二章エピローグ
二章も本日で終了です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
惑星ハイドラ。
そこはバンフィールド家の本星であり、領主の方針から自然との調和を大事にしている惑星だ。
宇宙から見ると非常に美しく、宇宙港から観光客たちが足を止めて眺めるほどだ。
そんなハイドラには、バンフィールド伯爵の屋敷がある。
広大な屋敷は、一つの都市というべき広さを持っていた。
その中には騎士たちが働く建物も存在する。
外観にこだわったビルの中。
通信室にやって来た【クローディア・ベルトラン】大佐は、首都星で任務に就く上官のクリスティアナと話をしていた。
クリスティアナ、そしてもう一人のバンフィールド家を代表する騎士マリー・マリアン。
その二人が本星にいない間は、二人の副官や側近たちが本星に控えていた。
クローディアもその一人だ。
今回は定期的な報告を行っている。
「――領内の状況は以上です。時折、何も知らない海賊たちが入り込みますが、その他は寄り付きもしません」
報告を終えると、クリスティアナが普段よりも緊張した様子だった。
何か考えているのか、集中力が欠けている。
「クリスティアナ様、何か気がかりなことでも?」
『――報告は確認しているわ』
問題ないと言われ、クローディアが引き下がる。
クリスティアナは部下に不甲斐ない姿を見せたのが恥ずかしいのか、咳払いをしてみせると話題を変える。
『それよりも、アタランテの開発は成功したそうね』
自分たちにも関係のあるパイロットが、大事な任務を成し遂げた。
元教官であるクローディアは、表情は変えないが内心では喜んでいる。
「難しい任務をやり遂げてくれました。昇進の前払いは済ませていますので、部隊ごと休暇を与える予定です」
エマ・ロッドマンは、アタランテの開発に関わる際に昇進を果たしている。
今回の任務を成功させたから、と昇進させてやるわけにはいかなかった。
その代わりに休暇を与え、英気を養わせようというクローディアの計らいだった。
クリスティアナも頷いている。
『昇進を急ぐ必要も無いわ。しばらくは中尉として、小隊を率いることに集中させてあげましょう』
急な出世が本人のためにならないこともある。
有能ならば問題ないが、エマはパイロットとしては超一流でも騎士としては不器用だ。
昇進は時間をかけて、というのが二人の方針だった。
ただ――。
『でも、休暇は与えられないわね』
「何か問題でも?」
――クリスティアナは、小さくため息を吐きながら理由を話す。
『あの方が帝国の第二皇子――ライナス殿下と本格的に争われることを決めたわ。しばらく、軍は忙しくなるわよ』
クローディアは目をむくが、クリスティアナが言うなら間違いないのだろうと覚悟を決める。
「第二皇子の派閥と争うとなれば、確かに人手が足りませんね」
エマたちに長期の休暇を与えている暇がないと、クローディアも悟る。
クリスティアナは次の命令を出す。
『元アタランテ開発チームは、一度第七兵器工場で整備を受けさせます。そこで奴の指揮下に配属されることが決定したわ』
クリスティアナ「奴」と吐き捨てる。
先程までと違い、クリスティアナ派不機嫌になっていた。
ここまで嫌悪感を抱かせる相手は、クローディアも一人しか知らない。
クローディアの表情も険しくなる。
「――マリー・マリアンですか」
クリスティアナが率いる派閥と争い合うのは、マリーが率いる派閥だ。
『どこで嗅ぎつけたのか、アタランテのパイロットを知ってしまってね。奴が指名したから、あの方が許可を出したわ』
「奴は危険です。中尉が潰されかねません」
教え子が危険にさらされると不安視するクローディアに、クリスティアナは告げる。
『既に決定事項よ。元開発チームを第七兵器工場に向かわせなさい。そこで、人員の補充も行うわ』
クローディアも決定には逆らえなかった。
「はっ!」
騎士礼をすると、クリスティアナは通信を切る。
◇
元アタランテ開発チームが、第七兵器工場へとやって来た。
メレアがドックに固定されると、派遣されていたマグたちが艦を降りていく。
艦を降りた場所で、エマたちは二年間の付き合いのある技術者たちと挨拶をしていた。
モリーがマグに抱きついて泣いていた。
「マグちゃん、元気でね!」
「モリーのお嬢ちゃん、俺の方が年上だって教えただろ。それなのに、最後までマグちゃんって呼びやがって」
呆れつつも嬉しそうなマグは、別れを少し惜しんでいた。
エマは苦笑いをする。
「えっと、あたしはこのまま第七に挨拶に行きますね。オプションパーツの受け取りとか、打ち合わせもあるので」
「エマのお嬢ちゃんも大変だな」
マグと一緒にエマが建物内に入る。
◇
そのまま目的地まで向かっていると、通路でニアスを見かけた。
上官――上司に問い詰められている。
「聞いているのか、ニアス! また勝手ばかりして、今度という今度は許さんぞ。しばらくは、開発から離れてもらうからな!」
相手はニアスよりも年上で、第七の幹部の一人なのだろう。
高価そうなスーツを着て、壁を背にして飴を舐めているニアスに指をさしている。
ニアスは顔を背けて、不満そうにしていた。
この時間が無駄、と言いたそうなふてくされた態度だ。
その様子を見ていたエマに、マグが話しかけてくる。
「また、ニアスのお嬢が叱られているのか」
マッド・ジーニアスと呼ばれるニアスは、以前から不遜な態度が目立っていた。
圧倒的な実力で周囲を黙らせている孤独な天才――それがエマの評価だ。
「ニアスさんって気難しいですよね」
すると、マグが一瞬驚いてから――口を大きく開けて笑い出す。
「確かに気難しいな。だけどな、お嬢も敵わない人ってのいるんだぜ」
「そうなんですか?」
「お嬢がここに来て数年の頃だったかな? 今よりも人当たりは良かったんだが、やっぱり人付き合いで問題を起こしたんだよ。上層部がコミュニケーションを学べって、販売員をやらせていたな」
腕を組みしみじみと語るマグだが、エマは信じられなかった。
「幹部相手にふてくされている姿を見ていると、信じられませんけどね」
「まぁ、能力に比例して性格も悪い――いや、酷いからな」
マグに性格が悪いと言われるのも仕方がないだろう。
二人が話をしていると、ニアスの端末から音が鳴る。
それは重要な人物からの連絡だったのか、ニアスがビクリと体を震わせていた。
幹部も誰からの通信かを理解して、不満そうにしながらもニアスを解放する。
「お得意様がお呼びだ。お前に言っても無駄かもしれないが、失礼のないようにしろよ」
そう言って去って行くと、ニアスは慌てた様子で周囲を見ていた。
不遜な態度は消え去り、手頃な部屋へと入っていく。
その際に見えたのは、自分の髪を手ぐしで何とか整えているニアスの姿だ。
個室に入る瞬間には、顔を赤らめているようにも見えた。
エマが驚いてしまう。
誰であろうと態度を変えなかったニアスが、そこまでする相手は誰なのだろうか? と。
「ニアスさんもあんな顔をするんですね」
マグは笑っている。
「俺たちは何度も見ているけどな。だが、相手を知ったらお嬢ちゃんは驚くんじゃないか?」
「あたしの知っている人ですか?」
「まぁ、知っているだろうな。知らない方がおかしいわな」
首をかしげるエマに、マグは少し考える。
そして、意地の悪そうな顔をする。
「黙っていた方が面白そうだな」
「教えて下さいよ! あたしも、ニアスさんが苦手な人を知りたいです!」
好奇心から尋ねてくるエマを置いて、マグは歩き出した。
「大事なお客様の情報は教えられないな。まぁ、そのうちにわかるって」
◇
第七兵器工場のドック。
そこには、首都星からやって来た宇宙戦艦の一団が入港していた。
大型輸送船も加わる一団は、港に来るとクルーにつかの間の休暇を与える。
その中には、騎士の青年がいた。
彼は部下である騎士たちを連れている。
青年が港で立ち止まり、顔を上げると一隻の戦艦を見る。
円柱状のドック内。
天井――反対側に見えるのは、軽空母のメレアだった。
立ち止まって空を見上げている青年――上官を不審に思った新米騎士が、何事かと尋ねる。
「ラッセル隊長、どうかされましたか?」
青年の名前は【ラッセル】。
騎士としてはエリートコースを歩む青年は、エマとは同期の間柄だ。
騎士学校を卒業した後に、すぐに首都星に滞在する領主の護衛に選ばれていた。
そんな彼がこの場にいるのは、機動騎士の小隊を率いるためだ。
「――いや、何でもない」
ラッセルが歩き出すと、部下たちも後に続く。
ラッセルが率いる機動騎士部隊は、全員が騎士である。
二人の部下は騎士であり、配備されている機体はバンフィールド家の主力であるネヴァンだった。
部下の一人が話題を振ってくる。
「そういえば、噂で聞きましたね。何でも新型を開発していた連中も、今回の任務に同行するそうです」
もう一人の部下もその話題に乗る。
「ネヴァンのエース専用機らしいですね。うちにも配属されないかな~」
軽いノリが目立つ騎士たちだが、ラッセルを含めて全員がエリートコースを歩んでいる騎士たちだ。
彼らに用意されているのは、ネヴァンタイプのカスタム機。
騎士のみで編制された機動騎士部隊の中でも、特別な精鋭部隊の一角を担っている。
ラッセルは部下たちから表情が見えないため、やや不満そうにしていた。
「ネヴァンを開発したのは第三兵器工場だ。ここでネヴァンタイプの補充はない」
部下二人が肩をすくめる。
「残念ですね」
「まぁ、今の機体も悪くありませんし、我慢しておきますよ」
随分と傲慢な言動が目立つ部下たちだが、バンフィールド家の騎士学校を優秀な成績で卒業していた。
ラッセル自身も、今では大尉に昇進している。
ただ、騎士階級はCのままだ。
実戦経験が乏しいとされ、そちらの昇級は見送られている。
(――どちらが上かハッキリさせてやる。落ちこぼれのエマ・ロッドマンに、この私が負けたままでいられるか)
エリート騎士としてのプライドから、ラッセルはエマを強く意識していた。
階級では上に立っているが、騎士階級では劣っている。
それが、ラッセルには許せなかった。
ラッセルなりの意地が――エリートとしての誇りが、エマを認めたがらない。
リアム(#・∀・)「ニアスの奴、俺からの呼び出しには5コール以内に何かアクションをしろと毎回言っているのに。あいつじゃなかったら、俺の命令を無視した罪で処刑ものだぞ」
天城(´ー` )「旦那様、宣伝のお時間ですよ。【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】は【原作小説】がGCノベルズ様より【1~10巻】が好評発売中です」
天城( ´ー`)「なお、この外伝の本編である【俺は星間国家の悪徳領主!】は、オーバーラップ文庫様より【1~5巻】が好評発売中でございます。是非、書籍版もお楽しみ下さい」
リアム( ・∀・)?「ところで本編はいつ再開するんだ? 俺としては、早く天城の活躍が読みたいんだが? ただし、過激な描写は絶対にNG! 天城の肌を露出させるとか許されない」
天城(;´ー`)「……旦那様が主役の物語ですよ。私は活躍いたしません」
【作者より】
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次回更新は未定ですが、年内に【俺は星間国家の悪徳領主! 13章】をやれたらいいな、とは考えています。
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