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エリート小隊

感想欄にあとがきの話題が多くて驚きました。


ただのお遊びではじめただけなのに、随分と人気を得ていたようですね。


悩むなぁ……。

 軽空母メレアの機動騎士運用格納庫。


 ラクーンばかりが並ぶ格納庫だが、アタランテの他にネヴァンタイプが三機だけ用意されていた。


 エマ率いる第三小隊の面々は、少し離れた場所からネヴァンを見ている。


 機動騎士が大好きなモリーが、瞳を輝かせていた。


「アレってカスタムタイプだよね? カタログスペックだと、普通のネヴァンより性能が二割増しって話だよ。一度で良いから触ってみたいな~」


 バンフィールド家で用意される量産機ネヴァン。


 そのカスタムタイプと聞いて、【ラリー・クレーマー】准尉が眉根を寄せていた。


 不機嫌になった原因は、特別扱いを受ける彼らに対してだろう。


「エリート様たちの専用機か。随分と金をかけているようだけど、それならもっと前に僕たちにも予算を割けと言いたいよね」


 カスタムタイプのネヴァンが与えられるのは、騎士の中でも一部の者たちだけ。


 ラッセル率いるエリート騎士の小隊に、試験的に与えられたとエマは聞いていた。


 だが、それよりも。


「ラリーさん、あたしたちだってラクーンを支給されたじゃないですか」


「これまで酷い扱いを受けていたのに、急に手の平を返されてもね」


 意固地になったラリーを見て、エマはため息を吐く。


(環境が改善されたのに、これじゃあ今までと変らないよ)


 部下に対してどのように接するべきか悩んでいると、今度は【ダグ・ウォルッシュ】准尉がアゴに手を当てながら言う。


「言うなよ、ラリー。あいつらはエリート様で俺たちとは違うのさ」


 ダグの発言を聞いて、エマは肩を落とす。


「ダグさんまでそんなことを言わないで下さいよ」


「事実だろう?」


「確かにエリートですけど――」


 ラッセルとその二人の部下も、騎士学校を卒業する際に上位百名に名を連ねた者たちだ。


 エマとは違い、彼らは卒業と同時にバンフィールド家でエリートコースを歩んできた。


 ネヴァン・カスタムを与えられたのも、期待されている証拠である。


 小隊編成だが、大尉のラッセルを小隊長に、他二名は中尉となっている。


 三名とも上位百位以内の成績で卒業した優秀な騎士たちだ。


 第三小隊の面々が様子を見ていると、女性騎士が顔を向けてくる。


 褐色肌に、ロングストレートの金髪。


 細身の体をしており、軽薄そうな性格をしている人物だ。


 名前は【シャルメル・オダン】中尉。


 見た目通りの軽い調子で第三小隊を見てあざ笑う。


「隊長ぉ~、さっきから見つめられていますよぉ~」


 ラッセルに声をかけると、丁度もう一人の部下である【ヨーム・バルテ】中尉と何やら打ち合わせをしていた。


 前髪で目元を隠した青年は、性格が暗そうに見える。


 ラッセルよりも小柄で華奢な見た目もあって、騎士には見えない。


 だが、ラッセルの小隊にいる時点で、彼も優秀な騎士なのだろう。


「隊長の同期でしたっけ? 噂の新型を受領した天才って話でしたけど――少しも怖い感じがありませんね」


 エマから見れば、シャルメルもヨームも騎士としては後輩に当たる。


 しかし、二人はエマを先輩として敬っていないのが、言動から伝わってくる。


 ラッセルは、自分たちを見るエマたちに気づいて露骨に嫌そうな顔をした。


「――本当に嫌になる。任務のためとは言え、どうして私たちがこの艦に乗らねばならないのか」


 かつて左遷先扱いをされていたメレアに対して、ラッセルは嫌悪感を抱いているようだ。


 その言動に、ラリーとダグの視線が険しくなった。


「はっ! 誰もエリート様に乗って下さい、なんて言っていないけどね」


 ラリーの嫌みに対して、ラッセルは冷静に言い返す。


「我々は命令で動いている。個人的な感情で母艦を決められるほど、私はまだ偉くないのだよ。文句なら上層部に言うといい」


 冷たい目を向けられたラリーが口をつぐむと、今度はダグの出番だ。


「そっちこそ、メレアに乗りたくないと上層部に掛け合ったらどうだ? 俺たちよりも、エリートであるお前たちの言葉を上層部は聞くだろうさ」


 すると、シャルメルとヨームが顔を見合わせ、互いに首をかしげていた。


 ラッセルは頭痛を覚えたような顔をしている。


「個人的な感情で命令を拒否できると考えているならば、この部隊は本当に救えないな」


 正論を言われてダグまでもが口をつぐむと、シャルメルとヨームが肩をすくめていた。


「僕と同じBランク騎士がいるって聞いて楽しみにしていたけど、この連中を見ていると期待薄だね」


 シャルメルがそう言うと、エマが反応する。


「同じBランク?」


「そうだよ。僕はこれでもBランク騎士だからね。隊長よりもランクが上だよ」


 胸を張るシャルメルに対して、ラッセルが何とも言えない顔をしていた。


 自分を貶す部下に文句の一つでも言ってやりたいのだろうが、事実であるため叱責できずにいるようだ。


「小隊長は私だぞ」


「わかっていますよぉ~」


 軽い返事をするシャルメルだったが、エマは驚きを隠せなかった。


 目の前の彼女が、自分と同じBランクというのが信じられなかったからだ。


(騎士学校を卒業したばかりでBランクになるなんて、普通はあり得ないはずなのに)


 エマがBランクに昇格したのは、アタランテという機動騎士があればこそ。


 大きな事件を解決した功績が認められたからだ。


 エマ本人は、運が良かったと思っている。


 それなのに、自分よりも年下の後輩騎士が、いとも簡単にBランクに昇格しているのが不思議で仕方がない。


 驚きが顔に出ていたため、気づいたヨームがエマに教えてくれる。


 そこには少しばかり見下した態度があった。


「シャル――シャルメルはいわゆる天才って奴でしてね。三度の出撃で、騎士の乗る機動騎士を十五機も撃破しています」


「十五機!?」


 第三小隊の面々が、その数字に面食らう。


 一般兵を相手にしたのではなく、騎士の乗る機動騎士を十五機も撃破した――それがいかに困難なことであるかは、第三小隊の面々も理解していた。


 ラリーが困惑している。


「三度の出撃で十五機って、一度の戦場で平均しても五機を撃破したことになるぞ」


 シャルメル――シャルは、エマに挑発的な視線を向ける。


「ちなみに先輩は、何機撃破したんですか? 新型の超強い機動騎士ですから、もう三桁は撃破しましたよね?」


 自分はネヴァンのカスタム機で十五機を撃破したぞ、という自慢。


 これまでの活躍に対して、撃破数が少ない――騎士の乗る機動騎士を相手にした回数も少なく、シレーナが乗るゴールドラクーンを相手にはしたが、その時は逃げられてしまった。


「ゼ、ゼロだけど」


 馬鹿正直にエマが答えると、呆気にとられたシャルが一瞬だけ真顔になって――すぐにお腹を抱えて笑い出す。


「撃墜数なしって凄くないですか、隊長! もしかして、昇進と昇格はコネなの? いいよね、コネで上を目指せてさぁ~」


 笑われて悔しいエマだが、自分の戦果が少ないのは事実で言い返せなかった。


 悔しがるエマを見て、モリーはアタフタしていた。


 ラリーとダグは顔を背けており、助けてくれる気配がない。


 しかし、ここでラッセルが割り込んでくる。


「シャルメル中尉、そこまでにしておけ」


「は~い」


 シャルが引き下がると、今度は格納庫内に警報が鳴り響いた。


 エマたちが驚いて一瞬動きが遅れる中――。


「シャルメル、ヨーム!」


 ラッセルたちは自分の機体に向かっており、既にコックピットに乗り込もうとしていた。


 その姿を見て、慌ててエマも部下たちに命令を出す。


「あたしたちも出撃します!」



 エマたち第三小隊の出撃準備をはじめた頃。


 ネヴァン・カスタムに乗り込んだラッセルは、苛立ちから顔を歪めていた。


 モニターが周囲の光景を映し出しているのだが、警報が鳴ったというのにクルーたちの動きが鈍かった。


「こいつら正気か? いつまで出撃に時間をかけているんだ!?」


 騎士として軍では花形として活躍してきたラッセルではあるが、周囲に支えられてこそ自分たちが活躍できるのは承知している。


 だが、目の前の光景はあまりにも酷かった。


『出撃? 命令は出たのか?』

『他の連中がどうにかするだろ』

『どの部隊から出撃させるんだ?』


 格納庫でのんきにしている整備兵たちを見て苛立つのは、部下であるヨームも同じだ。


 モニターの一部にヨームの顔が映し出される。


『噂で聞いているよりも酷いですね。左遷先というのも納得ですよ』


 落ち着いているようでいて、その口調は普段よりも冷たかった。


 シャルまでもが腹を立てている。


『こいつら危機感なさ過ぎでしょ』


 シャルもヨームも、騎士学校で優秀な成績を収めている。


 そんな二人からすれば、メレアの状況は信じられないらしい。


 ただ、それでもラッセルのように怒りを抱くことはないようだ。


「旧軍の残りカス共が!」


 ラッセルが味方を罵る言葉を吐くと、モニターに映る部下たちが困惑した表情をする。


『隊長ってば今日はご機嫌斜めだね』


『珍しいわね』



 第三小隊がメレアから出撃すると、既に戦闘が開始されていた。


 アタランテで出撃したエマは、コックピットの中で一度奥歯を噛みしめる。


「こちら第三小隊。メレア、指示を請う!」


 何者かに襲撃を受けている状況なのは明白だが、詳細が伝わってこない。


 メレアのオペレーターに現状の確認を行うのだが、返答は酷い。


『数は――艦艇が二百? いや、三百か? どうせ宇宙海賊だろ。司令、どうします?』


 オペレーターが司令に指示を求めると、返ってきたのは耳を疑う言葉だった。


『味方が優勢なら、こちらが無理をする必要もないだろ』


『――だとさ。適当に味方の支援でもしていろ』


 それを聞いて、エマは我慢できずに声を荒げる。


「味方が戦っているんですよ!」


 すると、ブリッジにいる司令が冷たい声で言う。


『新しい玩具を試したいところを悪いが、無茶をしてダグたちを殺すのは勘弁してくれよ。――味方の支援だ』


 それ以上は何も言わないメレアのブリッジに、エマは悔しさから眉根を寄せる。


「こんなの、前とちっとも変わらない」


 ラッセルに言われた言葉を思い出す。


 ――どれだけ装備を更新しても、中身が腐っていては意味がない、と。


 そんな時だ。


 戦場で活躍する小隊がいた。


「ラッセルの小隊?」


 三機のネヴァン・カスタムが相手にしているのは、モーヘイブのような特徴があまりない機動騎士だった。


 宇宙海賊にしては、連携を重視した戦い方をしている。


 そんな敵を相手に、ラッセルたちは活躍していた。



『気を付けろ、今度の敵は強化兵だ』


 ネヴァン・カスタムのコックピットで、シャルはラッセルと会話をしていた。


「強化兵って言えば――あぁ、統一軍の騎士ですか」


 騎士学校で叩き込まれた知識を引っ張り出し、答えにたどり着く。


『我々のような騎士とは違うけどな。それよりも厄介な敵だ』


 動きの違う敵部隊を前に、シャルは舌舐めずりをする。


「どっちでもいいですよ。――僕のスコアになってね」


 アハッ、と言って笑みを浮かべると同時に操縦桿を素早く動かす。


 フットペダルを踏み込んで加速すると、シャルの機体は銃撃をかいくぐって敵機に接近していた。


 そのまま高出力のレーザーブレードを敵機のコックピットに突き刺す。


「まずは一つ!」


 騎士――強化兵が乗り込む機動騎士たちが、シャルの機体に迫ってくる。


 帝国の騎士よりも連携を重んじるようで、宇宙海賊ながら連携を取っていた。


 だが、シャルは敵機の動きを確認すると即座に動く。


「二つ!」


 回り込んだ敵機に襲いかかり、撃破すると三機目に視線を向ける。


 敵機がシャルの機体を挟み込もうとすると――。


『迂闊だぞ、シャルメル!』


『また俺たちでシャルのフォローだよ』


 ――ラッセルとヨームが、シャルのフォローに入った。


 戦場で暴れ回るシャルに文句を言っているが、それでもフォローは欠かさない。


 そうしている間に三機目を撃破したシャルは、続いて立て続けに四機目、五機目を撃破する。


「これで五つ!! やったぁぁぁ! これで特別手当ゲットォ~」


 嬉しそうにするシャルは、五機目の撃破を確認すると動きを変えた。


 これまで単独行動をしていたわけだが、ラッセル機の後方に回ると打って変わって支援に専念する。


 ヨームが呆れていた。


『特別手当が確定したら大人しくなるのってどうなのさ?』


 ヨームの小言に、シャルはどこ吹く風だ。


「これ以上頑張っても無意味よ。撃墜数っていうのは、効率的に伸さないとね」


 無駄話をする二人をラッセルがたしなめる。


『そこまでにしておけ』


 そのまま小隊は、苦戦している味方の救援へと向かう。



 ラッセル小隊の活躍を見せられたエマは、呆気にとられていた。


 特別手当狙いのシャルにも驚いたが、一番はその優秀さだった。


「――強い」


 エマに対して当たりの強いラッセルだが、言うだけの実力を持っていた。


「それに比べて、あたしは――うちの小隊は――」


 チラリと後方に視線を向ければ、アタランテを追いかけてくるラクーンが二機。


 その機動はやる気が感じられない。


 ラリーとダグの会話が聞こえてくる。


『あいつら、命令は無視ですか? 司令が無茶をするなと言ったでしょうに』


『あの小隊は別枠だ。独自の権限で動けると聞いた。――まったく、騎士様はどこでも特別扱いだな』


 ラッセル小隊の活躍を見ても、出てくるのは僻みだった。


 エマは悔しさと惨めさ、様々な感情に襲われながらも気持ちを切り替えて命令を出す。


「あたしたちも急ぎます。速度を上げて下さい!」


 すると、ラリーとダグからはやる気のない返事が返ってくる。


『同期に刺激されてやる気になったのか?』


『言ってやるなよ、ラリー。それじゃあ、急ぐとしますか』


 文句を言いつつも命令に逆らうことはなくなったが――エマは、自分の小隊がこのままでいいのかと悩むのだった。


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