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85話 帰り道

美樹ちゃんが僕らのパーティーを抜けた後、僕らは10層のボス部屋の出口の扉を通って、次の部屋に進んだ。

するとそこには次の層に向かう階段のほかに帰還専用のポータルと言うものがあった。

エミリア王女曰く、帰りはこれでダンジョン入り口まで転移することが出来るようだ。

しかし、その逆にダンジョンの入り口から10層に転移することは出来ないらしい。

そのポータルを使って、ダンジョンの入り口に転移すると直ぐに馬車に乗り込み宿に帰る。


あぁ~悔しい。

なんであの戦いで負けてしまったのか……後悔が僕を襲う。

しかし、そこでふと気が付いた。

悔しい?それは確かにそうかもしれない。

あそこまで全力でやって、実際に勝ち手前までは行ったのに、自分の油断で負けたような物だったからな。

全力…………。なんで僕はあそこまで頑張ったんだ?

確かに美樹ちゃんは勇義を嫌がってた。

だから僕は普段から勇義を美樹ちゃんから遠ざけるようにしていた。それは分かる。

だが、何も勇義と一緒に居たからって死ぬわけじゃない。

何度も言っているが、勇義自身は悪い奴ではない。思い込みは激しいが基本的に勇義から見て善人の人が嫌がるような事をしようとはしない。

美樹ちゃんの事を好きで相思相愛と思い込んではいるようだが、美樹ちゃんが本気で拒否すれば、無理矢理何かをするということはないだろう。

そして、勇義は職業勇者でクラスで一番強いから、戦闘でも安心だ。精神面に問題があるが美樹ちゃんがフォローするなら、ある程度は問題ないだろう。


つまり、美樹ちゃんの命に危険があるわけではなく、美樹ちゃんが少し嫌な思いをするだけなんだ。

なのに僕はあんなに全力で戦って、火の玉を浴びて大火傷して気絶、挙げ句には勇義にみっともなくすがりついて懇願した。

基本的に嫌な事がキライな僕が何故、凄く嫌で辛い思いをしたのに頑張れたんだ?

もしかして…………、美樹ちゃんではなく僕自身の気持ちなのか?


あぁ~…………なるほど。そうゆうことか。

つまり、僕は美樹ちゃんの事を本当に好きだったんだろう。

たしかに、前から異性としては意識はしていた。

だが、あくまで僕に女友達が居なくて抗体がないだけだったり、必要以上に美樹ちゃんが思わせ振りな事をしてくるから、ついトギマギしてしまっているだけだと思ってた。

だから、これは恋心何かではなく、ただの勘違いだと、そう自分に言い聞かせていたのかもしれない。

だが、今回のことで分かった。美樹ちゃんが嫌な思いをしているのが嫌で、勇義に美樹ちゃんを取られたのが悔しい。

これは僕が美樹ちゃんに恋心をいだいている証拠だろう。


しかし、今さら美樹ちゃんに恋しているという気持ちを理解して余計に後悔が生まれる。

僕は、自分の好きな人すら守れないのか…………。

思い悩んでいるうちに宿舎に到着した。

今から8,9層辺りで手に入れた魔物肉を使った料理を作ってもらうみたいで皆は盛り上がっているが、そんな気分ではない。

すると、目の前にいる沙耶さんが声を掛けてきた。


「気を取り直してご飯でも食べようよ。」


沙耶さんは僕の分のご飯も持ってきてくれたみたいだ。


「あぁ~、ありがとう。」


「勇義君が結局は勝ったけど、どっちが勝ってもおかしくない試合だったよ?そう落ち込まないでよ。」


沙耶さんは励ましてくれるようだが、それすらも今の僕には辛いだけに感じる。


「ごめん沙耶さん。ちょっと一人で色々心の整理をしたいんだ。僕は部屋に帰るよ。」


そう言ってご飯を手に持ち自室に戻る。

扉を開けるとそこには見知ったメイドさんがいた。


「お帰りなさいませ。美月様。」


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