前へ次へ
83/151

命の別名①

今回のタイトル『命の別名』は中島みゆきさんの名曲で

原曲は当然として中島美嘉さんがカバーされているのもとても素晴らしいです。

歌詞の内容と相まってどん底からの切なる祈りって感じが最高にGOOD。

1.フル稼働する漫画脳


「えー、それでは第一回塵狼一発芸大会を始めたいと思いまーす」

《いぇええええええええええええええええええええええええええええええええええい!!!!!!》


 埠頭に響き渡る大歓声。近くに民家とかなくてホント、良かったよ。

 しかし何だ……ヤンキーの姿か? これが……。集会で一発芸を競うってそれもう何か別の集団だろ。

 黒笑みたいな色物系チームなのか俺達は……? いや、皆が楽しんでるなら別に良いんだけどさぁ。


「それでは僭越ながら総長である俺、花咲笑顔が一番槍を務めさせて頂きます」

《キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!》


 野太いキャァ! は止めて? 気持ち悪いから。


「お題は『アンドロイドのお約束』」

《自分の無表情をこれでもかと活かしたネタだ!?》


 ごほん、と咳払いをすると皆が静まり返った。

 ホント、お行儀が良いな。ヤンキーの姿か? これが……。

 俺は用意していた茶褐色のオイルっぽいペイントを顔に施し、告げる。


「損傷は軽微です。問題ありません。マスター、何故そのような顔をなさるのですか?

私が痛そうで辛い……? マスター、私は機械人形。痛覚もなければ感情もありません。その気遣いは不要です」


「人情溢れるマスターとか醤油ラーメン並みにハズレがねえお約束ぶっこんでキタ!?」

「自分の傷に無頓着な機械人形も生中レベルのお約束だぜぇ……!」


 戦慄と同時に期待のボルテージが上がっているのが分かる。

 とは言え、それで緊張するとかそういうことはない。別に滑っても死ぬわけじゃないしな。

 ペイントを落とし、続ける。


「その子猫はどうした? ……私にも分かりません。

雨に濡れて震えているこの子猫を視認した瞬間、このまま放置は出来ぬと私の電脳が命令を下したのです。

……不合理です。子猫を放置したところで私に不都合なことはなく、保護したところでマスターに益があるわけでもない。

私は一体どうしてしまったのか……マスター、私はどこかが壊れてしまったのかもしれません」


「か、感情が芽生え始めてるぅぅうううううううううううううううううううう!?」

「マスターだ! 人情味溢れるマスターのお陰だってこれ絶対!!」


 しかし何だ、コイツらマジで良いリアクションしてくれんな。

 さしてやる気のなかった俺でさえ何か気分良くなって来たぞ。


「笑った? 私が? 私にそのような機能は搭載されておりません。

……しかし、もし、私が笑っていてそれがマスターの笑顔を引き出したというのであれば、それは素晴らしいことだと判断します」


 さあ、そろそろ〆にかかろう。


「……伴侶を得て、子を成し、子や孫に囲まれ笑顔で寿命を全うする。その成果は生命体として賞賛されて然るべきもの」

「え、ちょ……ま、マスター死んじゃった……?」


 そうだよ。死んだよ。別離もお約束だもん。

 広がるどよめきを無視して俺は言葉を重ねていく。


「しかし何故でしょう。私はどうしてか、あなたに賞賛の言葉を贈ることが出来ない……」


 目薬を取り出し、ちょちょっと垂らす。


「泣いた!? 泣いたぞ! いやお約束だけど! お約束ではあるけどォ!?」

「普通やる!? 一発芸でこんな切なくなることやる!?」


 やります。


「意図せぬスリープが多発し、日に日に思考のノイズが酷くなっていく。坊ちゃま、どうやら私は壊れてしまったようです」

「あ、あぁ……!?」

「どうかお暇をいただき……たく……ぞんじ……あぁ……ます、たー……」


 スン、と項垂れる。


「EH2? パパ、EH2が動かなくなっちゃった……」

「まさかの孫!?」

「……これまで沢山、働いてくれたからね。そろそろ、休ませてあげよう」

「む、息子ォ!!」

「……EH2、僕の一番のお友達。どうか君が、父さんと同じ場所に行けますように」


 ってなところでしゅーりょー!


「どうよ?」


 俺が問うと、


「いや良かったけど! 良かったけどさぁ!!」

「確かにお約束だけど! お約束だけどさぁ!?」

「あぁああああああああ! 何でこんな物悲しい一発芸やっちゃうかなぁ!?」


 好評のようで何よりだ。


「クッソ! 次のハードルが妙な具合に上がっちまった!? おい次誰行く!?」

「ちょっとこの空気で……ず、ずるいよあの人!!」


 うんうん、まあ精々頑張ってくれ。一番最初ってのは一番ハードルが低いからな。

 受けても滑っても、次があるからと軽く流してくれる立ち位置だもん。


「どっこらせっと」


 喧々諤々の皆を他所に、腰を下ろした俺は用意していた夜食に手を伸ばす。

 今日の夜食はバーガーとポテト。何でかな、特別好きってわけじゃないんだけど時々無性にハンバーガーとポテトが食べたくなるよね。


(しかしもう、十月かぁ)


 十月に入ってもう一週間が過ぎようとしている。

 時間の流れというのは本当に早い。ヤンキー輪廻に入るまではそうでもなかったんだがなぁ。


(今月は何があるんかねぇ……)


 学校行事的な意味で言うなら下旬に文化祭があるけどこれはまあ、特に気にする必要もないだろ。

 中学校にしては珍しく二年からは飲食の屋台出したり出来るけど、うちのクラスがやるかは分からん。

 何かテキトーな展示物でお茶を濁すかもしれないし、やるとしてもそこまで手間のかかった飲食物を出すこともないだろうしな。

 俺が考えるべきは次回の長編エピソードについてだ。


(九月はいじめられっ子イベントだったが……)


 あれはな。俺も俺で色々動いたが殆ど裏方で最後にアホどもを型に嵌めるだけで楽っちゃ楽だった。

 八朔関連の話が終わって今は次の長編が始まるまでの箸休め的な期間だと思うんだが……さて。


(八朔の話もそうだったが、長編つっても何巻にも渡って続くようなのは来ないと思うが……)


 一学期で言うならルイと逆十字軍の話。夏休み中のは言わずもがな、悪童七人隊との戦いである。

 あそこまで大きな規模の話は……多分、年明けだ。修学旅行編がそれだと思う。

 となるとだ。そこまではちょい長いのをぽつぽつって感じになるだろう。


(唸れ俺の漫画脳……! 答えを導き出すのだ!!)


 ポテトの塩分が今、俺の脳を活性化させる! ってことは別にない。

 いやポテトは美味いけどね。バーガーもうめえ。チーズバーガーって何でこんな美味いんだろう。


「ニコ、ナゲット一個貰って良いか?」

「どうぞどうぞ」

「サンキュ」


 ナゲットを摘まむタカミナを見てハッとした。


(……見落としてたぜ)


 確かにそれぞれがメインキャラのエピソードはやった。

 しかし、それで十分だろうか? 仮にもメインの立ち位置に居るキャラだぜ?

 ちょっとやり過ぎかも? って思うぐらいの掘り下げが丁度良いに決まってるじゃん。


(――――次回は四天王にスポットが当たる話と見てまず間違いない)


 全員で何かするって感じじゃなく、個人個人に焦点を当てた話になるだろうな。

 それぞれの日常とか、個人の因縁とか、多分その辺だ。


(しかし……ふむ、どんな形になるかが問題だな)


 個別の話を四個組み合わせて一個の長編エピソードってことになるのか。

 もしくは個人で一本やって、他三人はまた次の機会にって感じか。


(どっちにせよ俺は脇役だろうし、気が楽だわ~)


 うっめ、バーガーうっめ。ポテトうっめ! シェイクもさいこー!!


(はー、一気に肩の荷が下りたわ)


 ゆっくり休ませてもらいますね^^。

スパロボやりつつタフも読み返してて気付いたんスけど

ニコくんが蹴りを多用して、ぴょんぴょん跳んだり回ったりするの

多分、私の心のどこかに鷹兄の存在があったからじゃねえかなって……。

タフシリーズを知らない方に鷹兄こと宮沢尊鷹というキャラを説明すると

アホほど強くて即死技を気軽にぶっぱする天然おじさんです。

前へ次へ目次