次へ >>  更新
1/7

プロローグ

※注意事項




この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




感想への返信はしておりません。


ですが、感想は読ませていただいております。




質問などに答える際には、活動報告などを利用して返信するつもりなのでそちらをチェックしていただければ幸いです。

 一人の少女があの日を思い出す。


 バンフィールド伯爵家の本星の空を覆い尽くすのは、数多くの巨大な宇宙戦艦だった。


 戦艦の周囲には、人型で十八メートル前後のロボットたちが飛んでいた。


 ロボットの名前は機動騎士。


 戦争のための道具であるそれらが、自分たちの上空を飛んでいるのに周囲は歓声を上げていた。


 上空に向かって手を振り、中には笑いながら涙を流している人もいる。


 愛し合っている恋人や家族と抱きしめ合い、喜びを噛みしめている人々も多かった。


 彼らはバンフィールド伯爵家が保有する軍隊である。


 戦争から戻り、凱旋している最中だった。


「領主様がゴアズ宇宙海賊団を倒してくれた!」

「俺たちは助かったんだ!」

「バンフィールド家万歳!」


 人々が口にするのは、宇宙海賊を退けたバンフィールド家の軍隊への賛辞だ。


 少し前まで、凶悪な宇宙海賊が接近しているという知らせを受けた人々は恐怖に震えていた。


 宇宙海賊の中でも特に凶悪な者たちは、辺境惑星の軍隊を容易に退けて惑星を滅ぼしてしまう。


 誰もが暗い未来を想像し、絶望感に打ちひしがれていた。


 そんな絶望的を打破したのは――まだ若い自分たちの領主だった。


 名前はリアム・セラ・バンフィールド――まだ成人もしていない子供のような領主だが、彼は見事に宇宙海賊たちを追い払った。


 領民たちが口々にリアムを称えている。


 そんな光景を幼い頃の【エマ・ロッドマン】は覚えていた。


 空に向かって両手を伸ばすエマは、空中に投影された幾つもの映像に映し出される一機の機動騎士を見ている。


「お母さん、あれは何?」


 その機動騎士は、どうやら戦艦の船首に立っているようだ。


 他の機動騎士よりも大きく、黒い機体にエマは魅了されていた。


 側にいた母親が、何も知らないエマに教える。


「領主様の乗機よ。きっととても強いわよ」


「領主様は強いの?」


 子供の素直な質問に、母親は戸惑いを見せる。


 自分たちの領主が本当に強いかなど知らないからだ。


 バンフィールド家本星【ハイドラ】にある政庁の宣伝では、領主であるリアムの強さを広報活動で伝えている。


 だが、それもどこまで真実なのか領民の多くが知らない。


 誇張も含まれているだろう、というのが大方の認識だ。


「――そうよ。何しろ騎士様だもの」


「騎士様?」


「えっとね。凄く強い人たちなのよ。私たちを守ってくれたのよ」


 母親と一緒に空を見上げれば、上空を機動騎士たちが整列して飛んでいた。


 そして、一際大きな戦艦が自分たちの上空を通過して太陽光を遮る。


「騎士様はみんなを守ってくれるの?」


「そうよ」


「だったら――あたしは騎士様になる! ロボットに乗って、悪い人たちからみんなを守る人になる!」


 母親は娘であるエマの将来の夢を聞いて微笑む。


「それなら、いっぱい頑張らないとね」


「うん!」



 ――それから三十年後。


 エマ・ロッドマン――少尉は、機動騎士に乗って宇宙空間にいた。


 見た目は十代半ばになったばかりの少女という姿をしていた。


 パイロットスーツを着用していても、肉付きの良い体型をしているのが分かる。本人は気にしているのだが、周囲の男性からは好評だ。


 ヘルメットに隠れてはいるが、髪型は茶髪のショートボブ。


 年齢は成人と見なされる五十歳。


 この世界では、まだ子供扱いを受ける年齢だ。


 エマは幼い頃の夢を叶えて、騎士になっていた。


 機動騎士を与えられ、実戦に投入されている。


 だが、そんな彼女は焦っていた。


「どうして」


 乗っている機体はバンフィールド家が主力量産機と定めたネヴァンだ。


 騎士の鎧をスマートにした外見に、マント型の追加ブースターを背負った姿をしている。追加ブースターを広げた姿は、まるで翼を広げたようだ。


 グレーで塗装されたネヴァン。


 バンフィールド家が所属する星間国家――アルグランド帝国の正規軍でも採用を検討される優秀な機動騎士だ。


 帝国の次期主力量産機最有力候補とまで呼ばれていた。


 ただ。


「――どうして思うように動いてくれないのよ!?」


 エマは操縦桿を握り、反応の鈍さに困惑していた。


「訓練より反応速度が遅い。整備ミス?」


 パイロットスーツを着用しているエマは、ヘルメットの中で額から頬に冷や汗が流れる。


 出撃前の機体のチェックでは、何も問題がなかったはずだ。


 それなのに、自分の機動騎士の反応が鈍く感じてしまう。


「大事な初陣なのに」


 騎士になったばかりの新米騎士にして、新米少尉のパイロット。


 エマは周囲の味方に何とか付いていく。


 初陣――岩石の天体が多いこの場所は、小規模な宇宙海賊たちが隠れ家にしていると情報をバンフィールド家が手に入れた。


 そのため、バンフィールド家の軍隊が投入された。


 バンフィールド家にとっては些細な作戦だが、エマにとっては大事な初陣だ。


 緊張して心臓の鼓動が早い。


 訓練とは違い、これまでにないくらい緊張している。


 そのせいか、余計に焦っていた。


「落ち着け、あたし。訓練通りにやるだけよ。やれる。絶対にやれる!」


 操縦桿を握りしめ、何とか機体を制御するが動きに無駄が目立ち始めた。


 その動きを後方から監視していた教官の乗るネヴァンが、エマのネヴァンの横にやって来る。


 教官【クローディア・ベルトラン】の乗るネヴァンは、他の量産機にはない角が頭部に取り付けられていた。


『ロッドマン少尉、機体の動きが乱れている。すぐに立て直せ』


「は、はい!」


 慌てて機体の制御を行うが、アシスト機能が作動してもうまく動かせない。


 操縦桿を慌てて動かすが、余計に機体に無駄な動きが増えていく。


 教官に見守られながら何とか岩石を避けながら敵基地へと接近すると、既に味方が戦闘を開始していた。


 敵――宇宙海賊たちは、隠れ家から古い機動騎士を出撃させていた。


 何世代も前の機体を繰り返し修繕して使用しているため、既に原型など残っていないつぎはぎだらけの機体が多い。


 そんな彼らが、最新鋭の機動騎士を保有するバンフィールド家の軍隊に、諦めることなく果敢に挑んで来る。


 本来であれば、降伏した方が賢い場面だろう。


 だが、宇宙海賊たちにその選択肢はない。


 何故なら、エマが所属するバンフィールド家は――海賊に一切の容赦をしないことで有名だからだ。


 味方であるネヴァンの一機が、抵抗する敵機動騎士に接近して実体剣をコックピットに突き刺していた。


 その光景を見て、エマは血の気が引く。


 訓練では何度も敵に止めを刺してきたが、実際に敵と戦うとなればためらいが生じた。


 操縦にエマの心情が表れたのか、教官がその動きを見て叱責する。


『何をしている、ロッドマン少尉。お前に与えられた任務を忘れるな』


 酷く冷たい声に、エマは青ざめた顔で必死に答える。


「りょ、了解しました」


 エマがフットペダルを踏み込もうとすると、宇宙海賊たちの隠れ家となる天体から三機の機動騎士が現れる。


 教官機にして、隊長機の特徴を持つクローディアの乗るネヴァンを見つけると三機が他に脇目も振らずに向かってくる。


 ただ、その三機は他と違って新品で、性能も他の機体より優れているように見える。


『ロッドマン少尉は一機相手にしろ。他は私がやる』


「え?」


 クローディアのネヴァンが敵に突っ込むと、エマは慌ててライフルを構えた。


 アシスト機能で敵を自動でロックオンしてくれるが、敵も気付いたのか動きを変える。


「ご、ごめんなさい」


 敵に対して何を謝っているのか? そんな疑問すら考える暇もなかった。


 ジグザグに動いて接近してくる敵機に引き金を引くも、光学兵器の光はあっさりと避けられてしまう。


 敵機がサブマシンガンの見た目をした武器を構えると、エマは即座に避けようとする。だが、機体が思うように動かない。


 まるで宇宙空間で溺れるように、もがいてしまう。


「どうして!?」


 叫ぶと同時に、ビームの光が数百と降り注いできた。


 ネヴァンが左腕に持つシールドを構えて攻撃から機体を守るが、直後に激しい衝撃を受けた。


 吹き飛ばされ、岩石にぶつかり止まると状況を理解する。


 エマの乗っていたネヴァンが、敵機に蹴り飛ばされていた。


「早く倒さないと」


 体勢を立て直そうとするエマだったが、敵機は接近して所持していた斧型の武器を取り出し振りかぶる。


 機体同士が接触した影響で、通信に相手の声が聞こえてきた。


『バンフィールド家の悪魔共は、一機でも多く道連れだ!』


「ひっ」


 悲鳴が漏れると、斧を振り下ろす敵機の姿が見えた。


 だが、すぐに敵機が吹き飛ぶ。


「教官!?」


『――ロッドマン少尉、私を失望させるな』


 敵機を蹴り飛ばしたクローディアの乗り込むネヴァンは、腰のサイドスカートに収納されているビームソードの柄を取り出して握る。


 柄からビームの光で刃が作られ、敵機の両腕と両足を斬り飛ばしていく。


 身動きの取れなくなった敵機の頭部を掴むクローディアのネヴァンは、エマに接近してくる。


 周囲を見れば、クローディアに襲いかかった敵機は二機とも破壊されていた。


 その様子を見てエマは呟く。


「凄い」


 僅かの間に二機も撃破している実力に、エマは自分との実力差を痛感していた。


(これが本物の騎士)


 クローディア・ベルトラン。


 バンフィールド家の格付けでは、「AA」とされる上位に位置する女性騎士だ。


 一つ上の「AAA」が、バンフィールド家では最高位とされている。


 その一つ下という評価だが、AAAなどバンフィールド家全体でも数人しか存在しないことを考えれば十分に実力者と判断出来る。


 バンフィールド家の軍では大佐の階級を与えられている。


 そして、以前はあのクリスティアナの副官をしていた騎士の一人だ。


 現在はクリスティアナに代わり領内に残り、新米騎士の育成に関わっていた。


 そんなクローディアが、エマの前に身動きの出来ない敵機を突き出す。


『ロッドマン少尉、お前の手柄にしてやる。パイロットを殺せ』


 クローディアのコックピットからは、敵の声が聞こえていた。


『い、嫌だ。死にたくない。頼むから助けてくれ! 俺はあいつらに雇われただけで、海賊行為はしていない。俺には家族もいるんだ!』


 泣き喚く野太いパイロットの声に、エマは体が震えていた。


 だが、クローディアは冷たい声で選択を迫る。


『気にする必要はない。海賊共に与した時点でこいつの罪だ。――さぁ、止めを刺せ』


 身動きできずに死を待つだけの敵パイロットが、必死にエマに訴える。


『助けてくれ。二度と宇宙海賊には関わらない。改心する。約束するから!』


 大の男が泣き喚いて命乞いをする声を聞き、エマは操縦桿から手を放してしまう。


「で、出来ません。降伏した相手を殺せません」


 答えを聞いたクローディアは、無表情のまま敵機を手放して――そのままビームソードでコックピットを貫いた。


「そ、そんな」


 驚いて目を見開くエマに、クローディアは興味をなくしたらしい。


『バンフィールド家に役立たずの騎士は必要ない。お前は先に母艦に戻って部屋で待機していろ』


 クローディアの乗るネヴァンが背中を見せ飛び去っていくと、まだ戦闘の続く宇宙海賊の隠れ家へと飛び込んでいく。


 この瞬間――エマの初陣が終わりを迎える。


 結果は大失敗。


 騎士として、エマはスタートで大きくつまずいてしまった。


キミラノさんが開催している【次にくるライトノベル大賞】に


自作の【俺は星間国家の悪徳領主!】がノミネートされました。


11月16日より 【一人一日一票】 が投票できるようになります。


一日に一回投票できるシステムですね。


是非とも自作を応援して頂きたいので、外伝を書いて更新することにしました! (嘘ですw)


アンケートに答えなくても投票は出来るらしいので、是非とも応援して頂ければと思います。





また!


今月30日は 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】 が発売となります。


GCノベルズさんの通販サイト「MMストア」で限定版を購入頂くと、アンジェのアクリルスタンドが手に入ります。


アクリルスタンドは【アンジェの花嫁姿】になっていますね。


自分も買おうかな?





ついに宣伝作品のための宣伝作品を書くことになったよ(^_^;)

感想欄では随分前から、誰かが予想していましたね(;゜ロ゜)

次へ >>目次  更新