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Dランク騎士

昨日投票してくださった読者のみなさん、ありがとうございます!


キミラノさんで開催している 次にくるライトノベル大賞2021 ですが


【一日一回投票】が可能です。


本日も投票してくれると自分は嬉しくてやる気が出ます。


応援よろしくお願いいたします!!







※ボーイズラブ、ガールズラブ タグについて


世界観的に元女性とか、元男性とか普通に存在するので念のために入れたタグになります(^_^;)


露骨な描写はしないと思うので、安心してください。――多分ね。

 作戦後、エマはクローディアの執務室に呼び出されていた。


 クローディアはバンフィールド家の軍服に身を包み、水色の長い髪を後頭部でまとめている。


 長身でスタイルの良いクローディアは、モデルと言われても納得する外見をしている。ただ、本人は片腕で猛獣すら倒してしまう力を持つ騎士だ。


 そんな彼女が淡々と告げてくるのは、エマの最終評価だった。


「エマ・ロッドマン少尉――五十四歳。騎士学校での成績は機動騎士の操縦以外は平凡。これが書類上でのお前の評価だ」


「――はい」


 星間国家が存在する世界で、人の寿命は長い。


 五十四歳だろうと見た目は十代半ばであり、世間的には成人したばかりの子供扱いを受けている。


「だが、最終試験後の評価はDランクだ」


「――っ!?」


 騎士の格付けで最底辺はDランクだ。


 このランクが与えられるのは、評価前の騎士候補生たちだ。


 もう一つは、評価後に“問題あり”とされる戦力外の騎士たちだった。


 騎士学校を出て初陣を経験したエマに、クローディアの出した評価は「無能」だった。


「まともに機動騎士を操縦できず、更には敵に対して止めを刺せなかった。騎士としては無能以外の何物でもない」


 エマは俯いて下唇を噛みしめる。


 悔しさに涙が出そうになっていると、クローディアが冷めた目を向けていた。


「お前には悔しがる資格すらない。バンフィールド家が、お前にどれだけの予算を割いて騎士に育成したか教えられているはずだ」


 騎士というのは幼い頃から教育された超人だ。


 一般人として生まれても、その後に教育カプセルを多用して指導者のもとで訓練を受ければ騎士になれる。


 ただ、一般人ではとても払えない費用がかかってしまう。


「バンフィールド家は現在騎士不足だ。数年前に起きたバークリー家との大戦のおかげで、どこも騎士を求めている。短期教育の騎士学校を用意したのも、数を用意するためだ」


 バンフィールド家は、現当主であるリアムの代で一度騎士団がリセットされている。


 譜代の騎士など残っておらず、育成すらされていなかった。


 そんなバンフィールド家が騎士を増やすために設立したのが、バンフィールド領の騎士学校だ。


 短期教育で騎士を育成しているが、その期間は約二十年。


 騎士を育てるには少しばかり時間が足りないが、人手不足のバンフィールド家には時間をかけている余裕がなかった。


 クローディアはエマに問う。


「お前は何のために騎士を志した?」


 クローディアの急な問い掛けに、エマは戸惑いつつも答える。


「――守るためです」

(あたしが騎士を志した理由は――)


 強く騎士という存在を認識した日を思い出す。


「弱い人たちを守るために、騎士を目指しました。リアム様みたいな正義の――っ!」


 領主の名前を出すエマに対して、クローディアは即座に拳を叩き込んできた。警告もなければ、振りかぶる動作も見せない一撃は、クローディアの怒りが本物である証拠だろう。


 エマは吹き飛ばされて、壁にぶつかりそのまま床に座り込む。


「お前みたいな半端な奴が、リアム様を語るな」


 先程まで表情の乏しかったクローディアが、今は顔を怒りで赤くしていた。


 エマが立ち上がろうとすると、クローディアが背中を向ける。


「――バンフィールド家に無能な騎士は必要ない」


 無能と言われたエマは、俯くと悔しさで涙を流す。



 初任務が終わり、二週間が過ぎた頃。


 バンフィールド家本星ハイドラに戻ってきたエマは、動きやすい恰好でランニングをしていた。


 下はジャージ、上はタンクトップという恰好だ。


 形の良い胸が僅かに揺れる。


 大きくはないが、小さいとも言えない。


 走っているのは自然豊かな広い敷地を持つ公園で、早朝からも散歩やランニング目的の領民たちがやって来ていた。


 早朝から女の子が走っているという光景だが、騎士になるため教育を受けたエマの体力は常人とは違う。


 一般人が整備されたコースを走る中、エマの方はでこぼこした林の中を走っていた。


 公園内の林の管理をするための道で、普段はあまり使用されていない。周囲には公園を管理するロボットが動いており、空には数台のドローンが飛んでいた。


 エマが加速すると、落ち葉が舞い上がる。


 そのまま傾斜の角度がきつくなった場所を駆け抜けると、ちょっとした広場に出た。


「とうちゃ~く!」


 息を切らしながら両手を挙げて叫んだエマは、タオルを取り出して汗を拭う。


 目的地の広場は高台に位置しており、そこから見えるのはバンフィールド家の首都だった。


 遠くに見えるのは、高層ビルが可愛く見えるような壁に囲まれた都市。


 ハイドラの領主である伯爵の住まう屋敷が見えている。


 エマはここから見える景色が好きだった。


 ただ、今日の表情は優れない。


 景色を見ながら呼吸を整えていると、広場にあるベンチに腰掛けた老人が話しかけてくる。


「ここはいいですね。領内が発展しているのを実感できます」


 振り返ったエマは、その老人を見て照れてしまう。叫んだのを聞かれた気恥ずかしさもあるが、気配に気付かない自分も情けなくなる。


「お爺ちゃん!?」


 一応は騎士である自分が、一般人の気配に気付けなかったのか、と。


「え、えっと――久しぶり」


 照れながら挨拶をするエマに、知り合いの老人が微笑んでいる。


 紳士風の老人は、エマの姿を見ていた。


「あのお転婆な女の子が、随分と立派になりましたね」


 老紳士はエマの祖父ではない。


 幼い頃から公園に来ては運動をしていたエマは、この時間帯によく老人に出会っていた。


 相手の名前は知らないが、会えば挨拶をして世間話をする仲になっていた。


 アンチエイジング技術が広く普及し、今では老人の姿をしている人は少ない。


 公園に老人がいるというのは、幼い頃のエマにとって物珍しかった。


 そのため、自分から声をかけるようになっていた。


 昔からの知り合いに、エマは砕けた口調で話をする。


「お爺ちゃん、あたしももう大人だよ」


「これは失礼しました。そういえば、騎士学校に入学されていましたね。卒業もされたのでは?」


 騎士学校の話をされて、エマの表情が曇る。


 クローディアに無能呼ばわりされたことを思い出すと、エマは老人の隣に腰を下ろした。


「卒業は出来たけど、評価は最悪だったよ。今期のDランクはあたし一人だって言われた」


「Dランク? 成績が悪かったのですか?」


 エマを心配してくれる老人は、どうやら騎士のランクについて詳しいらしい。細かい説明をしなくても通じるだろうと判断し、エマは頷いて続きを話す。


「成績は悪くないよ。よ、良くもなかったけどさ。――でも、機動騎士の操縦が駄目なんだ。本当は機動騎士に乗るのが一番好きなんだけど、あたしは下手くそなんだって」


 俯いて足をぶらつかせるエマは、老人に泣き言を漏らす。


「他のみんなは艦隊やら基地に配属されて、新型機に乗れるみたい。でも、あたしは駄目だったよ。辺境送りで、与えられるのは旧式の機動騎士だって」


「辺境ですか? それはどこです?」


「お爺ちゃんは聞いても知らないと思うよ。バンフィールド家が手に入れた惑星だよ。入植は可能だけど、長年放置されていたから調査が必要なんだって。確か――【エーリアス】だったかな?」


「エーリアスですか。それはまた遠いですね」


 エーリアスを知っている様子の老人に、エマは少しだけ違和感を抱いた。


 一般人が知っている情報ではないが、調べることは可能だ。


「お爺ちゃん詳しいね」


 エマにそう言われると、何か考え込んでいた老人が少しだけ慌てる。


「これでも昔は未知の惑星の調査団に憧れていましてね」


「そうだったんだ。あれ? でも、前は役者を目指していたとか言わなかった?」


 過去の会話を思い出すエマは、確かに老人が役者を目指していたと聞いたことがある。


 老人は照れ笑いをする。


「恥ずかしながら若い頃は色々と手を出しましてね。今の仕事に巡り会うまでは、色んな寄り道をしたものです」


「寄り道かぁ」


「どうしました?」


「――あたしは夢に向かっているのか怪しくなったからね。寄り道と言うよりも、脱線かな? 領主様みたいな正義の味方にはなれないよ」


 老人はエマが夢を諦めたような物言いに、少し寂しそうに微笑む。


「エマさんは領主様のような正義の味方を目指していましたね」


 ただ、続きを話す老人は、表情を真剣なものに変えた。


「そこで諦めていては、領主様のような正義の味方にはなれませんよ」


「え?」


 老人はベンチから立ち上がる。


「あの方はどのような状況でも諦めず、前に進み続けていますからね。他者の評価など気にせず、ただ己の道を――」


 そこまで喋る老人は、エマの視線に気付いたようだ。


「お爺ちゃん、領主様と知り合い?」


「ま、まさか。それに、長年この惑星で暮らしていると、統治によって領主様のお姿が何となく思い浮かんでくるのですよ」


「そういうものなのかな? あたしは今の領主様のことしか知らないから、姿は思い浮かばないかな。昔は酷かった~っていうのはよく聞くけど」


「はは、ははは――そうですね。おっと、そろそろ時間です」


 仕事へと向かうため、老人が去って行く。


 去り際にエマに向けて、老人が言葉をかけてくる。


「きっとエマさんならなれると思いますよ。正義の味方にね」


「私がなれるかな?」


「自分を疑っていては、何事もうまくいきません。信じて突き進むのが、若者の特権ですよ」


「自分を信じる、か。言うのは簡単だけどさ」


「投げ出すのはいつでもできますからね」


「――そうだね。ありがとう、お爺ちゃん。気持ちが楽になったよ。うん、まだ終わったわけじゃないもんね!」


 エマはそう言われ、破顔して大きく老人に手を振る。


 老人の姿が見えなくなると、エマは両手で頬を叩いて気合いを入れた。


「そうだ。この程度で諦めるもんか。あたしは正義の騎士になるんだ!」



 バンフィールド家の屋敷は広大だ。


 都市一つを屋敷内に内包し、最早屋敷という呼び方が正しくない。


 そんな屋敷の中にある一室。


 そこには、バンフィールド家の騎士団を統括する人物がいた。


 クリスティアナ・レタ・ローズブレイア――バンフィールド家の騎士団では筆頭の立場だったが、領主であるリアムの怒りに触れて罷免されている。


 しかし、代わりがいないため、今も騎士団のまとめ役を行っていた。


 そんな彼女が呼び出したのは、自分の副官にして信頼している女性騎士。


 クローディアだった。


 休め、の姿勢で目の前に立つクローディアに、クリスティアナは目を細めている。


「私が離れている間、よくまとめてくれた」


「はっ、光栄であります」


「だが、新米共の育成に関しては問題だな。クローディア、お前は厳しすぎるのよ」


 厳しすぎると判断されたクローディアだが、その表情は無反応だった。


 むしろ、自分を責めるクリスティアナに反論する。


「実戦を経験していない騎士など役に立ちません」


「正論だわ。だけど、新人はもっと大事に扱いなさい。騎士学校を出たばかりのひよっこを、即実戦投入なんてやり過ぎよ。――それに、評価も厳しすぎるわ」


「味方の足を引っ張る無能は必要ありませんよ」


 酷く冷たい微笑を浮かべる副官の言葉に、クリスティアナは内心で同情する。


(クローディア、あなたもまだ過去を引きずっているのね)


 クローディアという女性騎士は、かつて無能な味方の裏切りにより宇宙海賊たちに捕らえられた過去を持っている。


 捕らえられる以前から厳しかったようだが、その一件から更に他者に対して厳しくなった。


 彼女にとっての味方とは、同じ経験を持つ有能な騎士たちだけ。


 それ以外は駒としか考えていない。


 ただ、上司として叱責しなければならない。


「私は選別しろと命令していないわ。使える騎士を用意しろと命令したのよ」


 微笑みながら目の前の部下を威圧する。


 クローディアも実力差を認識しており、微笑を消し去ると無表情になる。


 ただ、苦々しさが言葉ににじみ出ていた。


「失礼いたしました。以後、気を付けます」


「必要ないわ。お前をいつまでも教官職に置いていられるほど、バンフィールド家は暇ではないの」


 そう言うと、クリスティアナはクローディアの前に資料を投影する。


 クローディアが目を細めた。


「――これは?」


 クリスティアナが投影した資料に映し出されているのは、宇宙海賊たちが使用する兵器についてだった。


「宇宙海賊共に武器を提供する者たちがいる」


「武器商人では?」


 金さえ出せば、宇宙海賊だろうと兵器を売る商人は少なくない。


 ただ、クリスティアナは違う資料に目を向ける。


「新たに手に入れた惑星の中に、海賊共の兵器工場があるという情報が手に入った。詳細な位置は特定できていないが、確実にある」


 クローディアの表情が不快感から眉をひそめる。


 クリスティアナは、クローディアに命令する。


「クローディア、余所が騒ぎ出す前に確実に兵器工場を潰しなさい」


「はっ」


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