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解散

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 改修後のメレアの一室。


 開発チームが入っているその部屋には、様々な設備が用意されていた。


 開発責任者のパーシーが、モニターに映るエマと会話をしている。


「ロッドマン中尉、これが最後のテストになるわ。この計画が成功するか失敗するかは、この結果に関わってくるの」


『理解しています』


 第七で改修を受けてから約二年。


 メレアを旗艦として元辺境治安維持艦隊は、アタランテの開発をサポートしてきた。


 軽空母一隻。

 巡洋艦一隻。

 駆逐艦四隻。


 宇宙軍の規模を考えれば小さいが、たった一機の起動騎士を開発するならば相応の艦隊とも言える。


「色々とあったけど、あなたにも感謝しているわ」


『えへへ』


 はにかむエマに、開発チームの面々は気が抜けそうになる。


 アタランテという難しい機体を操縦するのが、まだ幼さの残る女の子だ。


 どこかアンバランスに見えていた。


 本来ならば、経験豊富な才能ある騎士がテストパイロットに選ばれてもおかしくなかったのだが、アタランテを動かせるのは事実上エマだけだった。


「今回のテストが終われば、開発チームも解散するわ」


『聞いています。第三兵器工場に戻るんですよね?』


「そうよ。アタランテの後継機――を開発するかは微妙だけど、新型機の開発に関わることになるわね」


 開発チームも、今回の結果にかかわらず解散が決定している。


 それは、アタランテの開発が一区切りついた証でもあった。


 パーシーはエマに言う。


「いつかアタランテを超える機体を造るつもりよ。その時は、真っ先にあなたに送りつけてあげるから、それまで死なないでね」


『まだテストも終わっていませんよ?』


 困った顔で笑うエマに、パーシーは信頼を寄せていた。


「あなたなら成功させると信じているわ。それじゃあ、テストをお願いね」


『はい』


 メレアの格納庫から射出されたアタランテは、右手にアタランテ専用の多目的ライフルを装備していた。


 長身のライフルは、連射も狙撃も可能としている。


 実弾兵器と光学兵器の切り替えも可能としており、これ一つでも高価な代物だった。


 アタランテが通常モードで岩石が漂うエリアに向かうと、用意された的に向かって射撃を行う。


 移動しながら射撃をしているが、その命中率は高い。


 一歩間違えば、漂う岩石に衝突してアタランテにも大きなダメージが入るだろう。


 そんな中で的に向かって射撃をするというのは、パイロットにとっても大きな負担だ。


 それをエマはやり遂げていた。


 パーシーの部下が、エマのスコアを見て上機嫌で口を開く。


「中尉は射撃にセンスがありますね。いいスコアですよ」


 近接戦闘に問題を――といっても騎士として一般的な範囲内だが、平均的な実力しか持たないエマにも特技があった。


 ここ最近、射撃の腕が向上している。


 その理由をパーシーが語る。


「当然よ。改修後から、中尉はずっと厳しい訓練をしてきたのよ。結果が出てくれないと困るわ」


 困るわ、と言いながらも随分と嬉しそうにしていた。


 パーシーもエマの努力を見ており、結果が実って嬉しいのだろう。


 部下たちが顔を見合わせて笑い合っていると、テストが次の段階へと移行する。


「仮想的のラクーン部隊を投入します。ロッドマン中尉は、オーバーロード状態へ移行して下さい」


『了解!』


 アタランテが輝き始めると、間接部から黄色い放電現象が発生する。


 メレアから見ても、明らかに加速したアタランテが障害物だらけのエリアを縫うように飛び回ってい

た。


 アタランテの軌道が、黄色い光が残像となって線に見えた。


 パーシーが腕を組む。


「相手をする他の機体はたまったものではないわね」



 メレア所属の第一中隊、第三小隊のパイロットであるダグは、ラクーンに乗っていた。


 アサルトライフルにはペイント弾が装填されており、アタランテに撃って命中しても問題ない。


 しかし、ダグは冷や汗をかいていた。


「お嬢ちゃんが来るぞ、ラリー!」


 緊張している理由は、オーバーロードを使用したアタランテが脅威であると実感しているからだ。


 これまでのテストで何度も戦ってきたが、過負荷状態のアタランテは強かった。


 味方機であるラリーの乗るラクーンが、攻撃を開始する。


『わかっていますって!』


 ライフルで狙撃を行うラリーだったが、障害物が多い上に逃げ回るアタランテを狙っている暇もなく弾を外していた。


 ペイント弾が岩石に命中して、青いペンキをぶちまける。


 その様子にダグが怒鳴りつける。


「だから、狙うよりも弾をばらまけって教えただろうが!」


 ダグのラクーンは、アサルトライフルでペイント弾をばらまいていた。


 周囲の岩石がペイント弾で青く塗装されていくが、アタランテには一発も命中していなかった。


 そうしてすぐに弾切れを起こしてしまい、弾倉を交換することになる。


 その間に、エマのアタランテが急接近してきた。


「容赦ないな、お嬢ちゃん!」


 ダグが文句を言うと、ラリーが仕返しとばかりに怒鳴りつけてくる。


『そうやって無駄弾を使うから、隙を突かれるんだろうが!』


 エマのアタランテは、多目的ライフルを構えるとダグのラクーンの中央――コックピットに二発のペイント弾を撃ち込む。


 ダグのラクーンが赤いペンキで塗られると、システムが報告してくる。


『コックピットへの直撃判定です』


「くそっ!」


 ダグが自分のふがいなさに言葉を吐き捨てると、機体は動かせなくなる。


 その場に漂っていると、ラリーの悲鳴が聞こえてくる。


『お前、それは卑怯だろうが!』


 回り込まれて後ろから撃たれたのだろう。


 ラリーも動けなくなったのか、コックピットで文句を言っていた。


『あの状態のアタランテに勝てるわけがないだろ! いくらラクーンでも、そもそもの性能が段違いなんだからさ』


 こんなテストは無意味と言い張るラリーに、暇になったダグが話しかける。


「安心しろよ。あんな機体を操縦できるのは、お嬢ちゃんくらいだ。そもそも、ラクーンでテスト相手に不十分となれば、他の機体を持って来ても同じだろ」


 量産機としては最新鋭で、非常に優秀なラクーンだ。


 こんなラクーンが仮想的になりえないのならば、他の量産機を持ってきても意味がない。


『――そうですけど』


 ダグはコックピット内でシートの感触を確かめる。


「それにしても、悪くない。いや、良い機体だな。モーヘイブとは段違いだぜ」


 量産機の代名詞とまで呼ばれたモーヘイブとは、コックピット内のグレードから違った。


 その辺は、ラリーも納得しているらしい。


『まぁ、悪くはありませんよ。最新鋭の機体が、ここまで凄いとは思いませんでしたからね。それでも、もっと外見はどうにか出来たと思いませんか?』


 重厚感はあるのだが、いかんせん外観が騎士や軍人の好みではない。


 しかし、ダグは乗っている内に気に入りだしていた。


「そうか? 俺は悪くないと思うけどな」


『は、嘘でしょ!?』


 二人が話をしている間に、テストは終わってしまったようだ。


 通信で他の機体から味方の文句が聞こえてくる。


『騎士が乗る機動騎士を相手にするなら、せめて騎士を連れて来いよ』

『言えてる』

『うちみたいなところに、これ以上騎士が派遣されるかよ』


 口の悪い同じ部隊のパイロットたちは、それぞれが文句を言っていた。


 ダグは思う。


(以前より幾分か他の奴らも明るくはなったが、それでも積極的に訓練をするほどでもないな)


 艦艇や機動騎士は最新鋭でも、中身の人員が最低だった。


 それをダグは誰よりも実感している。


(お嬢ちゃんみたいなのは、さっさとやる気のある部隊に転属させてやりたいな)


 このまま自分たちと一緒に腐るより、エマは他の部隊に移るべきと考えていた。



 傭兵協会本部。


 ヴァルチャーと呼ばれる傭兵団の組織内では、査問会が開かれていた。


 総団長が問い詰める相手は、幹部組織の一つであるダリアの団長シレーナだ。


「シレーナ、お前は傭兵協会に大きな問題を持ち込んでくれたな。まさか、帝国の第七兵器工場に喧嘩を売るとは思わなかったぜ。帝国や兵器工場、果ては貴族たちまで抗議してきて大変だった」


 お前のせいで迷惑を被ったと問い詰められるが、シレーナは涼しい顔をしている。


「それは失礼しました」


「お前の団は数を半減させていたな? 幹部組織としての条件を満たしていないと思うが、どうだ?」


 バンフィールド家に約一千隻も撃破されたダリア傭兵団だが、総兵力はまだ半分以上も残っている。


 シレーナは余裕の笑みを見せていた。


「戦力の補充は済ませていますよ。第七の仕事の後に、本業で稼ぎましたからね。むしろ、数だけなら以前より増えています」


 失った艦隊は補充を済ませている。


 これは嘘ではなく本当だった。


 第七兵器工場を襲撃後に、貴族同士で争っている戦場で仕事を行った。


 その際に、戦力補充を行っている。


 総団長が口角を上げる。


「有象無象を増やしたところで、使えるようになるまでどれだけ時間がかかるかな?」


「ちゃんと仕事はこなしているでしょう? 上納金だってしっかり納めています。これ以上、何を求められるのか理解できませんね」


 他の幹部たちがシレーナを睨んでいた。


 傭兵協会の幹部たちだが、別に味方でもない。


 時には争い合うため、皆が全員ライバルだ。


 幹部組織ではない傭兵団も多く存在し、幹部を追い落としてその席に自分が座ることをもくろんでいる者は多い。


 過酷な競争社会を勝ち抜いた傭兵たちが集う場所だ。


 総団長がシレーナに言う。


「それならいいぜ。第七からのクレームは協会の方で対処してやる。だが、お前らは今後第七を利用できないことだけは理解しておけよ」


「そのつもりですよ」


 元から第七とは今後関わらないつもりで依頼を受けていた。


 シレーナへの追求が緩み、議題が他に移る。


 どこで争いが激しくなっている~などの話が進む中、シレーナは笑顔を作りながら腸が煮えくりかえっていた。


(バンフィールドの騎士共のおかげで、随分と苦労させられたわ。チェンシーはしょせん一個人だけど、問題は艦隊を率いた奴よ。軍人か、それとも騎士か――それに)


 甘い理想を抱く騎士を目指す少女が、妙に許せなかった。


(エマ・ロッドマン――戦場で私と再会した時は、覚悟しておくのね)


天城(´ー`*)「……クラウス・セラ・モント中佐。第七兵器工場での活躍は見事でしたね。旦那様に推薦しておきましょう」


天城( ´ー`)「さて、それでは宣伝ですね。【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】の【最新10巻】が好評発売中でございます。外伝共々、応援よろしくお願いいたします」


天城( ´ー`)「……植物? さあ、何のことやら。天城は存じ上げません」


天城( ´ー`) (旦那様が来る前に掃除しておきませんとね)

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