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開発中止?

音泉さんにて

「乙女ゲー世界はMCに厳しいラジオです 1~6」

が聞けますので、是非ともチェックしてみてください。

 会議室。


 そこに集まったのは、バンフィールド家の関係者と第三兵器工場から派遣されたアタランテ開発チームの責任者であるパーシーだ。


 テーブルを挟んで向かい合う双方は、アタランテの開発について話し合っていた。


 責任者として参加しているクラウスが、資料を見ながら僅かに目を細めている。


 表情に乏しいが、不快感が出ていた。


「試作実験機については、第三兵器工場が責任を持つはずではありませんか? 今更、共同開発――いえ、この場合は出資ですね。それを当家に求めてくるのは契約違反ですね」


 騎士であるクラウスに加え、参加した軍人や官僚も表情は険しい。


 パーシーの方は複雑な表情をしていた。


 多額の改修費が無駄になってしまったのも理由だが、一番の理由は別にある。


 それは第三兵器工場内での派閥争いだ。


「上層部の間で、特機開発を巡って意見が対立しています。計画自体は継続しますが、予算を大幅に削られてしまいました。このままでは、事実上の計画中止になってしまいます」


 アタランテの開発に関わったパーシーからしても、この状況は不本意のようだ。


 だからと言って、開発費を寄越せと言われたバンフィールド家は納得しない。


 将官の階級章を持つ軍人は、パーシーを睨んでいる。


 その視線は、会議に参加させられたエマにも一度だけ向けられた。


 厄介事を持ち込んだ駄目騎士、と言いたげな目だ。


「特機の重要性は我々も認識はしています。実際に戦場で何度も特機の活躍を見てきましたからね。ただ、それはあなた方の商品でなくとも問題ないわけです」


 他の軍人も口を開く。


「軍――バンフィールド家の軍は、特機に関しては第七兵器工場との付き合いが長いですからね。領主様も愛機を預けられることも多い」


 第七兵器工場と、バンフィールド家が懇意にしているのは帝国では有名な話だ。


 パーシーも知ってはいるが、引き下がれない理由がある。


「存じております。ですが、第三兵器工場もバンフィールド家の軍部を支えている重要な取引相手ではありませんか?」


 特機開発に優れたのが第七兵器工場ならば、バンフィールド家の量産機――その他大勢を支えているのは第三兵器工場の商品だ。


 軍人たちが苦々しい顔をする中、表情に変化のないクラウスが口を開く。


「この件は我々で判断出来ない案件です。そもそも、アタランテの開発計画自体、あの方が関わっていますからね」


 あの方。


 クラウスの発言を聞いて、軍人たちが一瞬だけそれぞれが反応を示す。


 驚く者、苦々しい顔をする者、困ったような顔をする者。


 クラウスは手を組むと、パーシーに返答の保留を告げる。


「すぐに確認を取りましょう。ですが、あの方もお忙しい。返答はしばらく待っていただけますね?」


 パーシーは項垂れる。


「わかりました。本部には私の方から説明しておきます」



 会議が終わると、パーシーや軍人たちが部屋を出て行く。


 残ったのはクラウスと、声をかけられたエマだけだ。


「ロッドマン中尉、君の素直な感想を聞きたい」


「は、はい!」


 緊張するエマに、クラウスは小さく息を吐いた。


「緊張する必要はない。個人的な感想を聞きたいだけだ。君は――アタランテという機体が、本当に完成すると考えているか?」


「え、えっと」


 技術的な質問をされたと思ったエマが、どう答えるべきか考えている間に、クラウスは自分の周囲にスクリーンを何枚も投影する。


 そこに映し出されたのは、アタランテのデータだった。


「第三兵器工場が開発したアタランテは、確かに高性能だ。だが、現時点で扱えるパイロットは、君を含めてもバンフィールド家に数名しかいない。そんな機動騎士が、本当に完成するだろうか?」


 兵器として大きな問題を抱えている。


 エマは俯きながら尋ねる。


「完成しても意味がない、と? だから、中止しろって言うんですか?」


 自分にとって存在の証明であるアタランテの開発が、中断される理由は真っ当だ。


 だが、個人的に納得できない。


 複雑な心境のエマに対して、クラウスは優しい口調で答える。


「必要性を考えるのは、我々よりも上の人間だ。私たちは、自分に与えられた任務をこなすことを考えたらいい」


 欠陥機が本当に完成するのか?


 その問いに、エマは答える。


「――だったら、絶対に完成させます」


 エマの内心を察したのか、クラウスは周囲の映像を全て消した。


「そうか」



 エマを退室させたクラウスは、今回の件の報告書をまとめていた。


 空中に投影された映像を見ながら、報告書を作成していく。


 その中の資料には、テストパイロットであるエマのデータもあった。


 クラウスはエマのデータを見ながら、不自然な箇所を発見する。


「おかしいとは思っていたが、騎士学校での成績は酷いものだな」


 新米騎士がB級を与えられ、オマケに中尉だ。


 エリートコースを歩んでいる騎士たちよりも待遇がいいのに、配属先が辺境治安維持部隊というのが気になっていた。


「彼女が試作実験機に思い入れを持つわけだ」


 アタランテを得るまで、活躍らしい活躍をしていない。


 そればかりか、騎士としては落第である。


 そんなエマがようやく手に入れた活躍できる機会――アタランテという機動騎士にこだわる理由が、クラウスには理解できた。


「――私に出来るのはここまでだな」


 そう呟きながら、報告書とは別の書類を用意した。


 そこには、クラウスの名前でアタランテの開発計画継続を希望すると書かれる。



 格納庫。


 縛られたアタランテの前で、エマが膝を抱えて顔を隠しながら浮かんでいた。


 その横にいるのは、モリーだ。


 必死にエマを慰めている。


「あんなの仕方ないって。パーシーさんも言っていたけど、本来なら爆発するのが駄目だからさ。エマちゃんが気にする必要ないよ」


 本来はオーバーロードさせて、機体が自壊しないかテストするつもりだった。


 ただ、パーシーは戦闘中のデータから、危険だと判断してエマを止めた。


 それを聞き入れなかったのは、自分である。


「あたしがあの時――」


「あ~、もう暗い! 暗すぎ! エマちゃんが悩んだって解決しないんだから、もう気持ちを切り替えて遊ぼうよ」


 モリーは、エマにパンフレット――空中に映像を浮かべ、小惑星ネイア内のコロニーの名所を見せる。


「うちさ、前から色々と調べていたんだよね。ここって兵器工場があるから、他のコロニーと違って凄く変なの! 案内するから、一緒に遊ぼうよ」


「で、でも」


「いいから、いいから! それに、エマちゃんはこっちに来てからほとんど休んでないよね? 休暇は取らないとだ~め」


 強引にモリーに連れ出され、エマは買い物に出かけることになった。



 それから数時間後。


 エマとモリーは、ショーウインドーに並べられた商品を見てはしゃいでいた。


 二人とも瞳を輝かせて、普段より大きな声が出ている。


「これ凄くない!? こんなの滅多にお目にかかれないよ!!」


「凄すぎて引くわよね! あ、これもいい~」


 若い女の子がはしゃいでいる姿に、周囲を歩いている人々が奇異の目を向けていた。


 別段不思議な光景でも内のだが、問題なのは二人が見ている商品だ。


 エマが商品を見ながら早口になる。


「バンフィールド家の特別仕様じゃないアヴィドとか、レア物中のレア物だよね。バンフィールド家ならガレージキットのアヴィドもあるけど、余所だと見かけないって聞くからさ。やっぱり、アヴィドを開発した第七兵器工場だけあるよね。あ~、これを買って実家に飾りたいよ~」


 飾られていたのは、アヴィド――バンフィールド家の領主が愛機とする機動騎士のプラモデルだった。


 ただ、バンフィールド家の仕様とは違っていて、カラーリングは灰色の金属色になっている。


 モリーは隣で身をよじっていた。


「このプロトタイプ感がたまらないわ~。でも、値段もお高いわ~」


 二人揃って値段を見て肩を落としていた。


 だが、エマは顔を上げる。


「あたし、買う! 買って組み立てて、実家の棚に飾る! バンフィールド家仕様のアヴィドの隣に、この子を並べるんだ~」


 嬉しそうに話すエマに、モリーが顔を向けて首をかしげる。


「アヴィドのプラモデルなんてあったの? アレ、発売どころかガレージキットも取り締まっているって噂じゃない?」


 エマは腰に手を当てて、得意気な顔で入手した経緯を話す。


「それが短期間だけ発売されていたの。本当に一時期だけ、数ヶ月の間だけ販売されていた幻のキットだよ」


 モリーが両手を口に当てて、エマを羨ましがる。


「いいなぁ」


「あたしはあの時の自分を褒めたいね。何しろ、全財産を叩いて三つ購入したんだから」


「エマちゃん凄い!」


 褒められたエマは、そのまま模型店に入って――アヴィドのキットを三つ購入して店を出てきた。


 嬉しそうにしながらも、何故か顔が青い。


「エマちゃん、どうしたの?」


「勢いに任せて三つも買っちゃった」


「お、おう」


 今月のやりくりをどうしたらいいのか、と今になってエマは悩み始める。


 店先でそんな会話をしている二人に、綺麗な女性が近付いてくる。


 やや呆れた顔をした女性は、以前にラクーンを見ていた人だった。


「店先で騒ぐと迷惑になるわよ」


 周囲を見ると大勢の視線が集まっており、恥ずかしくなったエマは顔を赤らめる。


「すみませんでした」


「私に謝る必要はないわ。それよりも、前に見かけたことがあるわね。確か、ラクーンを見学している時だったかしら?」


 僅かに首をかしげて微笑む女性に、エマは同意する。


「あ、はい」


 女性は背中を向けて歩き去りつつ、手を振って二人に声をかける。


「楽しい休日を過ごしてね」


若木(#゜Д゜)「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 10巻】が好評発売中だおらぁ!! もっと私を甘やかして! もっと褒め称えて!」


若木( ゜∀゜)「アヴィドは第七製だから、プラモデルもあるのね」


クレアーレ(;○)「この植物、情緒不安定ね」

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