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強化兵士

……宣伝に疲れました。


はぁ、呼吸をするように宣伝できるようになりたい。

 前線に出たメレアから出撃したアタランテの臨時小隊は、苦戦する味方の救助に成功していた。


 その様子を旗艦のブリッジで確認していたマリーは、満足したのか微笑を浮かべている。


「やれば出来るじゃないの」


 隣にいるヘイディが、アタランテの活躍を見て口笛を吹く。


「第三兵器工場のじゃじゃ馬は、噂以上の化け物機体だな」


 アタランテの性能に目が行っているヘイディに、マリーはやや呆れた口調で言う。


「相変わらずのお馬鹿さんね。見るべきは機体ではなくパイロットよ。――さて、戦況はどうなっているのかしら?」


 ヘイディは周囲に幾つもの映像を浮かべ、それらを瞬時に確認してから答える。


「よく戦ってはいるが、敵の攻勢に押され気味だな。まぁ、状況的にこっちが不利であるから、頑張っている方だろ。敵がこのままなら、最終的にこっちが勝つだろうな」


 気を抜いたヘイディの説明を聞いて、マリーは少しばかり考え込む。


 その後すぐに、冷たい微笑を浮かべていた。


 ヘイディが頭をかく。


「何をするつもりだ、マリー?」


「決まっているじゃない」



 反乱軍の旗艦には、ミゲラの姿があった。


 司令官の席に座っており、ヒステリックに周囲へ命令を出している。


「どうして数で劣る敵にここまで苦戦しているの! 敵を追い払いなさい!」


 戦況を簡易的に表示しているモニターを見れば、味方の前衛が崩れつつあった。


 崩れずにいるのは、期待していなかったダリア傭兵団の艦隊である。


 ミゲラの側に立つ司令官が、眉根を寄せながらミゲラに説明する。


 だが、これまで何度も繰り返した説明なのだろう。


 声に呆れが含まれている。


「輸送船を攻撃できない状況で、これ以上は攻められませんよ」


 奇襲をかけたまではいいのだが、問題はミゲラの狙いが物資を満載した輸送船ということだ。


 敵艦は攻撃しても、輸送船には傷を付けるなと注文が入っている。


「あの輸送船の物資は、今後我々が活動するために必要な物なのよ」


 政治的にも、軍事的にも物資が欲しいのは事実。


 だが、それを可能とする力を持っていなかった。


「敵は精強です。物資を諦めなければ、勝てません。統一政府に物資が渡らなければ、それでいいではありませんか」


「軍隊を動かすために物資が必要だと言ったのはあなたたちでしょうに!」


 先程から言い合いが続いているが、ミゲラは司令官の説得を諦めたらしい。


「もういいわ。さっさと強化兵たちを出しなさい。薄汚い傭兵たちが持ち込んだ人型機動兵器があるでしょう?」


 人型機動兵器――帝国で言う機動騎士である。


 司令官が苦々しい顔をする。


「彼らは我々にとっても切り札です。それに、訓練が終わっていません」


「いいから、保存している連中も全て出しなさい! これは命令よ!」


 統一政府は文民統制であり、その流れをミゲラたちも引き継いでいた。


 司令官が命令を出す。


「全強化兵を出撃させる。――コールドスリープ中の強化兵士たちを目覚めさせろ」



 狭い部屋に押し込められているのは、騎士――統一政府では強化兵士と呼ばれる軍人たちだった。


 彼らはその人生を軍に捧げており、一般人とは違って多くの自由を失っている。


 全員が脱毛しておりスキンヘッドで、生殖機能にも制限がかけられていた。


 感情のない無機質な表情をしている彼らは、命令が出されると黙って立ち上がりパイロットスーツに着替えて人型機動兵器へと向かう。


 そして、冷凍保存された一部の強化兵士たちも、大急ぎで目覚めさせられる。


 軍隊では彼らを道具として扱っていた。



「これで八隻目!」


 ネヴァン・カスタムの操縦席では、ラッセルが汗だくになっていた。


 小隊で共同撃墜した巡洋艦が、炎に包まれていく光景がモニターに広がっている。


 最初に戦艦を一隻撃破したのはいいが、その後は自分たちを放置できないと考えた反乱軍が集中的に狙ってくるため苦戦を強いられている。


 素早く残弾数や酸素、エネルギーなどを確認する。


「まだ戦えるが、これ以上は厳しいか」


 補給のタイミングを考えていると、敵艦隊から機動騎士が出撃したのが見える。


 統一政府で言う人型機動兵器だが、そのフォルムに違和感を覚えた。


「何だ?」


 これまで戦ってきた敵と違うのは、機動騎士を思わせる姿をしていたからだ。


 統一政府が使うような機動騎士ではなかった。


 ネヴァン・カスタムも敵機のデータを解析する。


 その結果、貴族の機体に六割以上も酷似しているというデータが出てきた。


 その既存の機体というのが、第一兵器工場で開発された物だった。


「帝国から流れた新型機か!? 全員、気を引き締めろ。今度の連中はネヴァンと同世代の最新鋭機だぞ!」


 向かってくる機動騎士に対して、シャルが斬り込む。


 その動きは、一般兵とは異なっていた。


『こいつら強化兵? なら、僕のスコアになれよ!』


 レーザーブレードの二刀流で敵機を斬り刻むシャルだったが、敵は一機ではない。


 それに、撃破するまでに時間がかかっていた。


『ちっ! こいつら思っていたよりも強いじゃないの!』


 後ろでライフルを構えているヨームは、敵の動きを見て僅かに焦っていた。


『強化兵を大量投入してきましたね。もっと他の戦場にも目を向けるべきでしょうに』


 ラッセルはこの状況が危険であると察し、自分のミスを後悔する。


「目立ちすぎた。もっと早くに後退するよう進言するべきだったのに!」


 このまま逃げ出せば、後ろから撃たれてしまう。


 だが、騎士と同程度の力量を持つ強化兵の乗る機体が、自分たちを包囲していた。


 状況としては絶望的である。


 そんな中、アタランテは専用の多目的ビームライフルを背中にマウントする。


 空いた両手に持つのは、急造のホルスターに収納していた二丁拳銃だ。


 両手に武器を持ったアタランテの関節から、放電現象が起きる。


 過負荷状態――オーバーロードになると、機体色までもが黄色になっていく。


「何をしている、ロッドマン!?」


 アタランテは機密事項も多い機体であるため、ラッセルはこの状態を知らなかった。


 モニターにエマが映ると、この状況でも驚いた様子がない。


『あたしが突破口を作ります。全員、うしろからついてきてください』


「一人で何をするつもりだ! すぐに私たちが支援を――」


『いえ、いりません。アタランテ――本気を出すよ!』


 アタランテが加速すると、黄色い光が尾を引いていた。


 そのまま敵機に襲いかかると、次々に破壊していく。


 一機、二機――気が付いた時には、取り囲まれた包囲網に穴が出来つつあった。


(ロッドマン――君はこんなにも――くっ!)


 ラッセルは目の前の光景が最初は信じられなかったが、すぐに気持ちを切り替える。


「ロッドマンの切り開いた道を進む! 二人とも遅れずについてこい!」



 一人の強化兵が、コックピットから発光する機体を見ていた。


 何とも馬鹿げた機体だ。


 戦場で発光するなど、自らの位置を敵に教えているようなものである。


 帝国らしい無駄な機能がついた人型機動兵器だ、と。


 抑制された感情で発光する機体を見ていると、その両手にはブレードのついた拳銃を握っている。


 距離を取れば射撃で、近付けば斬り付けてくる。


 だが、しょせんは一機だけだ。


 他の三機は、自分たちが乗る機体とほぼ性能が変わらないだろう。


 たった四機の機動騎士など、すぐに破壊して次の任務が与えられるだけ――そう思っていたのに。


『全機、あの発光する機体を最優先に――』


 隊長機からの通信が途絶えたと思えば、発光する機体が原因だった。


 敵機が隊長機のコックピットにブレードを突き刺し、数発のレーザーを撃ち込んでから蹴り飛ばしていた。


 爆発する隊長機。


 強化兵は、長い間を共に戦ってきた隊長の喪失に僅かに心が動く。


「指揮権を引き継ぐ。全機、あの機体を囲め」


 既に十機以上が破壊されているが、与えられた命令は友軍の脅威となる機動騎士小隊の破壊である。


 撤退命令がでておらず、弾けない状況にあった。


 部下たちが進言してくる。


『損耗率が二割に達しました。撤退を進言します』


「却下だ。先程母艦に進言したが、任務継続を言い渡された」


 味方機が次々に襲いかかるが、発光する機体を捕らえられなかった。


 そして、発光する機体が強化兵の目の前に――。


「――帝国の化け物め」


 ――直後、コックピットは炎に包まれ、強化兵の命はそこで途絶えてしまう。



 かつてゴールドラクーンと呼ばれた機体は、その名をキマイラに改められていた。


 失った左腕には、右腕よりも長い別機体の左腕が取り付けられている。


 長い爪を持っており、腕自体が武器となっていた。


 シレーナ率いるダリア傭兵団の機動騎士部隊。


 ゴールドラクーンに搭載された機能でレーダーと視界から消え、輸送船に接近していた。


「せめて一つくらい拿捕しないと、あの女が五月蠅そうだからね」


 急に姿を見せた傭兵団の機動騎士たちに、ニューランズ紹介の輸送船からは機動騎士が出撃する。


『隊長、やつらの用心棒たちが出てきましたよ』


 部下の言葉を聞いて、シレーナは唇を舌で舐める。


「ニューランズ商会ご自慢の用心棒の皆さん、私たちが遊んであげるわよ」


 迫り来る敵機を左手の爪で貫き、振り払うキマイラ。


「さて、ブリッジを押さえるとしましょうか」



 メレアのブリッジでは、輸送船からの救援要請が届いていた。


「敵にすり抜けられるとは、護衛艦隊も大したことがないな」


 司令官の席に座る大佐は、救援要請を聞いても助けに向かうつもりはなかった。


 指揮権をエマに取られたため、勝手にメレアを動かせないためだ。


 オペレーターが振り返って大佐の顔を見る。


「どうします? 味方は目の前の敵で手一杯ですが?」


「騎士様の命令に従うだけだ。そもそも、パイロットは全員出撃許可が出ていないだろ?」


 これもエマのせいだ、という大佐にオペレーターが悩ましい顔をしていた。


 かつて――自分たちを死地に放り込んで助けなかった上層部と同じではないか? そう言われたのが堪えているようだ。


 それは大佐も同じである。


 落ち着かない様子で椅子に座っていると、ブリッジにダグがやって来た。


 パイロットスーツに着替えており、出撃準備を終えている。


 どうやら、酒も抜いてきたようだ。


「司令、出撃の許可をくれ! それが無理なら、俺たちは勝手に出る」


「ダグ? だけど、お前――」


 ダグの後ろを見れば、そこにはラリーを始めパイロットたちの姿があった。


「あのお嬢ちゃんに言われたまま、引き下がれるかよ。それに、俺は――俺たちは、あいつらと同じにだけはなりたくない」


 これまでの行いに悔やむ顔をするダグは、悔しそうで――そして悲しそうだった。


 ダグが言う。


「――勝手に出撃する。ハッチを開いてくれ」


 心では気付いていたのだ。


 自分たちがかつて嫌った上層部と同じであり、行き場のない怒りを現在の上層部にぶつけているだけだと。


 だが、どうすることも出来なかった。


 旧軍が解体された際に糸が切れ、心が折れてしまい、立ち上がれずにいた。


 大佐が帽子をかぶり直し、そしてシートから立って指示を出す。


「機動騎士だけで出撃して、エネルギーを消耗してどうする? メレアはこのまま輸送船の救援に向かう。お嬢ちゃんには知らせておけ」


 オペレーターが驚きつつも、僅かに嬉しそうにしていた。


「いいんですか?」


「民間人を守るためだ。あの正義の味方気取りのお嬢ちゃんに、文句を言われる筋合いはない」


「はい!」


 パイロットたちが自分たちの機体へと向かう中、大佐はダグを呼び止める。


「ダグ、本当に良いんだな?」


 ダグは背中を向けたまま答える。


 どうやら、気恥ずかしいようだ。


「今更柄じゃないのはわかっているんだが、あそこまで言われて立ち上がらなかったら――俺は本当に生きたまま死ぬのと同じだ」


 ダグがブリッジから去って行くと、大佐が呟く。


「――生きたまま死ぬのと同じ、か。ま、確かに死んでいたのと同じだわな」


ブライアン(´;ω;`)「あのお嬢さんが騎士として立派になり、ブライアンは嬉しいです。そしてこの作品の本編である【俺は星間国家の悪徳領主! 7巻】が発売中でございます。いずれ本編にてお嬢さんが登場するまで、どうか応援何卒よろしくお願いいたします」


若木ちゃん( ゜∀゜)「あちし、復活した苗木ちゃん! みんなの声援げんちょうを受けて本日から復活したわ。みんな、私がいなくて寂しかった? ――寂しかったって言え」

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