追放屋
追放物が流行りとの事なので思いついたのを書いてみました。暇つぶしにどうぞ。
「ローガン・アマト、君にはこのパーティを出て行ってもらう。」
いつもの様にパーティでクエストを終わらせて拠点で有る『バーミリオン』の街に帰還した夜、俺ローガン・アマトはパーティリーダーである『勇者』シンドリア・ゴットハルトに突然そんなことを宣言された。
「待ってくれ!一体どう言うことだ!?」
「どうもこうもあるか。お前はいつも俺たちが必死で魔物と戦闘する中自分は俺たちに支援魔法をかけたらさっさと魔法で隠れてそれ以降は一切手助けせず、そのくせ報酬は俺たちと同額を貰っている。これは余りにも不公平だ。それにお前の防御魔法が弱かった所為でリーエが今日オークの一撃を食らって負傷してしまった。」
リーエとは本名リーリエ・アラバスタという。このパーティ唯一の回復職の『聖女』であり、シンドリアハーレムの一人である。他にもこのパーティには『大魔女』のローナ・アセンブリや『姫騎士』サクラ・オリビエなど多くのメンバーがいるが、その中で男なのはローガンとシンドリアだけである。
「まてよ!リーリエがオークの攻撃で怪我をしたのは事実だ。だが、それは直前にサクラが逃した魔法がリーリエの近くで爆発してリーリエにかけた防御魔法が弱まったからだろ?それに戦闘中隠れるのは俺が戦闘能力が低いからだし、隠れながらもアイテムや魔法のかけ直しをしてるじゃないか!」
「なんだと!サクラが悪いっていうのか!?ならなんであの時お前はリーリエに防御魔法をかけ直さなかった?時間に余裕はあっただろう!」
「あれはローナが乱戦状態で詠唱無効魔法を唱えた所為で魔法が使えなくなったからだろうが!!!」
「なによ!私が悪いっていうの?責任転嫁なんて最低!」
「全くその通りですね。貴方の防御魔法が弱く無ければ私も傷を負わずに済んだというのに。」
「ふん。これだから男は嫌いなのだ。…あっシンドリア、お前だけは別だぞ!お前は他の男とは比べるまでもなく素晴らしい男だ。他の男と一緒にして良いものではない。」
「いやどう考えてもお前らが悪いだろ!」
「まだ言い訳する気?シンドリアさっさとこんなやつ追い出しましょ!」
「賛成です。」
「ふんっ。これだから男は、見苦しい真似はせずさっさと出て行け。」
「というわけでローガン。君には自主的にこのパーティを出て行ってもらう。当然パーティの財産で買った武器やアイテムは全て置いて行け。勇者パーティが仲間を追放したとあっては僕の評価が下がり兼ねない。だから君には自分の意思で出て行ってもらう。
…ああ、ギルドにはそういう風になるよう頼んであるから何を言っても無駄だからね?」
「ふざけるな…ふざけるなぁ!!!」
「煩いわね《麻痺》。」
「あっ…がっ…!」
「サクラ、リーエ今の内にこいつの装備とっちゃって。」
「ローナさんローガンに触りたくないからわざと維持の大変な魔法を使いましたね?私だって触りたくないのに。」
「ふんっ。私もこの様な汚らわしいものに触れたくなどないが仕方ない。シンドリアにやらせるわけにもいかぬし仕方あるまい。おい、リーエ気持ち悪いのは承知の上だがやるぞ。」
「ううっ…主よこの様な汚らわしいものに触れることをお許しください。」
〜10分後〜
「ふう終わったな。」
「浄化、浄化、浄化!」
「すまんがリーエ、私にも頼む。」
「わかりました。浄化!」
「さて、ローナもう魔法をといていいよ。」
「わかったわシン♪《解除》」
「うっげほっげほっ。」
「さあ、ローガン。さっさとギルドで脱退届けを出して来い。」
「くそっ…」
そしてローガンはギルドに脱退届けを出して勇者パーティを脱退した。
〜1週間後・隣街『イノセント』〜
バーミリオン程ではないが栄えた街の中でも特に栄えているいわゆる『貴族街』の中にある豪邸の一つ、この街の領主が住まうイノセント伯爵の家で二人の人物が密会を行なっていた。一人はこの街の現当主ロナウド・イノセント。もう一人は1週間前に勇者パーティを追放された支援魔術師ローガン・アマト。
「首尾はどうかね支援魔術師ローガン・アマトいや、大賢者エーテル・フタレイン。若しくは『追放屋』と呼ぶべきかのう。」
「ああ、依頼通り『勇者』シンドリアのパーティを『追放』されてきた。勿論依頼通りの仕込みはしてある。あと一月もすれば結果が出るだろう。報酬はその時でいい。」
「いやいや、
奴隷から大賢者に成り上がった程の者は疑わんよ。ほれ、報酬の金貨500枚じゃ。これで、これでリーシャの無念も浮かばれるじゃろう!」
「お孫さんの件は気の毒だったな。」
「ああ、それもこれもあの憎っくき『勇者』が寝込みのリーシャを襲いヤるだけヤって放り捨てたせいじゃ。そのせいでリーシャは婚約が破談となり、失意の内に自殺しおった。」
因みに勇者はこれと似た様な事を何度も繰り返しているが『勇者』の権力で揉み消してきた。他のパーティメンバーも「『勇者』様の子供を産めるなら幸せでしょう。」と言い、むしろ隠蔽に協力するしまつである。
「そして儂は『勇者』に復讐する事を決めた。
だが儂の力では国王にすら繋がりのある『勇者』には手も足も出なかった。」
「だからこそ俺に頼んだ。」
「そうじゃ。裏の世界のつてを使いお主を雇い、その高レベルの支援魔法を用いて徐々に本人達すら気づかぬ内にその魔法に依存させる。」
「そしてその高レベルの支援魔法が当たり前となって高難易度の依頼を日常的に受ける様になったタイミングで俺がミスを犯しパーティから追放される。勿論『勇者』は代わりの支援魔術師を雇うだろうが大賢者の支援魔法に匹敵する奴は早々いない。だが奴等は俺が大賢者である事を知らないから普通の支援魔術師で満足してしまう。」
「大方今は美人の支援魔術師を仲間にして調子に乗っておる頃じゃろう。」
「そして今までよりかなりレベルの低い支援魔法を受けた状態で高難易度の依頼を受けたらどうなるか。」
「破滅じゃ!勇者パーティは多大なる損害を負い、追わずとも似た様な事を繰り返しギルドや国からの信頼を失う。そして勇者は聖剣を持つ資格のあるものであれば誰でもなれる。他の勇者候補も聖剣を持たずとも各地の魔物を狩っているじゃろう。」
「大きな損害を齎した現勇者と特にこれといった問題の無い勇者候補。どちらが選ばれるかは必然だな。」
これこそがロナウドの考えた計画。勇者を確実に破滅に追い込むために彼は老後の為に溜めておいた財産の殆どを今回の計画に費やしている。
「素晴らしい!大賢者エーテル・フタレインよ、勇者シンドリア・ゴットハルトの社会的抹殺が終了した暁には祝いに追加でお主に金貨300枚を支払う事を約束しよう。」
「その時は有難く受け取ろう。もし失敗したらまた顔と名前を変えて近づけば良いだけだからな。」
「うむ。そろそろ夜だ。夕食を食べて行かぬかね?」
「すまないが俺にも帰るべき家とと守るべき家族があるのでお暇させていただく。」
「そうかそうか、うむ。家族は大切にせねばならぬ。引き留めて悪かったのう。では『追放屋』さらばじゃ。」
「ああ、あんたが依頼者としては二度と合わない事を願っているよ。」
〜1週間後〜
ローガンを追放したシンドリア御一行は新しい支援魔術師のローザ・クラウンを仲間に迎え入れ、意気揚々といつもの様に高難易度の依頼である。ワイバーンの群れの討伐に挑んでいた。
「ローザ!武器強化魔法と防御魔法を全員に!」
「はい!武器強化、反応防御!」
「よしみんないくぞ!」
「ええ」
「はい」
「おう!」
「はい!」
そしてワイバーンの群れとの戦闘が始まった。
「喰らえ!『聖光斬』!」
ザッ!
「ん?おかしいな、何時もなら抵抗なくすんなり斬れるのに。」
思えばこの時の違和感をもっと気にしていればあんな事にはならなかったんだろう。
〜戦闘開始から20分が経過〜
おかしい、明らかにおかしい。何時もならとっくに終わっているはずなのに今日はまだ半分も倒せていない。
「きゃあっ!?」
「ローナ!」
振り返るとローナがワイバーンの攻撃を受けて血を流していた。
「痛い、痛いよぉ。」
「今治します治癒!」
どうやらすぐに治る程度の怪我だった様だ。
「ふう」
「っ!シン!後ろ!!!」
「っ!ぐぁっ!」
「シン!」
戦闘中に余所見をしていたせいでワイバーンの一撃を貰ってしまった。
「くそっ!撤退だ!撤退する!」
「サクラ!」
「シンが負傷した状態では戦線を保てない。リーエも先程から治癒を何発も使って魔力が底をつきかけている。それにシンのこの傷を治すには時間がかかり過ぎる。撤退だ。」
「…わかったわ。リーエ、ローザ撤退するわよ!ローザと私でシンを背負っていくわよ!」
「わかりました。」
「はい…」
こうして勇者パーティは結成以来始めての任務失敗となった。
だがこれはほんの始まりに過ぎない。彼らはこの後四度の任務失敗となり、三度目の任務中に新しく入った支援魔術師のローザは戦闘力の低さ故に大きな怪我を負い、回復が間に合わず死亡。
臨時のメンバーを入れた四度目の任務では『大魔女』ローナが左腕を失い、『姫騎士』サクラがリーリエを魔物の一撃から庇い、死亡した。『聖女』リーリエはそのショックで心を病み、『聖女』の任を別の者に託しその後は神殿の奥深くに引きこもった。
新しく臨時で入った支援魔術師も戦闘の途中で逃亡してしまい、行方は不明。
〜1月後〜
『勇者』シンドリア・ゴットハルトが度重なる任務失敗及びパーティメンバーのサクラ第一王女の死亡により、聖剣を剥奪されるという大ニュースが国中を駆け巡った。
翌日。『イノセント』の近くにある街を一望出来る丘の上にある墓場の一つに花束が二つ捧げられていた。
一つは『イノセント』特産の白く輝く花が、もう一つは採取の際に特殊な魔法をかけねばすぐに枯れてしまう虹色に輝く花が。
墓には『リーシャ・イノセント』と刻まれていた。