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小惑星ネイア

乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です! 10巻 は 5月30日 発売です!!


アンケート特典は「マリエルートその8」で、文字数は2万文字以上!!


本編と一緒にお楽しみ下さい。


アンケート特典の入手方法は


1 巻末、帯裏にあるURLやバーコードからアンケートページにアクセス! ※電子書籍も可能

2 アンケートに答える

3 マリエルートを読む


以上です!

是非ともアンケートに答えて、書籍版の感想を教えて下さい。

 アルグランド帝国の軍事力を支える兵器工場の一つ「第七兵器工場」は、宇宙にある小惑星の集合体を本拠地としていた。


 採掘が終わった小惑星を繋げた不格好な軍事工場は、一つのスペースコロニーである。


 小惑星内部では、兵器工場を稼働させるために必要な全てが揃っている。


 第七兵器工場で生活している職員も多いため、生活環境も整えられていた。


 そんな小惑星ネイアに到着したのは、エマの配属先である軽空母メレアだ。


 バンフィールド家からやって来た艦艇と一緒に、第七兵工場の内部へと誘導されている。


『ようこそ、レメアのクルーさんたち。里帰りを手伝っていただき、誠にありがとうございます』


 第七のオペレーターが、レメアの建造記録を確認して「里帰り」と言って歓迎してくれる。


 エマはその放送を格納庫で聞いていた。


「確かに里帰りだね」


 妙に納得した様子のエマは、専用機である試作実験機【アタランテ】のコックピットから顔を出していた。


 作業着のツナギ姿だが、上半身は脱いで白いタンクトップ姿だ。


 胸の形がハッキリと出ているが、軍隊生活であるため本人も周囲も気にした様子がない。


 そばにいたモリーは、タブレット型の端末を操作しながらエマと会話をする。


「第七はこだわりが強いからね」


「こだわり?」


「他と比べると技術特化だから、自分たちの兵器を自慢したいのよ」


 第七兵器工場の噂を聞けば、性能は優れているがその他に難あり、だ。


 生産性や整備性も突き詰めた結果、人が運用することを無視した兵器も沢山ある。


 そのため、帝国内での人気は下から数えた方が早い。


 モリーの説明に、エマは苦笑いをする。


「バンフィールド家はよく利用しているけどね」


「うちも嫌いじゃないけど、使うなら第三の無難なやつがいいわ。見た目も性能もいいし、コスパもいいからね」


 そんな二人の会話に聞き耳を立てていたのは、アタランテの整備を行っている技術者たちだった。


 軍艦の中だが、技術者たちの作業着はバンフィールド家の物ではない。


 第三と書かれたツナギ姿だ。


 そのうちの一人――アタランテの開発チームの主任として派遣された【パーシー・パエ】技術少佐だった。


 赤い眼鏡をかけたインテリ女性風の彼女は、髪を首の後ろで結んでお下げにしている。


 彼女だけはスカートのタイトスーツの上から白衣を着用していた。


 背も高くスタイルもいい――だが、一番特徴的なのは彼女の耳だ。


 長く尖っており、彼女がエルフであると証明していた。


 笑顔でエマとモリーの会話に加わってくる。


「お褒めにあずかり光栄だわ」


「っ! パーシー少佐!」


 技術少佐の登場に、エマとモリーが慌てて敬礼をする。しかし、パーシーは手をひらひらとさせて二人に敬礼を止めさせた。


「堅苦しいのは苦手よ。それに、私って軍人というより開発者でね。整備や改良もやっているけど、本業は軍人じゃないの」


 軍人じゃないと言い出すパーシーに、エマもモリーも困惑して微妙な顔をする。


「え、でも帝国正規軍の仕官ですよね?」


「うちら私兵の軍隊より格上って聞いていますよ」


 そんな二人の反応を見て、パーシーは額に手を当てる。


「兵器工場は半官半民の軍需産業よ。士官学校に進んだのは、こっち系の仕事をするなら学費がかからないからね」


 パーシーは科学者になるため、一度士官学校に入学して軍人になったと説明する。


 モリーが意外そうな顔をする。


「それってありなんですか?」


「ありよ。その代わり、就職先は兵器工場に限られるけどね。特別優秀なら、工廠にスカウトされるって話も――」


 そんな話をしている間に、レメアは第七のドッグに入港してアームで固定される。


 無重力状態のドッグ内は、六角柱の形で、どの面にも船艦が固定されていた。


「――到着したみたいね。全員、アタランテに第七の技術馬鹿連中を近付けさせないように見張りなさい」


 パーシーが部下たちに命令しながら、二人から離れていく。


 エマはそんなパーシーたちから、視線をアタランテに向けた。


「この子のための特別チームか」


 エマ以外に操縦できなかったアタランテは、第三兵器工場が特機開発のためにネヴァンを改修したものだ。


 誰にも動かせず第三兵器工場で眠っていた機体だが、今はエマの専用機になっている。


 あまりにも操縦が難しすぎて、一流のパイロットたちでも音を上げた機体だ。


 それを動かせるエマのために、第三兵器工場は専属のチームを派遣した。


 アタランテから特機開発のためのノウハウ――その他諸々のデータを回収するためだ。


 すると、格納庫のハッチが開いた。


 そこから現れるのは、第七兵器工場の関係者たちだ。


 モリーが頭をかく。


「早速調べに来たわね」


 彼らがその手に持っているのは、様々な計器類だった。


 アタランテの情報を手に入れていたのか、嬉々として調べに来ている。


 代表者と思われる男性が、早速声をかけてくる。


「メレアのクルーの皆さん、こんにちは。――おや? 第三兵器工場の皆さんもご一緒でしたか」


 それを、パーシー率いるチームが触らせまいとにらみを利かせていた。


「白々しい挨拶ね。これだからドワーフは嫌いよ」


 やって来た第七の代表者はドワーフだった。


「高慢ちきなエルフが責任者とは、第三は何を考えているんだか」


「それって人種差別よね? 第七の人権意識の低さは、本当に嫌になるわね」


「ドワーフを見下しているのはそっちだろう。俺を見た途端に、酷く嫌そうな顔をしていたじゃないか」


「さぁ? どうだったかしらね」


 技術者同士が睨み合っている様子を見て、エマは深いため息を吐く。


「大丈夫なのかな?」


 言い争う二人を見ていると、エマの端末にメッセージが届く。


 エマが内容を確認していると、モリーが覗き込んできた。


「うちらに何か仕事でも命令されたの?」


 小隊に任務でも与えられたのか? というモリーに対して、エマは頭を振る。


「騎士は全員集合だって。ごめん、メレアを降りたらすぐに向かわないと」


 エマがアタランテから離れると、モリーが手を振る。


「騎士も大変だな。何があるか知らないけど頑張ってね」


「うん!」



 小惑星ネイア内には都市が存在する。


 第七兵器工場らしいのは、デザインが機能性重視という点だろう。


 都市計画に無駄がないのは素晴らしいが、残念な点は余裕のなさだ。


 遊び心に欠けている。


 そんな都市を巨大スクリーンとなった壁で見ているエマは、今回バンフィールド家から派遣された騎士たちの集まりに参加していた。


 第七兵器工場の歓迎会である。


 立食パーティー形式で、周囲には同じバンフィールド家の騎士たちが参加している。


 会場は幾つも用意されており、将官や佐官に向けたパーティーも開かれていた。


「兵器工場ってお金があるんだなぁ」


 ジュースの入ったグラスを両手で持ち、映像が次々に切り替わる壁を眺めていた。


 周囲では同僚や知り合いと会話をしている騎士たちが多いのだが、残念なことにレメアには騎士が一人だけ。


 同期たちの姿もないため、エマは一人だった。


 時折声をかけてくれる騎士もいるが、多くはナンパ目的だ。


「ねぇ、この後暇?」


 同じB級騎士の大尉が、エマに声をかけてくる。


 短髪の美形騎士に声をかけられエマも狼狽えてしまうが、相手の体付きや胸を見て性別に気が付く。


「し、仕事がありますから」


「それは残念ね」


 相手は女性騎士だった。


 ナンパもしつこくなく、どちらかと言えば彼女なりの挨拶だった。


 断られても気にした様子は見せず、世間話をしてくる。


「君は新人よね? それなのにB級なんて、随分な好待遇よね」


 棘のあるような言葉にも聞こえるが、女性騎士は純粋な興味として尋ねているらしい。


「えっと、大きな任務で偶然手柄を立てたので」


 曖昧な返答をするエマに対して、女性騎士は興味津々だった。


「君は面白いね。良かったらうちの部隊に来ない? 歓迎するわよ」


「その、えっと――」


 アタランテのテストパイロットを引き受けている最中では、他部隊へのスカウトは受けられない。


 エマが断ろうとしていると、どこかで言い争う声が聞こえてくる。


「もう一度言ってみろ」


 エマと大尉の顔が剣呑な雰囲気を出している集団に向かうと、そこでは十数人程度の集団が二つ。


 互いに睨み合っており、それぞれが今にも武器を手に取りそうな雰囲気だった。


 相手側も黙っていない。


「海賊に負けた使えないお前らに、新型は相応しくないって言ったんだよ。テウメッサは俺たちが受領するから、お前らはモーヘイブでも使っとけ」


 何やら第七で受領される新型機の話題で揉めているらしい。


 喧嘩が始まろうとすると、大尉が腕を組んで小さくため息を吐く。


「こんな場所でも派閥争いとは嫌になるね」


 辟易とした表情の大尉に、エマは詳しい説明を求める。


「派閥争いですか?」


「君は知らないみたいね。バンフィールド家の騎士団には、代表として名前が挙がる騎士が二人いるのよ」


「それなら知っています。クリスティアナ様とマリー様ですよね?」


 少し前に筆頭騎士と次席騎士の座にいた二人は、リアムの怒りを買って現在はその地位を剥奪されている。


 それでも、人手不足が深刻なバンフィールド家では、クリスティアナとマリーが重要な役割を担っているのは変わらない。


 エマは二人について世間一般の評価を口にする。


「どちらも一流の騎士で、領主様を支える忠臣だって評判でした」


 笑顔のエマに、大尉は何とも言えない顔をしている。


「お二人に面会したことは?」


「式典で何度か見かけただけで、それ以外では近付く機会もなくて」


 平騎士がクリスティアナやマリーに会える機会など少ない。


「私も直接面会したのは数えるほどしかないけど、あの二人は犬猿の仲でね」


「え?」


 騎士団内の事情を知らされ、エマは驚きを隠せなかった。


 大尉が持っていたグラスの酒を少し飲む。


「地位の剥奪は、派閥争いを領主様の目の前で行ったせい、なんて噂もあるわ。もっとも、騎士団としての歴史も浅いからね。誰がトップに立つか争うなんて、組織ではよくある話なんだけどね。ここで勝てば、数百年と安泰だろうからさ」


「えっと、それと喧嘩をしそうな人たちの関係ってまさか――」


 エマは何となく察していたが、間違いであって欲しいと思っていた。


 大尉が笑顔を作る。


「ご名答。あの二人の派閥の騎士たちよ。君は見たことがないかな? うちでは、クリスティアナ派とマリー派で結構激しく争っているのよ」


「と、止めないと!」


 味方同士で殺し合いを始めそうな集団が、派閥稚貝で対立していると知ったエマは止めようと動く。


 だが、大尉がエマの肩を掴んで止めた。


「待ちなよ。そろそろ、うちの大将が仲裁に入るからさ」


「大将? もしかして、閣下が?」


 大将閣下がこの場にいるのか? そんな質問に、大尉はエマの視線を誘導するため右手で指さす。


 そこには一人の男性騎士が、睨み合う集団の前に歩み出ているところだった。


「うちのトップでね。騎士団では“雑用係”なんて呼ばれているけどさ」


 その人物に覚えがあったエマは、目をむいて名を呟く。


「クラウス――騎士長?」


 今回の任務で騎士たちを率いるため、臨時の役職として騎士長などと呼ばれている中佐の姿がそこにあった。


 細身で狐顔の美人女性騎士を連れたのは――クラウス中佐だった。


 どうやら大尉はクラウスの部下らしく、上司を誇らしげに自慢してくる。


「無名の騎士だけど、結構凄いのよ。騎士団の幹部にだってなれる器だと思っているわ」


 筆頭や次席が不在のバンフィールド家の騎士団だが、それでも規模はそれなりだ。


 伯爵家の騎士団としては数が足りないが、それでも万単位の騎士が揃っている。


 その幹部ともなれば、数千、数万の騎士を率いる立場だ。


 今後、ますます拡大していくバンフィールド家で幹部ともなれば、他家では筆頭騎士扱いを受けて当然の実力者となるだろう。


 大尉はどこか困ったような顔をしながら、クラウスの後ろに付き従う人物を見ている。


「――そんな人でもないと、あのじゃじゃ馬も従わないんだけどね。それにしても、うちの大将もよく“味方殺し”なんてそばに置けるよね」


「味方殺し? もしかして!」


 エマはクラウスの後ろにいる女性騎士を見て、名前を思い出す。


 チェンシー・セラ・トウレイ――幾つもの騎士団に所属し、追い出されてきた問題児。


 戦場では敵味方区別せず葬り去るため、ついた二つ名は“味方殺し”という不名誉極まりないものだった。


 そんな二人が喧嘩の仲裁に入る。


 クラウスは表情をあまり出さずに、それでも会場内に響き渡る声で告げる。


「そこまでだ。双方、下がりなさい」


若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「クラウスさんの人気に嫉妬している苗木ちゃんよ。でもいいの、私は可愛いから。可愛いから! あとがきのアイドルは伊達じゃないのよ」


若木ちゃん( ゜∀゜)「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 10巻】が【5月30日】に発売されるわ。既に店頭に並んでいると地域もあるだろうけど、ネタバレは控えてね」


若木ちゃん(;゜Д゜)「ところで、マリエルートの私ってどうなっているのかしら? 全然登場しないんだけど、生きているわよね? ね!?」

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