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ゴールド・ラクーン

【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 10巻】好評発売中!!


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 傭兵団ダリアの戦艦内。


 格納庫に持ち込まれたゴールド・ラクーンは、コックピットにケーブルが繋がれていた。


 パイロットスーツを着替えたシレーナが、格納庫へと戻ってくる。


「出撃まで何分?」


 整備士が無重力状態の格納庫で飛んできたので、受け止めて答える。


「いつでも出られますよ」


「ありがとう」


 コックピットに入ったシレーナに、整備士が不安そうにしている。


「本当に続けるつもりですか?」


 シレーナは無表情で答える。


「殺された部下の分――何て言わないけどね。下がる前に一暴れしておかないと、今後の仕事に響いてしまうのよ」


 仇討ちで挑むのではない。


 全ては仕事のためだ。


 しかし、殺された部下の分をやり返すくらいはいいだろう、というのがシレーナの考えだ。


 それに。


「こいつの試運転もしておきたいからね」


 整備士が呆れている。


「見た目はともかく、確かに凄い機動騎士ですからね。量産機のカスタムにしては、金がかかりすぎているように思います」


「本当に、誰が乗る予定だったのかしらね」


 ハッチが閉じると、整備士たちがゴールド・ラクーンから離れていく。


 出撃準備が整うと、カタパルトで射出された。


「今度こそ殺してあげるわ」


 アタランテよりも、エマという騎士が気になっていた。


 シレーナはいつの間にか、任務に私情が入り込んでいた。



 アタランテのコックピット。


 第七のパイロットスーツに着替えたエマは、シートに座って操縦桿を握りしめる。


 パーシーがオペレーターとなって、エマに状況を説明してくれる。


『機体はともかく、ソフト面は急造品よ。まともに動くとは思わない方がいいわ』


「了解です」


『中尉は味方と合流することだけ考えなさい。敵と遭遇しても逃げるのよ』


「はい」


『よし、それならハンガーのロックを解除して』


 パーシーがそう言うと、ハンガーに固定されていたアタランテが解放される。


 動けるようになったのを確認すると、エマがアタランテを歩かせる。


 その動きはぎこちなかった。


「大丈夫。味方に合流すればいいだけだから」


 自分に言い聞かせながら外――宇宙へと出るハッチまで向かった。


 ハッチが開いたので外へと出ると、そこに待っていたのは第七の防衛部隊だ。


 アタランテを逃がすために、護衛をしてくれるらしい。


『中尉、第七の防衛部隊がエスコートしてくれるわ。そのまま味方と合流しなさい』


 これなら無事にバンフィールド家の艦隊と合流できると思っていると、コックピット内に警報が鳴った。


「敵!? 直上!?」


 顔を上げると、そこから迫る小型の機動騎士たち。


 手に持った火器で攻撃を仕掛けてきており、実弾やビームなどが降り注いでくる。


 加えて、艦艇の姿も見えた。


 攻撃を受けた第七の防衛部隊の駆逐艦が、ビームに貫かれて爆発した。


 アタランテが衝撃に吹き飛ばされるが、姿勢制御がおぼつかない。


 操縦桿を動かし、フットペダルを踏んで何とかするも、アタランテは宇宙でもがいていた。


「味方が来るまでは」


 逃げ回ろうとすると、小型の機動騎士たちがアタランテを目指して飛んでくる。


 第七の防衛部隊を無視して突撃してくる姿を見れば、アタランテが狙われているのは本当らしい。


 バックパックのツインブースターを使用すると、コックピット内に重力が発生する。


 アタランテが逃げ出すと、小型機たちは追いかけてきた。


 ただ、制御ができていないアタランテは、宇宙をジグザグに飛んでいるだけだ。


 そのため、敵機に追いつかれる。


 そこに現れるのは――。


『はっ! 雑魚共が!』


 ――量産型の機動騎士たちだった。


 バンフィールド家の家紋が描かれており、一目で味方だと理解できる。


 その上、率いているのはエマと顔見知りの大尉だった。


「大尉さん!」


『エマちゃん元気? ちょっと待っていなよ。すぐに終わらせるからさ』


 大尉が率いる三機編制の四小隊――十二機の機動騎士が、小型の機動騎士に襲いかかる。


 敵機は小型機としては優秀だが、パワーでは量産機に劣るらしい。


 小型機の一機が撃破されると、敵の仲間たちが引き返していく。


 その様子を見たエマは、安堵してため息を吐いた。


「助かりました」


『戦場で気を抜いたら死ぬよ。母艦にたどり着くまでは、気を抜かないことだね』


 十二機の機動騎士に護衛されるエマは、後は味方艦が来れば終わると考えていた。


 母艦が来るまで周囲を警戒しようとすると、アタランテのセンサーが敵を感知する。


「大尉さん、敵です!」


『おいおい、こっちの機体はまだ反応なんて――』


 直後、大尉の機体も敵機の接近に気付いたようだ。


 量産機たちが武器を構えると、真下に体を向ける。


『真下から来るぞ! ――は?』


 だが、そこに敵機の姿はない。


 驚いたのはエマの方だ。


「違います! 敵は――」


 量産機の一機が、後ろから貫かれて爆発した。


 味方がそちらに視線を向けると、そこにいたのは金色に塗装されたラクーンだった。


 第七から奪取されたという知らせがあり、既に敵機として登録されている。


『どこから出やがった!』


 大尉がライフルを構えて攻撃すると、発射された実弾がゴールド・ラクーンをすり抜ける。


『嘘だろ』


 他の味方機も攻撃を加えるが、光学兵器もすり抜けていた。


 そこに、パーシーから通信が入る。


『そいつはセンサーを惑わせる機能があるわ。死にたくなかったら動き回って!』


 それを聞いて、大尉がすぐに部下たちに命令する。


『散開!』


 大尉の乗る機動騎士がアタランテを掴み、その場を離れる。


 すると、次々に味方の悲鳴が聞こえてくる。


『た、助け――』

『来るな! 来るなぁぁぁ!!』

『どこに嫌がる、狸野郎が!』


 コックピットの中で、エマは味方の悲鳴を聞きながら爆発する光を見ていた。


 味方が消えていく光景を前に、震えが止まらない。


「こんなのどうすれば」


 対処法はあるだろうが、この状況ではどうにもならなかった。


 そうして、エマと大尉だけになる。


 大尉はアタランテを味方が来る方角へ投げ飛ばすと、武器を構える。


『エマちゃん、味方に拾ってもらいな』


「大尉?」


『部下たちの仇くらい取ってあげないとね』


 エマを逃がすために大尉が敵と戦おうとしている。


 そんなエマたちの会話を盗み聞きしていたのか、ゴールド・ラクーンが姿を現した。


 通信回線を開いてくる。


『あなたはターゲットではないから、見逃してあげてもいいのよ』


 どこかで聞いたことがある声だと思っていた。


「まさか、あの時の?」


 思い浮かんだのは、模型店の店先で注意してきた女性だ。


『ようやく気付いたの? 本当に鈍い子ね。お嬢ちゃんには、騎士は向かないわよ』


 奥歯を噛みしめていると、大尉がラクーンに襲いかかる。


 それを相手は簡単に避け、そして攻撃してくる大尉をあしらっていた。


『お前の相手は私だよ!』


『逃げればいいのに、どうして向かってくるのかしら?』


『私は騎士だ!』


 答えているようで答えていない返事だが、相手には十分だったらしい。


『理解できないわ。部下の仇討ちは納得できるのよ。だけど、騎士だから勝てない戦いに挑むの? 自分の命は大事にしないと駄目よ』


『抜かせ!』


 大尉の量産機がライフルを捨てて、レーザーブレードで斬りかかる。


 それをゴールド・ラクーンは、蹴り飛ばしていた腕を破壊した。


 持っていた大斧で手足を切断すると、コックピットに左腕を叩き込む。


 B級騎士の大尉が、まるで歯が立たない。


「大尉!!」


 エマが叫ぶも、返事はなかった。


 代わりに答えるのは、敵の女性だ。


『騎士? 本当に馬鹿な奴らよね。貴族たちの手駒に過ぎないのに、やれ誇りだ、意地だとムキになる。本当に理解できない馬鹿共だわ』


 大尉の機体を蹴り飛ばした女性は、アタランテに持っていたライフルを向けてくる。


『あなたもそう思うわよね?』


 同意を求めてくる女性の声は低く、返答次第では即座に殺しに来ると予想できた。


『騎士なんて言っても、ただの駒の一つ。お貴族様たちにとっては、使い捨ての命。あなたもそう思うわよね?』


「ち、違う」


『――』


「少なくとも、あたしの領主様は違う。民を守るために、命がけで戦える凄い人だから――あたしが目指す強い人だから」


 女性の同意を拒絶したエマは、震えながらも操縦桿を握りしめる。


 相手の女性は酷く冷たい声で告げてくる。


『――なら、誇りのために惨めに死になさい』


 敵がライフルの引き金を引きそうになった瞬間だった。


『エマ・ロッドマン中尉』


 モニターの一部にニアスの顔が表示されると、アタランテの様子がおかしくなる。


 次々に小窓が出現し、そこにアップデートを開始したという情報が出てくる。


「ニアス少佐!?」


 驚いたエマがペダルを踏み込むと、アタランテが錐揉みに飛んでいく。


 そのおかげで弾を避けるが、敵機は追いかけてくる。


『悪いけど時間がないから、そのままソフト面の調整をするわ』


「は? え?」


 驚くエマだったが、それはモニター向こうのパーシーも同様だ。


『戦闘中にシステムを書き換えるですって!?』


『中尉用に書き換えるだけよ』


『あり得ないわ。本当に馬鹿のすることよ』


『少なくとも、あなたより私の方が優れているわ。――やれるかしら、中尉?』


 ニアスがモニター越しに真っ直ぐ見つめてくる。


 それに対して、エマは頷く。


「やります。やらせてください!」


『いい返事よ』


 モニターが消えると、仮で用意されたシステムのバージョンが表示された。


「――このシステムって」


『特機用のシステムをベースにするわ。今からアタランテ用に調整するわ』


 システムが起動すると、アタランテに変化が現れる。


 ツインアイが輝き、先程まで螺旋を描いて飛んでいた機体が直進する。


 機体の反応にエマは驚いた。


(凄い。今までと全然違う)


 エマの感覚とよく馴染んでいた。


 その変化は、敵にも伝わっていたようだ。


『戦闘中にシステムを書き換えた? これだから天才っていうのは嫌になるわね!』


 ゴールド・ラクーンが迫る中、エマのアタランテが逃げ回るのを止める。


 敵に向かうと、サイドスカートのレーザーブレードを手に取った。


 斬りかかろうとすると、敵が慌てて避けてしまう。


『こいつっ!』


 敵が予想したよりも素早かったのだろう。


 エマの方は、次にどのように仕掛けるか考えていた。


「よくも大尉を」


 先程までとは立場が逆転しており、ゴールド・ラクーンの方が逃げ回っている。


 ライフルを構えて攻撃するが、アタランテのスピードについて来られない。


『ちっ!』


 どうやら急いで出撃したようで、調整が完全ではないようだ。


 アタランテが敵機に近付くと、レーザーブレードを振り下ろした。


 だが――。


「っ!」


 アタランテが今度は距離を取る。


 敵機は腕で攻撃を防ごうとしていたが、それが正解だったらしい。


『あは、あははは! 本当になんなのよ、この機体は! 特殊装甲とは聞いていたけど、斬られて無傷なんて凄いじゃないの』


 敵の女性がコックピット内で愉快そうに笑っている理由は、エマのレーザーブレードが装甲を焼けなかったことだ。


 ゴールド・ラクーンの装甲は削れず、無傷のままだった。


『慣らし運転をかねて、さっさと破壊してあげるわ』


若木(#゜Д゜)「ニコニコ静画さんで【コミカライズ版 俺は星間国家の悪徳領主! 9話後編】が無料で読めるわよ。――何で私が他作の宣伝をしないといけないの? 私、これでもあとがきのアイドルよ。みんな、モブせかも忘れないでね! 【10巻】は好評発売中だから買ってよ!」

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