第20話 元剣聖のメイドのおっさん、人生初めての修羅場を経験する。
ロザレナは、唖然として固まる俺を無視すると、厨房にあった小さな椅子を引っ張り出す。
そして、その椅子を俺とコルルシュカの前に置き、腕を組んでドカッと座ると、額に青筋を立てながら微笑んだ。
「で? いったいこれは、どういう状況なのかしら??」
コルルシュカからパッと離れ、俺はすぐさま真っすぐと直立不動する。
そしてゴクリと生唾を飲み込んだ後、恐る恐ると彼女へ声を掛けてみた。
「・・・・・・・・・・・あの、お嬢様・・・・・・」
「何かしら? アネット
ジロリと横眼で睨まれ、何故かさん付けで名前を呼ばれてしまう俺。
その態度を見るに、明らかに先ほどのコルルシュカとのやり取りに不満があったのは間違いなさそうだ。
せっかくこれから『ロザレナ様おかえりなさい会』を開こうと思っていたのに・・・・まさか、お祝いする当の本人を怒らせてしまうことになろうとはな・・・・・。
どうしたものかと頭を捻らせていると、その後の沈黙した空気に耐え切れなかったのか・・・・ロザレナは唇を尖らせながら、ギロリと、俺の隣に立つコルルシュカへと鋭い視線を向けた。
「それで? その子はいったい何なわけ?」
その言葉と視線に応え、コルルシュカはいつもと変わらない眠たそうな表情をしたまま、スカートの端を掴み、足を曲げ、優雅にお嬢様へ向けてカーテシーの礼を取る。
「お初にお目にかかりますぅ、ロザレナお嬢様。私はつい先週、この御屋敷のメイドになったばかりのぉ、コルルシュカ・ルテナーという者ですぅ。まだまだ若輩の身ですがぁ、誠心誠意ご奉仕させていただきますのでぇ、どうかこれからよろしくお願いしまぁす」
そう言ってお辞儀をし、頭を上げると、ゆるふわカールのツインテールを揺らしながらコルルシュカは口元に微笑を浮かべた。
そんな彼女に対してロザレナは勢いよく席を立つと、指を突き指し、大きな声を上げ始める。
「貴方がうちの新しいメイドだってことは、その給仕服を見れば誰だって分かるわよ!!!! あたしが聞いているのは、そんなことじゃないの!!!!」
「え、えっとぉ、じゃあお嬢様はぁ、コルルに何を聞きたいというのですかぁ??」
「それは・・・・・・その・・・・・・な、何で貴方がアネットとあんなに距離が近かったのか・・・・そういうことを聞きたかったのよっっ!!!!!」
「距離・・・・? あぁ、もしかして壁ドンのことですかぁ?」
「壁、ドン・・・・?」
「手をこう、ぐっと壁に付いて、逃げられないようにしてぇ・・・・腕で覆われるようにして顔を接近させるんですよぉ。主に攻めが受けにする行為ですぅ」
「そ、そう、それよ!! あ、あたしだってアネットにあんなことをされたことがないって言うのに・・・何でポッと出の貴方があんな羨ましいこと・・・・じゃなかった、何で貴方はあんなにアネットに距離を詰められていたというのよ!? 理由を教えなさい!!」
「それはですねぇ、もう、聞いてくださいよぉうお嬢様ぁ~~。アネットせんぱぁいったらぁ、私のこと、暗殺者じゃないかと疑ってるんですよぉ~~。酷くないですかぁ~~??」
「えっ、暗殺者? それはいったいどういうことなの?」
首を傾げながら、チラリと俺へと視線を向けてくるロザレナ。
俺はそんな彼女にコクリと頷くと、何があったかを伝えるべく、口を開いた。
「コルルシュカちゃんには申し訳ないことですが・・・・私は、彼女をまだ心から信用することができていないのです。昔からよく、貴族の家には敵方の家の者が使用人に扮した間者を忍ばせるといった話を聞いたことがあります。ですから・・・・丁度お嬢様が帰る時期を見計らったのかように現れたコルルシュカちゃんを、どうしても警戒せずにはいられなかったのです」
「だからさっき、アネットは彼女を壁際に追い詰めていたの??」
「はい・・・・厨房は私の管轄でしたからね。ですから急に調理中に現れた彼女に対して、少々、過剰な反応をしてしまっていたのかもしれません。料理に毒でも混ぜられたら、それこそ一巻の終わりですから」
「せんぱぁい、だから私そんなことしませんってぇ。厨房に来たのはぁ、せんぱぁいの料理の技術を直に見て盗みたかったからでぇ、他意は無かったんですよぉう」
「・・・・・ごめんね、コルルシュカちゃん。もう少し時間を掛ければ、きっと私の中の疑念も払拭されると思うから」
「むむぅ。何にもしてないのに勝手に疑われるのは癪だけどぉ・・・・でもまぁ、いっかぁ。私ぃどちらかと言うとМなんでぇ、せんぱぁいに壁ドンされるのもやぶさかじゃないっていうかぁ。むしろ結構乱暴な言葉で詰められるの好きっていうかぁ」
そう口にすると、両手で頬を押さえながら恍惚とした表情を見せて、何故かクネクネとし始めるコルルシュカ。
そんな彼女に、俺とロザレナは同時に引き攣った笑みを浮かべてしまう。
「な、何か、変わったメイドね、この子」
「そ、そうですね・・・・私も、まだ彼女の性格を掴み切れてはいないのですが・・・・・想像したよりも、不思議な子なのかもしれません、コルルシュカちゃんは」
そう呆れたように呟くと、お嬢様は俺の隣に立ち、視線を向けて来た。
その、何処か熱のこもった視線に、俺は思わず首を傾げてしまう。
「どうかしましたか? お嬢様?」
「・・・・・・・・・その、あの・・・・・アネット、この五年でとっても綺麗になったわね。何というか、女性らしくなったというか・・・・・」
「あ、あはははは・・・・そ、そうですかね・・・・・」
その言葉は・・・・正直、心から喜ぶことはできないな・・・・。
普通、綺麗になった、女らしくなったと言われたら、俺と同じ年代の少女は喜ぶべきところなのだろうが・・・・元おっさんとしては非常にキツイところだ。
生前の俺は・・・・あの筋肉髭ダルマだっただけに、可愛いなんて言われただけで怖気が立ってしまう。
「わ、私なんかより、お嬢様の方がお綺麗になられていますよ。スラッと背が高く伸びて、ウェーブがかった青紫の長い髪は相変わらずツヤがあって美しくて・・・・それに、昔は愛らしかったお顔が、いつの間にかキリッとしたお顔立ちになられていて、とても素敵です。フフッ、その修道服も本当に似合っておいでですよ?」
「この服、身体全身に布がぴったりくっ付いて動き辛いのよ・・・・早く他の服に着替えたいわ」
そう口にすると、ロザレナは目を細めていたずらっぽい笑みを浮かべ、自身の身長と俺の身長を手を使って交互に計かり始めた。
「昔は、アネットの方が少しだけ背が大きかったけれど・・・・今はもう、あたしの方が全然大きいわね!」
「フフッ、そうですね。こうして並ぶと一目瞭然ですね。もう顔を上げて見上げなければ、お嬢様のお顔を拝見できなくなってしまいました」
「ふふん! 完璧超人のアネットにも、勝てる部分がひとつくらいあって安心したわ!! ・・・・・・・って、あ、れ?」
ふいに、ロザレナの視線が俺の胸部へと注がれる。
その顔は、さっきまでの自信に満ちた様子とは変わり、何故か驚愕と絶望の色に染まっていた。
「あ、あの、お嬢様・・・・?」
「・・・・・ね、ねぇ、アネット、貴方、そ、その胸の大きさは・・・・いったいどういう訳?」
「へ!? む、胸ですかっ!? いや、あの、その、自分でも良く分からない内に無駄に大きくなってしまって・・・・何と言って良いのか、その・・・・・」
「あ、あたしとは、ぜ、全然、大きさが違うじゃない・・・・・あたしの胸が丘だとしたら、貴方のそれはもう山よ・・・・同じ歳なのに何なのよ、この格差はぁっ・・・・!!」
そう言って自身の小ぶりな胸と俺の胸へ交互に視線を向け、呆けたように口を開けるロザレナ。
俺はそんな彼女に何て言ったら良いのか分からず、困惑しながらも、何とか話題転換を試みることにした。
「お、お嬢様、食堂に行きましょう!! もうすぐお父様とお母様が戻られる頃合いですから、早めに待機しておきましょう!! ね!!」
「胸が・・・・おっきい胸が・・・・・山・・・・アネット山・・・・」
「お、お父様とお母様が、お嬢様に会わせたがっている方がいるのですよっ!! で、ですから、胸のことは一旦お忘れになってください・・・・!!」
その言葉にアネットは俯いていた顔を上げ、ハッとした表情を浮かべる。
「そうだわ。さっき、お父様もあたしに紹介したい人がいるとか何とか言っていたの。その口ぶりからして、アネットも知っているのよね?? それって、いったい誰なの??」
「それは・・・・・それが誰なのかは、ご自分の目で確認された方がよろしいですよ、お嬢様」
そう口にして俺がフフッと笑うと、ロザレナは唇をへの字にさせて、首を傾げたのだった。
「ほら、ルイくん、ロザレナお姉ちゃんにご挨拶なさい」
「・・・・・へ?」
食堂に入ってきた、エルジオ伯爵とルナレナ夫人。
そんな夫妻の間に立つ小さなその影に、ロザレナは目を見開き、呆然と立ち尽くしていた。
俺はそんな彼女の肩を叩き、耳元に優しく声を掛ける。
「あの御方はルイス・ゼス・レティキュラータス様です。四年前に産まれた、お嬢様の弟君ですよ」
「お、弟・・・・? あ、あたしの・・・・?」
ロザレナは恐る恐るといった様子で、その小さな子供に近付いていく。
その様子に少年・・・・・ルイスはというと、ロザレナと同じアーモンド型の猫のような瞳で、近付いて来る姉の姿をただ静かに無表情で見つめていた。
「な、なんで、弟が産まれたって・・・・教えてくれなかったの!? お父様、お母様!!」
「フフ、何でって、弟が産まれたなんてこと聞いたら貴方、修道院からすぐ帰ってきちゃうでしょ??」
「そ、それは・・・・・」
「ごめんね、ロザレナ。僕たちは君の信仰魔法習得の邪魔をしたくはなかったんだ。だから、手紙にもこのことは書かずに黙っていた。今まで秘密にしてたこと・・・・許してくれるかな??」
「お父様、お母様・・・・・・」
ロザレナは両親へと視線を向け、ぽかんとしたまま曖昧に頷く。
そして再び少年へと顔を向けると、彼女は弟の頭を撫でようと、震える腕を伸ばした。
だがー----。
「あっ!」
頭に手が触れる寸前、ルイス少年はロザレナの手をするりと避けると、そのまま俺の元へと走ってきてしまった。
そうして彼は俺の足に身を隠すようにして捕まると、猫のように背中を丸め、ロザレナに対して警戒の唸り声を上げる。
その光景に、丁度その時食堂にやってきたギュスターヴ老が、可笑しそうに笑い声を上げた。
「ハッハッハッ、まるで5年前のワシだのう。今のルイスはあの時、ワシから逃げたロザレナちゃんのようだな」
「お爺様!?」
そんな彼の言葉に、遅れてやってきたメリディオナリス夫人も口元に手を当てフフッと小さく笑い声を溢す。
「似た者姉弟という奴ですね。どっちも人見知りで、どっちもアネットちゃんが大好きなところが、本当にそっくり」
「お婆様も!! って、・・・・え? この子、アネットには懐いているの??」
ロザレナの疑問の声に、ルナレナ夫人は笑みを浮かべながらうんうんと頷く。
「そうよ~? この子ったら、アネットちゃんを将来お嫁さんにするって言って聞かないだから。おませさんなのよ? 笑っちゃうでしょ??」
「は? ・・・・・・・・はぁっ!?!?」
「はははっ、そうだなぁ。父親としても、しっかり者のアネットくんがもしルイスの奥さんになってくれるのなら、大賛成ではあるかな」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?!?!?」
大きな叫び声を上げた後、ロザレナは俺の背後に隠れるルイスへと、子供に向けるものとは思えない鋭い怒りの目を向ける。
だが、その視線に負けじと、ルイスもロザレナへと懸命に鋭い目を向けた。
二人の間に、バチバチといった電撃が幻視できるような・・・・剣呑な空気が辺りに立ち込める。
そんな殺伐とした雰囲気の中、メリディオナリス夫人は頬に手を当て、にこりと微笑んだ。
「あらあら、お互いに予期してなかったライバルの登場といったところかしらね??」
その台詞に、俺はもう何と答えて良いか分からず・・・・ロザレナとルイスの姉弟に挟まれながら、ただただ顔を引き
「はぁー--っ、アネットの料理、本当に美味しかったわぁ!!」
午後10時半。
夕食という名の歓迎会を終えたロザレナは、俺と二人で話をしたいからと、中庭へと出てきていた。
早春といえども、まだ外は何処か肌寒い。
俺は、一度部屋に戻って用意して持ってきていた毛布を、ロザレナの肩へとそっと掛けた。
「え? あ、ありがとう・・・・・」
「いえいえ。私はお嬢様の家来ですから」
「家来って・・・・もう、いったいいつのことを言っているのよ」
そう言って呆れたように笑うと、ロザレナは切り株に腰かける。
そして、少しスペースを開けると、ポンポンと空いた箇所を手で叩いた。
「ほら、ここに座りなさい」
「い、いえ、私は立っていても別に問題は・・・・」
「いいから。ここから一緒に満月を見るの。来なさい」
「は、はい・・・・では、失礼致します・・・・・・・」
ロザレナの隣にそっと腰かける。
すると彼女は毛布の半分を、俺の肩へと掛けてきた。
「お、お嬢様!?」
「こ、こうすれば一緒に温めるでしょ? 一石二鳥でしょ?」
そう口にし、頬を真っ赤に染めるロザレナ。
俺はそんな彼女にクスリと笑うと、そのまま夜空に浮かぶ丸い満月へと視線を向けた。
「そんなに恥ずかしがるのなら、無理をしなくてもよろしいのに」
「は、恥ずかしがってなんかいないわよ!! 勘違いしないでくれるっ!?」
「はいはい、そういうことにしておいてあげます」
「むぅ~~~~!!!!! 生意気なメイド~~~!!!!!」
そう言って頬を膨らませながらも、ロザレナも一緒に満点の夜空を見上げ始める。
5年ぶりだというのに、お互いに大きく姿も変わったというのに。
それなのに、俺たちはあの時と何も変わらず、和気藹々と会話を弾ませている。
まるで、五年の空白が無かったかのように。
まるで、これが日常だったかのように、二人の間には和やかな空気が流れていた。
「・・・・・アネット。あたし、修道院でちゃんと信仰系魔法を習得してきたわ」
突如、真剣な表情を浮かべると、ロザレナは月を見上げたままそう静かに呟いた。
その瞬間、今までの和やかな雰囲気が無くなり、辺りには静謐な気配が立ち込める。
「あたしは・・・・・あたしは、五年前と何も変わっていない。今でも、貴方と共に騎士養成学校に入学したいと思ってる。そして・・・・・そしていつの日か必ず『剣聖』の称号を手に入れたいと思っている。あたしの野望はあの頃と何も変わってはいないわ」
「そうですか・・・・」
「ねぇ、アネット。改めて聞きたいのだけれど・・・・・貴方も、あの頃と答えは変わっていないの??」
「・・・・・・・・・・・・・」
「あの頃、聞かせてもらった答えと変わらずに、今でもメイドをやりたいと言うのなら・・・・止めはしないわ。あたしは貴方の意志を尊重する」
俺の意志を尊重する、か。
まったく、身なりだけでなく内面も見違えたな、ロザレナは。
昔は、自分の思い通りにならないことがあったら、絶対に意見を曲げない子供だったのに・・・・何と言うか凄く、大人になった。
もし、あのまま俺が傍にいて、彼女と共に修道院に行けた未来があったとしても・・・・この成長は見られなかったことだろう。
自分ひとりで物事を考え、自分ひとりで新しい環境で生活を送る。
まったく誰も知らない人間だらけの中で適応し、自分以外の周りの人間と打ち解け合うことができたからこそ、彼女はここまでの精神的成長を得ることができたんだ。
他人の目線で物事を考えられるようになったのは、きっと、良い人たちに出逢えたおかげなのだろうな。
人は他者との関わりを持って、己の価値観を変えていくものだから。
「ねぇ、答え、聞かせてくれない? アネット・・・・」
俺の沈黙に我慢できなかったのか、こちらに顔を向けてくるロザレナ。
月明かりに照らされたその顔は、悲痛そうに歪んでいた。
「お嬢様は、どうして、そんなに悲しそうなお顔をなさっているのですか??」
「・・・・・・・・・あたしは、あたしは分かってるもの。アネットが、未だに剣を握りたくないってことが。貴方が・・・・・あたしとは違う道を行きたがっていることが」
「・・・・・・・・・・」
「で、でも、良いの。あたし、アネットに寄り添ってばかりいたらダメになっちゃうだろうからね。だから、昔みたいな失敗はもうしないわ。貴方がたとえこの家のメイドとして生きる道を選んだとしても、ちゃんとひとりで、あたしはあたしの道を行ー-----」
「遍く光の渦よ、聖なる加護で汝の眷属が征く道を明るく照らしたまえーーーー【ホーリーライト】」
「えー-----?」
詠唱を唱えた瞬間、俺の掌の上にポゥッと、小さな光の球が浮かび上がる。
これは、低五級の信仰系魔法である、【ホーリーライト】。
その効果は、半径2メートル程を明るく照らすことができるだけの、攻撃能力も治癒能力もないただの生活雑貨魔法。
一般人でも誰でも使えるような低位のこの魔法を目にして、驚く人間など殆どいないだろう。
だが・・・・ロザレナにとってそれは、違った。
「信仰系魔法・・・・? ど、どうして・・・・?」
目をまん丸にして、驚愕の表情を浮かべながら、彼女はその光の球を見つめ続けている。
俺は掌の上に浮かんでいる光の球を、握りつぶすようにして消し去り、魔法の発動を止める。
そしてロザレナの方へ顔を向けると、小さく笑みを浮かべた。
「レティキュラータス領の村にいた元修道女の方に、直接出向いて度々教えてもらっていたんです。ただ・・・・どうやら私はその体質上、信仰系魔法との相性が悪いみたいでして・・・・五年かけても、この魔法ひとつしか覚えることができませんでした」
「ち、違うの、そういうことじゃなくて・・・・!!」
そう口にして一呼吸挟むと、ロザレナは恐る恐るといった様子で再び口を開く。
「なんで? なんで、貴方がその魔法を?? だ、だって騎士養成学校に入学したくないのなら・・・・信仰系魔法を覚える必要なんて無いのに・・・・」
「・・・・・ギュスターヴ様とメリディオナリス様に入学金を用意してもらったのに、私が行きたくないからと言って、信仰系魔法を習得する努力を怠るわけにはいきませんよ。それに・・・・お嬢様が5年約束を守ってくださったのに、メイドである私が主人の約束を破っては顔が立ちませんでしょう? ね?」
「そ、それじゃあ・・・・・」
「はい。非常に不本意ではあるのですが・・・・お嬢様の側仕えとして、私は、この春からロザレナ様と共に騎士養成学校へ入学します」
「ア、アネット~~~~~~~っっっっ!!!!!」
「う、うわ!? ちょ、ちょ!? お嬢様!?」
もの凄い勢いで抱き着かれ、俺はそのまま切り株の上から後方の草むらへと倒れ伏していく。
満面の笑みで俺を抱きしめる彼女の横顔を盗み見た後、俺は呆れたように笑みを浮かべながら、夜空に浮かぶ満月へと静かに視線を向けた。
春の新緑を明るく照らす、まん丸とした青白い月。
その神々しい月は、まるでこれからの俺たちの門出を祝うかのように・・・・優しく、穏やかな光を放っていた。
ブクマ、評価、いいね、してくださる優しい方々、本当にありがとうございます!!
本当に、皆様のその優しい行動が、この作品を書き続けられているモチベーション、エネルギーになっております!!
ここまで、読んでくださり、本当に本当にありがとうございました。
また続きを投稿した際には、目を通してくださると嬉しいです。
皆様、今週もお疲れ様でした。
ゆっくりと休日をお過ごしください。
では、三日月猫でした!