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略奪

五月蠅いくらい宣伝しないと伝わらない! 作家になってから痛感させられました。


だから今日も元気に宣伝します!


【俺は星間国家の悪徳領主! 9巻】【10月25日】発売予定!


今巻は一閃流絡みの話になります。リアム一行が安士を探して旅をする! 主人公たちの珍道中をお楽しみください。


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「騒ぎを聞いて来てみれば、何をやっているのか……」


 腕の骨を折られたエマを前に、呆れた顔を見せているのはアリスンだった。


 ギブスを装着して痛々しい姿をしているエマは、彼女から今回の一件で要塞から厳重注意が出されたと知る。


「要塞司令は今回の一件を重く見て、罰として遊撃艦隊に対して補給と整備を後回しにすると通達してきましたよ」


「そんな!? ……いえ、申し訳ありませんでした」


 思わず声を出してしまったエマだが、自分に原因があると思いだして謝罪をする。


 しかし、アリスンはエマの謝罪など気にも留めない。


「大方、要塞内の物資が不足しているのでしょうね。艦隊総司令部からの補給物資を待つ間の時間稼ぎかしら?」


「そう、なんですか?」


 エマが一瞬だが安堵した表情を見せると、アリスンの顔付きが険しくなる。


「相手に口実を与えたことに変わりないのよ」


「す、すみません」


 気落ちするエマを見て、アリスンは今回の落としどころを教える。


 遊撃艦隊も要塞内の事情は予想しているようだが、エマの行動が相手に口実を与えたのも事実と判断しているらしい。


 そのため、メレアに任務が与えられるようだ。


「周辺宙域の偵察任務にメレアも選ばれました。機動騎士部隊も出港準備を急ぐように」


「……了解しました」


 エマが返事をすると、アリスンは言うべきことは言ったとして歩き去っていく。


 本来であれば要塞内で休めるはずだったのだが、エマが起こした騒動によりメレアに迷惑をかけてしまった。


「……はぁ、あたしは何をやっているのかな」


 シレーナを前にして冷静さを失ってしまった自分が恥ずかしく、それでいて自分の思い描く騎士という存在にはまだ届いていない現実を実感した。



 要塞攻略戦において損害の少なかったメレアは、エマの尻拭いをする形で偵察任務に出ていた。


 メレアのブリッジでは、今回の件について多少だが文句も出ている。


 言っているのはティムだ。


「はた迷惑な騎士様もいたもんだぜ。こっちはようやく休めると思っていたのに、偵察任務に駆り出されるんだからな」


 ブリッジクルーの大半は、ティムの意見に同意はしている……が、口に出すことはなかった。


 オペレーターがティムの愚痴に対して、笑いながら言う。


「強くなっても相変わらずですよね。まぁ……相手の言いがかりでもありますし、許してやりましょうよ」


 帝国軍側の口実に利用された、というのは皆が気付いていた。


 それはティムも同じだったが、どうしても愚痴が出てしまうらしい。


「大人しくしていればいいのに、ちょっと強くなったからって調子に乗って整備と補給の遅さに文句を言いに行ったのが悪いのさ」


 要塞側に文句を言いに行ったエマには奢りがあるような発言をすると、黙っていたアリスンが険しい表情をした。


「……本来であれば、それは艦長でもあるあなたの仕事ですけどね」


 文句の多いティムに対して、アリスンは辟易しているらしい。


 ティムの方にも言い分がある。


「それなら先にこっちにどうなっているのか、と聞いてくるべきでしたね。あの騎士様は俺を無視して要塞側に文句を言いに言ったんですよ」


「頼りにならないと判断したのでは?」


「……それもそうですね」


 言い返されて帽子を深くかぶるティムが黙り込む。


 ブリッジクルーは、この妙な空気がいつまで続くのかと面倒そうな顔をしていたのだが――。


「……救援要請?」

「帝国じゃないな。連合王国とも違うぞ」

「照合開始……諸国連合? ミスティリア? どこの惑星だよ」


 救援要請をキャッチしたのだが、発信者の特定を行うと帝国とも連合王国とも違った。


 オペレーターたちも困惑していたが、内容を確認する。


「司令、救援要請をキャッチしました。どうやら帝国に登録されていない居住惑星からの通信で、攻撃を受けているので助けてほしい、と」


 面倒内容にティムは顔をしかめる。


「未登録の居住可能惑星? 隠れて住み着いていた連中が、助けを求めているのか?」


「そうみたいです」


 居住可能と思われる惑星に勝手に移住した者たちが、助けを求めてきた。


 アリスンも迷惑そうな顔をしている。


 その理由は、居住可能惑星に住んでいる者たちが帝国に税を納めていないから。


 庇護下にない者たちだからだ。


「未登録となればこちらが助ける義理はないわね」


 見捨てるような発言をするアリスンに対して、ティムの方は苦々しい顔をする。


「……何者かに攻撃を受けているのが気になるな。敵の規模は?」


「機動騎士が一個中隊規模とありますが、詳しい内容までは不明です」


 これに対してティムは決断する。


「救援要請に応える。メレアを向かわせるぞ」


 ただ、これに異を唱える存在がいた。


 アリスンだ。


「味方ではありませんよ。未登録の惑星を助けに向かうなんて――」


「襲っている側が連合王国だったらどうします? 宇宙海賊たちは逃げ出した後ですからね。武力行使ができる相手となれば――」


「それこそ、傭兵団の可能性の方が高いのでは? 無視しても問題ありませんよ」


 アリスンはこんなところで少ない物資を使ってまで、未登録の惑星を助けたくないらしい。


 しかし、ティムは食い下がる。


「様子を見るくらいなら問題ないはずだ。敵の規模が大きければ引き下がるつもりです。そもそも、我々の任務は偵察ですよ、監督官殿」


 妙に食い下がってくるティムに、アリスンは少し驚いていた。


 確かにどんな勢力が動いているのかは気になるため、アリスンが許可を出す。


「機動騎士部隊に先行させましょう」



「出撃? ラクーンの整備は終わっていないのに!?」


 機動騎士部隊に偵察任務が言い渡されたのだが、格納庫ではモリーが頭を抱えていた。


 その理由は先の戦闘で被弾して整備が必要なラクーンが多いからだ。


 無茶な作戦を強行してしまったため、見た目は問題なくても内部に故障を抱えている機体もある。


 エマは自分の愛機を見上げた。


「アタランテが頑丈で助かったね。最悪の場合、あたし一人で出撃して偵察するよ」


 エマがそう言うと、モリーは腕を組んで考え込む。


 どうにかラクーンを出撃させられないか、と整備計画を見直しているらしい。


 そこに、ヴァローナチームのアインがやって来る。


「最新鋭の機動騎士はこういう場面で弱さを露呈するものだ」


「木村中尉?」


 エマが振り返ると、飛んできたアインが近くの柱に掴まり止まった。


「ヴァローナ小隊は整備も終わっている。今回の任務に同行可能だ」


「助けてくれる――」


「無論だ。こういう場面で整備性の違いを発揮し、現行世代の優秀さをアピールする狙いがある。最新鋭のラクーンは悪くない機体だが、やはり整備性に問題を抱えていると言わざるを得ないからな。広く普及すればデータも集まり改善されるだろうが、今のところは開発段階で出なかった問題の洗い出しの最中だろう? だが、ヴァローナは違うぞ。洗い出しも終わり、数々の戦場で活躍した信頼性がある」


 自分の発言にかぶせられ、長々と説明されたエマは――頬を引きつらせながら、アインの傘下を快く受け入れる。


「あ、ありがとうございます。助かります」


「どういたしまして」



 アタランテとヴァローナチームが出撃準備を進めている様子を、格納庫でリックが見ていた。


「パイセンたちは偵察任務っすか? 理由を付けて休めばいいのに、よく頑張るっすね」


 アーマードネヴァンは追加装甲を外され、中身の点検が行われていた。


 要塞攻略において、どこにどれだけの負荷がかかっていたのか調べるためだ。


 開発チームの整備士がリックに冷たい視線を向けていた。


「マーティン少尉も、彼らの真面目さを少しでも分けてもらってはどうですか?」


 言われたリックはヘラヘラとしていた。


「俺ッチには無理っすよ。そもそも、出撃する機体がないっす」


 アーマードネヴァンは高性能ではあるが、一度出撃する度に整備という面で他よりも時間がかかるという問題を抱えていた。


 そもそも整備性などを度外視した計画である。


「もっと真面目なら、今頃は昇進していたでしょうに」


「俺ッチは機動騎士に乗れればいいっすからね。他は興味ないっす」



 ヴァローナチームを率いて出撃したエマは、目的地に到着すると信じられない光景を目にしていた。


「どうして帝国軍の艦艇がこんな場所にいるの!?」


 敵の襲撃を受けていると助けを求めた惑星に来てみれば、帝国軍の艦艇が大気圏を突破して降下していた。


 機動騎士や陸戦隊を出撃させ、荒廃した惑星で小さな都市を攻撃しているではないか。


 その様子を宇宙から確認したエマは、帝国軍に対して抗議する。


「こちら遊撃艦隊の軽空母メレア所属のエマ・ロッドマン大尉です。帝国領内で略奪行為をするなんて正気ですか!?」


 語りかけると、帝国軍側から応答が来た。


『そちらこそ正気か? ここは戦場だぞ。戦時摘発は軍でも認められている。まして、こいつらは帝国の民ではない。勝手に住み着いた連中だ。そんな連中が貯め込んだ物資で、要塞が潤うなら何の問題もない』


 帝国軍からの回答に、エマは言葉も出て来なかった。


 ヴァローナチームが撮影した映像が、アタランテのモニターに映し出されている。


 機動騎士が作業用の機械で立ち向かう人々を蹂躙していた。


 陸戦隊が物資を運び出し、それを帝国軍の艦艇に積み込んでいる。


(こんなの……宇宙海賊と一緒じゃない)


 操縦桿を握りしめ、そして奥歯を噛みしめた。


 悔しそうな顔をしているエマに気付いたアインは、暴走させないように説得してくる。


『大尉殿、お決まりの反吐が出るような慰めだが、これが戦争だ。それに、勝手に住み着いた彼らは、自分たちでこの危機を乗り越えられないならば、いずれは滅びる運命だ』


 帝国に属していないのだから、帝国には守ってもらえない。


 属していても略奪されて滅ぼされる可能性はあるのだから、自力で自分たちを守れないのならばいずれ滅びる。


 アインも納得した顔はしていなかったが、ここで帝国軍と争えないと考えているのだろう。


 エマはまだ完治していない右腕の痛みを感じながら、自分に問い掛ける。


「……あたしは正義の騎士だ。正義の騎士になるって決めたんだ」


『大尉殿?』


 エマは顔を上げる。


「ヴァローナチーム、これよりあたしの指揮下を離れてメレアに帰還してください。あなたたちは、あたしを止めた……木村中尉の発言と証拠映像もあるので、問題にはならないでしょう」


『止めるんだ、大尉殿! ここで全てを捨てるつもりか? 帝国軍と事を構えていいのか? 我々は連合王国と戦争をしているんだぞ。戦場はここだけではない。ここで争えば、戦争全体に影響が及ぶ可能性も――』


 バンフィールド家が帝国軍を攻撃した――詳細な内容はともかく、この事実のみが知れ渡れば対外戦に大きな影響を与える可能性がある。


 だから、エマは言う。


「あたしの独断です。あたしは――こんな光景を見過ごせない。見過ごしたら、あたしは自分を誇れないから……」


 アタランテは加速すると、そのまま大気圏に突入して惑星に降下していく。


フェアリー・バレット ―機巧少女と偽獣兵士― 1巻【10月19日】発売予定!


そろそろ新作の発売が近付いて参りました。


今回はタイトルで内容が伝わり難いと思いましたので「小説家になろう」様にて【プロトタイプ版】フェアリー・バレットを公開中です。


区切りのいいところまで読めるようにしてありますので、発売前に確認したい読者さんは是非とも読んでみてください。


評価もお待ちしております!

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