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アタランテ

既にご存じの読者さんたちもいるかもしれませんが――。


【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】が


【アニメ化】します。


本当だよ。

 レメアの格納庫。


 アタランテが出撃したハッチが、閉じられかけていた。


 その様子を見ていたモリーのそばに、ラリーがやって来る。


「あいつ、本当に出撃したのかよ」


 逃げればいいのに、という態度。


 やる気のないラリーに、モリーは不機嫌になる。


「同じ小隊の仲間でしょ。あんたもついて行けば」


「無茶言うなよ」


「このまま見捨てるの?」


 見捨てるのかと問われて、ラリーは俯いて手を握りしめる。


「僕たちに何ができる? 旧式の装備ばかりで、おまけにクルーはやる気がない。駆けつけたところで、邪魔になるだけさ。いや、無駄死にするだけだよ」


「――そうかもしれないけど」


「君はあいつに同情しすぎだよ」


 モリーは俯いて呟く。


「うちにとっては、このレメアでできた初めての友達だし」


 周囲はやる気のない大人ばかり。


 モリーと話が合う友人というのは、これまでにいなかった。


「除隊すれば友達くらいできるだろ」


 未練を断ち切れという割に、ラリーの方もエマを一人で行かせた罪悪感があった。


 そこにダグがやって来る。


「本当に行きやがった」


「ダグさんまで」


 モリーが頬を膨らませると、ダグはハッチが閉じるのを確認して大きなため息を吐く。


「こんな辺境で頑張ったところで、何になるっていうんだか」



 警報の鳴り響くコックピット。


 クローディアは、モニターの向こうに見える大型兵器を睨み付けていた。


 まるで山を前に挑んでいるような気分にさせられる。


「くそがっ!」


 汚い言葉が口から出てくる。


 クローディアの乗るネヴァンは、左腕を喪失していた。


 右手に実体剣を握らせているのだが、その刃も折れていた。


 大型兵器に乗り込むリバーが、クローディアたちを上機嫌で称賛していた。


『凄いじゃないですか。もう三百機のゾークが撃破されてしまいましたよ。しかも、このビッグボアの装甲に傷までつけてしまったのですからね』


 大型兵器――ビッグボアと呼ばれる物の装甲には、僅かに傷がついていた。


 クローディアがつけた傷だ。


 しかし、装甲板をひっかいた程度に留まっている。


 装甲の隙間、つなぎ目も狙ってはみたが刃は通らなかった。


(ネヴァンの出力では無理か。せめて、もう少し味方がいれば)


 そばにいた電子戦機が、ビッグボアのレーザーに脚部を焼かれて倒れ込む。


「っ!」


 味方が自分の判断ミスで倒れていく。


 その光景は、クローディアには心が痛かった。


(どこで間違えた。私は――)


 もう少し戦力を持ってくれば。


 辺境の治安維持部隊と協力していれば。


 ――だが、そこまで考えて、全て無駄だと頭を振る。


 本隊から戦力を引き抜きすぎると、今度は本隊に支障が出ていたはずだ。


 辺境の治安維持部隊にしても、彼らと協力したとしてもこの状況が覆るとは思えなかった。


「最初から詰んでいたか」


 クローディアは、ビッグボアがレーザーのレンズが自分に向けられるのを見て覚悟を決める。


 せめて、至近距離からの自爆を行い敵にダメージを――と、決断したところで倒れた電子戦機が味方に通信を開いた。


『み、味方が――こんなのあり得ない!?』


 部下が錯乱したのかと僅かに気を逸らしてしまったクローディアだが、その一瞬が命を救うことになる。


 クローディアの乗るネヴァンのレーダーも、味方が急速に接近しているのを感知する。


「ブースター? ――いや、こいつはもっと」


 レメアにブースターは残っていなかった。


 それなのに、急速に接近する味方の存在が、クローディアには信じられない。


 オマケに、自分たちが使用したブースターよりも速かった。


 ビッグボアも気付いたのだろう。


 レンズの向きを変更すると、味方が来る方角へ光学兵器を照射する。


『おや? まだ残っていたのですね。ですが、もう映像は十分に手に入りましたので、相手をするつもりはありませんよ』


 幾つものレーザーが照射される。


 急接近する機体に絶え間なく放たれていた。


 レーザーのいくつかは湾曲し、数千というレーザーが味方機に放たれる。


 プラントに用意されたどの迎撃兵器よりも、ビッグボアは強力で厄介だった。


 通信障害でノイズが激しく、やって来るのが味方機であることしかわからない。


 そもそもアンノーン扱いだ。


 味方であると登録はされているのに、詳しい情報が一切なかった。


 何とも怪しい存在だ。


 部下たちは味方が無事にたどり着くのは、不可能だと諦めている。


『アレは無理だ』


『たった一機で何をしに来たんだよ』


 いっそ逃げてくれれば――それがこの場にいるクローディアたちの願いだったが、不思議なことに味方機は撃墜されないままプラントに接近してくる。


「何だ?」


 クローディアが異変に気付くと、リバーは慌てていた。


 ビッグボアのセンサーはネヴァンより優秀だったのか、近付いて来る味方機の異様さを見せつけられているようだった。


『どうしてだ。どうして避けられる!?』


 ビッグボアが絶え間なく攻撃し続けている中、味方機はほとんど直進するようにプラントまでやって来る。


 クローディアはその機体を見て目をむく。


「――エマ・ロッドマン」


 目視可能な距離まで来たのは、実験機のネヴァンだった。


 レーザーやビームを避けるために、幾何学的な機動を行っている。


 驚異的なのは、まだ一度も攻撃を受けずにこの場までたどり着いたことだ。


 そんなエマの機体が――プラントを通り過ぎてしまった。


「――は?」



「あああぁぁぁ!! お願いだから止まってぇぇぇ!!」


 アタランテのコックピットの中。


 過敏に反応するアタランテに苦戦するエマは、勢い余って目的地である敵プラント上空を通り過ぎてしまった。


 すぐに方向転換を行うが、ブースターの出力もあって体にかかる負荷も大きい。


 そんな中、巨大兵器から発射されたレーザーが迫ってくる。


 エマはその動きを一瞬だけ視線を動かして全て把握すると、操縦桿を素早く何度も動かす。


 普通の機体ならここで鈍く感じるのだが、過敏すぎると言われたアタランテはエマの反応速度に追従していた。


「やれる」


 アタランテがレーザーの隙間を縫うように飛び回る。


「この子なら――あたしもやれる!」


 今まで感じた鈍さがない。


 どんな機体に乗っても、まるで粘度のある水の中にいるような気分だった。


 しかし、今はそれがなかった。


 アタランテは、エマの思うように動いてくれる。


 水を得た魚のように、エマは難しい機体を手足のように操縦していた。


 再びプラントに近付くために。


 レーザーやビームを避けるために、今度は高度を下げると地上にはゾークが密集していた。


「こんなに沢山いるとか聞いてないよぉぉぉ!!」


 叫ぶエマだったが、山なりに湾曲したレーザーやビームがアタランテに降り注ぐ。


 ゾークたちの真上を通り過ぎると、レーザーとビームが味方であるはずのゾークたちにも降り注いだ。


「味方を巻き込んだの!?」


 驚くエマだったが、それは敵も同じであった。


『お前は何なんだ!』


 敵と思われるパイロットは、随分と焦りと苛立ちが滲んだ声で怒鳴るように問い掛けてきた。


 敵に何者かを問われると考えていなかったエマは、興奮と慌ただしさもあって咄嗟に口走ってしまう。


「え、えっと、あの――エマ・ロッドマン! 正義の騎士です!」


 正義を名乗ってしまうエマに、敵はからかわれたと思ったのだろう。


『ば、馬鹿にして。第三の機体らしいが、その程度はこのビッグボアの敵ではない!』


 ビッグボアが再び攻撃を開始しようとすると、味方との通信が開く。


『ロッドマンこうほ――少尉!』


「クローディア教官!?」


 訓練時代の呼び方をしそうになったのは、クローディアが慌てていた証拠だろう。


『手短に話す。奴は基地の発電装置と繋がっている。エネルギーは常に供給されている状態だ。装甲も厚い。機動騎士の使用できる武器では、攻撃が通らない』


 高度を上げたアタランテは、苦戦しているクローディアたちのネヴァンを見る。


(教官たちでもこんなに追い込まれたの!? で、でも――違う。あたしとこの子なら、きっとできる。やってやる!)


 アタランテは右手に持つライフルを構え、そして引き金を引く。


 弾丸が貫いたのは、光学兵器を照射するレンズだった。


 しかし、破壊されたレンズはすぐに排出され、新しいレンズが出現する。


 エマはそのまま何度も攻撃して、レンズを破壊するがどれも全て交換された。


「狡い!」


『無駄なんですよ。レンズの交換などいくらでも可能です。いくら飛び回ろうとも、あなたに勝ち目は――』


 勝ち目はないと言い終わる前に、敵の様子がおかしくなった。


『出力の低下? 内部電源に切り替わったのか? 発電機との接続が切れて――』


 ビッグボアの動きが僅かに鈍くなる。


 その瞬間に通信障害が解除された。


 モニターの一部には、陸戦隊の指揮官の顔が映し出される。


『――敵の発電施設を制圧した』


 行方不明となっていた陸戦隊は、地下深くに設置された発電施設を制圧していた。


 ビッグボアの電力供給が絶たれてしまった原因である。


 陸戦隊の無事を知り、クローディアが驚いていた。


『あの状況で地下を目指したのか?』


 陸戦隊の指揮官が、僅かに口角を上げて笑みを浮かべていた。


『この程度の修羅場はなれている。だが、上の化け物は内部電源があるそうだ。十分は持たないそうだが、問題は内部電源が尽きると強制的に自爆することだな』


 指揮官のそばには、海賊の幹部らしき男が倒れていた。


 その男からもたらされた情報だろう。


『十分以内に倒せるか?』


 倒せるかと尋ねられ、クローディアが答えられずにいると代わりに――。


「やります。やってみせます」


 ――エマが答えた。


 その言葉を聞いて、司令官が困ったように笑っていた。


『こうなると見越していたのか、それともただの気まぐれか』


 何を言っているのか? エマもクローディアも理解できずにいると、司令官が通信を閉じる。


『健闘を祈る』



 プラントの地下。


 陸戦隊は捕らえた海賊たちを連れて、地上を目指すことに。


 指揮官が歩くそばに、エマにアタランテを届けた女性が話しかける。


「本当に動かしましたね」


「あんな馬鹿みたいな機体を動かせるのは、うちのボスか頭のネジが外れた騎士たちだけかと思っていたよ。まさか、あんな娘が操縦するとは思わなかった」


 ボスが誰を意味しているのか、周囲の部下たちは全員理解していた。


 司令官は、エマの今後について興味が出たらしい。


「もしかしたら、あの少尉殿はとんでもない化け物かもしれないな」


若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「エマちゃん、【11月30日】 は何の日か知ってる?」


エマ(;・∀・)「【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】の発売日です。 (白々しいなぁ)」


若木ちゃん(´∀`*)ノシ「そう! 私が! この私が活躍する 9巻 が発売されるの! みんな、あとがきのアイドルを応援してね!」


エマ( ・∀・) (そんなどうでもいい話より、私は 【次にくるライトノベル大賞2021】 で 【一日一回投票】して! って宣伝したい)







若木ちゃん( ゜∀゜)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \ 「あ、それからモブせか――アニメ化するからよろしくね! これも宣伝を頑張った私のおかげよね!」

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