ハイパーメイドさんりっちゃんさんは、すごい予知能力があるから。
あたしの名前は、ハイパーメイドさんりっちゃんさんで、ものすごく可愛いの。あと喫茶店のメイドさんをやっているんだけど、お客さんが何を注文するか、分かるエターナル(予知能力)があるの。
これがなかなかナイスなエターナルで、ちょっとそのエターナルっぷりをお見せするね!!
カランカラーン……と入り口から音がする。
お客様がメイドカフェにいらっしゃった音よ。あたしはさっそく、お迎えにあがるの。
「ご主人さま、おかえりなさいませー! ハイパーメイドさんりっちゃんさんですー!!」
「あっはい」
と、四人組のお客様。
「おそと、暑かったですよねー!? はやくこちらのお席にすわって、涼んでくださいませー!! あっそうだ、よろしければなにか冷たいものをお持ちしますにゃーーー!!!!」
あたしは手をねこの手にゃーにして、それからメニューをお客様にわたすの。それから
「ご注文決まりましたら、そのベルを鳴らしておよびくださいませー! りっちゃん、マッハでくるにゃーーー!!」
っていって、それから三分ほどして、お客様たちがベルをならすの。
「はいはい、りっちゃんですよー!! かわいいですけど、呼んだー!?」
「あ、えっと注文を……」
あたしはニヤリとわらう。そして、人差し指で、お客様のくちびるをおさえるジェスチャーをする。
「ご主人様が飲みたいもの、当ててあげますね!」
「あ、はい……」
「そちらのご主人様は、レモンスカッシュ。そちらは……タピオカミルク。そちらは、トマトコーラで、そちらはペペロンチーノ」
「「「「うおおおおおお!!! なんでーーーー!?」」」」
「ふふふ……そしてその注文が、すでにここにある!!」
「「「「なにーーーーー!!!」」」」
「崇めよ、ムシケラども!!!!」
……といった具合なの。何も知らない新規のお客様は、本当にびっくりしてかえっていくの。
カランカラーン。と次のお客様の音。
赤い服を着た、青年。常連のお客様だ。
「あっ、ご主人さま、おかえりなさいませー! ハイパーメイドさんりっちゃんさんですー!!」
「あ………はい………」
おや、どことなくうかぬ顔?
なにかあったのかな?
「うれしい! 今日もいらっしゃってくださったんですねー! 暑い中ありがとうございます。こちらの席にどうぞー」
と、席に通す。
そしてお客様の顔をのぞきこみ、注文が何かをさぐろうとする。でも………。
「んー………?」
予知できない。頭の中に、オーダーが入り込んでこないの。ちょっとパニックになりかける。こんなとこは、今まで一度もなかったのに……。
「えーと……ちょっとまってくださいね。なんでだろ……注文が……予知できない………」
「りっちゃんさん! 注文はいいんてす。 今日はご主人様として来たわけではないのです!!」
「え、あ、はい。はい?」
「今日はプロポーズしにまいりました!!」
「え、どういう……」
「分かりやすく言うと、付き合ってください!!! そう。いつだって私の欲しいものを分かってくれるのは、りっちゃんさんだけです!!」
「ええええーーー!! 注文しないのーーー!?」
ええと……なんだこの展開……!?
いや、付き合うとかそんなつもりないし……。
あたしはみんなのメイドさんなわけだし……。
困ったなあ。なんて断ろう……。
ってか、注文しないから、予知できなかったのか……。
とかとか、マッハで考えていると、お客様が目の前で泣き始める。
「ど、どうされましたかご主人様……」
「私にもあるんですよ……。エターナル(予知能力)が……」
「はい?」
「告白したら、振られることが予知できるんです……」
「あー……はいはい……エターナル……」
するとようやっと店長がすっとんできて、
「お客様。大変申し訳ありませんが、当店でそのような行為をされては困ります。というわけで、出禁でございます!」
と、彼をひっつかまえて店から引きずり出していくの。
「りっちゃんさーん!!」
むっちゃせつなそうな目で見られている。
「ナ……ナイスエターナル!!」
と、とっさに親指を立てて返してみたものの、どのへんにも一切のナイス性が見当たらなくて、空虚な言葉は意味を創るよりも早く、秋葉原の風に砕けて消えていったの。
これが、りっちゃん17歳の夏のお話。
人の欲しいものを予知できるより、自分が欲しいものを考えることのほうが、よっぽど有意義よね。
おしまい!