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天才と凡人

5月25日発売予定の【俺は星間国家の悪徳領主! 7巻】特典情報!!


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「ごふっ!?」


 旗艦に呼び出されたエマたちだったが、今は何故かトレーニングルームにいた。


 艦内に用意された騎士専用とも言うべきトレーニングルームでは、中央に位置するリングの上で戦うマリーの姿があった。


 戦う相手はエマたち四人。


 四対一で戦いが行われていたのだが――マリーが圧倒的な強さを見せつけていた。


「どうしたのかしら? この程度とは言わないわよね、エリート君?」


 ラッセルの逆立てた髪を掴み、そのままリングの床に叩き付ける。


 既にヨームは気絶して床に倒れ込んでいた。


 周囲には旗艦に所属している騎士たちの姿があり、野次を飛ばしてくる。


「やっちまえ、マリー!」

「おいおい、もっと頑張れよ新人共」

「くそっ! 大穴狙いで四人に賭けるんじゃなかったぜ!」


 周囲が騒がしいが、エマは気にしている余裕がなかった。


(こっちは四人で、しかも武器を持っているのに!)


 エマたちが持っているのはショックソードと呼ばれる武器だ。


 訓練用であり、相手を痺れさせるが致命傷を与えることはないはずの武器だ。


 そんなショックソードを持ったエマたち四人を相手に、マリーは素手で戦っている。


 ラッセルを放り投げたマリーは、様子を見ているエマたちに右手を上に向けて指を曲げた。


 ――かかってこい、と挑発してくる。


「舐めやがってよぉ!」


 その挑発に乗ったのは、ショックソードを二本持つシャルだった。


 六十センチ程度の長さの短剣二本を持ち、マリーに飛びかかる。


 その動きを見ていたエマは、シャルに驚く。


(速い!? それに強い)


 天才と言われるだけあって、シャルはマリーをリングの隅に追い詰めていく。


 手数で押し切ろうとしているようだ。


 しかし、どの攻撃もマリーに見切られて避けられていた。


「さっきの二人よりは楽しめるわね」


「糞が!」


「言葉遣いが汚くてよ」


 追い詰められたはずのマリーが、シャルの猛攻をくぐり抜けた。


 シャルの頭部を鷲掴みにすると、そのまま投げ飛ばしてしまう。


 床に叩き付けられたシャルが、受け身を執って立ち上がると口元を拭う。


「ここまで差があるなんて」


 信じられないという顔をするシャルを前に、マリーはわざとらしくガッカリして見せる。


「噂の天才ちゃんもこの程度ね」


「は? 僕が得意なのは機動騎士だし。そっちなら僕が――」


「無理よ。機動騎士で勝負しようと、あなたじゃあたくしには勝てないわ」


 言い切られてしまったシャルが、眉間に皺を作っているとマリーがその理由を教える。


「小利口だから小さくまとまっているのよ。戦場に出れば毎回のように五機を撃墜して、後は適当に流すだけ。もう少し上を目指してご覧なさいな」


「いくら頑張ったところで、手当は出ないじゃん」


「二十機以上を撃破してみなさい。勲章と一緒に、金一封がもらえるわよ」


「いや、それは」


 一度の戦闘で二十機以上を撃破すると、バンフィールド家では勲章が授与される。


 これは騎士の乗る機動騎士を対象としており、非常に獲得が困難な勲章の一つだ。


「だから小利口止まりなのよ。お前のような天才は掃いて捨てるほどいるけれど、そいつらが大成する確率は低いわ。お前もその一人よ」


 天才と呼ばれもてはやされる者も多いが、その多くが途中で挫折をする。


「だったら、アンタを倒してしょうめ――」


 証明してみせる――そう言い終わる前に、マリーがシャルに接近して拳を見舞っていた。


 シャルは気付くことなく意識を刈り取られてしまう。


 ラッセル小隊の三人が意識を失ったのを確認すると、マリーが小さくため息を吐いた。


「準備運動にもならないわね」


 実際に汗一つ書いていない。


 残ったエマは、ショックソードを構える。


「っ!」


 一人となったエマは、マリーに対してどのように戦えば良いか考えていた。


 しかし、どうやっても勝てるイメージが思い浮かんでこない。


 両手を腰に当てたマリーが、そんなエマを見ている。


(どうせ何もせずにいても負ける。――だったら!)


 エマが踏み込んで一気に距離を詰めると、ショックソードを斜め下から斜め上と斬り上げた。


 強化された騎士の肉体による斬撃だ。


 一般人なら避けるのは困難だろう。


 しかし、マリーは微笑みながら一歩後ろに下がって避ける。


「浅いわね」


「っ!?」


(避けた!? しかも紙一重なんて!!)


 ショックソードの刃がギリギリ触れない程度で避けたマリーを見て、エマは信じられなかった。


 驚いた瞬間に、今度はエマの腹部にマリーの拳が打ち込まれる。


「かはっ!!」


 エマが吹き飛んで床を転げる。


(見えていたのに、何も出来なかった)


 野次馬たちの声がする。


「これで終わりか?」

「ヒヨッコ共はこの程度だろ」

「見込みがあるのは、二刀流の奴だけだな」


 試合が終わったような雰囲気を出す野次馬たちだったが、エマは腹痛に耐えながら何とか立ち上がる。


「ま、まだまだ」


 脚が震えてまともに立ち上がれないのだが、そんなエマの姿を見たマリーが意外そうな顔をした後に――微笑んだ。


「いい根性をしているじゃない。嫌いじゃないわよ」


 そう言われた瞬間に、マリーがエマに急接近してくる。


「え?」


 エマが気付いた時には、視界に天井が広がっていた。


 そのまま意識が刈り取られてしまったため、マリーが何をしたのかわからなかった。



 リングの上に倒れ伏す四人を見下ろすマリーに、ヘイディが近付いてくる。


「あ~あ、エリート共が秒殺かよ。若手のプライドをへし折って楽しいのか?」


 マリーのやり方にやや否定的なのだろう。


 だが、ヘイディはシャルに視線を向ける。


「期待できそうなのはこの子だけだな。他は良くも悪くもお行儀良くまとまった普通の騎士って感じだ。やっぱり、教育した連中の影響だな」


 周囲の野次馬たちも散り、今はそれぞれがトレーニングを行っている。


 若手たちへの興味は失せてしまったらしい。


 だが、マリーは気を失っているエマを見下ろしていた。


「――ヘイディ、この子を残して、他は母艦に戻しておきなさい」


 マリーの命令を聞いて、ヘイディが僅かに驚く。


「残すのは天才ちゃんがないのか?」


 マリーが自分の乗艦に残すならば、シャルの方だと思い込んでいたらしい。


 だが、マリーが見ているのはエマだった。


「そっちはいいわ」


 ヘイディが小さくため息を吐くと、エマの方を見ながら頭をかく。


「マリーの好みは凡人ちゃんか――まぁ、どうでもいいけどよ」



 メレアに帰還した第三小隊の面々とラッセル小隊だったが、その中にエマの姿はなかった。


 格納庫では、ラッセルたちがマリーについて話をしている。


「あの女、僕のことを馬鹿にしやがって」


 戻ってきてからというもの、シャルのご機嫌はずっと悪い。


 その様子にヨームは呆れていた。


「最上位のAAAランクは伊達じゃないよね。俺たちじゃ相手にもならないよ。隊長も瞬殺でしたし」


 ヨームがラッセルに視線を向けるが――。


「かつてバンフィールド家の両翼とまで呼ばれたマリー様に、鍛えて頂けるなんて思いもしなかった。悔やむのは一瞬で終わったしまった事だ。次回があるかわからないが、その日のために私はもっと強くなりたい」


 ――目を閉じて感動しているラッセルの姿を見て、ヨームとシャルが顔を見合わせる。


「バンフィールド家の両翼って聞いたことある?」


「さぁ? でも、隊長ってバンフィールド家オタクでしょ? 一般的じゃない二つ名とかにも詳しいわよね。――ちょっと引くわね。これさえなければ、完璧なんだけどなぁ」


 どうやらバンフィールド家に対して、忠誠心とは別で並々ならぬ感情を抱いているようだ。


 そんなラッセル小隊の会話を聞いていたのは、同じく一緒に戻ってきたエマを除いた第三小隊の面々である。


 ダグが小さくため息を吐く。


「呼び出されたと思ったら、今度はお嬢ちゃんを残して帰れ、か。最初から俺たちまで呼び出す必要はなかっただろうに」


 無駄な呼び出しには、ラリーが腹を立てている。


「大雑把に小隊単位で動かすからですよ。うちの悪習ってやつですね」


 二人が上層部への不満をこぼす中、モリーの方は心配そうな顔をしていた。


 この場にエマがいないのを不安がっている。


「エマちゃんだけ残されるとか、もしかして思っていたより罰が重いのかな?」


 不安の原因は、メレアの戦闘への消極性だ。


 その責任をエマが取らされているのではないか? モリーはそんな風に考え、エマを心配していた。


 だが、ラリーは肩をすくめる。


「馬鹿馬鹿しい。命令を出したのは大佐だよ。責められるのは大佐であって、中尉のあいつじゃないさ」


「――大体、ラリーとダグさんがやる気がないからエマちゃんが怒られたんじゃないの?」


 モリーの不安を解消しようとしたラリーだったが、逆に責められるとは思わなかったのか困惑していた。


 エマに対して協力的ではないのも身に覚えがあるため、少しばかり罪悪感があるらしい。


「いや、それは違うだろ!」


 否定はするが、目の泳いでいるラリーを見てダグがため息を吐く。


「俺たちの責任なら、うちの大佐が叱責されるだけだろうさ。お嬢ちゃんの件とは別だ」


 モリーが口を尖らせる。


「それなら、エマちゃんだけが残されるとかあり得ないと思うんですけど」


 そんなモリーたちの会話に、割り込んでくるのはラッセルだった。


 会話が聞こえていたのだろう。


 ――ラッセルは不快感をあらわにしていた。


「隊長が脳天気なら、部下たちも脳天気になるらしいな」


 侮辱されたと思ったラリーが、騎士を相手に睨み付ける。


「エリート様が僕たちの会話を盗み聞きするとは思わなかったよ」


 反抗的な態度を取るラリーに、モリーとダグは「またこいつは」と呆れたような、それでいて焦ったような顔をしていた。


 騎士という存在に、一般の兵士が喧嘩を売っても勝負にすらならないのだから。


 まして、帝国に属するバンフィールド家では騎士は特権を持っている。


 睨まれたラッセルだが、ラリーに冷たい視線を向けている。


「ロッドマンには少しばかり同情するよ。お前たちのような腐った連中を押しつけられたんだからな」


 ラッセルの言葉に、ラリーが怒りを露わにする。


「あん?」


「反抗的な態度を取る前に、自分の行いを省みるべきだ」


 それだけ言って、ラッセルは小隊メンバーを連れて格納庫を去って行く。


ついに明後日には【俺は星間国家の悪徳領主! 7巻】が発売となりますね!


今回は約10万字を追加しておりますので、どうぞお楽しみください!!

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