狩人部隊
【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】【11月30日発売】
そろそろ電子書籍での予約も開始されます。
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予約――作者――嬉しい。
空母レメアの周囲には、ブースターを増設した速度重視の艦艇が何隻も集まっていた。
高速艦。
移動速度を重視したために、戦艦としては脆く打撃力にも欠ける。
運べる物資も少なく、ほとんどは非常時の移動手段にしか使用されない。
次の作戦にも参加する予定はなく、レメアに乗っている調査団を引き取れば本星へと戻るだけだった。
本星へと戻っていく高速艦をレメアから見送るクローディアは、周囲の部下たちから問い詰められている。
「納得できません! どうしてDランクの出来損ないに新型が用意されるのですか?」
「大佐が乗るべきです。改修された特機であれば、その方が戦力になります」
エマ・ロッドマン。
Dランク騎士に新型機が与えられたのが、他の騎士たちには許せないらしい。
クローディアも不服ではあるが、送り主が誰かを知れば取り上げることも出来なかった。ただ、部下たちに送り主が誰であるのかは伝えていない。
そもそも、クリスティアナも知らないだろう。
不用意に事実を言う気にもなれなかった。
(私が口を出せるはずもない)
「上からの命令だ。そもそも、あの機体は当初の予定にはない戦力だ。余計なことをして面倒を起こすな」
冷たく言い放つと、部下たちが押し黙る。
ただ、クローディアも気になっていた。
(どうしてあのお方が、あの者に名指しで機動騎士を与える?)
◇
レメアの格納庫。
エマが受領したネヴァン試作実験機の周囲には、ラリーやダグをはじめとしたレメアのパイロットたちが集まっていた。
「これがネヴァンか」
「細身で頼りないな」
「出来損ないのお嬢ちゃんに与えるとか、上は本当に何を考えているんだ?」
周囲が勝手なことを言っているが、エマの方はそれどころではなかった。
コックピットの中に入り、機体の調整を行っている。
一緒に調整を手伝うのは、小隊付き整備士のモリーと――この機体の開発に関わった第三兵器工場の技術者だった。
眼鏡をかけた神経質そうな男は、水色の髪をオールバックにしている。
そんな彼【モルス】技術大尉が、機体の調整に戸惑っていた。
エマに対して申し訳なさそうな口振りで。
「正直に言います。この機体は新型動力炉を積み込んだ実験機です」
「え? あ、はい」
操縦桿を動かしながら様々な調整を忙しそうに行うエマは、モルスの話を聞き流しそうになっていた。
モルスがため息を吐く。
「エース級のパイロットに支給する特機を開発するため、ネヴァンタイプに新型動力炉を無理矢理積み込んだんですよ」
ネヴァンは優秀な機体である。
どのような状況でも一定の性能を発揮する安定性もあって、評価の高い機体だった。
だが、万能であるためにエースパイロットたちからは、物足りないという声が多かった。
エース級のパイロットたちの多くが、ネヴァンではなく他の機体を希望する。
その状況を打開するため、第三兵器工場はエースパイロット向けのネヴァンを開発することになった。
だが、そのための実験機は無理な改修が行われ、エース級のパイロットたちすら扱えない機体に仕上がってしまった。
どんなに性能を制限しても、元からバランスが悪いため操作性に問題を抱えたままだ。
「どんなエースパイロットを乗せても、結果を出せませんでした。私が言うべきではありませんが、こいつは欠陥機ですよ。無理な改修で反応速度が過敏でアシスト機能が正常に作動せず――」
そんな実験機を実戦投入させるというのが、モルスには申し訳なかった。
だが、エマは機体の調整に夢中になっている。
「操縦桿はもう少し軽い方が好みかな?」
「――私の話を聞いているんですか!?」
「え? き、聞いていますよ。凄いエンジンを載せているんですよね?」
全く話を聞いていないエマに呆れて、モルスは手で額を押さえる。
「どうしてそんなに夢中になれるんですか? こいつはいくら調整しても、まともに動きませんよ」
開発者が諦めた台詞を言う中で、エマだけは機体の調整に全神経を注いでいた。
「こっちがこうで――ここは――」
そんなエマを見て、モルスが深いため息を吐く。
「こいつはアシスト機能が正常に機能しないため、最初から積み込んでいません。それなのに、機体バランスは最悪という欠陥機です。暴走すれば自壊する可能性だってある」
いかに危険な機体なのかを説明するモルスに、エマは調整が一区切りついたためヘッドセットを外して顔を向ける。
「あ~、だから調整が難しいんですね。う~ん、作戦に間に合うかな?」
海賊の兵器製造プラントへの強襲作戦は、制圧、もしくは破壊が目的となっている。
海賊共が逃げ出す前に勝負を決めるため、すぐに作戦が開始されようとしていた。
モルスはのんきなエマに呆れ、機体について語るのを止めた。
◇
その頃。
海賊たちの兵器製造プラントでは、もめ事が起きていた。
「バンフィールドだぞ! さっさと逃げ出さないと殺されちまうだろうが!」
海賊を相手に商売をする海賊たち。
プラントで製造した兵器を売りさばき、巨万の富を得ていた。
しかし、宇宙海賊に一切の容赦がないバンフィールド家が乗り込んできたとあって、すぐに逃げ出す準備に入りたかった。
だが、それをさせない人物が一人。
荒くれ者の海賊たちの中で、清潔感のあるスーツ姿の男性がいる。
周囲との違いに浮いている人物だが、彼は化粧を厚く塗ったような白い肌をしていた。
「それは困ります。このプラントには、我々も莫大な資金を投じています。証拠隠滅のために爆破されては、採算が取れません」
痩せて迫力のない男の反応に、海賊たちは不気味に思って怖がっていた。
彼の名前は誰も知らないが、自らを【リバー】と名乗っていた。
強面の海賊たちが彼を恐れているのは、何度かオブザーバーとして派遣されてきた彼を殺しているからだ。
「あんたら兵器工場の採算なんて知るかよ」
幹部が拳銃を抜いてリバーの頭部を撃ち抜いた。
倒れるリバーは間違いなく即死だが、それを見ていた周囲の海賊たちは怯えた表情をしている。
幹部が部下たちに命令する。
「すぐに逃げ出すぞ。船の用意をしろ。敵は集結前だ。逃げ出すチャンスは――」
「か、頭!」
部下がドアの方を見て叫ぶと、開いたドアにはリバーが立っていた。
同じ姿。同じスーツ。
殺したリバーと瓜二つの存在が、そこに立って海賊たちに微笑みかける。
「逃げられては困ります。あなたたちには、死ぬまで戦ってもらわないといけませんからね」
先程殺したはずのリバーと、同じ存在がそこに立っていた。
「ここでバンフィールド家には大きな失点を作っていただきましょう。そうすれば、プラントの一つが潰れても惜しくはない。十分に採算が取れますからね」
◇
レメアの格納庫。
クローディアは主立った面子を集めていた。
その中にレメアの関係者は一人もいないのは、最初から戦力に数えていないからだ。
「この軽空母を降下させた後、低空飛行で一気に敵基地へ強襲する」
立体映像を囲んでの作戦会議。
クローディアの作戦を聞いていた陸戦隊の指揮官が、振り返って小型艇を見る。
「我々は三小隊で敵基地の制圧ですか。骨が折れそうですね」
部隊の規模に対して、敵拠点は大きすぎる。
戦力不足でありながら、陸戦隊の面々は悲観した様子がない。
クローディアはその姿を見て、僅かに笑みをこぼした。
「貴官たちならやり遂げるのだろう?」
お前たちにはできるだろう? そう問われて、指揮官は肩をすくめてみせる。
「この程度の作戦で失敗していたら、命が幾つあっても足りませんよ」
「基地内の制圧は任せる。外は我々の仕事だ」
会議が終わろうとすると、クローディアの部下の一人が軽い口調で提案してくる。
「隊長、俺たちの部隊名はどうします? 急遽集められた混戦部隊ですからね。何か名前でも決めません?」
「そうだな。狩人――イェーガー部隊でいいだろう」
◇
実験機の調整が終わらないエマは、外に出て休憩を挟んでいた。
作戦会議をしているクローディアの姿を眺めていると、ラリーがやって来る。
「掃きだめには不釣り合いな部隊名だよな」
「ラリーさん?」
クローディアの名付けたイェーガー部隊が気に入らないラリーは、エマの隣に来ると足を止める。
「あのパワードスーツの撃墜マーク――あいつら、騎士殺しだ」
「騎士殺し?」
エマが首をかしげると、ラリーは頭をかいて苛立つ。
「何で騎士のお前が知らないのさ。伯爵自慢の陸戦部隊――通称はトレジャーだ」
「え? そんな部隊はありませんよ」
「通称だって言っただろうが。伯爵に連れ回されて、投入されるのは常に最前線だ。あいつら全員、死ぬまで軍隊生活を続ける変人共だ」
「死ぬまで」
陸戦隊のパワードスーツの形には、撃墜マークらしき物が描かれていた。騎士を示すのは、古代の騎士の兜。それにバツをつけている。
それは騎士を殺した数を示しているのだろう。
「レメアの連中とは違う意味で、軍から離れられないだろうね。他の生き方を選べない不器用な奴らだ。僕にはどっちも、人生を無駄にしているようにしか見えないよ」
肉体強化を行う教育カプセルで、条件次第で騎士を殺せるまで鍛えた集団。
その対価は、ほとんど全ての人生を軍に捧げるというものだ。
レメアに乗り込む軍人たちも同じだ。
軍から離れて生きていく術を知らず、今も軍にしがみついている。
だが、かたやトレジャー部隊は精鋭となり、伯爵のそばで働いて功績を積み上げている。
「みなさんだって頑張ればきっと」
頑張れ、という言葉を聞いてラリーが鼻で笑う。
「頑張れ? それは出来る奴の台詞だね。世の中、頑張っても無理なものは無理なのさ。――僕が今から騎士にはなれないように、ここの連中がどんなに頑張ってもあいつらみたいな精鋭にはなれない」
ラリーがそう言ってエマに背中を見せる。
エマが何も言い返せずにいると、ラリーが背中を向けたまま。
「お前は頑張ってここから抜け出せるといいな。――せっかくチャンスが手に入ったんだからさ」
「ラリーさん」
◇
大気圏へ突入するため、惑星エーリアスに近付くレメア。
隊長機として角を持つネヴァンのコックピットに乗り込んだクローディアは、部下の報告に耳を傾けていた。
『実験機は調整が間に合いません』
「――構うな。これ以上、敵に猶予を与えたくない。敵が籠城を決め込んでいる内に、制圧するぞ」
実験機の調整は間に合わず、戦力にならないと聞いてクローディアはどこかで安堵する。
部下との通信が閉じると、誰に聞かれるわけでもないのに小声で呟く。
「辺境に配属されたのに巻き込まれる。――運の悪い奴だ。さっさと騎士など辞めてしまえばいいものを」
自分から不適格という辞める理由を与えられたのに、騎士にしがみつくエマのことを愚かと言いながら悲しそうな顔をする。
クローディアは手首に巻いたお守りを見る。
◇
数十年前。
宇宙海賊が根城としていた資源衛星にクローディアは捕らわれていた。
痩せ細った体を汚れた布で隠し、海賊たちに媚びて命を長らえる日々が続いていた。
捕らわれた者たちが放り込まれる牢屋の中。
近くで寝込んでいた女性騎士は、いつの間にか死んでいた。
劣悪な環境で死んでいくのを待つばかりとなり、どうしてこうなったのかを何度も考える。
「くそ――くそっ」
死にたくない。こんな死に方は嫌だ。
そう思っていると、部屋に海賊に成り下がった元部下がやって来る。
「元気にしていましたか、元隊長殿?」
下卑た笑いを浮かべてやって来た元部下は、クローディアが所属していた部隊で新米騎士だった。
使えない男だったが、それでも預かった部下だからと厳しく鍛えた。
「お、お前」
「おっと、睨まないでくださいよ。食べ物を持ってきたんですから」
そう言って男は、牢屋の中に手を入れて食べ物を床にぶちまける。
「ほら、獣みたいに這いつくばって食えよ」
「うぁ――」
空腹から床にこぼれた食べ物に飛び付くと、情けなさから涙が出てきた。
生きている捕虜たちも群がってきて、奪い合いとなる。
その姿を見た元部下が腹を抱えて笑っていた。
「俺を馬鹿にするからこうなるんだぜ! 部下は優しくしないと駄目だろ、元隊長さん?」
逆恨みから自分を――部隊を宇宙海賊に売り渡したその男は、クローディアの姿を見て自尊心を満たしていた。
クローディアからすれば、部下を生き残らせるための指導だった。だが、その程度の事も理解できない男に裏切られ、大事な部下たちの多くが死んだ。
悔しさからむせび泣いていると、元部下が大きな口を開けて笑って。
「ひゃははは! いい気味だ。俺を見下すからこんな――」
次の瞬間には男の頭部が弾け飛んでいた。
何が起きたのかと牢屋の外を見れば、まだ成人したばかりと思われる子供が機動騎士のパイロットスーツに身を包んで現れる。
右手には骨董品の銃が握られていた。
だが、使い心地が気に入らなかったのか、子供は銃を投げ捨てた。
そして、頭を撃ち抜かれた元部下を見下ろす。
「非常時にお遊びとは、こいつは無能だな。さて――」
子供が牢屋の中を見ると、周囲にクローディアの情報が浮かび上がった。
「――あぁ、お前か。優秀らしいな」
子供がそう言うと、何もしていないはずなのに牢屋が切断される。
中に入ってくる子供が、クローディアに手を差し伸べた。
「使えそうな騎士は大歓迎だ。俺の手を取れ――今後は俺がお前を使ってやる」
傲慢な態度。
だが、クローディアは差し出された手を何故か取った。
ヘルメットのバイザーに隠れた子供の顔が、微笑んでいるように見えた。
「ようこそ、バンフィールド家へ。お前は今日から俺のものだ」
◇
過去を思い出したクローディアは、頭を振って作戦に集中する。
(私が無能ではないとあの方に証明する。それが今の私の全てだ)
大気圏突入で揺れる艦内で、クローディアは操縦桿を握りしめた。
降下したレメアが、全速力で敵基地を目指し始める。
そして、出撃するタイミングがやって来た。
「イェーガー部隊、全機出撃」
若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「おっつ~。今日もバリバリ宣伝するわよ」
エマ( ・∀・)ノ「はい、先輩? 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】が【11月30日】に発売されます。電子書籍の予約も始まったので、皆さん是非とも予約してくださいね」
若木ちゃんヘ(゜∀゜ヘ)「あんたも理解したようね。そうよ、私の言う通りに宣伝をすればいいのよ」
エマヾ(*´∀`*)ノ「それから! 【キミラノさんで開催している 次にくるライトノベル大賞2021】 の投票ですが、毎日のように投票してくださる読者さんもいるみたいです。この場を借りて、お礼申し上げます。ありがとう! 【一日一回】投票可能ですので、是非とも他の読者さんもお願いしますね」
若木ちゃん(;゜Д゜)「う~ん、これならセーフかしら?」