第97話 パクチー(コリアンダー)って好みが分かれますよね?
ゴブリンやちょこちょこいるスライムを狩りながら、昼食の事を考え始めた。
「そろそろ昼食にしようか?」
周囲に獲物がいるなら、肉を加えて、いなければ保存食と簡単なスープで良いかと考えた。
リズが早速、猟師モードになって獲物を探しに行った。
後の皆は食材探しとなる。
私は、若干開けた場所でチャットと薪を集めて火を起こしながら火魔術に関して確認していた。
「火魔術のパラメータいうたら、規模と速度ですぅ」
チャットの話を聞いて、規模?と首を傾げてしまった。
「炎の大きさが大きゅうなりますぅ」
んー。あれか?神様側は大きなファイヤーボールとか速度を下げてファイヤーウォールをイメージさせたいのか?
「構文はどうなるの?」
「属性火。炎の大きさと形状。出現場所。速度。ですぅ」
試してみるか。周辺から適当な木を目標に撃ってみる。
右手を目標の木に向ける。
「属性火。形状は直径8cmの球状。右手上部20cmに固定。前方に向かい射出、速度は時速50km。実行」
野球ボール位の大きさの炎がキャッチボールより速いくらいのスピードで飛んで行き、木に当たった瞬間弾けた。
跡を見に行ってみると、当たった場所の表面に変化は無かった。
これ、攻撃用途で使えるのか?炎の色も真っ赤だった。うーむ。イメージが足りない気がする。
今度は温度と白っぽい色の炎を明確にイメージする。あまり高温をイメージすると一気に過剰帰還が来そうな気がするから慎重に上げて行こう。
同じような距離の木に再度腕を向ける。
「属性火。形状は直径8cmの球状。右手上部20cmに固定。前方に向かい射出、速度は時速50km。実行」
先程と同じように火球が飛んで行き、木に当たり弾ける。跡を見ると若干色が変わったかどうかだった。
うーん、温度の問題かぁ?他の人のイメージを知りたいな……。
そんな事を呑気に考えていると、いきなり過剰帰還の感覚を感じて頭痛と吐き気が来た。
気持ち悪さに、真っ青になりながら、吐き気を堪える。温度上げ過ぎたのか?でも、これ位上げないと、攻撃に使えないぞ?
そんな事を考えながら、じっと耐える。
「大丈夫ですかぁ?過剰帰還が返って来てはるみたいですけどぉ」
チャットが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「大丈夫。初めて火魔術試したから。ちなみに、皆どんなイメージで火魔術を使っているのかな?」
「学校やと、製鉄所に連れて行かれて、鉄が溶けるんを見て、こんな感じで考えやって言われましたぁ」
あぁ、そうかぁ……。魔術ってイメージ次第で曖昧だった……。確かにワティスの炎も何か粘度が高くて纏わりついていた。あれは、溶けた鉄のイメージが元か。
実際の温度と性質や状態は切り離して考えないといけないのか。
私はただ温度が高い炎と言うイメージしかしていなかったから、あんな結果になったのか。
当たった場所は高温で刹那炙られた程度だ。大きな影響は無いだろう。しかもあの程度でこの過剰帰還だ。かなり無駄な使い方をした。
取り敢えず、イメージの元は大体分かったので、過剰帰還が抜けるまで昼食の準備を進めて行く。
落ち着いて来たところで再チャレンジだ。危ないので小規模で試そう。
小さな穴を掘り、土を傍らに盛って置く。準備完了。後は天ぷら油の発火点、370度程度の熱をイメージし、形状は溶鉱炉で溶けた鉄をイメージする。
右手を穴の真上で支える。
「属性火。形状は直径1cmの球状。右手下部20cmに固定。下方に向かい射出、速度は時速6km」
あまり大きなものでも困る。速度が遅くて火傷するのも困る。早くて飛び散っても困る。と言う訳で、大体こんなものだろうと試してみる。
「実行」
呟いた瞬間、ポトンと言う感じで炎の塊が穴の底に落ちる。地面に接触した瞬間、粘度が高い液体の様にじわっと少し広がる。
少し経つとジュブジュブと土の水分が蒸発して行く音が聞こえて来る。危ないので、土をかけて元に戻す。
その後も中でジュブジュブと音が微かに鳴っていたが、すぐに音は聞こえなくなった。
過剰帰還も無いので、使い方としては成功なのだろうが、何と言うか火魔術は危なっかしい。
正直、日本の知識が邪魔して、過剰に強力な炎を作ってしまいそうで、怖い。
焼夷弾とかそう言う物を想像してしまいそうになる。テルミット反応なら温度も分かるし、実物も見た事が有る。イメージが容易なのだ。
相手を殺す事に特化するなら問題無いが、二次被害が出そうだ。少し考えよう。
そんな奇行を続けていた私を横目に、チャットはテキパキと薪の火を大きくし、鍋を吊る準備も進めて行く。
「ごめん。手伝わずに申し訳無い」
「えぇですよ。何や、試してはるみたいやし。邪魔せんとこう思て、準備しとりました」
そんな会話をしていると、他の3人も続々と帰って来た。『警戒』が上がったお蔭なのか、リズが4羽の鳥を戦利品に持ち帰って来た。血抜きも済ませていた様で、あっと言う間に捌いていく。
モツの部分はスープに、身は小分けにして串焼きにしてしまう。さっと表面を炙って、後は焚火の周りに刺して様子を見ながら串を回す。
野草に関しては、パクチーが混じっていたのでちょっとエスニックな鳥モツのスープになりそうだ。
串焼きが焼きあがった頃合いを見て、スープを取り分けて行く。チャットのカップは角の付いたウサギの意匠が描かれている。
「じゃあ、これから夕方まで移動となります。食べましょう」
いただきますと呟いて、スープから食べ始める。個人的にはパクチーは好きだ。
昔初めてタイに行った時はどの料理も全く受け付けず閉口したが、どれもパクチーの香りがすると言う事ですぐに慣れた。それからは問題無く食べられる。
「うぅぅ。美味しいのは美味しいんだけどぉ。この匂いは好きじゃないぃ」
パクチーを持ち帰って来たフィアが珍しく文句を言う。他の3人は美味しそうに食べている。
「お母さんが食べられる草って言ったから採って来たけど、今度から無視する!!」
フィアが酷い事を叫ぶ。
それ以外は特に問題無く、串焼きもジューシーで美味しく楽しめた。
焚火が燃え尽きるまで、食休みとして皆で談笑をして時を過ごす。
熊が出るにしても、夕方以降は嫌だな。そう思いながら、今日の後半を考え始めた。