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四章プロローグ

原稿は進んでいませんが、完成を待っているといつまでも投稿しなくなるので強引に再開しました。


今回は区切りのいいところまで進めるのはいつも通りですが、毎日20時更新にしようかと考えています。

 バンフィールド家が領地とする惑星の一つに「ピュトン」が存在する。


 ハイドラの次に発展している惑星で、バンフィールド家がリアムの代で本格的な開拓と入植を行った。


 ハイドラ同様に自然との調和が取れた有人惑星である。


 ピュトン一つで伯爵を名乗れるほどの発展を遂げており、今ではバンフィールド家にとって重要惑星の一つとなっていた。


 有人惑星としては第二惑星と呼ばれていた。


 そんなピュトンを防衛する宇宙要塞に、技術試験隊の母艦となったメレアが入港していた。


 入港したドックにて、メレアは新たに機動騎士を搬入していた。


 今まではネヴァンから改修された試作実験機アタランテ以外は、第七兵器工場のラクーンで統一されていたのがメレアだ。


 技術試験隊ともなれば試験するべき機体がなければならない。


 アタランテは試作実験機としての役割を終えて、今では【エマ・ロッドマン】大尉の専用機として運用されていた。


 今後もデータを開発元の第三兵器工場に引き渡す予定だが、メレアの設備を使用してテストする段階は過ぎてしまっていた。


 そのため、新しい試験機体を搬入していた。


 技術試験隊は軽空母メレアを中心として、護衛として駆逐艦が四隻随伴する。


 司令官である【ティム・ベイカー】大佐は、宇宙要塞内で打ち合わせがあってメレアを出ていた。


 機動騎士の搬入、欠員が出たクルーの補充、その他諸々と細かい打ち合わせが多かった。


 ドックに来ると、襟元を緩めてため息を吐く。


「打ち合わせなんて通信で終わらせていいだろうに。わざわざ要塞内に出向けとは、古風なやり方にこだわる基地司令だな」


 アンチエイジングが進んだ世界で四十代以上に見える外見をしているのは、かなりの年齢である証拠でもある。


 くたびれた感じが抜けないティムの隣には、メレアの機動騎士部隊を率いる立場になったエマがいた。


「機密事項もあるから口頭での説明があるって事前に知らされていましたよね?」


 ムッとしているエマを見るティムは、苦々しい顔をしていた。


 かつては右も左もわからない駄目騎士だったエマも、今では騎士ランクはAに昇格し、機動騎士中隊を率いる大尉に昇進していた。


 顔付きも態度も一人前になってきたエマは、ティムにとっては面倒な相手になっていた。


 少し前まで新米騎士だと思っていたら、今では自分に注意までしてくる。


 厄介なのは、エマが実力も実績もある騎士という点だ。


 上官侮辱罪を盾に脅してやろうとしても、今ではエマの方が立場的にやや上になっていた。


 軍の階級ではティムが上だが、騎士という存在は特権階級だ。


 現時点でティムが正式に抗議しても、エマの方が言っていることが正しいため軍がどちらの見方をするかわかりきっていた。


「あぁ、そうだったな。俺が悪かったよ」


 拗ねた態度を取るティムに対して、エマは不満そうな顔をしていた。


 何か言いたそうにしていたが、諦めたらしい。


 二人がドック内を移動してメレアを目指していると、その途中で搬入途中の機動騎士が見えた。


 メレアに運び込まれる予定の試験機だった。


 エマが二種類の機動騎士を前に興味深そうにしていた。


「一つはネヴァンタイプですね。重武装タイプなのかな? もう一機は……あれ? もしかして、次世代機じゃない?」


 アタランテもラクーンも世代的には次世代機という括りであるため、現行の主力機というのはエマには珍しかったらしい。


 ティムは内心で辟易する。


(現役世代の機動騎士を世代遅れ扱いとは、時代が変われば変わるものだな。昔は、旧式が当たり前で現役世代なんて配備されなかったぞ)


 過去を思い出すと、どうしても今の状況が贅沢に感じられて仕方がなかった。


 ティム大佐が二種類の起動騎士に目を向ける。


 一機はネヴァンタイプであると思われるが、細身が特徴であるはずなのに分厚い装甲が取り付けられて別物の機体に見えていた。


 頭部がネヴァンタイプでなければ、別機体だと思ったはずだ。


 もう一機の方だが、こちらはネヴァンタイプとよく似ていた。


 ネヴァンが翼を想像させるバインダーを持っているのに対して、こちらは翼を持たない細身の機動騎士である。


 一機だけはスカート型のバインダーを所持しているが、機体自体はネヴァンによく似ていた。


「太いのは別としても、機動騎士っていうのはどれも同じに見えるな」


 ティム大佐がそう言うと、エマがムッとした表情で言い返してくる。


 機動騎士が大好きな娘だから、ティム大佐の物言いに我慢ならなかったのだろう。


「全然違いますよ。確かにネヴァンと似ている部分は多いとは思いますけどね。でも、多分ですけど第三兵器工場の機動騎士ですよ」


「建造された場所が同じだったのかよ。それはそうと、どうして次世代機で揃えているうちに、今になって旧式を持ち込んだんだ?」


 今更何を試験するというのか? ティムの疑問に答えようとするエマだったが、事情を知らされていないので何も言えない。


「それは――あたしもまだ確認していませんけど、受け入れが終わったら詳しい事情を聞けますよ。二つとも機密の多い機体だと聞いていますからね」


 エマの説明を聞いて、ティムはため息を吐いた。


「機密が多いってことは、厄介事も多そうで嫌になるな」


「また面倒そうにして……」


 話をしている間に二人はメレアの艦内へと移動し、格納庫へと入った。


 メレアの格納庫内では、忙しそうに動き回る整備兵たちの姿が確認出来る。


 彼らは大声を出して機動騎士の搬入作業を行っていた。


「次の機体が来るスペースを先に用意しておけ!」

「ラクーンを移動させればいいんだよ!」

「オーライ、オーライ……」


 怒鳴り声の応酬が行われている格納庫だが、剣呑な雰囲気は感じられなかった。


 その様子を見ていたティムは昔を思い出す。


(随分と活気が出来てきたな。まさか、このお嬢ちゃんに影響されてしまうとは思ってもいなかったぜ)


 メレアのクルーは四割以上も退役しており、半数近くが新規クルーで補われる予定だ。


 雰囲気が変わっても仕方がない。


 しかし、動き回っている整備兵たちの中には古株も多かった。


 エマと二人で並んで歩いていると、気付いた整備兵たちが敬礼を行い、すぐに作業に戻っていく。


 少し前まで挨拶すらろくにしなかった連中の変わり振りに、ティム大佐は夢でも観ているような気分だった。


「変われば変わるものだな。少し前まで左遷先だったうちが、今では普通の軍隊みたいだぜ」


 ティム大佐の言葉にエマが小さくため息を吐いた。


「昔も今も軍隊ですよ」


「あ~、そうだったな」


 ティム大佐がとぼけると、エマが口を開きかけて何かを言おうとするのだが――そこに、ラクーンのコックピットから顔を出した【ダグ・ウォルッシュ】准尉が声をかけてくる。


「大尉殿、申し訳ないが後で小隊連携の確認を手伝って頂けませんかね?」


 ダグに呼ばれたエマは、ティム大佐に顔を向けて敬礼を行う。


「ここで失礼します」


「あぁ、ご苦労さん」


 無重力状態の格納庫で、エマは床を蹴って飛び上がるとダグのコックピットに向かった。


「どうかしましたか?」


 問われたダグだが、ティム大佐の方を見るとニッと笑って敬礼を行ってから顔をエマの方に向けて真剣な顔で話をする。


「アタランテに追従する際のパターンだが、どうにもシミュレーターで実行すると失敗が多いんだよ。そもそも加速力が違うんだから、通常のパターンはほとんど使い物にならないな」


 ラクーンのコックピットでシミュレーターを起動して、小隊の連携を確認していたらしい。


 言葉遣いは以前のようにタメ口が目立っているのだが、それでもダグからはエマに対する一定の評価が見て取れた。


 エマの方も以前と違って弱々しい態度を取らない。


「訓練の際に確認しましょう。どのみち、実際に動かしてみないとわからないこともありますからね。それまでに全てのパターンを体に覚えさせて下さい」


 知識だけならば教育カプセルで叩き込めるが、それはあくまでも頭の中にあるだけだ。


 使いこなすには実際に意識して使用するしかなく、使わなければ忘れ去っていく。


 使えるかどうかわからない連携を覚えろと言われたダグは、小さくため息を吐いて頭をかいていた。


 ただ、そこに不満そうな様子はない。


「それしかないか。聞いたな、ラリー? 実機での訓練前には、大尉殿に言い訳が出来る程度には上達しておけよ」


 ダグが隣にあるラクーンに向かって声を張り上げれば、コックピットハッチが開いて【ラリー・クレーマー】准尉が姿を現した。


 本人は汗だくで髪まで濡れている。


「一日何時間訓練していると思っているんだよ? これ以上はどうしようもないって!」


 汗だくのラリーが抗議をすると、ダグの方は眉根を寄せている。


「実機訓練まで時間があるだろ」


 疲れ切ったラリーは、余裕のあるダグを見て呆れている。


「というか、ダグは疲れたりしないの? 僕はもうヘトヘトなんだけど?」


「お前はそもそも体力が不足しているからな」


 三人が今後の小隊についてあれこれ話をしていると、第三小隊の専属整備兵である【モリー・バレル】一等兵が顔を出す。


 ツインテールで肌の露出が多いのは変わらずで、モリーに限っては統一政府に任務で出向いた際から大きな変化はなかった。


「休暇から戻ってくるなり、二人とも訓練ばかりだね。以前とは大違いだよ。まぁ、おかげで機体の調整もはかどって大助かりだけどさ」


 ダグの方は力こぶを作って見せる。


「俺の方は休暇中も錆落としのために鍛えていたからな。ラリーとは鍛え方が違うぜ」


 引き合いに出されたラリーは嫌そうな顔をしていた。


「今の会話で僕を下げる必要があったの? ていうか、ダグが自慢したいだけだろ」


 アタランテの開発と統一政府への輸送物資護衛任務――長期間の任務を終えたメレアのクルーには、相応の休暇が用意された。


 その後に待っていたのは訓練の日々だ。


 全員が教育カプセルに放り込まれ、再教育を受けることになった。


 理由は単純で、これまでろくに訓練をしてこなかったためである。


 四割以上のクルーが退役して艦を降りたこともあり、追加人員の受け入れを機として上層部はメレアの再教育を決定した。


 以前の任務から時間はかかってしまったが、メレアはようやく本格稼働を迎えようとしている。


(どいつもこいつも休暇明けから真面目に戻りやがったもんだぜ)


 ティム大佐は休暇中もメレアに残って過ごしていた。


 そもそも帰る家がない。


 いや――帰れる家がない。


(……今頃、俺の家族はどうなっているだろうな。連絡を取らなくなって、もう百年以上になるか? 確か、孫が三人いるはずだったが……みんな、生きていてくれればいいがな)


 いつからか家に帰らず、家族とも連絡を取らないようになった。


 子供たちが独立して孫がいるのは知っていたが、その後はどうなったか知らない。


(まぁ、今更だな。家族の心配なんて俺らしくもない)


 ティムは帽子をかぶり直して、ブリッジへと向かった。


新作【フェアリー・バレット】の投稿を開始しておりますので、よければそちらも読んでいただければと思います。

GCN文庫様より書籍化前提の作品ですので、Web小説としては読み難いと思いますが、どんな作品なのか触れて確かめていただくために投稿しました。


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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です、のスピンオフ作品となっており、こちらはリオンとマリエの二人が一緒になって物語を進めて行く作品になっています。

応援よろしくお願いいたします。

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