異才
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です
アニメ化発表で、お祝いコメントが沢山届きました。
ありがとうございます。
個別に返信はできませんので、この場を借りてお礼申し上げます。
みなさんのおかげでアニメ化できましたヾ(*´∀`*)ノ
小さな山に見えるビッグボア。
その周囲を飛び回るアタランテに乗るエマは、操縦桿やフットペダルを小刻みに動かしていた。
暴れ馬のような機体を器用に乗りこなすエマだが、それでも完璧ではなかった。
光学兵器の攻撃を避けるために、機体が小刻みに無理に起動を繰り返している。
僅かに。本当に僅かに振り回され、高出力のレーザーがかすめて装甲の表面を焼く。
そして、アタランテの高すぎるエネルギーの出力が、自らの間接に多大な負担をかけていた。
敵の攻撃よりも、自壊する方が先に思える。
「壊れる前に倒さないと」
ヘルメットの中で汗をかくエマは、ビッグボアの装甲にあるレンズが僅かに動いたのを確認して、即座に機体を動かす。
機体をロールさせると、いくつものレーザーを紙一重で避ける。
まるで最初からどこに攻撃が来るのか、知っているように動く。
アタランテは――エマの反応速度についてきていた。
「この子とならきっとあたしは――」
まるで重りから解放されたエマだが、所持しているライフルではビッグボアの装甲は貫けない。
エマは装備を確認する。
「出力が高くてもビームソードは駄目。実体剣も倒しきれるとは思えない――だったら!」
アタランテに持たせていたライフルを捨てさせると、更に左腕のシールドと実体剣もパージする。
軽くなったアタランテは更に加速する。
武器を全て捨てたと勘違いしたのか、味方から心配した罵声が聞こえてくる。
『馬鹿ぁぁぁ!!』
『武器を全部捨てて、どうやって勝つつもりだよ!』
苛立ちもあるのだろうが、味方が心配しているのが伝わってくる。
ただ、エマもただ武器を捨てたのではない。
左腕には、シールド下に隠していた武器があった。
通常のネヴァンには搭載されない武器だ。
周囲の声に応える暇もなく、エマはアタランテのリミッターを解除する。
操縦席に取り付けられた簡易なスイッチを、右手で次々に切り替えていく。
過剰なエネルギーが伝えられ、各部から悲鳴のような音が発生する。
関節から放電が起きた。
「すぐに終わらせる!」
◇
クローディアの乗るネヴァンは、襲いかかって来たゾークを斬り伏せた。
海賊から奪った斧で戦っているのだが、そんなクローディアの視線はビッグボアと戦うエマに向けられる。
放電しながら空を飛び回るアタランテの姿は、まるで稲妻のように見えていた。
部下の誰かが呟く。
『――閃光』
閃光という言葉を聞いて、それが相応しいと思う。
だが、武器を捨てたのが理解できない。
「武器を捨ててどうするつもりだ? 我々の知らない武器でも積み込んでいるのか?」
実験機であるアタランテに、クローディアも知らない武装が積み込まれていてもおかしくはない。
ただ、それ以上にクローディアは、自分が見抜けなかったエマの才能に驚愕する。
欠陥機と呼ばれた機体を動かすばかりか、性能を引き出していた。
通常の量産機。あるいは、カスタム機を超えた性能を制御している。
「私には見抜けず、あの方には見抜けたというのか」
一言で言えば異才。
通常の試験では見抜けない特殊な才能だろう。
バランスがおかしく、アシスト機能がない機動騎士を手足のように操縦する才能だ。
アシスト機能が一般的な現代においては、発見されるのが奇跡である。
通常なら、気付かれる前に適性がないと省かれていた。
事実、クローディアはエマを無能扱いしている。
――それを主君が見抜いて、わざわざエマに適切な機体を送り込んできた。
悔しさと同時に、クローディアには嫉妬の感情もわく。
そんなアタランテに向かって、プラントに乗り込んできたゾークがマシンガンを向ける。
『あいつを撃ち落としてやる!』
海賊たちも、何をしでかすか分からないアタランテから先に撃破しようと考えていた。
そんな敵機に向かってクローディアが機体を体当たりさせると、相手の体勢が崩れた所を狙って斧を振り下ろす。
「余所見をするとはいい度胸だ」
『や、やめ!』
容赦なくコックピットに斧を振り下ろす。
そのまま斧を手放したクローディアは、ゾークからマシンガンを奪い取る。
ネヴァンがマシンガンのグリップを握ると、IDを求められた。
クローディアはすぐにハッキングに取りかかる。
手慣れた動きで、強引にマシンガンを使用できる状態にする。
右腕に持ったマシンガンで、次々現れるゾークを撃破しつつ部下たちに命令する。
「一機も近付けるな!」
『了解です!』
ネヴァンたちは、アタランテを守るために押し寄せるゾークと戦い続ける。
自分を守るために戦う味方の姿を見たエマが、クローディアたちに語りかけてきた。
『教官!?』
「お前は自分のやるべき事を成せ!」
『は、はい!』
こんな時まで教官呼びをするエマに文句も言いたいが、クローディアは我慢して目の前の敵機に向かう。
周囲に守られたアタランテは、地面に着地すると勢いを止められずスライディングをしたような状態になった。
そして、関節から更に強く放電が発生する。
◇
アタランテのコックピット内。
関節を中心に、高出力に耐えきれないと知らせる警報が鳴り響いていた。
そんな状態でエマは、降り注ぐレーザーの雨をかいくぐりながらビッグボアへと接触する。
「これで!」
接触したことで通信回線が開くのだが、そこにはパイロットでありながらスーツ姿の男が映し出されていた。
『何をするつもりか知りませんが、たった一機で何をするつもりですか? もう結果は見えています。残り数分で、このビッグボアはあんた方を巻き込んで大爆発ですよ』
内部電源が切れるタイミングで自爆すると知りながら、男は平然としていた。
それがエマには気持ち悪い。
「あんた、死ぬって理解していないの?」
『私はとっくに死を乗り越えています。私はミスターリバー。何度でも蘇る不滅の営業マンですよ』
「っ!」
何かしらの技術を使って、何度でも蘇る存在。
本来は禁止されているはずの技術を使用して、死を乗り越えたと語るリバーにエマは嫌悪感を抱く。
「そうやって一人生き残れるからって、他の人の命を何だと思っているのよ!」
味方であるはずの海賊の命すら、リバーは安い消耗品のように扱っている。
それがエマには許せなかった。
『命? 価値の低い消耗品ですよ。人など資源の一つに過ぎません。それは、あなた方も同じはずです』
「違う! あたしたちは」
『違いませんよ。特に、あなた方の主君は顕著ですね。貴族こそ、人の命を何とも思わない人種です。人の命は自分たちのために存在すると、本気で信じている方々ですから』
それを聞いて、エマは昔を思い出す。
宇宙海賊たちを破り、凱旋するアヴィドの姿を。
「――あの人は違う」
『バンフィールド伯爵ですか? 同じですよ。彼こそ命を軽んじている。真に人の命を大事にする者ならば、海賊たちを容赦なく殺したりしません』
「っ!」
一瞬、リバーの言葉に納得しかけるエマだったが――操縦桿を力の限り押し込む。
「それでも――あたしは――あの人みたいな――」
アタランテが、ビッグボアに手をかけるとそのまま持ち上げていく。
『な、何をしている!?』
アタランテの背負ったブースターが点火され、ビッグボアの巨体を持ち上げ始めた。
リバーも予想外だったのだろう。
機体が傾いていくと、狼狽えていた。
エマはビッグボアを睨み付け、自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「――正義の騎士になるんだあぁぁぁ!!」
アタランテのツインアイが強い輝きを放つと、ビッグボアを持ち上げてしまった。
片側が持ち上げられたビッグボアは、バランスを崩してしまう。
まるでひっくり返った亀のように腹の部分を見せるが、そこは本来ならば攻撃を装丁していない部分だ。
装甲板は用意されているが、それでも貫けない程に厚くもない。
ビッグボアをひっくり返したアタランテは、そのまま腹の部分を左手で殴りつけた。
手ではなく、左腕に装着した武装がビッグボアの腹に突き刺さる。
エマは操縦桿のトリガーを引いた。
「パイル――バンカーだぁぁぁ!!」
武装が点火して、ビッグボアの腹に杭を打ち込んだ。
武装から発射された杭は、そのまま奥まで突き刺さり――内部に到達すると金属色の杭が赤く光って爆発する。
内部にいたリバーは、その爆発に恐怖していた。
『そんな時代錯誤の武装をどうし――ッ』
ぷつりと途切れた通信が、コックピットの状況を物語る。
アタランテがビッグボアから放れると、内部から爆発して火を噴いていた。
その様子を見ていたクローディアが、電子戦機に確認を取る。
『おい』
『――自爆機能は動いていません。ちょっとヒヤヒヤしましたよ』
どうやら、自爆機能を作動させずに破壊できたらしい。
エマは全てが終わったと思って安堵する。
すると、アタランテが限界を迎えて間接部から煙を出していた。
「へ? あ、あれ!? お、落ちちゃうよぉぉぉ!」
機体が落下すると、それを受け止めるのはクローディアのネヴァンだった。
『最後に面倒をかける』
「教官!」
『大佐と呼べ!』
「は、はい」
そんなやり取りをしていると、海賊たちが乗るゾークが集まってきた。
『――あの糞野郎は死んだが、お前らだけでも』
海賊たちが自分たちを囲む状況に冷や汗をかくエマだったが、アタランテのレーダーが味方の接近を知らせていた。
その味方の名前は――メレア。
「嘘」
軽空母がプラント上空に現れると、そこからモーヘイブが次々に降下してくる。
その姿を見て、生き残った海賊たちは慌てていた。
『まだ戦力を残していたのかよ!?』
戦おうとする海賊たちだったが、大気圏に突入する宇宙戦艦が次々に現れる。
「あれは」
エマがモニターで味方の存在を確認すると、それはクローディアが率いていた本隊だった。
『来てくれたか』
宇宙戦艦から次々にネヴァンが出撃し、降下してくるとゾークたちを破壊し始める。
クローディアの乗る機体と同じく、角を持つネヴァンが近くに降下してきた。
『遅くなりました』
『いや、助かった』
逃げ惑う海賊たちの乗るゾークを、翼を広げたネヴァンが追い回して次々に撃破していく。
これまでと違う圧倒的な光景を前に、エマはようやく終わったのだと安堵のため息を吐いて――そのままこみ上げてきた胃の中の物を吐き出してしまった。
若木ちゃん( ゜∀゜)「アニメ化を達成したのは私が宣伝したおかげよね? だから、今後もバリバリ宣伝するわ! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】 が 【11月30日発売】よ! もう売られている書店さんもあるかもだけど、30日だから! ネタバレはしないでね!」
エマ( ・∀・)ノ「キミラノさんで開催している【次にくるライトノベル大賞2021】もよろしくお願いします! 【一日一回投票】可能です! 是非とも俺は星間国家の悪徳領主! を応援してくださいね」
エマ(*´∀`)「――ここで頑張れば、もしかしたら俺は星間国家の悪徳領主にもチャンスが?」
若木ちゃん(#゜Д゜)「宣伝舐めんな!」