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傭兵という存在

宣伝をするために書いた作品の宣伝のために作品を書き、もう収拾が付かないです……。

 ダリア傭兵団の旗艦ブリッジでは、シレーナが攻略されたばかりの要塞を眺めていた。


「苦戦すると予想して助けに来たら、もう終わっていたなんて残念だわ」


 要塞攻略が行われていると聞いて立ち寄ったのに、稼ぎ時を逃してしまっていた。


 残念そうにするシレーナだが、副官の方は機嫌がいい。


「我々は十分に稼いでいるではありませんか」


 ここに来るまでにいくつかの戦場に参加して、ダリア傭兵団は懐を温かくしていた。


 しかし、シレーナにしてみれば副官の考えは甘かった。


「商売根性が足りないわね。要塞攻略に参加して協力すれば、団の受け入れもスムーズになったのよ。このまま合流して要塞に間借りさせてほしい、なんて頼めば足下を見られるわね」


 いくつかの戦場で稼いだのはいいが、団の艦艇や機動騎士も疲弊している。


 この辺りで一度補給と整備を受けたかったのだが、予定通りに行かなかった。


 オペレーターがシレーナに声をかける。


「団長、帝国軍の少将閣下が話をしたいそうです」


「繋いで頂戴」


 席を立ったシレーナは、モニターに映る少将を前に姿勢を正した。


 相手が貴族であるのを見抜くと、恭しい態度に出る。


「少将閣下自ら応対していただけるとは、光栄の極みでございます。我々は傭兵団ギルドに所属しております、ダリア傭兵団ですわ」


 不満そうな少将は、尊大な態度で接してくる。


『要塞攻略が終わったタイミングで接触してくるから、何用かと興味を持っただけだ。せめて、攻略前に来てほしいものだな』


 嫌みを言われてもシレーナは笑顔を崩さない。


「間に合わず申し訳ありません。それはそうと、要塞の防衛体制が整うまでの間、我らダリア傭兵団を雇うつもりはありませんか? 迎撃システムの再構築など、時間が必要になるかと思いますが?」


 要塞を攻略したからといって、すぐに使い物になるとは限らない。


 敵のトラップがないか確認する時間も必要だ。


 それに、自分たちが破壊した防衛設備の復旧も。


 少将は苦々しい顔をしていた。


『抜け目のない奴だ。いくらだ?』


「少将閣下のご気分を損ねましたからね。格安でお手伝いさせていただきます。その代わり、要塞のドックを使用させていただけませんか? 補給と整備を受けられれば、それ以上は何も求めませんわ」


 少将もシレーナの思惑には気付いている様子だった。


 補給と整備が目的である、と。


 だが、要塞を奪い返したばかりで不安もあるのか、ダリア傭兵団の戦力はほしいらしい。


『……こき使ってやるから覚悟しておけ。詳細は私の部下と話をして決めてもらう』


「ありがとうございます。ダリア傭兵団は、少将閣下のために全力を尽くしますわ」


 心にもない台詞を口にすると、回線が切られてしまった。


 シレーナは意地の悪い笑みを浮かべて副官を見る。


「ここまでしてようやく一人前よ」


「……肝に銘じておきます」


「大変結構」


 その後、帝国軍に誘導されて、ダリア傭兵団が要塞入りを果たした。



 ダリア傭兵団を受け入れる決断をした少将に、秘書官が疑問を尋ねる。


「傭兵団を受け入れるおつもりですか?」


「要塞を奪還したばかりで時間が欲しいからな。バンフィールド家の艦隊も理由を付けてしばらく拘束するつもりだ」


 要塞攻略が終わったからといって、逃がすつもりはなかった。


「ダリア傭兵団は規模が大きいですから、今の我々には厳しいと思われますが?」


「何が問題だ?」


「要塞内の物資が予定していたよりも少ないと報告がありました。バンフィールド家の艦隊はともかく、契約するダリア傭兵団へ回す物資が不足すると思われます」


 秘書官の話を聞いた少将は、これはまずいと焦った顔をする。


「……もう要塞内に受け入れている。やつらを敵に回せば面倒になるぞ」


 ダリア傭兵団が求めたのは整備と補給であり、それが満足に受けられないとなれば契約不履行と判断されるだろう。


 その場合、敵が要塞を奪い返しに来た際に、寝返る可能性がある。


 要塞内に入れたのもまずく、何もなくても情報を敵に渡すなど仕返しをする可能性もあった。


 少将は秘書官に尋ねる。


「この宙域に物資を接収可能な居住惑星、あるいはコロニーはあるかね?」



 奪還した要塞内のドックにて、エマは声を荒げる。


「補給物資は渡せないとはどういうことですか! あたしたちは要塞奪還に協力したんですよ。整備も満足に受けられないなんて酷すぎますよ!」


 補給と整備を申請したのに、要塞ドックでの動きが全くなく外に出てみた。


 すると、責任者の言葉は冷たいものだった。


「伯爵家の私兵風情が偉そうに強請るな! こっちは帝国正規軍様の補給と整備を優先しているんだ。黙って待っていろ」


 作業着姿の責任者は、正規軍の補給と整備を優先しているため大忙しらしい。


 エマたちの相手をするのも煩わしそうにしていた。


 しかし、エマは引き下がらない。


「そちらの要請で参加したのに、終われば放置ですか? 我々遊撃艦隊には総司令部より次の任務が与えられたんです。ここに留まっているわけにはいかないんですよ」


「こっちだって要塞防衛のために、必死に計画を練っているんだよ! ガタガタ抜かすなら、ここを出ていってもらっても――」


 大声で怒鳴り合っているエマの後ろでは、ダグとラリーの姿がある。


 一歩も引かないエマを見て、ダグは感心していた。


「隊長殿もご立派になられたな。こういう場面で我の強さを出せるのは大事だ」


 ラリーの方は新米だった頃のエマを思い出したのだろう。


「僕はもっと優しい頃の体調が良かったよ」


「お前はそう言うが、優しかった頃は何かと面倒をかけただろうに」


「あんたもだよ!」


 頼もしくなったエマを見て、それぞれの感想を持っていた。


 そこに、部下と思われる者たちを引き連れた女性が現われる。


 白銀の髪を揺らして飛んできた女性は、上品な仕草で着地すると担当者に声をかける。


「少しよろしいかしら? こちらの補給と整備がまだなのだけど、どうなっているか説明をしてもらえない」


(……え?)


 声を聞いたエマは体が硬直した。


 優しい口調ではあったが、屈強な部下たちを引き連れて現われた女性に担当者はギョッとしていた。


 屈強な男たちにも驚いていたようだが、一番は彼女の立場が原因だろう。


 しおらしい態度で接する。


「これはダリア傭兵団の団長様。補給と整備に関しては、現在急ピッチで準備を進めております。なので、もう少しだけお待ちいただければ、と」


「通信回線で同じ事を言われたのだけど? ――って、お久しぶりじゃないの」


 ダリア傭兵団団長であるシレーナが、明るく手を振ってくる。


 さっきまで驚きすぎて言葉を失っていたエマも、その態度に激高した。


「お前が!」


 地面を蹴って飛び出したエマだったが、シレーナの部下たちに囲まれて取り押さえられてしまった。


 エマは自分を押さえつけるシレーナの部下たちを、一人一人と投げ飛ばしていく。


 そんなエマを見て、シレーナは感心して拍手を送る。


「以前に見かけた時よりも強くなったじゃない。あの頃は幼気な姿をしていたのに、随分と荒々しくなったわね」


 言外に優雅さに欠けると煽るシレーナに、エマは押さえつけられながら怒鳴るように問う。


「あんたがどうしてここにいるの! あんたはあたしたちの敵なのに――」


 敵と言われたシレーナだが、両手を腰に当ててエマに近付いた。


 そのままエマの髪を掴んで自分に近付ける。


「傭兵だから敵にも味方にもなるのよ。戦場のルールも知らないなんて、あなたは本当に無知のままね。強さはともかく、中身はあの頃のまま……本当に情けない騎士ね」


 その言葉に限界を迎えたエマは、強引に屈強なシレーナの部下たち投げ飛ばした。


 シレーナに掴みかかろうとするが、逆に関節技を決められる。


 二人は空中に浮かび、背後を取られたエマが締め上げられ苦しんだ。


「は、放せ!」


「嫌よ。放したら武器でも持ち出しそうだもの。そうなると、殺すしかないから面倒になるのよね」


 どこまでもシレーナは上位者として振る舞っていた。


 確かにエマは以前よりも強くなっていたが、現状ではシレーナに劣っていた。


 シレーナはダグとラリーに視線を向ける。


「今は要塞司令に雇われているから、あなたたちと揉めると私も困るのよ。あなたたちも、ここで隊長が捕まるのは嫌よね?」


 黙っていないで協力しろと言われると、ダグが近付いてくる。


「隊長、ここは我慢だ」


「ダグさん!? だってこいつは!」


「あぁ、俺たちの敵だ。けど、そんな奴を要塞司令が雇って置いているんだ。あんたが勝手な判断で手を出せば、大きな面倒事になる」


 帝国軍に雇われた傭兵団と過去の因縁を理由に揉めれば、争いを仕掛けたエマが不利だった。


 エマが力を抜くと、シレーナは両の口角を持ち上げて不気味に笑う。


 その直後、骨の折れる嫌な音が聞こえた。


「ぐっ!?」


 何とかエマは悲鳴を堪えるが、嫌な汗が体から噴き出ていた。


 シレーナは苦しんでいるエマに耳打ちをする。


「私の部下を怪我させた無礼は、これで許してあげる」


 そう言ってエマを蹴ったシレーナは、部下たちを引き連れてこの場を去って行く。


 エマの方は折られた右腕を左手で押さえながら、空中で回転していた。


 ダグとラリーが慌ててエマを回収し、怪我の具合を確認する。


 ダグはエマの怪我を見て安堵していた。


「綺麗に折られたな」


 ラリーの方は驚いた顔をしていた。


「騎士の骨って頑丈なのに……こんなに簡単に折るのかよ」


 エマは痛みを我慢しながら、去って行くシレーナたちに視線を向けた。


「あいつがこの場にいるのに、あたしは仇も討てないなんて……」


 悔しそうなエマに、ダグは諭すように言う。


「再会できただけでも奇跡に近い。いつまでもこだわっていると、嫌な方に引っ張られるぜ……俺たちみたいにな」


 エマは折られた腕の痛みを感じながら思う。


(機動騎士ならともかく、生身のあたしはあいつに勝てない。でも、次に再開した時には……奇跡が起きたなら、今度こそあたしがシレーナを倒すんだ)


 折られた腕の痛みは、自分の弱さの証であると受け入れ――次に再開した時は必ず勝つと心に決めるエマだった。


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本編である「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」のスピンオフ作品となっております。


もしもリオンがマリエと早い段階で遭遇し、協力関係を構築できたとしたら? というIFシナリオですね。


本来は書籍のアンケート特典用に書き下ろしていたのですが、割と好評だったので出版させていただけることになりました。


本編では登場しなかった設定、または解決しなかった謎について触れてもいますので「モブせか」が好きな読者さん向けですね。


そうでない読者さんにも楽しんでもらえるよう頑張っているので、少しでも気になっていただけたら「あのせか」を手に取っていただければ幸いです。



最近はあのせかとフェアバレの宣伝ばかりしていましたが、実は「セブンス」もコミカライズがスタートしております。コミカライズ1巻は好評発売中ですので、そちらも応援よろしくお願いいたします。

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