体を見回しながら深呼吸をし・・・・その後、凛とした表情で大きく口を開いた。
「先ほど先生の紹介にお預かりしたとおり、あたしはロザレナ・ウェス・レティキュラータス・・・・つまりは、あの、
「異議あり!!!! ですわっ!!!!!」
「へ?」
勢いよく席を立ち、指を突き付けるわたくしに、レティキュラータスの息女は口をポカンと開け呆けたような顔を見せた。
そしてわたくしは腕を組んでフンと口角を吊り上げると、面倒くさそうな顔をしている教師へと視線を向ける。
「フランシア家の嫡子であるわたくしを差し置いて、彼女が級長になるなど、わたくしは断じて認めはしませんわ。この学校においては、級長というものは代々高名な家の者が務めるものでしょう? ねぇ、先生?」
「いやー・・・・上の決めたことだし、そんなことを言われても仕方がないっていうかさぁ~。さっきも職員室で言ったけど、平の教員の私じゃどうにもならないっていうか・・・・だから、諦めてくれないかなぁ。ルナティエさん・・・・・」
「無理ですわ。フフッ、先生、この学校においては
「あらゆる所有物を賭けて、決闘・・・・?」
首を傾げて困惑の声を漏らすレティキュラータスの息女に、わたくしは口に手を当てホホホと笑う。
「あら? ご存知ありませんの? この学校には生徒同士が決闘して物事を決めて良い校則があることを。ー-----わたくし、ルナティエ・アルトリウス・フランシアはここにロザレナ・ウェス・レティキュラータスに、手袋を投げることを誓います。そして、
そう口にして、わたくしはテーブルに制服の付属品である白い手袋を脱ぎ捨て投げつける。
これで、わたくしからの決闘の申し込みは成立しましたわ。
この学校においてのルール、それは、観衆が五人以上、そして教師が一名以上いる場であるなら、どんな時であろうと決闘を申し込んで良いというもの。
正式な場を設けるために、決闘にはそれ相応の金銭を、申し込んだ側が学校に支払わなければならない義務がありますが・・・・その程度、級長になるためだったらはした金でしかないですわ。
これを受けるか受けないかは勿論申し込まれた側の意志によるものですけれど・・・・この場で断れば、彼女はわたくしから逃げたということになり、級長としての権威は失墜する。
そうなれば、彼女のこれからの学校生活は周囲からずっと白い眼を向けられ、4年間、お飾りの級長としての生活を余儀なくされるでしょうね・・・・・オーホッホッホッホッホッホッ!!!!!! わたくしってば策士ですわぁ!!!!!
「ええと、あたし、まだこの学校の校則とかよく分かってないんだけど・・・・つまりは、何かを賭けて貴方と決闘をする、そういうことよね?」
「そうですわ。わたくしは貴方に級長の座を賭けて戦って貰う。そうですわね・・・・わたくしが貴方に賭けるのは、後ろの席にいるわたくしの従者、ディクソン・オーランドでどうかしら? 中々使い勝手の良い男でしてよ?」
「はぁ!? 何言ってんだ!? お嬢っ!?」
「えぇぇ・・・・別に、そんな人、あたし欲しくも無いわ。あたしにはアネットがいるもの」
そう言って、レティキュラータスの息女は頬を染めると、自身の隣の席に座っていた最前列にいるメイド服の少女へと熱い視線を向ける。
そして再びこちらに視線を向けると、彼女は真剣な表情で口を開いた。
「いいわ。その決闘、受けて立ちましょう。あたしが貴方に望む勝品は・・・・この学校の入学金二人分、でどうかしら?」
その発言に、最前列に座っていたメイドの少女が慌てて立ち上がる。
「お、お嬢様っ!? な、何を言っているんですかっ!? こ、ここは断るべきですよ!! だってー---」
「アネット、黙っていなさい。これは主人であるあたしが決めたことよ。級長の座なんて未だに良くも分かっていないし、正直どうでもいいものだけれど・・・・あたしは、ここで退いてはいけない気がするの。この先、『剣聖』になるための道を進むんだったら、絶対に」
最後に言ったその単語に、思わずわたくしはお腹に手を当て大笑いしてしまった。
周囲のクラスメイトたちも同様で、皆、口元に手を当て失笑している。
「プッ! クスクス、オーホッホッホッホッホッホッ!!!!!! け、『剣聖』、ですって? 貴方、今、『剣聖』になる、なんて言ったの? あ、頭は正気ですかっ?? ぷふっ、まさか違法ドラッグでも服用してはいませんわよね??」
わたくしのその言葉に釣られ、周囲に座っていた取り巻きの小領貴族の息女たちも声を大にして笑い声を上げ始める。
「あの方、実力も分からずに分不相応な発言をする辺り、級長には相応しくありませんわね。やはりルナティエ様こそがこのクラスの級長に相応しい方!」
「そうですね、私もそう思います、アリス様。王政から爪弾きにされた格落ちのレティキュラータス家の者の癖に、栄えあるフランシア家のルナティエ様に逆らうなんて、ちょっと図が高いんじゃないんですか?」
「きっと、あまり良いものを食べていないから、あのようなお可哀そうな頭になってしまうのですよ。賭けの勝品にお金を求める辺り、レティキュラータスの財力の底が知れますわねっ!」
「本当、レティキュラータスのお里の程度が知れますわね」
わたくしの取り巻きたちを通じて、クスクスと、クラスの半数に嘲笑の波が広がっていく。
フフフ、これは良い傾向ですわ・・・・こうして人の声が広まれば広まるほど、同調圧力というものは強くなっていくもの。
皆が、わたくしの方が級長に相応しいと、そう思い込んでいく。
オホホホホ、勝負は既に始まっているんですわよ? 格落ちの貧乏令嬢さん?
まったく、わたくしってば策士ですわぁ!!!!!
「それで、どうなの? あたしの賭けの勝品、二人分の入学金を受け入れてくれるのかしら? 金髪の・・・・ドリルティエさん?」
「誰がドリルティエですか!? ルナティエです!! ルナティエ・アルトリウス・フランシア!!」
その失礼な呼び間違いに息を荒げながら、わたくしは胸に手を当て深呼吸をし、落ち着く。
そして冷静さを取り戻したわたくしは、教壇に立つレティキュラータスの息女に不敵な笑みを浮かべた。
「良いでしょう、ロザレナ・ウェス・レティキュラータス。貴方の賭けの勝品を受理します。わたくしが勝てば級長の座を、貴方が勝てば二人分の入学金をわたくしが貴方に支払う。それでよろしいですわね?」
「ええ。構わないわ。それで、決闘というのはいつやるの? 今から?」
「まさか。ただの野蛮な喧嘩じゃないのですから。学校側で日程を改めて貰って、観衆が集まる学院の正式な場で、決闘の儀ー----
「そう。じゃあ、その開催日が決まったら教えて頂戴」
「良いでしょう。わたくしの従者のディクソンから、即日でそちらに通達しに行かせます」
「・・・・・・お嬢、面倒ごとをまた作りやがって」
そう言って後ろの席から聞こえてくる従者の彼の声に、わたくしはフフンと鼻を鳴らした。
「え!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっっっっ!?!?!?
そう言うと、キッチンでお皿を拭いていたオリヴィアが、唖然としたように口をポカンとさせる。
俺はそんな彼女と一緒に食器を片しながら、眉を八の字にして口を開いた。
「はい・・・・私も、この学校に『いつでも決闘を申し込んでも良いルール』なんてものがあるのは今朝まで知りませんでしたので・・・・。今日フランシア家の方がお嬢様にいきなり決闘を申し込まれたことには、動揺を隠せませんでした・・・・・」
「そ、そうですよね~。ふ、普通、そのことは入学初日に説明される校則じゃありませんからね~・・・・。その、ルナティエさん? が、この学校についての造詣が深かったんでしょうね~・・・・」
そう言って、ほぁ~~~っと、数秒驚いた顔をしていると、オリヴィアは急に不安そうな顔を浮かべ始めた。
「あの・・・・ロザレナちゃん、大丈夫なのでしょうか? 彼女は剣の腕にはそれなりの自信がある方なのですか?」
「いえ・・・・正直言って、素人レベルです。一部の型の素振りしかまともにできません」
「え゛っ」
オリヴィアは驚愕の顔をして目をパチクリとさせると、突如血相を変え深刻そうな表情を浮かべた後、がばっと俺の肩を勢いよく掴む。
「い、今すぐ学校にお願いしてその決闘、取り下げに行きましょう、アネットちゃん!! このままじゃ、大変なことになりますっ!!!!!」
「大変なこと? それはどういう・・・・・」
「
「い、いじめ!? それも、学校を上げてって・・・・ど、どういうことなんですか!?」
そう俺が問いかけると、オリヴィアは苦い表情を浮かべ、下唇を噛む。
「今日の入学式で・・・・・あの人・・・・学園長の言葉を聞きましたよね? この社会は弱肉強食の摂理だとか何とかって・・・・・」
そう言って一呼吸挟むと、オリヴィアは俺の肩から手を離し、悲しそうに眼を細めた。
「この学校は、あの学園長の方針で、強者しか認められていないんです。ですから・・・・一度弱者の烙印を押された者は、学校が公認で『嬲って良い』ということになってるんです。
俺は彼女のその言葉に、唖然として口を開くしかなかった。
読んでくださって、ありがとうございます!!
続きは今日の夜か明日には投稿すると思うので、また見てくれたら嬉しいです!!
三日月猫でした!!
では、また!