小惑星内の攻防戦
予約投稿を失敗していました。
疲れているのかな(;´Д`)?
「襲撃者はどこから来た?」
「不明です! 第七兵器工場の防衛部隊も混乱しているようで、内部に侵入されたと考えているようです」
バンフィールド家の戦艦。
艦橋で指揮を執るクラウスは、何が起きているのか詳細を求めていた。
しかし、第七も全てを把握していないようだ。
クラウスはアゴに手を当てて思案する。
(兵器工場に手を出せば、帝国に逆らうのと同じだ。いくら宇宙海賊でも、そんな馬鹿はいないだろう。やるなら、よほどの馬鹿か――馬鹿では連中か)
小惑星ネイアを防衛するのは、万を超える艦隊だ。
帝国の軍事力を支えている兵器工場に喧嘩を売れば、タダでは済まない。
規模の大きな宇宙海賊たちですら、喧嘩は避けるような場所である。
「――内部で戦闘が起きているか?」
「はい。それは確認しています」
「防衛部隊はどうなっている?」
「動いてはいるみたいですが、苦戦しているようです」
第七兵器工場を守る部隊は存在するが、日頃から訓練はしていても実戦経験が足りていなかった。
練度は高く、装備の質もいい。しかし、経験不足により効果的な対処をしていない。
(普通ならば、攻められる可能性が低い場所だからな)
兵士たちの気が緩んでいたのだろう。
「ならばすぐに、バンフィールド家の陸戦部隊を投入しろ。騎士も半数を投入していい。残り半数は、機動騎士の出撃準備をさせておく」
「干渉してよろしいのですか?」
幾ら救助のためとは言え、第七兵器工場からすれば武装した兵士を送り込まれるようなものだ。
感じは良くないだろうし、現場が混乱してしまう。
それでも、嫌な予感がしたくクラウスは、戦力の投入を決定する。
「第七には陸戦隊を派遣すると知らせておけ。責任は私が取る」
「は、はい!」
すると、オペレーターの一人が、青ざめた顔でクラウスに報告してくる。
「あの、チェンシー大尉が――」
◇
アタランテの改修が進められる施設。
エマたちが飛び込んでくると、作業中の白衣を着たニアスが煩わしそうに表情を歪めた。
「もっと静かにしてくれないかしら?」
警報が鳴り響いている中、アタランテの改修を進めるニアスを見たダグが頬を引きつらせる。
「どこの世界にも、ぶっ飛んだ奴がいるもんだな」
モリーがアタランテを指さして。
「もうほとんど完成しているじゃない! これなら、何とかなるかも」
改修されたアタランテは、第三で受けた関節部の強化前の姿だ。
大きな変化は見られない。
改修前に戻った気さえする。
アタランテの周囲にはパーシーやマグの姿も見えるが、他のスタッフを含めて全員が作業を続けていた。
エマはニアスに詰め寄る。
「あの、敵が内部にまで入り込んでいます。すぐに避難して下さい」
ニアスは小さくため息を吐き、エマに視線を合わせず話す。
「随分勝手なことを言うのね。そっちの指示に従う理由はないわ。それに、敵を連れてきたのはあなたたちじゃない」
「――え?」
ニアスが視線を向けた先を見れば、僅かに風景が歪んで見えた。
ステルスモードを切ったのか、パワードスーツ姿の女性が現れる。
「天才と呼ばれるだけあるわね。そっちの子とは大違いよ」
エマはつけられていた事に気付かず、冷や汗をかきながらも武器を手に取る。
右手に拳銃を構え、左手にはレーザーブレードの柄を握る。
全員を守るために前に出たのは、相手が騎士だと判断したためだ。
「下がって!」
前に飛び出してきたエマを見た女性は、スモークの入ったバイザーの向こうで苦々しい表情をしたように見えた。
「実力もないのに騎士を名乗っているようね。――遊んであるわ」
武器を持たずに近付いてきた女性に、エマは発砲する。
拳銃は光学兵器であり、光が放たれたが女性は銃口から着弾箇所を読み取って避けていた。
後ろでニアスが「装置が壊れるから余所でやって欲しい」などと言っているが、構っている暇がない。
エマがブレードの刃を出して斬りかかるが、女性はエマの腕を掴むとひねり上げる。
「っ!?」
「弱いわね。この程度で騎士を名乗れるのだから、バンフィールド家もたいしたことがないわ。急造の騎士団なんて、この程度ね」
そのまま女性はエマの腹に膝を入れると、すぐさま拳を三発叩き込んで吹き飛ばす。
一瞬の出来事に、モリーたちは立ち尽くしていた。
転んだエマが立ち上がろうとすると、女性に髪の毛を掴まれて持ち上げられた。
「こ、この!」
まだ抵抗するエマだったが、スモークで表情が見えないはずなのに女性が何故か苦しんでいるような気がした。
「――何も知らない憐れな子は、ここで死んだ方がマシね」
女性の左手が手刀を作ると、そのままエマの顔に迫ってきて――。
「あはっ! み~つけた」
――今度は、ドアを斬り刻んで別の女性が現れた。
騎士服を民族衣装のように改造したその姿は、エマにも見覚えがある。
女性は両手にかぎ爪のような武器を装備しているのだが、血の跡がある。
ここに来るまで戦闘してきたのか、顔には返り血の跡があった。
女性は一瞬動きを止めたかと思うと、すぐさまエマを突き飛ばして武器を手に取る。
突き飛ばされたエマが見たのは、次の瞬間には斬り合っている二人の姿だ。
女性は、突如現れた女性騎士を知っていたらしい。
「まさか、味方殺しがバンフィールド家に雇われていたなんてね。来る者拒まずにしても、厄介な奴を招き入れたものね」
チェンシーは笑顔のまま、首をかしげる。
「私を知っているのね。少しは楽しめそうだわ」
「――この変態が」
女性が手に持っていたのは、一般的な両刃の剣。
戦う姿を見ると、正統派の騎士という印象が強い。
それもかなりの実力者だった。
エマはその様子を見ながら、本物の騎士同士の戦いがここまで凄いのかと震える。
(凄い。こんなの、手助けすら出来ない)
女性は剣術を修めているのか、チェンシーが斬りかかるとそれらを全て捌いていく。
だが、それを見てチェンシーは舌舐めずりをした。
「お前はいいわ。本当に最高ね。部下たちが頼りにするだけはある」
チェンシーの言葉に、女性が後ろに飛び退く。
「――部下たちをどうしたのかしら?」
チェンシーは手をひらひらさせる。
鳥が翼を羽ばたかせるような仕草で、隙だらけだ。
まるで女性に斬りかかって来いと誘っているようだった。
「斬り刻んだら、色々と教えてくれたわ。歯応えのある連中も多くて楽しかったわよ」
それを聞いた瞬間、女性は何かを投げる。
そこからスモークが発せ去れ、強い光と音もオマケされた。
逃げに徹する女性。
しかし、チェンシーがかぎ爪を振るうと――女性の血が舞った。
モリーが咳き込む。
「今の何? 何が起きたのよ!?」
ラリーは耳を塞いでいた。
「み、耳が痛い」
ダグの方は拳銃を構えて周囲を警戒していたが、エマは既に敵が逃げ去った後であるのを知っていた。
立ち上がってチェンシーに近付く。
「あ、あの。助けていただきありがとうございました」
だが、チェンシーはかぎ爪を見ながら、小さくため息を吐いていた。
「――取り逃がしちゃった」
それなのに、僅かに微笑みながら部屋を出て行く。
◇
「あんな化け物が派遣されているとは思わなかったわ」
ヘルメットを脱ぎ捨て、脇腹を手で押さえるシレーナは注射器を首筋に刺す。
痛みを和らげる薬を使用すると、そのまま傷口に薬をかけた。
傷が塞がっていくが、随分深く斬られたため痛みが残っている。
苦しさから顔を歪めていたが、チェンシーに斬り刻まれた部下たちを思い浮かべる。
シレーナは端末を操作する。
「――状況は?」
通信を行うと、部下たちから次々に報告が上がってきた。
『団長、バンフィールド家の陸戦隊が出てきました。襲撃は無理です』
『あの女、絶対に殺してやる! よくもマルコを!』
『団長、あのチェンシーがいます。あの女、今はバンフィールド家に雇われています。気を付けて下さい』
部下たちの報告を聞きながら、シレーナは作戦がうまくいっていないのを悟る。
「遭遇したわ。おかげで怪我をしたのよね。それはそうと、逃げるためも機動騎士を奪いたいわ。近くに奪える機体があるか調べてくれる?」
味方からデータが送られてくると、近くで重要機体を輸送する動きがあった。
『特注の機体を運びだそうとしています。団長がいる場所から一番近いのはこいつらですね。起動していますから、奪えれば動きますよ』
シレーナは壁にもたれかかりながら、微笑していた。
「趣味じゃないけど、仕方ないわね」
◇
ラクーンを保管している格納庫。
第七兵器工場に所属するパイロットが、金色に塗装された【ゴールド・ラクーン】のハッチを開けていた。
「この忙しい時に、高級機を運び出せとか嫌になるぜ」
文句を言いながらも乗り込み、運びだそうとしていた。
特注であるため、起動させるのも手間がかかる。
それらを終えてハッチを開き、中に入ろうとすると――。
「ご苦労様」
「へ?」
――パイロットは投げ飛ばされて、床に落下してしまう。
幸いにしてパイロットスーツを着用していたために、死亡してはいなかった。
「おい、何をするんだ!」
立ち上がって文句を言ってくるパイロットを無視して、シレーナは操縦席に座ると機体を操作する。
ハッチを閉じると、起動した感覚にシレーナが微笑む。
「意外と悪くないわね。外見以外は好みだわ。さて――このまま任務を続行しましょうか」
せめてアタランテの破壊。
そして、気に入らないエマの殺害は達成するつもりだった。
◇
『ロッドマン中尉、アタランテをすぐに避難させなさい』
「騎士長?」
『陸戦隊が捕らえた敵から情報が得られた。奴らの狙いは、アタランテの破壊だ』
「そんな!?」
『第七から機動騎士を奪取されたという情報があった。このままでは、君たちも危ない』
その頃、エマたちにはクラウスから通信が入っていた。
アタランテを持ち出せという話に、パーシーが反対する。
「素人が口を出さないで! 運び出せるなら苦労しないのよ」
『機体は完成しているよ聞いているが?』
「いじくり回した機体が、前のソフトで動くわけがないでしょ」
『乗る必要はない。運び出して港に届けてくれれば――』
「ここからじゃ遠いのよ! それに、敵が迫っているなら、通路が使えないわ」
エマの端末で言い争いを始めるパーシーだったが、ニアスが白衣のポケットに手を突っ込みながら近付いてくる。
「宇宙に出るハッチがあるわ。外で受け取れるなら、その子を乗せて放り出せばいいだけよ」
ニアスの提案を聞いて、クラウスは少し考えて頷く。
『承知した。回収する部隊を派遣しておく。――ロッドマン中尉、難しいとは思うがアタランテを無事に届けて欲しい』
「はい!」
敬礼するエマは、すぐにアタランテに乗り込むため準備を開始する。
通信を切ると、すぐに着替えるためロッカーへと向かおうとして――そこで、ニアスに呼び止められた。
「待ちなさい」
「はい?」
振り返ったエマに、ニアスは質問をする。
「アシストをオフにした機動騎士の操縦は、どこで学んだの?」
この状況で聞くような質問だろうか?
エマは首をかしげるが、とりあえず答えることにした。
「えっと、古いゲームセンターに入荷した機動騎士のシミュレーターで遊んで覚えました」
懐かしい話だと思う。
近所にあった古いゲームセンターに、誰かがシミュレーターを持ち込んだ。
その男は金に困っている様子だったらしいが、店主が買ったことを後悔していたのをエマは思い出す。
よく「あのインチキ野郎」と言って、刀を下げた男の文句を言っていた。
そのシミュレーターだが、アシスト機能がそもそも取り付けられていなかった。
子供たちが乗り込むも、うまく動かせずに結局場所だけ取る邪魔な物体となっていた。
騎士に憧れていたエマだけが、機動騎士の操縦を味わえると乗り続けていた。
来る日も来る日も乗り続け、少しずつ動かせるようになっていた。
歩き、走り、ジャンプして――機動騎士を操縦するのが楽しかった。
懐かしく思っていると、ニアスが僅かに微笑み――エマを見る。
「そう。止めて悪かったわね。もう行っていいわよ」
「はい」
走り去るエマの姿を見ていたニアスは、俯くと思い出し笑いをしていた。
「――システムは流用しても問題ないわね」