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騎士とは

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『中尉、これがネイアで行う最終テストよ』


「――はい」


 小惑星ネイアのテストエリア。


 改修が終わったメレアが見守る中、アタランテの最終テストが行われていた。


 宇宙に漂う岩石の合間を縫って飛び回るアタランテは、当初のテストとは比べものにならない完成度を誇っていた。


 軽やかに岩石を避けて飛んでいく。


 そして、手に持ったペイント弾が装填されたライフルを構えると、岩石に取り付けられた的に向かって銃口を向けた。


 引き金を引くと、ペイント弾がほぼ中央に命中していく。


 その結果を見て、パーシーは複雑そうな表情をしていた。


 アタランテが完成に近付いているのは嬉しいようだが、第七の力を借りたのが許せないのだろう。


『次は機動騎士を投入します』


「――はい」


 メレアから出撃してくるのは、練習機のモーヘイブだった。


 それが九機も出撃してくると、アタランテを囲んでくる。


 ペイント弾で攻撃してくるが、アタランテにはかすりもしない。


 味方の通信が聞こえてくる。


『こんなの当てられるかよ!』

『機体性能が違いすぎるだろ。こんなのテストになるのかよ?』

『あ~、撃墜判定出たぁ』


 やる気のないパイロットたちの機体に、アタランテが次々にペイント弾を撃ち込んでいく。


 そうしてテストが終了。


 アタランテがメレアに戻ると、格納庫は以前よりも綺麗になっていた。


 アタランテ専用のハンガーに到着すると、モリーがアーム類を操作して固定する。


『エマちゃん、お疲れ!』


「――お疲れ」


 コックピットから出たエマは、無重力状態で振り返ってアタランテを見上げる。


 その表情は疲れており、目の下に隈ができていた。


 モリーが近付いてくる。


「いや~、最新の設備っていいよね。操作も楽だし、使いやすいよ」


「そうだね」


 素っ気ないエマに、モリーはやや呆れつつも笑顔で話しかけてくれる。


「まだ気にしているの?」


「――うん」


 知り合いが死んだ。


 そのことが、エマを苦しめる原因になっていた。


 モリーが笑みを消す。


「気にしてもしょうがないよ。うちも知り合いが何人も死んだけど、引きずるとろくな事にならないし」


「わかっているけどさ。でも、あたしがもっとうまく、この子を操縦できていたら」


 何度も後悔してしまう。


 そんなエマに、離れた場所から意外な人物が近付いてきた。


「その考えは傲慢に過ぎるな」


 エマが、現れた人物に視線を向けると敬礼を行う。


「騎士長」


 エマの呟きに、モリーも相手が誰なのかを思い出して敬礼を行う。


 騎士服に身を包んだクラウスが、無重力状態の格納庫で飛んでくると、手すりに掴まり二人の前に立った。


 エマは何かを言おうとするが、先に口を開くのはクラウスだった。


「軽空母メレアに配備する機動騎士が決定した」


 事務的な通達をしてくるクラウスに、エマは不思議に思って尋ねる。


「わざわざ騎士長が伝えに来られたのですか? メッセージでも良かったのでは?」


 モリーもエマの横で手を叩く。


「それもそうだよね!」


 騎士長の前で無礼に過ぎるが、クラウスはモリーの態度を責めなかった。


 クラウスは表情を破顔させる。


「わざわざ来る理由があった、ということだ。ロッドマン中尉、君と話がしたかった」


「あたしと?」



 メレアの休憩所。


 今はエマとクラウスの二人だけで使用し、二人とも飲み物を用意している。


 クラウスがメレアに来たのは、エマと話をするためだ。


「大尉のことは残念だった」


「はい」


「彼女は少々規律に緩い部分もあったが、優秀な部下だった。機動騎士部隊を率いて、よく戦ってくれた」


 三機小隊を四小隊。


 中隊を率いて戦っていた大尉は、クラウスにとっても頼りになる部下だったようだ。


 エマが涙を見せる。


「あたしのせいで大尉を死なせました。あたしを守って死んだんです」


 泣き出すエマに、クラウスは背中をさすってやりつつ話す。


「彼女が死んだのは私の責任だ。それに、我々は騎士であり、同時に軍人だ。戦場に出れば死ぬこともある。それを当然と思えとは言えないが、受け入れなさい」


「――あたしが大尉の仇を討ちます。ダリア傭兵団のシレーナって人は、あたしが倒します」


 宣言するエマに、クラウスは――。


「任務に私情を挟むのかな?」


「でも!」


 クラウスは、エマの仇討ちを否定するつもりはないらしい。


「君がどうしようと勝手だが、私情を挟めばいつか周りに迷惑をかけるだろう。君の私怨で味方が死んだ時、今度はどうするつもりだ?」


「――迷惑なんてかけません」


「そうだといいが、君の勝手な行動で迷惑を被るのは味方だ。それに、軍にいれば、嫌でも味方が死んでいく。君はその度に、仇討ちをするつもりか?」


「っ!」


 エマが何も言えずにいると、クラウスはベンチから立ち上がる。


「君がどうするかは、君自身が決めることだ。上司としては、仇討ちに捕らわれず任務を遂行して欲しいけどね」


 エマが黙っていると、クラウスは優しく語りかける。


「――もっと強くなりなさい。それだけの才能と力を君は持っている」


「あたしなんて何も」


 否定を使用とすると、クラウスは腕を組む。


「過小評価が過ぎるな。何の才能もない騎士に、軍は試作実験機という名の高級機を君に預けたりはしない」


「でも、あたしは弱くて」


「ならば強くなりなさい。そして、出世することだ」


「え?」


 強くなるのは理解できるが、エマの中で出世するのが仇討ちに何の関係があるのか理解できなかった。


 そんなエマに、クラウスが諭す。


「上官が無能だと味方が死ぬ。優秀な指揮官は、より多くの味方を救うからね。味方を、そして仲間を守りたいなら、君自身が強くなって出世しなさい」


 クラウスの説明で納得したエマは、小さく頷いた。


「――はい」


 それを見て、クラウスはもう一つの話をする。


「上層部で話し合いをした結果を伝えよう。何者かに狙われている試作実験機アタランテには、相応の護衛が必要であるという結論に達した」


「え、えっと」


 要領を得ないエマは、クラウスが何を言いたいのか察していない。


 クラウスは微笑する。


「メレアには新型量産機を配備することになった」


 エマが慌てて立ち上がる。


「それって!」


「我々は試作実験機の開発、そしてメレアの活躍に期待しているということだ。これからも励みなさい」


 メレア――辺境治安維持部隊改め、試作実験機アタランテ開発チームに第七兵器工場の新型機が配備されることになった。



 新型機の受領日。


 改修が終わったメレアの格納庫には、パイロットや整備兵の他に艦内クルーが集まっていた。


 受け入れる新型量産機の受領を、今か今かと待ちわびている。


 それは、第三小隊の面々も同じだった。


「ダグさんもラリーも落ち着いたら」


 呆れたモリーの視線の先にいたのは、ソワソワしている二人だ。


 ダグもラリーも、格納庫内をウロウロしている。


「モリーのお嬢ちゃんには理解できないだろうが、新品の機体を受け取るっていうのは俺でも初めてなんだ。落ち着けってと言われても無理な話だろ」


 軍隊生活が長いダグでも、新型機に乗るのは初めてらしい。


 モリーはラリーを見る。


「ラリーも色々と文句を言っていたよね?」


「それとこれとは話が違うだろうが!」


「違わないし」


 落ち着かない男共を前に、モリーはため息を吐く。


 すると、開いたハッチから格納庫に駆け込んできたエマに気付いて立ち上がる。


 エマは笑顔で両手を振っていた。


「エマちゃん!」


「みんな! 新型機が来ましたよ! 急いで運び込んで貰いました!」


 格納庫内の雰囲気が明るくなる。


 新型機が配備されるというのは決定していたが、どの部隊にどの機体が配備されるか、微調整を行っていたらしい。


 新型と言っても、第七兵器工場には何種類も存在する。


 中には外見がまともな量産機も存在していた。


 ラリーが珍しく拳を作り、ガッツポーズをする。


「でかしたぞ、隊長殿! それで、機体は!?」


 皆が機体を待ちわびていると、次々に運び込まれてきた。


 その姿を見て、クルーたちが徐々に冷めていく。


 そんなことはお構いなしに、エマとモリーが騒いでいた。


「新型のラクーンを受領しました! 最新型の量産機ですよ!」


「エマちゃん、やったね! よく最新型を手に入れたよ~」


「ありがとう~。あたしは何もしてないけど」


 モリーがエマに抱きつき褒めていると、機体と一緒にドワーフの技術者が艦内に部下たちを連れてやって来る。


「う~すっ、第七の技術指導員一同です。しばらく厄介になるぜ」


 そんな彼らを見て嫌そうな顔をするのは、アタランテの周りにいた第三兵器工場のフタッフ――特にパーシーだ。


「何で第七のスタッフが乗り込んでくるのよ?」


「ラクーンは最新型だからな。技術指導もあるが、現場でのデータの蓄積って大事だろ? これから同じ船になるんだから、よろしく頼むぜ」


 ヘラヘラするドワーフに、パーシーは顔を背けていた。


 ラリーとダグは、肩を落として話をしていた。


「こんなオチだと思ったんですよ。新型でも、もう少しいいのがあっただろうにさ」


「性能だけが全てじゃないからな。もっとこう――強そうな機体に乗りたかったよな。無骨で雄々しい機動騎士がいいのに、ラクーンはちょっと丸いからな」


 ラクーンの外見は、どうやら騎士以外にも不評らしい。


 丸っこいシルエットは、無骨さよりも可愛さが出ている。


「こいつを持って来るくらいなら、テウメッサでしたっけ? そっちにアシスト機能を搭載してくれればいいのに」


「お前はスレンダーな機体が好みか? 俺はもっと角張って、男らしい機体が良かったよ」


 新型機の受領は嬉しいが、外見が好みではない。


 性能は良いが、妙に納得できない二人だった。



「せっかくラクーンを受領したのに、みんなして微妙な顔をするんですよ」


 第七のドック内にある休憩室。


 エマはクラウスと二人で話をしていた。


「うちの連中にも不評だったな。悪い機体じゃないんだが、チェンシーがふてくされるから、私のテウメッサを譲ったよ」


「譲ったんですか!? テウメッサは競争率が激しくて、希望してもほとんど配備されないって聞いていますよ」


「アシスト機能がついたラクーンの方が、私としても扱いやすいからね」


 クラウスの方も不評だったのか、二人して肩を落としている。


 エマはクラウスの機体について話をする。


「騎士長のラクーンはカスタマイズするんですか?」


「私の場合はオプションパーツの取り付けだけだから、カスタマイズと呼べるものではないな。専用のカスタム機を受領できるのは、それこそエース級の騎士やパイロットに限られる」


「でも、他とは違うっていいですよね。カスタム機にも憧れます」


「アタランテは君の専用機だと思うがね。さて、そろそろ時間だな」


 ベンチから立ち上がるクラウスは、エマに敬礼をする。


「本星に戻れば、この艦隊も解散だ。次に出会えるのはいつになるかわからないが、生きて会えるといいな」


 エマも敬礼する。


「――はい」


 生きて会えるといいな。この言葉の重みを理解するくらいには、エマも成長していた。


 お互い、いつ死ぬかわからない騎士という立場だ。


 どちらかが死んでもおかしくないし、二人とも死ぬかもしれない。


 再会できる確率も低く、これが最後となる場合もある。


「アタランテが完成するよう祈っておこう」


「それなら、あたしは騎士長が出世するように祈ります」


「ん?」


 首をかしげるクラウスに、エマは大尉の願いを伝える。


「大尉さんが言っていました。騎士長はもっと上にいけるはずだって」


 クラウスは元部下からの期待を知り、僅かに照れくさそうにしていた。


 同時に、失った部下に対して悲しみを感じさせるような表情を見せる。


「買いかぶりだな。私は出来る事をするだけだ。だが、気持ちは受け取っておこう」


 二人はそう言って別れる。


若木。゜(*゜´∀`゜)゜ノ「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】は【原作小説1~10巻】と【コミカライズ版 1~8巻】が好評発売中よ! コミカライズはまた重版していたから、きっと苗木ちゃん効果が1%くらいあったはずよね」


ブライアン(´・ω・`)「ないと思います。【俺は星間国家の悪徳領主!】は【2~4巻】が重版しております。皆様の応援、本当にありがとうございます」

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