<< 前へ  次へ >>  更新
20/20

合同開発

予約投稿を忘れていました(^_^;)


申し訳ないので、今回は宣伝を控えます。

 アルグランド帝国首都星。


 高層にあるバーに来ていた一人の人物は、カウンター席に座って酒の入ったグラスを眺めていた。


 グラスを揺すると、酒の色が赤から青へと変色する。


 その変化を眺めていた人物は青年だ。


 カウンターの内側にいる店員が、彼のためだけに控えている。


 高層ビル内にある高級感のあるバーには、客が青年一人だけだ。


 そんな青年のために、給仕をする店員が何人も控えていた。


 店内には音楽が流れていたが、青年が誰かと通信をしているため今は切られている。


 青年は目の前に――グラスの向こうに投影される映像を見ながら話していた。


「第三が手を引いたか」


『はい。特機開発は採算に合わないとして、計画中止も視野に入れていると報告が来ました。謝罪の意味もあるのか、予定されていた兵器類の代金に関しては返還を申し出ています』


 映像に映るのは、赤い瞳をした無表情の女性だった。


 長く艶のある髪をポニーテールにしたメイド服姿の女性は、淡々と青年に報告をしている。


「諦めるのが早いな」


『第三兵器工場内での派閥争いが原因である、とユリーシア様が予想しています』


「この俺を使って派閥争いか?」


 自分を利用して派閥争いをする第三兵器工場に対して、青年は腹が立つのか少し眉根を寄せた。


 しかし、すぐに微笑む。


「結構なことだ。俺が損をしないなら問題ない」


 第三兵器工場も青年に対して謝罪し、取引を予定していた艦艇や機動騎士を無料で提供すると申し出てきている。


 計画は中止になったが、それ以上の利益は得られた。


 第三兵器工場が、青年に対して気を遣っている証拠である。


 映像の中の女性が確認する。


『それでは、計画はこのまま凍結とされますか?』


「それではつまらないな」


 アタランテの開発計画は凍結――中止という判断が妥当だった。


 しかし、青年はグラスの中の酒を飲み干し、カウンターに置くと。


「――ニアスを呼び出せ」



 小惑星ネイアにある機動騎士開発用の施設。


 ハンガーに固定された頭部と胴体だけとなったアタランテが、アームに固定されていた。


 そんなアタランテの前で言い争いが行われている。


 一人は興奮して顔を赤くしているパーシーだ。


「どうして第七と共同でアタランテの改修をしないといけないのよ! この子の動力炉は第三の機密中の機密なのよ!」


 上層部から伝えられた決定は、開発の中止ではなく条件付きの継続だった。


 一つは結果を出すこと。


 他にも幾つかあったが、パーシーが納得できなかったのは「第七兵器工場との合同開発」という条件だった。


 興奮するパーシーとは反対に、やる気のないニアスがタブレット端末でアタランテのデータを確認しながら小さくため息を吐く。


 アタランテの改修に駆り出されたのは、ニアス・カーリン技術少佐だった。


「私も暇ではないのよ。あの方の命令でなければ、貴重なレアメタルを使ってまで欠陥機の改修なんて依頼を受けなかったわ」


 第七兵器工場でマッド・ジーニアスなどと呼ばれ、好き勝手に振る舞っていたニアスも逆らえない人間がいるらしい。


 ニアスの補佐をするため派遣されたマグが、肩をすくめてアタランテを見上げる。


「上層部で話はついたんだろ? なら問題ないだろうが」


 パーシーは複雑な顔をしながら叫ぶ。


「私が納得できないのよ!」


 話すつもりもないのか、ニアスはデータを見ながらどのように改修するか考えていた。


 つまり、パーシーを無視している。


 ニアスに変わって話し相手になるマグは、なだめつつも話を先に進めたいらしい。


「わかった。わかったから。それより、基本フレームをどうにかしようぜ。お前らのネヴァンタイプ、流行を取り入れて細身だけど頑丈さに欠けから、太くしていい?」


「ふざけんなよ、このドワーフがぁぁぁ!!」


 開発室にパーシーの絶叫が響き渡る。


 そんな中、ニアスはパイロットデータを確認して目を細め、眉根を寄せていた。


(――あの子、もしかして)


 エマのデータを詳しく調べたニアスは、ある可能性に気付く。



 改修が進む軽空母メレアは、以前よりも性能が向上していた。


 建物内からその様子を見ている第三小隊の面々は、新しいメレアについてあれこれ話をしている。


 エマはガラス窓にデータを表示しながら驚いている。


「色んな数値が以前より二割増しになっていますよ。改修って凄いんですね」


 驚くエマに対して、皮肉を交えてラリーが教えてやる。


「それだけ長い間、放置されていた証拠だろ。本当なら退役艦になっていてもおかしくないんだからさ」


 モリーの方は、その辺の事情は気にならないようだ。


「生活環境が改善されるのはいいよね。前は食堂も汚かったしさ」


 ダグの方は、改修されたメレアに不安を感じているようだ。


 腕を組んで不満そうにしている。


「機動騎士の積載数が前の半分まで減らされているけどな」


 軽空母――機動騎士を運用するための母艦であるため、本来であれば積載数が減るというのは問題だ。


 エマが減らされた原因を話す。


「アタランテの開発計画が継続されましたからね。予定通り、そのための設備を積み込んだら積載数が減ったみたいです」


 今度はラリーが不満を漏らす。


「上層部も勝手だよね。中止になるかと思えば、いきなり継続を決定するしさ」


 モリーはメレア以外の辺境治安維持部隊の艦艇に視線を向ける。


 改修が不可能と判断され、解体されていた。


「護衛艦は総入れ替えだって聞いたけど、そっちは第三が融通してくれるらしいよ。第七の艦艇はメレアだけになっちゃうね」


 ラリーは頭の後ろで手を組む。


「ついでに機動騎士も融通して欲しいよ。ネヴァンなら、騎士用じゃなくてもモーヘイブよりはいいからね」


 ラリーの意見にダグが難色を示す。


「ネヴァンは騎士好みが過ぎるからな。俺は普通の量産機が好きだな」


 あれこれ話をする仲間たち。


 モリーがエマに話しかけてくる。


「エマちゃんも良かったね。アタランテの開発が継続されれば、これからまだ乗れるよ」


「――うん」


 嬉しそうに頷くエマは、開発計画が中止されずに喜んでいた。


 知らせを聞いたときは涙が出たほどだ。


「あたし――アタランテを絶対に完成させるんだ」



 傭兵団フィートの艦内。


 黒い宇宙服に身を包んだ傭兵団の面々を前に、サイレンが立っていた。


 黒髪が白く変色し、瞳の色も変わる。


 そこに立っていたのはシレーナであり、率いているよう兵団はダリア傭兵団だ。


「第七兵器工場には来られなくなるけど、それを差し引いても今回の報酬は魅力的だわ。それから、クライアントからの追加依頼よ」


 シレーナは部下たちに追加依頼の内容を伝える。


「第七兵器工場に破壊工作を行うように、とね」


 部下たちがヘルメットの下で笑っていた。


「ライバルの足を引っ張りたいのか?」

「最近稼いでいるから、釘を刺しておきたいのよ」

「首都星の兵器工場はやり方が汚いわ」


 部下たちの雑談をシレーナは、手を上げて止めて自身もヘルメットをかぶる。


「ダリア傭兵団の主力を投入するからには、成果を出さないとね。作戦が開始されたら、予定通り外にいる本隊も動くわ。逃げるタイミングは気を付けなさい」


 部下の一人が尋ねてくる。


「団長はどうするんです?」


「依頼にあった機体を破壊するわ。ついでに、パイロットも殺害してボーナスを獲得しないとね」


 アタランテの破壊。


 そして、パイロットを殺害すればボーナスが支給される。


(依頼を出した男はリバーと名乗っていたけど、個人的に恨みでもあるのかしらね? どこにでもいそうな女の子にしか見えなかったけど)


 シレーナはエマを思い浮かべると、何も知らずに騎士をやっている女の子という印象しかなかった。


 それが、シレーナにとっては煩わしい。


(何も知らない可哀想な子。殺す前に、ちょっといたぶってあげましょうか)


 シレーナの中の闇が、エマを気に入らない相手と思わせていた。



 第三小隊の面々が車に乗り、宿泊施設へと戻っている途中だった。


 小惑星ネイアのコロニー内で、大きな爆発が起きる。


 エマたちから見て天井で起きた爆発に、運転していたラリーが慌てて車を停めた。


「何だ!?」


 四人が慌てて周囲を見ると、警報が鳴り響く。


『居住区エリアにいる方は、すぐに所定の避難場所に――』


 避難を誘導する印が、空中の至る所に投影されていた。


 ダグは外に出ると、地面から伝わる振動に目をむく。


「事故か? いや、この揺れは――まさか、兵器工場が襲撃されたのか?」


 ただの事故ではないとダグが判断すると、エマの端末に通信が入った。


 それは、バンフィールド家の関係者は直ちに艦艇に戻るように、という内容だ。


 モリーも端末で確認するが、メレアは改修作業中である。


「これ、うちたちはどうすればいいの?」


 ラリーは車を走らせようとする。


「そんなの、味方の戦艦に乗せてもらえばいい。さっさと逃げないと、巻き添えで死ぬぞ」


 事故か襲撃か知らないが、目的が第七兵器工場ならば自分たちは関係ないというのがラリーの判断だった。


 だが、エマはここで嫌な予感がする。


「っ! ダグさん、車に乗って! ラリーさん、このまま走って!」


「お、おう」


「急に何を――って!?」


 ダグが慌てて乗り込むと、ドアを閉める前に何かに気付いたラリーが車を走らせる。


 車は地面を走っていたが、僅かに浮き上がるとタイヤが収納されて空を飛んだ。


 ダグとモリーが後ろを見ると、脚のない丸い小型の機動騎士がこちらに迫ってくる。


「どこの馬鹿がコロニー内で機動騎士を持ち出したんだ! モリー、あの機体はどこのだ?」


「うちが知るわけがないでしょ! 量産型の小型機を改造したようなタイプに見えるけどさ。ん? 待って、あいつらエマちゃんを襲った機体じゃないの!?」


「今気付いたのか?」


 二人の会話を聞きながら、エマはラリーにどこに向かえばいいかを伝える。


「アタランテがある施設まで飛んで下さい」


「は!? 完成していない機動騎士なんて放っておけばいいだろ!」


 すると、追いかけてくる機動騎士がサブマシンガンを構えて引き金を引く。


 弾丸が車の横を通り過ぎ、車内が激しく揺れた。


 エマはラリーを急かす。


「いいから早く!」


「わかったよ!」


 車は小回りを利かし、建物の隙間を縫うように進む。


 小型とは言え、機動騎士では追いかけるのも難しいだろう。



 車をわざと逃がしたシレーナは、機動騎士のコックピットから飛び降りる。


 コックピットには部下も乗っており、シレーナに声をかける。


「ここでいいんですか?」


「大丈夫よ。後は、あの子たちが目標まで案内してくれるわ」


 コックピットハッチが閉じると、バックラーは離れていく。


 ステルスモードを起動すると、シレーナの姿が消えた。


 シレーナはそのまま走って車を追いかけた。


 パワードスーツでもある宇宙服で駆け、道路を走る一般車を追い抜いていく。


 そして、エマたちの乗った車が、大きなハッチへ入り込むのが見えた。


「あそこか」


 ハッチが閉じきる前に、シレーナは一人で飛び込み侵入に成功する。


<< 前へ目次  次へ >>  更新