自壊
【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 10巻】も発売しましたから、活動報告を更新しようかな?
Twitterの方が楽なので、普段はそちらで色々と呟いております。
そちらも是非ともチェックしてみてくださいね。
アタランテのコックピット内は、警報が鳴り響いていた。
「こっちはテスト用のライフルしか持っていないのに!」
急に現れた敵の数は六機。
どこから現れたかも不明で、母艦らしき存在は近くにいなかった。
輸送艦と通信が繋がっており、パーシーの混乱している声が聞こえてくる。
『どこの所属なの!』
『不明です。類似する機体はありますが、特定までは無理です』
『目的は? 何か要求はないの!?』
『ありません』
アタランテを操縦するエマは、混乱する味方の通信を聞きながら襲いかかってくる敵機に集中する。
(銃は駄目でもブレードなら!)
テスト用のライフルを放り投げたアタランテは、サイドスカートからレーザーブレードの柄を取り出すと右手に握らせる。
青白い光の刃が出現すると、左腕に取り付けられたシールドを構えた。
「くっ!?」
直後に襲いかかってくるのは、敵機が持っていたライフルの弾丸だ。
実弾兵器だけでなく、光学兵器も所有している。
小型の機動騎士らしく、小回りが利いてすばしっこい。
そんな敵機に囲まれながらも、アタランテは逃げ回っていた。
しかし――。
「全然パワーが出ない!?」
――以前ほどのパワーを感じなかった。
アタランテを見れば、以前よりも膨らんだ関節部分から青白い電気が放電している。
「まだ全力じゃないのに!?」
急いで真下に降下すると、先程までアタランテがいた場所にスピア――槍を持った敵機が三機襲いかかって来た。
何とか避けることは出来たが、エマはアタランテが思うように動かないため全力を出せずにいた。
(いくら出力を上げようとしても、抜けていく感じがある。こんなの、アタランテじゃない)
力を出そうとしても、関節から抜けていく。
今のアタランテは、必要なエネルギーまで関節から逃がしていた。
今に至って、エマは最初の違和感の正体に気付く。
『ロッドマン中尉! 第七の防衛部隊が出撃したわ。残り三分、全力で逃げ切りのよ』
味方が来るまでの時間を耐えればいい。
それだけなのだが、敵機は戦い慣れているようでエマにとってはやりにくかった。
今のアタランテでも敵機よりもスピードは出ている。
しかし、小回りが利かない。
オマケに普段と違う操縦感覚は、今の状況では危険すぎた。
エマの呼吸が荒くなる。
そして、エマの手がコックピットに急増で取り付けられたボタンが三つついた箱に伸びる。
異変に気付いたパーシーが、必死になってエマを説得する。
『リミッターを外さないで!』
それでも、エマはボタンをリミッター解除の順番で押す。
「短時間だけなら、今のこの子でも!」
アタランテのリミッターが解除されると、機体が黄色い光を放つ。
関節からの放電も、青から黄色へと変色した。
放電量も増え、明らかにこれまでと違った様子を出している。
「これならいけ――え?」
フットペダルを踏み込み、操縦桿を動かすも――これまで感じていた抵抗がなかった。
スカッという擬音でも聞こえてきそうな軽さで、アタランテにも反応がない。
コックピット内で重力を感じるだろうと思っていたが、先に感じたのは爆発による揺れだった。
「――嘘」
アタランテの関節から火が出ると、両手両脚が肘や膝から吹き飛ぶ。
丸腰になったアタランテがその場に漂うと、敵機の方が困惑していたほどだ。
だが、相手――敵機の銃口がアタランテに向けられる。
(殺される!?)
自分が死ぬのを嫌でも自覚した瞬間だった。
輸送艦から出撃してきたモーヘイブが、その手に持った作業用の機材で攻撃を仕掛ける。
釘打ち機で放たれた杭が、敵機のライフルを弾いた。
『無事か、お嬢ちゃん!』
助けに来たのはダグだった。
「ダグさん!」
その後ろにはラリーが乗るモーヘイブの姿もある。
『ろくな武器もない機体で出撃とか、絶対に終わった』
二機は作業用であるためか、黄色く塗装されていた。
ラリーも釘打ち機で敵機を攻撃するが、元々武器ではない道具だ。
狙いも定まらず、敵機も避けてしまう。
このままなら三機とも破壊されるところだったが、予想よりも早く第七兵器工場の防衛部隊が駆けつけてくれた。
『無事か! 後は我々が引き受ける』
戦艦や機動騎士が現れたため、敵機は即座に撤退していく。
母艦もいないのにどこに向かうのか?
第七兵器工場の防衛部隊が追撃に向かう中、ダグがエマに話しかけてくる。
『生き残ったな、お嬢ちゃん』
「――ダグさん、あたし」
涙を流すエマに、ダグは深いため息を吐いてから教えてやる。
『戦場にいるなら殺されもする。覚悟がないなら、今の内に軍を辞めて――』
エマが死に怯えていると思ったのだろうが、それは違った。
「あたし! アタランテを壊しちゃいました」
『は? そんなの今はどうでもいいだろうが!』
「どうでも良くない!」
ダグに強く言い返したエマは、コックピット内で嗚咽をもらす。
「あたしにとって、アタランテは騎士でいられる証明だったのに。ようやく、あの人に近付けるって思ったのに」
エマの涙は止まらなかった。
憧れたあの人の背中にすら手が届かないばかりか、見えもしないのが現状だ。
しかし、それでも――アタランテがあれば近付けると思っていた。
どんなに遠い理想だろうと、僅かばかりでも距離を縮めてくれる大事な機動騎士。
それを自分の過ちで破壊したのが、エマは許せなかった。
「ごめん。ごめんね、アタランテ」
◇
アタランテが無残な姿で、格納庫に戻ってきた。
幾つものワイヤーで固定された姿は、手足をもがれて縛られているように見える。
その様子を眺めているエマは、無重力状態で膝を抱えて浮かんでいる。
(あたしがリミッターを解除したせいだ。あれさえなければ、こんなことにならなかったのに)
あの時やり直せたら、と何度も考えてしまう。
顔を上げてアタランテを見上げる。
「ごめんね、アタランテ。もしかしたら――完成させてあげられないかも」
改修後のオーバーロード時に自壊した。
これは、アタランテの開発チームにとって大きな失敗である。
既に第三兵器工場の上層部では、開発の中止が検討されているそうだ。
特機開発を継続したい上層部の派閥も多いが、反対派閥も多いのだろう。
戻ってきたパーシーの難しい表情から見ても、開発の中止が濃厚だ。
多額の予算をかけて改修したにも関わらず、成果が出なければ仕方がない。
エマは涙を流す。
「やっぱりあたしは、駄目な騎士だ」
ようやく活躍できる機会が得られたのに、それを自分の手で不意にしたのが情けなかった。
◇
傭兵団フィートの宇宙戦艦は、第七兵器工場のドックにて整備を受けていた。
団長のサイレンは、三隻が整備されている様子を見ながら小さくため息を吐く。
誰もいない通路の窓から外を眺めているのだが、サイレンの影から声が聞こえてくる。
「やはり任務達成とはなりませんか?」
サイレンは影の方に顔を向けずに、腕を組んで答える。
「駄目ね。クライアントは破壊を依頼してきたのよ。映像を見たけど、あれでは自壊よ」
依頼主はきっと満足しないだろう。
サイレンは他の依頼についても確認する。
「それよりも新型の使い心地はどうかしら? 小型の機動騎士で小回りは利くけど、決定打に欠けると思っていたのだけど?」
もう一つの依頼とは、他の兵器工場から支給された試作機のテストだ。
こちらは新型ではなく、宇宙海賊や傭兵向けに設計された量産型の改修機である。
「【バックラー】ですか? 団長の言われる通りですが、我々なら使いようがあります。一機は団長用にカスタマイズしてはどうです?」
部下の悪くないという評価に頷くも、専用機に関しては難色を示す。
バックラーは、実戦テストのために傭兵団に与えられた機動騎士だ。
十四メートル未満という小型に分類される丸っこい機体は、シンプルな外見と同様に構造も複雑ではない。
頑丈さと整備性の高さから、帝国の兵器工場の一つが宇宙海賊や傭兵向けに販売を考えている機動騎士だ。
その最終テスト――実戦テストを請け負っていた。
しかし、サイレンの好みではない。
「好みじゃないわ」
「ですが、そろそろ団長の機動騎士も乗り換えた方がよろしいのではありませんか?」
「そうなのよね。――いっそ、ここで適当に見繕いましょうか」
「購入されるのですか?」
「まさか」
否定するサイレンは、肩をすくめると目を細める。
思い出すのは、バンフィールド家が第七兵器工場に開発させた次世代機だ。
エース専用のアシストを排除した機体――テウメッサだ。
「好みの機体があるから、暴れる際に拝借していくわ」
すると、部下が尋ねてくる。
「それでは、計画通りに?」
「もちろんよ」
若木( ゜д゜)「苗木ちゃん、植物だから人の趣味って理解できな~い。テウメッサとラクーンって、ほとんど中身は同じよね?」
若木( ゜∀゜)「せめて「俺は星間国家の悪徳領主!」と【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】くらい違いがないと駄目ね。【モブせか】最新【10巻】はもう発売されているから、みんな是非とも買って読んでね!」